12-知らないところで、変な目で見られていた
【前回のお話】
(857字・この記事を読む所要時間:約2分 ※1分あたり400字で計算)
具合が悪くなってからというもの、ぐったりする日が増えた。
とにかく頭がぼーっとしていて、何をするにもやる気になれなかった。
仕事は取り敢えず何とか休まずにいたが、簡単な作業をしただけでも疲れを感じた。
睡眠時間も足りなかった。
十分な休息が取れない為に、体調もなかなか回復出来ずにいた。
そんなある日、社長からこんなことを言われた。
「竹子さんは、今のような感じが丁度良いねぇ」
あまりにも突然のことで、社長が何を伝えたいのか全く分からなかった。
返事に困っていると、
「前より落ち着いててさ、大人しくなった感じだよ」
と社長が続けた。
その瞬間、側にいたIさんが小声で「ちょっと社長……!」と焦ったように社長の話を止めた。
そして、
「ごめんね竹子さん。今のは気にしないでーーさぁ社長、そろそろお客様が来るお時間ですよ」
と、慌ててるように社長を会議室に案内し、その場を去った。
なんだったんだろうと思いながら隣席を見た瞬間、Hさんと目が合ったーーかと思えば、Hさんはさっと視線をそらし、極力私を見ないようにした。
(やはり、何かおかしい)
試しに聞いてみることにした。
「えっと……私、最近落ち着いているように見えるのでしょうか」
「え、ああ……」と困ったように小声で返事するHさん。
「まぁ……静かにはなったかな」
それっきり、Hさんは何も話さなかった。
気まずい空気が流れる。
他の社員も、何も言わなかった。
キーボードを静かにカタカタと叩く音だけが部屋中に響いていた。
私は、全く仕事に集中出来なくなった。
(なんなんだ一体……)
何が起こったのかは全く検討がつかなかったが、ただ何となく社長が言った言葉は皮肉だったのではと、そう思った。
Hさんが言っていた「静かになった」というのも気になった。
もしこれも一種の皮肉であれば、健康体だった時、私は異様にうるさくて落ち着かない姿だったということなのかーー
(はっ、そういえば)
入社してから今までの色々なシーンを振り返りながら、私はあることに気付いた。
そういえば、最近あまり叱られていないなーー
「空気が読めない」、と。
(つづく)