愛してるってさ、わかんないよ

2022-01-28

   私ずっと彼に生きるの手伝っててもらってたんだった
   よく考えてみたら、私は彼がいないとお風呂に入ることもできない。朝起きることも、歯を磨くことも。

 私の生活の軸は彼だ。
 彼のツイートの通知がくる。「今日は22時から」。私はそれを見てやっと、彼の配信に間に合うようにお風呂に入って歯を磨く。
かわいい、かっこいい、イケメン、すき、愛してる、少ない語彙が私の口から零れ出て、そんな言葉だけで今日もコメントは溢れている。





 朝目覚めて彼にまずリプを飛ばして、そこから私の1日は始まる。「今日もほどほどに頑張ろうね」。「ほどほど」。自分を大切にしている彼の口癖。無理なんて絶対にしてほしくない。彼も頑張ってるんだ、そう自分に言い聞かせて30分かけて布団から這い出る。母親はまた怒鳴っている。

 登校中の電車で、昨日の配信の録画を聴く。彼の気になった発言をメモしたり、頭にインプットしたりする。できるだけ彼の全てを知っておきたい。

 学校の最寄り駅に電車が着いた。周りは他校の人ばかりで、あぁ遅刻だなとわかる。彼の声を聴きながら、通学路をゆっくり歩く。おだやかな朝だ。

 学校の敷地内に入ったので、スマホを機内モードにする。もう授業は始まっていた。教室の後ろのドアをそっと開ける。ドア付近のクラスメイトが振り返るけれど、すぐに黒板の方へ視線を戻した。みんな他人になんて興味がない、私のことを見ていない、そう自分に言い聞かせながら席にゆっくり座る。周りのクラスメイトは授業に集中しているようだった。

 休み時間。学校で配布されたiPadで、何回も彼のTwitterを更新する。もうお昼なのにな、浮上ツイートまだかな。彼の浮上ツイートは大体11時から12時頃が多い。話せるような友達もいないので、ひたすら変化のないタイムラインをスクロールし続ける。ごはんを食べた後だからかだんだん眠くなってきてふと




 阿呆
 あほだなあ、私。と思って、そんな時に出てくるワードも彼の匂いがして笑ってしまう。私も彼もあほすぎた。





 彼が生活の一部になっている。もう何年も。彼がいないと生きている実感がない。彼に会って、彼の声を聞いて、ようやく私は生きている。
依存だ。どうしようもない。依存するほど彼のことが好きなんだ、そう嬉しがっている自分さえいる。リアコはとっくにやめた。夢をみるのをやめた。前より少しだけ欲が減った。でも何も変わらない。彼のことを四六時中考えている。夢にもでてくる。

 毎日同じ動画を何回も再生する。彼が再生回数を最近気にしているから。
 毎日リプを送る。彼の「覚えているよ」を諦められなくて。
 毎日彼の声を聴いて涙が出る。愛おしさと寂しさで胸がいっぱいになる。
 彼に対するこのクソデカ感情がなんなのかは分からない。もしかしたらもうただの執着かもしれない。だからとりあえず、「愛」と呼ぶことにした。便利で良い言葉。

   
 生きている。私は今日も「愛」している。 

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