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一度だけの赤い口紅の思い出。
赤い口紅という内容で、自分が何か書くことがあるのかと考えた時、真っ先に思い浮かんだのが「キューポラのある街」という映画だった。
不良にからまれた弟を助けるため、吉永小百合扮する中学生のジュンは、ちょっとでも大人に見せるため、友人から貰った口紅を塗る、白黒映画だが、僕の中で、その口紅は真っ赤だ。
映画の後半、ちょっとしたケンカでジュンは口紅を母親に投げつける、母親が飲み屋で働いていたのを知って、「こんなのやるよ!」と。
真っ赤な口紅は大人の象徴であり、いやらしい夜の世界のイメージだったのだろう。
それから何度も何度もこの映画を見たけれど、赤い口紅が大人の女、そしていやらしい夜のイメージというのは、僕の中で固まっていくだけだった。
ここまで書いて思い出した事がある。
1980年代前半、ちょっとオトナになり、何人目かの彼女が出来た。
女優のタマゴだった彼女と、助監督の僕は土日だから休みという訳でもなく、会うのは夜が多かった、彼女は夜のデートに赤い口紅をぬっていた、精一杯オシャレをして、自分としては場違いな下北沢のバーや、原宿のクラブに出入りしていた、そこはTOKYOだった。
彼女も僕も20代で、その口紅が似合っていたかどうかは判らない、ただ赤い口紅を楽しんでいた……。
彼女を思い出す時はいつも夜のイメージだ、暗闇と赤い口紅、バーのカウンター、水割りの氷。赤いマニキュア。おしゃれな音楽。タクシーを捜しながら歩いた深夜の明治通りや茶沢通り……。
シンガポールに旅して、無理してラッフルズに泊まった。
そういう思い出はあるものの、その赤い口紅は僕にどれだけ付いたのだろう、オトナぶった恋愛は夢の中だけで終った。
それが、最初で最後の一度だけの赤い口紅の思い出。
なぜこの思い出が赤い口紅からの連想で出てこなかったのか、記憶から消し去ろうとしていたのかも知れない、叫び出したい衝動にかられる遠い過去だ、あの時、ああしていれば……という後悔がいっぱいある。
まだまだ子供だったのだ。
それ以来、赤い口紅をつけるような女性と付き合う事はないまま現在に至る。
だから赤い口紅で思い出すのはいつまで経っても「キューポラのある街」だけけだ。