仮面ライダーS/L37話
Tale37:Excited!!
・あれから三日が過ぎた。
将碁はヘリから降ろされ、しかしそれからどういう経路を通ったのかは定かではなかった。
荒れ狂う暴風雨、冠水して陸地の7割以上が水没した世界。時折静寂を切り裂いて轟く稲妻に怯えながら人々はボートなどで生活をしていた。
将碁もまた水上生活を余儀なくされていた。仮面ライダーセーブの存在は民間でもそこそこ知れているのだが変身前の個人に関してはプライバシーの問題もあってかほとんど知られていない。だから誰も将碁が一般人であることを疑っていない。
「……知られたら大変だろうな」
自分達がもっと頑張っていれば全人類はこんな一方的な被害を受けることはなかっただろう。しかしこの光景に心を痛ませ涙を流す権利は自分にはない。薄々あの男が何かしらの災害を起こしてしまう可能性はちゃんと考慮出来ていたのだから。
「……ん?」
やがて町の潮流は1つの終着駅を誘った。巨大な体育館のようなものが見えた。そこは冠水されていて確かに1階部分と2階部分は水没していたが3階より上の階は無事な様子で多くの人々がそこに回収されていた。将碁もまた回収されることにした。
乗ってきたボートはこの体育館の所有として全員で移動するときの共有資源とする事。それが条件で将碁は体育館の中に入った。
「……まだこんなにいたのか」
そこには数千人規模の人達がいた。しかも皆温かい食べ物を涙を流しながら貪っていた。どこかから食料が調達されているのだろうか?世界の大半が水没して当たり前だが食糧問題はかなり深刻になった。CRにいた頃は優先してまともな食糧が届けられていたが水上生活を始めてからは携帯食しか口に出来ていなかった。それは多くの人々がそうだろう。ならどこから湯気の出るほど温かい食べ物が?
「らっしゃいやせー!」
足を進めていくと体育館の最奥。そこに屋台があった。給仕と言ってもいいかもしれない。とにかく10人ほどの老若男女が様々な料理を配っていた。その匂いについ反応してよだれを垂らす将碁を見た青年が料理を持って近付いてきた。
「無料です。どうぞ」
「あ、ありがとうございます!!」
言葉を口にしたのも久しぶりだがまともな料理を口にしたのも久しぶりで、きっとはたから見たらかなり下品に映ったかもしれない。だが、将碁は湧き上がる食欲を抑えることは出来なかった。
やがて食事が終わり、給仕している人達に話を伺った。最初はCRの一員だと話そうと思ったがもし期待されてしまったら大変なことになりかねないため黙っておくことにした。
「俺達はバグスターなんです」
「バグスター……」
「はい。バグスターは食事とか必要ないし移動に関してもかなり楽なので。さらに外の世界だと水没していますがバグスターだけが行ける電子空間では普通の状態。なのでこうして電子空間から食事を持ってきてるんです。……俺達は仮面ライダークロニクルでかなり世間に迷惑をかけてしまったので少しでもお詫びが出来たらいいなって。あと、バグスターだけの世界になるとそれはそれで怖いので」
「……ありがとうございます」
「いえ、おなかすいたらいつでも言ってくださいね」
礼を言ったのはそのことだけではない。自分達の戦いが無駄ではなかったことが分かったからだ。あの戦いが終わった後でも巷では暴走バグスターの事件が度々発生してしまっている。だから時々悩むことがあった。バグスターとして生き残った彼らをはたして本当に人間社会に置いてもよかったのだろうか。ゲムデウスを倒す際にまとめて倒しておけばよかったのではないだろうか。それを止めた自分の責任はもしかして取り返しのつかないほど重かったのではないだろうか。けどこの人達を見て安心した。再び涙がこぼれそうになった。自分はこの人達の命を奪わなくてよかったのだと安心出来たのだ。
「……ん」
「いたいた!!」
そこで突然電子変換のノイズが出現し、次の瞬間には武が出現した。
