心中

 アンコール、彼が飛んだ。気づいたら、私は死にたくなっていた。彼の身体が宙に浮く。ぷつんと周りの音が途切れる。光は彼の方だけを向いていた。私はそれをみて、なぜかすごく死にたくなって、私がずっとやりたかったことを今目の前で彼がやってくれているように思えてきて、気がついたら私は彼と一緒に飛んでいた。彼と私はあの瞬間つながっていたんだと思う。

 「一緒に死のうぜ!!!」
 彼が勢い任せに言ったその言葉が、深く心に突き刺さる。ずっと、私が望んでいたことが、目の前で彼の口から飛び出て、私は本当に嬉しくて嬉しくてやっと伝わったのだと思って、目を擦った。死にたくなるといつも真っ先に彼のことを思い浮かべて、死にたい気持ちを誤魔化していた。彼が生きている世界をずっと見ていたい。彼と一緒なら何も怖くないとその時思った。

 彼が叫ぶように歌う。がなる。煽る。光はより一層激しく動いて、地面から伝ってきた音が脚を震えさせた。心臓が音楽にあわせてビートを刻む。右耳にキーンと耳鳴りがして、だんだん聞こえなくなる。平衡感覚が無くなっていく。私は彼と一体化していた。私の身体が宙に浮かぶ。



 この1ヶ月半、逃げてばっかりだった。
教室から逃げて、逃げて、気づいたら親は泣いていたし、副校長が目の前にいたし、カウンセラー室に連行されていた。

「みんな敵じゃないからね」
「困ったら何でも先生に言いなね」
そんな言葉ばかりを大人達は掛けてくるから、私はハイ、と言って笑うしかなかった。

「どうして無断で学校休んだの?」
理由なんてなかった。そう答えると、病気じゃないならちゃんと毎日学校に来なさい、担任は笑っていた。
「みんなちゃんとできてるんだからキミもできるでしょう?」
私も笑っていた。



 彼と目がカチリと合って、私の足は地面についていた。彼の身体が地面に降りた衝撃からもう一回宙に浮かんだ、私と彼の距離が離れる。どんどん彼が遠ざかっていく。
私は両手にペンライトを持って振っている。彼はステージの上で飛んでいた。たった一瞬のことだった

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