処理水放出後の中国の反応(SNS世論編)
2023年8月24日、日本で初めて処理水が放出されました。この問題は中国で爆発的に話題となりました。
この件を通して、中国人の日本に対するイメージはどう変化したのでしょうか?
一回目の放出当日、検索トレンドTOP10のうち、処理水に関する話題が6割占め、中国SNS上で日本への批判の声が上がりました。
中国のネットユーザーは、衝撃、怒り、不信、抵抗など、日本の処理水放出に対するさまざまな感情を自分なりの方法で表現し、日本政府に対して激しい批判を展開しました。
そこで、今回は処理水問題による中国国内市場の変化から、日本に対する世論を考察していきます。
1.1回目の処理水放出による中国での反応
SNS上での取り上げ方
1回目の処理水放出後、中国メディアによる日本への痛烈な批判が多く見受けられました。
処理水放出期間、放出量を客観的に取り上げるニュースはあるものの、全体を通して、日本政府の判断に批判的な意見を述べているメディアが多い傾向にあります。
さらには、処理水放出に対する批判だけではなく、これによる海水への影響、人体的被害など根拠のない情報を拡散し、処理水を悍ましい存在であるかのように強調しているニュースも多く見られました。
例えば、フォロワー数3600万越えの中国网直播は9月3日、1本の動画を投稿しました。その内容は、1人の女性が処理水放出開始から1週間後の9月1日、東京の海辺に実際に訪れ、東京の海が処理水の影響で、海の色が黒色に変色し、水面に不明な物体や魚の死体が浮いていると紹介したものでした。
この動画のいいね数は11万を超えており、コメント欄では日本に対して不快を露わにしたコメントが多くありました。
このように、科学的な根拠のあるデータを用いず、主観的な意見を述べ、視聴者に誤った情報を提供している報道がたくさん出回っており、これが中国人の処理水に対する批判的な意見をより強めていると思われます。
政府の日本に対する措置
8月22日、外交部汪文斌氏は、日本政府が8月24日に海洋排出を開始すると発表したことに対し、「核汚染のリスクを堂々と全世界に転嫁し、責任を負わない行為である。中国はこの行為に深刻な懸念を表明する」と述べました。
さらに、中国・香港の両政府は8月24日以降、原産地が日本である水産品(食用水産動物を含む)の輸入を全面的に停止すると発表しました。
農林水産省の統計(2022年の農林水産物・食品の輸出額)によると、2022年の水産物の輸出総額は3,873億円で、国・地域別輸出先の1位は中国、2位が香港であり、水産物輸出総額に占める中国の比率は22.5%、香港は19.5%、合計で42.0%にも達します。
そのため、今回の処理水問題による水産物の輸出停止措置は、日本の水産物輸出、水産業にとっては大きな痛手となると考えられています。
2.処理水問題発生前後の変化
タオバオライバー
中国EC最大手アリババ集団傘下のECサイト「淘宝網(タオバオ)」は、淘宝は”淘宝直播(タオバオジーボー)”というライブコマースプラットフォームを展開しています。
視聴者はライブ配信を見ながら気に入った商品があればワンクリックで即座に購入することが可能で、いわばテレビショッピングのWeb生放送バージョンにあたります。
中国トップタオバオライバーであり、「口紅王子」としても知られる李佳琦(Austin)は、美容部員としての経歴を持ち、美容に関する豊富な知識を活かしてほぼ毎日ライブ配信を行なっています。
取り扱う商品はコスメが多く、日系ブランドの商品も頻繁に紹介されており、八月末に初めて処理水が放出される前までは、ほぼ毎日日系ブランドのコスメ商品を取り上げていました。
しかし、8月24日の処理水放出後から10月23日までの約2カ月間、李佳琦のライブ配信で日系ブランドの紹介は一切なくなりました。
この現象は李佳琦に限らず、他のタオバオライバーも同様で、処理水問題の影響を大きく受け、日系ブランドの紹介は激減しました。(多くのライバーは日系ブランドの紹介を自粛)
※W11(ダブルイレブン)を期に回復傾向がみられる。
REDKOLの日本製品
処理水問題が中国国内で話題になった頃から、REDでは日系ブランドのボイコットや日本製品を避けた方がいいとする投稿が急激に増加しました。
また、日系ブランドのアカウントにはネガティブコメントが相次ぎ、日本製品離れが深刻化しています。
3.処理水2回目放出後のネットの反応
1回目の処理水放出後、中国では大きな話題となり、日本批判が激化しましたが、10月5日から始まった2回目の処理水排出後の反応は1回目の時とは異なり、過熱報道がなく、あまり注目されませんでした。
Baidu指数を使用し、日本の処理水放出に対する中国での関心度をみてみると、2回目の処理放出後、検索数・報道数ともに多少増えたものの、1回目と比較すると、激減していることがわかります。
中国版X(旧Twitter)ともいわれる中国最大規模のSNS、微博(ウェイボー)においても、放出する処理水の量及び期間を説明した投稿が多く、1回目ほど痛烈な批判は見受けられませんでした。
つまり、処理水に対する世論の関心は徐々に減少傾向にあります。
4.まとめ
処理水問題をきっかけに、中国世論では日本に対する印象が悪化したように思われます。
しかし一方で、今年10月初旬の国慶節期間での国外旅行客の旅行地人気No.1は依然として日本でした。
ネット上では日本批判が過激化しているものの、中国世論の日本の印象は実際、どうなのでしょうか?
次回は訪日中国人旅行客の視点から、日本に対する印象を取り上げていきたいと思います。
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