強くなんかならないで


好きな人に、ずっと弱くいてほしいと思うのは我儘だろうか。

彼の弱い所がたまらなく好きだ。
夜中に病んでしまうところ、上手く歌えなくて落ち込むところ、喉が弱いところ、他にもいろいろ。表では明るい彼がみせる弱さが、人間らしくて好きだった。

だから、最近弱さを見せなくなった彼をみると寂しくなる。
彼は強くなった。強くなってしまった。
うれしい。うれしい?いや、全然うれしくない。

強くなんかならないでほしい。ずっと弱いままでいて。 

    

「何歳まで生きたい?」という質問に、彼は「行ける所まで行きたい」と答えた。

2年前は「40歳くらいまで」って言ってたのに。


こういう小さな彼の変化が、私の心を寂しくさせる。
私のとなりにいた彼が、どんどん離れていく。
嫌だ。彼ととなり合っていたい。
彼とコミュニケーションがしたい。





彼の歌声は感情がダダ漏れだ。息の抜き方、がなり、喉の力の入れ方。ひとつひとつに彼の魂の一部がのっかっている。彼の、歌詞を自分なりに解釈して一生懸命歌う所が大好きだ。

愛おしい。
歌を聴いている時だけ、私は彼と繋がることができる。彼の感情が歌声に溶けだして私と同期していく。つらいの?くるしいの?だいじょうぶだよ、と。
音楽は私と彼のコミュニケーションだった。
音楽を通じて彼の全てを知りたい。我儘だ。




ギターを始めた。
彼のことをもっと知りたかったからだ。彼がいつも気持ちよさそうにギターを掻き鳴らすから。
すごく楽しかった!彼の放送と一緒に弾いて、彼と一緒に歌って。こんなの勘違いしてしまう。本当に彼と繋がっているように思えた。
私は、ギターを弾くことでも彼と繋がれるようになった。


いつか、いつか。
音楽を通さなくても彼とコミュニケーションができたら。それ以上に幸せなことはないだろう。
彼が笑って、私が笑って、たわいもない話をして幸せを感じる。ありえない世界線。


ならせめて、ディスコミュニケーションでいいから、彼と繋がらせてほしい。せめて。 




 交わりたかった。


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