「武!!」
「将碁!!やっと見つけた!!」
抱擁……までは出来ないが二人は無意識に握手をし合った。互いに涙腺が歪んでいるのが見えた。少しだけ恥ずかしくて互いに小さく笑った。
「武、他のみんなはどうなった?」
人だかりからなるべく離れたスペースで将碁は尋ねる。
「……分からない。椎名は衛生省に運ばれていった。重傷負っちまったから……。瑠璃さんや悪の連中、馨さんは全く分からない。あのクソ野郎に倒された俺は肉体を再生させるまでに少しだけ時間がかかって、再生した後にはもう誰も残っていなかったんだ。CRのビルも水没して……。けど、これは回収できた」
「それは……」
武が取り出したのはジャンクセーバーのガシャットだった。
「ネオスターライトドラグーンはどこか行っちまった。これしか見つからなかったんだ。悪い」
「いや、いいさ。ありがとう武」
「……けどこれからどうなるんだろうな?せめてあの新しいガシャットが完成していればまだしも今の俺達だけであのクソ野郎を倒す事なんて出来ない……。万一倒せたとしてもこんな水没した世界でどうやって元どおりの生活を送っていけばいいのか」
「……俺達仮面ライダーの使命は人々が安心して普通の生活を送っていけるようにする事……。けど、それも今のこの状態では難しいか……」
「いや、別に不可能ではないだろう?」
「!?」
声。突然ノイズが走り、次の瞬間には二人の前に黎斗が出現した。
「黎斗社長!?」
「ど、どういうことだよ!?」
「私が前に言ったはずだ。全人類に仮面ライダークロニクルを配る。バグスターならばこの天変地異でも問題なく生活が出来る。……確かに完全に元どおりと言うのは難しいかもしれない。だけど不可能ではない。バグスターは不老不死なのだから知識と力を集めれば世界の復興も絶対に出来るはずだ」
「……けどその施設はもうない。あの新しいガシャットも水の底だぞ?」
「私が何のために姿を消したと思う?あの新しいガシャットも量産設備も全て電子空間に移してある」
「……ってことはまさか……!?」
「今からでも十分に巻き返せる。ライトニングに気付かれてはならないから表立って動くことは出来ないがまだ全然ゲームセットには程遠い。今からでも十分道はある」
「……全人類をバグスターにする……もうそれしか道はないんだろうか……」
「黎斗社長、バグスターを人間に戻すことは出来ないのか?」
「物理的にはまだ不可能だ。私の知らない何かであのタブレットを使えばもしかしたら行ける可能性は十分にあったかもしれないがね」
「……黎斗社長もネオスターライトドラグーンがどこにあるのか分からないのか」
「残念ながらあの施設と新しいガシャットを電子空間に移すだけで手いっぱいだった。嵐山や父がどこにいるのかも分からない」
「……そうか」
「……けどよ、全人類をバグスターにするしかなかったとしてみんな納得してくれるのかな。実際にそれをやってしまったあそこの人達ですら後悔しているみたいなんだし。世間ではこの災害はバグスターが起こしたことになってるっぽいのに自分達までバグスターにするなんてこと誰が賛成するんだ?」
「私が意見を言ってもいいかな?」
「どうぞ?」
「もしも私がかつてのような権力者だったとすれば、騙してでも既成事実を作る。つまり普通のガシャットだと言ってプレイさせてバグスターにする。バグスターになれば自殺も出来ないからこの世界、無理やりにでも私達の思い通りに動くしかなくなる」
「あんたなぁ……!」
「分かっているさ。私がビルゴサイトを使って宇宙連合と組んで事実上君達を裏切っていたのは飽くまでも地球のため。だから私は既に外道。結果がすべての事しか言えない。しかし君達は違う。君達は私を破っているのだから君達にやり方は任せる」
「……黎斗社長、頼みたいことがあるんですけど」
「何かな?」
