見出し画像

#7 【アメリカ生活】 ■ 中国の大富豪のご令嬢とルームシェアしている話① ■

我が家は、現在ルームシェアをしている。
小さな小さなベビーがピエエエエ..とエンドレスに泣き叫ぶなか、快くルームシェアを許してくれているlandlord、特にルームメイトには心から感謝している。

隣の部屋には、リリーという名の中国人留学生(ポスドク)がいる。

別のルームメイトから聞いたのだが、彼女の実家は上海の不動産王だそうで、それはそれは桁違いの大富豪だということだ。

・・・


・・・

 ■ ご令嬢の忙しい朝

朝、私はコーヒーメーカーで淹れた水のように薄いアメリカンコーヒーを飲みながら、フードバンクで手に入れた賞味期限切れの食パンを焼く。
同じくフードバンクで貰ってきた牛乳からは、酸っぱい匂いがほのかにする気がする。

一方、リリーの冷蔵庫や棚に食料はほとんど入っていない。
入っているのは、Acqua Pannaというミネラルウォーターだけ。

彼女がドタバタと、髪をとかしながら階段を降りる音がする。

「おはよう!」

と挨拶するやいなや、彼女は常温のAcqua Pannaを半分飲み干した。

そして、なんと残りの半分をシンクに捨てた。

「朝は時間がないからさ!アハハ」

通学も当然、Uber。
毎日、Uber。
毎回ドライバーを待たせて、追加料金を取られている。

彼女はしばしばスマホを片手に「ちょっと遠回りされた!」とドライバーの評価をつけている。


 ■ 毎食、Uber Eats

先ほどちらっと触れたかもしれないが、リリーの冷蔵庫や棚には食糧がほとんど入っていない。

ランチタイム、家に温かいデリバリーフードが届いた。

「あれ、今日はリリー早く帰ってくるのかな?」

私はフードをダイニングに置いた。
しかし、リリーは帰ってこない。

そうこうしているうちに、日は暮れて夜に。
再び家に、温かいデリバリーフードが届いた。

私は冷めたフードの横に、今しがた届いた温かいフードを置いた。

しばらくして、リリーが帰ってきたようだ。
まだほんのりと温かいデリバリーフードを食べるリリー。
garbage canには、手をつけられることになかった昼のフードが紙袋ごと捨てられていた。

「いや〜昼は戻ってこれなかったんだよね」

また別の日には、

「大学と間違えて自宅に送っちゃった〜..。」

なんて言っていたことも。

ちなみに、彼女のお気に入りのおやつはタピオカドリンクだ。
それも毎日のように、デリバリーで届く。


 ■ 水も、時間も、お金も流れるままに

ある夜、シャワーの音が1時間ほどずっと聞こえるので気になってバスルームをノックした。
返事がないので扉を開けると、大量の湯気が外に漏れ出し、そこにリリーの姿はなかった。

シャワーはジャージャーと出しっぱなしのまま。
「リリー、水止めるの忘れてるよ!」とリビングに行き声をかけると、
彼女は「ああ、ごめんね!」と笑いながらリモコンでNetflixを再生する。

彼女はアクアリウムが趣味で熱帯魚をペットとして飼っているのだが、水槽を洗おうと水を出したものの、そのまま忘れてしまったようだ。

私たちの住む地域はしばしな深刻な水不足に悩まされていたが、彼女にそんなものは関係なかった。


家賃も同じだった。
何度も値上げされた家賃に対し、夫と別のルームメイトは交渉しようとlandlordにチャットを送るが、

「あー、めんどくさいからいいよ」

と、彼女はすぐに支払う。

私は家計簿とにらめっこしながらため息をつくが、彼女は親からプレゼントされたロレックスをつけた手で、今しがたデリバリーされたタピオカドリンクのストローをくるくる回している。


 ■ セントラルヒーティングは30℃

冬が来た。
といっても、私たちが住む街の冬はそれほど厳しくない。
日中はセーターを着れば十分しのげる程度の寒さだ。

ある朝、私は自分の部屋で寝汗をかいて目を覚ました。
暑い。異常に暑い。
部屋の空気がむわっとしていて、まるでサウナのようだ。

リビングに出てみると、リリーがソファでシルクのパジャマのままよく冷えたAcqua Pannaをがぶ飲みしていた。

彼女は満足げに微笑みながら、

「やっと暖かくなったね!でもちょっと、暑すぎたかも?」

と2本目のAcqua Pannaを飲み干しながら言う。

壁にあるセントラルヒーティングの温度設定を見ると、30℃。

我が家にはベビーがいる。
乳幼児突然死症候群(SIDS)予防のために、部屋の温度を低めに保ちたいのだが、私はそれを言い出せない。

なぜなら、私自身が留学をしているわけではないので些細なことでも揉めごとを起こすわけにはいかない。
現に、私と夫は一度Airbnbを追い出されているので慎重になっていた。
リリーの生活を制限することはできない。

自室だけでも温度を下げようと、私は部屋の窓を開けた。

ーーーそして、ガス代は去年の3倍になった。


その月、私たちのlandlordから長文のチャットが届いた。
要約すると、「お前たちの家だけ、ガス代が去年の3倍になっている。全く、理解ができない!!」 という怒りのメッセージだった。
そしてその結果、建物全体のutility(光熱費)が値上げされた。

別のルームメイトに聞くと、家賃やutilityはなんだかんだで毎月$20ずつ上がっているらしい。
一般的なポスドクにとっては、毎月の固定費の値上げは死活問題だ。

結局、彼女は何の抵抗もなく値上げされたutilityを支払った。
夫はと別のルームメイトは大家と交渉しようと試みたが、リリーは

「あ〜またかぁ。めんどくさいから、払っちゃうよ。」

と気にも留めていなかった。

ルームシェアするということは、こういった問題も織り込み済みであることを承知しなければならない。

留学しているのは私じゃないんだけどな..と理不尽さを感じながらも、今日も私は貯金から家賃とutilityを支払い続けている。

 

 ■ 恋も、飛行機でひとっ飛び

金曜日の夜、私たちはリビングでテレビを見ていた。
ふと玄関見ると、今日もリリーがRIMOWAのジュラルミンスーツケースに服をパッキングし終えたあとのようすだ。

「今日も彼氏のところに行ってくるね。」と彼女。
彼氏は飛行機で1時間半の場所に住んでおり、毎週末は一緒に過ごしているようなのだが、月に2〜3回はリリーが会いに行っているようだ。
蛇足だが、この家にも彼氏はよく遊びに来ている。

私は「飛行機って、そんな気軽に乗るものだっけ?」と思いながらも、「夜遅いから空港まではくれぐれも気をつけてね。」と言うと、彼女は

「うん、Uber呼んでるから大丈夫だよ。ありがとう。」

と笑顔で返した。

月曜日の朝、彼女は彼氏の家からエクストリーム出勤していたそうだ。

そう、彼女に不可能なことはないのだ。


         >>>>>TO BE CONTINUED

いいなと思ったら応援しよう!