語感の言語化練習#4〈虎に翼〉


とら【虎】 に=翼(つばさ)[=羽(はね)]
ただでさえ威力の備わっているものがさらに威力を加えること。鬼に金棒。虎に角。
*書紀(720)天武即位前(北野本訓)
「壬午に、吉野宮に入りたまふ。〈略〉或の曰はく、虎に翼を著つけて放てりといふ」
 〔韓非子−難勢〕

精製版日本国語大辞典

今の朝ドラが始まるまで「虎に翼」という慣用句を私は知らなかったので、心のなかで「鬼に金棒」に変換して理解していた。しかし「鬼に金棒」は「もともと強い者に対してそれに似合う強力な武器を与えることでさらに強くなる様子」という語感だったが、「虎に翼」はむしろ普通ではない組み合わせだ。実際、翼の生えた虎は想像しにくい。キメラかペガサスの類を連想してしまう。 スペックの高い剣士キャラクターに聖剣エクスカリバーを装備させることは「鬼に金棒」に違いないが、同じ剣士に「賢者の杖」を装備させるのが「虎に翼」ではないか、というのが私の語感だった。

「虎に翼」の用例を探していると、東洋文庫の『中国古代説話集』に「虎に翼」の項目があった。

虎に翼
『周書』にこういうことがある。
「虎に翼をつけるな。村に飛んで行き、人をとって食べるようになる!」
 くだらぬ人間に権勢を与えるのは、虎に翼をつけるようなものである。桀・紂は高い台や広い池を作って民の力を費やし、炮烙の刑を設けて民の命を損なった。桀・紂がほしいままの行動ができたのは、天子の威勢がその翼になったからである。もし桀・紂が一介の民であったとしたら、その一つも行うことができぬさきに、身は刑罰にかかったことであろう。権勢は虎狼の心をそだて、乱暴な事をしでかさせる。これは天下にとっての大迷惑である。(難勢)

中国古代説話集

この文脈では「翼」は天子の権力であり「虎」は腕っぷしの強さといった武力を意味しているようだ。やたら生産性だけは高い粗暴なアルバイトを時間帯責任者に上げてしまうようなものだろうか。フィジカル面での強さが増すという意味での「鬼に金棒」の語感とはだいぶ違う。

朝ドラの「虎に翼」を見ていないので、この慣用句のドラマでの意味については何も言えないが、用例を見る限りではあまりいい意味ではなさそうだ。

いいなと思ったら応援しよう!