明晰夢

涙が出そうなのを必死にこらえてる彼をみて、一生幸せでいてほしいと、ひどく思った。会場を見る瞳が、愛おしいものを見るようなそれをしていたから。キラキラ反射していて、涙が、泣いているのはいつも私ばかりだけれど、このときだけは彼も泣いていて、愛おしくて、愛おしくて愛おしくて抱きしめるような瞳をしていたから、私も愛おしくて愛おしくて、愛おしくて仕方がなくなった。
彼のやわらかい声が、私の耳を撫でるから、また呑み込まれそうになって、怖かった。怖いのに居心地がよくて、私は生温い羊水の中でプカプカと浮くことしかできなくて、彼が大丈夫だよ、と猫撫で声を出すから、可笑しいけれど、私はそれでまた安心するのだ。
君は人を病ませるのが得意だね。
「精神が弱いから」、彼がぽつりと零した言葉。否定も肯定もできなかった。彼の弱さを目の当たりにした時、いつもそうだ、私は動けなくなる。言いようのない不安感に襲われる。
「一生懸命生きてる証拠だね」、言えなかった。そのあといつも通り笑って喋り続ける彼が居て、けれどそれも本当の彼だった。
今を楽しめ、と言うけれど、終わりを誰よりも怯えているのは、その言葉が口癖の彼自身で。いつか全てが終わることは、彼が1番分かっている。「いつか居なくなるんだからやめなよ」、そんな言葉を言ってくる人はたくさん居て、私はその言葉を聞く度に、わかってないなあ、と笑った。大好き、ありがとう、ただいま、おかえり、今言わなかったらきっと愛の伝え方を忘れてしまうから。できれば彼が死ぬまでとなりで囁きたいくらいだけれど、それは呪いになってしまうだろうから。
この時期の彼は何かと不安定になりがちで、私も引っ張られて不安定になる。感情が繋がっているみたいでなんだか嬉しくなってしまうよ、頭が悪いので。頭が悪いので、こんなただ吐き出すようなつまらない文章を書いていても、ゆるしてほしい。
彼の声に包まれて死にたいと心底思う。彼の声はいろんな成分が絶妙に混ざりあっている。純粋無垢なのに深いところに色気があって、安心感があるのに不意に突き放してくる。夢なのに何処か現実味を帯びていて、私は微睡むことしかできなくなる。明晰夢みたいだと思った。彼の声。そんな声に包まれて目覚めなくなるまで、本当の夢をみたいよ。
私は彼の匂いを知らない、知れない。彼の温度も、髪のやわらかさも、ほっぺのやわらかさも、爪の形も、涙の温度も知ることができない。だけど、だけど、それで十分だと思えた。知らなくても、私は彼の声を知っている。彼の言葉の温度を、歌う時の仕草を、口癖を、弱さを、全部じゃないけど、ちゃんと知っている。
すき。それが全てなんだと思う。
全部そういうの、
そう、彼の言葉を借りるなら。

色々複雑だけれど、
事は簡単です。
彼が大好きだ!!!!
それでいい!



彼の部屋の匂いは普通に、他人の家の匂いなんだろな

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