19-「原点」である懐かしの『空き家』へ
【前回のお話】
(803字・この記事を読む所要時間:約2分 ※1分あたり400字で計算)
日本到着。
まず向かう先は、父の持ち家。
私が幼い頃、まだ日本の小学校に通っていた頃に、家族と一緒に住んでいた家だ。
父の転勤で中国から来日し、その後私達一家は日本国籍に帰化した。
このまま家族で日本人として、日本で暮らしていくーーそういう計画だったのだが、諸事情で今はもう誰もこの家に住んでいない。
どういう訳か父もこの家を売らずに、空き家のまま残している。
日本出張とかでふらっと寄っては、空気の入れ替えをしているのだとか。
これだけで家賃が全額浮いた。
無収入な私にとってこれ程ありがたいものはない。
お父さん、ありがとう。
結構な埃をかぶっていて、最初の頃は掃除が大変そうだ。
けれど、懐かしい我が家に変わりはない。
ある意味、私の「原点」でもある場所だ。
ささっと荷物を片付け、床だのテーブルだの椅子だのを綺麗に拭き、日用品を並べ、基本生活環境を整えた。
もう日は暮れようとしていたが、せめてもの気休めにと、押し入れに詰めてあった布団を引っ張り出しベランダに干した。
一日中動き回った。
早朝からの移動。家に到着しても休む暇も無く働いた。
ゆっくりと窓辺に座る。
少し疲れて、なんだかウトウトしてきた。
そよ風が静かに髪の毛を撫でて、とても心地よかった。
子供の頃も、よくこうやってぼーっとここから外の世界を眺めていたっけ。
……今朝、自分を送り出した時、お母さんは泣いていたな。
私は祖母を抱きしめ、父に「じゃあまた」とお別れの挨拶をしたんだっけ。
「夏休みは遊びにいくよ」と妹に言われた後、みんなに手を振って、飛行機の搭乗口へと向かって。
それから、飛行機を降りて、手続きをして、バスに乗って……
そして今、私は一人で此処にいる。
日本にいる。
これらがまだ今日中の出来事だなんて……なんか実感が湧かない。
(明日は早速大学院の入学準備をしよう……それと、アルバイトも……)
ん?待てよ?
大学院?
私はどこの大学院に行くんだ?
一気に目が覚めてしまった。
(つづく)