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エッセイ:大ちゃんは○○である③

サークルでの活動は充実していたが、やはり欲というものが出てくる。
プロの撮影現場とはどういうものなんだろう?と興味をもち、
参加してみたいと思うのは当然のことだった。
そこでエキストラ募集がある時には通知がくるというサイトに登録をした覚えがある。
初めて行った現場はたしか、ユニバーサルスタジオジャパンのCMエキストラだったんじゃないか。
USJがオープンするということで、オープン前の夜中のパークに50人ほどのエキストラが集められ
夜通し撮影が行われたのだった。
内容としては、50人のエキストラがカメラに向かって手を振りながら歓声を上げるといったものだったと記憶しているが
何より驚いたのは待ち時間の長さだ。
1カットを撮るまでにとにかく待つ。リハーサルをしたら待つ。カットがかかったら待つ。
少数でやっていた自主映画製作の時は、待ち時間なんてほとんどない。
撮って確認、撮って確認の繰り返しでとにかくカットを重ねていく。
関わっている人数や規模が違うのだからセッティングにかかる時間等が違うのは当たり前なのだが
それでも『こんなに待つんだな』と思ったのを覚えている。
だから、完成した数十秒のCMを見た時には
『この短い作品を作る為にあれだけの人間が動いて、あれだけの時間をかけているんだ』と裏側を見ただけに驚いたものだ。
テレビドラマのエキストラでの初現場も印象的だった。
永瀬正敏さん主演の『私立探偵濱マイク』。
太陽の塔がある、大阪の万博記念公園での撮影だった。
「濱マイク役の永瀬正敏さんです。」
スタッフの方の紹介でエキストラの面々の前に現れた永瀬正敏さんはこの上なく格好よかった。
サングラス姿にコートを羽織り、ラバーソールを履きこなした濱マイク。
この現場は……興奮した。胸が高鳴った。
永瀬正敏さんの大ファンだった僕は、近くで永瀬さんが芝居をしているのを見れるというだけで
鼻血が出るほど…いや、違う。脱糞するほど…いや、これも違う。
小躍りするほど嬉しかったのだ。
ただ、エキストラといえど僕だって出演者の一人には違いない。
セリフこそないけれど、シーンに合わせて表情を作ったりリアクションをしたり
一緒に作品を作り上げているんだという想いで撮影に臨んだ。
本当に色々なことを感じたし、鳥肌ってこんなに立つもんなんだ、まばたきって忘れることがあるんだ、息もできないほど集中できるって本当なんだ。等々、とても刺激的な時間だった。
永瀬さんの一挙手一投足を全部瞼に焼きつけてやると思った。

こんな風にいくつかの現場を経験するうちに、僕の役者への熱はますます高まっていった。
そして、同期生達が就職活動に向け本格的に動き出した夏、大学に籍を置いていることに強い違和感を感じ始めていた。
『ここでやりたいことはもう目一杯やったし、あと1年半で卒業といえど、大学であと1年半も時間を過ごすのはもったいない。東京に行こう。』
そう思った僕は21歳の誕生日を目前に控えた20歳の8月、自分の人生の中で初めて大きな決断をした。
それが、大学の自主退学である。

つづく

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