翌日。この体育館に新たな娯楽が誕生した。それは仮面ライダークロニクルの安全保証版且つ筐体版だった。もちろん負けてもバグスターにはならない。その代わりにその戦闘データは如実に蓄積されていく。そして新たな力となっていく。
これまで食事以外の全てを奪われた人々にその娯楽は多少の警戒心こそあったがしかし退屈と鬱屈を晴らすには十分すぎる程刺激的だった。最初は100人分しか筐体を用意しなかったがそれでもすさまじい行列がいくつも出来てしまっている。よって明日には黎斗によって追加の100台が作成されて陳列する予定になっている。
「盛況してるな」
将碁や武もゲームに参加している。VRのように視覚をゲーム世界に繋げて頭に思い浮かんだとおりにゲームの中で動き回り、敵を倒すゲームとなっている。そのため老若男女があまり関係せず、上位ランカーもまた若い男性だけにとどまらずそこそこ他の年代性別のプレイヤーも名を連ねる状態となっていた。その中には将碁や黎斗も混じっている。武に関してはどうにもこの手のゲームはあまり得意ではないのかギリギリで上位には食い込めない位置にいていじけている。
仮設住宅と呼ぶにもおこがましいこの集団生活は心身ともにかかる負担は大きい。それをかなり軽減できたこの環境は世界がこんな状況でありながらしかし人々の表情を決して暗いままにはさせていなかった。給仕をしていたバグスター達によって他の避難施設などにも宣伝がされてゲームや温かい食べ物欲しさにわざわざこの体育館にやってくるものまで現れ始めた。このゲームが置かれてから一週間後には大会まで開かれることになった。参加者は1万人をも超える。
「……しかしなぁ……」
廊下。武が虚空からコーラを召喚しては蓋を開けて飲む。
「本物の仮面ライダーが仮面ライダーのVRで普通負けるかなぁ?」
案の定、武は1回戦で負けていた。
「本当に、俺達が仮面ライダーでよかったのか……?」
コーラを飲み終えて虚空に瓶を消す。すると、
「大会の会場はこっちで合ってるかな?」
声をかけられた。振り返れば浅倉威みたいな姿の青年が後ろにいた。
「あ、はい。参加者ですか?けど、多分もう大会始まって3回戦くらい行ってそうなんですけど」
「あーあー、別にいいよ。大会が目当てだけど参加するわけじゃないから」
「観戦ですか?だったらこっちの4階フロアから……」
「あーあー、違う違う。俺がやりたいのは……ガチのファイトだから」
「へ?」
直後、その男は姿を変えた。その姿は薔薇と悪魔を組み合わせたかのような姿。
「バグスター!?」
「いかにも。俺の名前は駿河。超級バグスターとしての名前は、バローズバグスター!!!」
バローズが左手を前に突き出すと5本の指が蔦となって伸びて一瞬で武の両手足と首を縛り付け、次の瞬間にはバラバラに引き裂いていた。
「瞬殺完了!!」
「まだだぜ!!」
が、バラバラになった武の肉片が電子変換されて次の瞬間にはリボルバー・ドグマトリガーの姿になっていてバローズを殴り飛ばす。
「ほう、お前が仮面ライダーだったのか」
「超級バグスター!エボルトの配下のバグスターだったな!ここをかぎつけたか……!!」
「そりゃ今じお前達のお遊びはバグスターの間で有名だからな!電子世界でお前達の話を聞かない日はないぜ!?」
中空で身をひるがえしたバローズが着地。同時に右手中指が蔦のように変貌して即座に伸びる。
「!?」
リボルバーが気付いた時にはもうその一撃はリボルバーの心臓を貫いていた。
「ごほっ!!」
「バグスターだからって油断したな?確かに心臓貫かれても死にはしない。けど負けはするんだよ!!」
「けど、勝てもする!!」
心臓を撃ち抜かれながらリボルバーは発砲。数発の弾丸がバローズの顔面に命中して激しく頭部を損壊させる。
「ぐぎぎぎ……!!」
「ここはやらせない!!」
電子変換で心臓の傷をふさいでからリボルバーが接近。バローズの背後に回り込んでジャーマンスープレックス。歪んだ頭から今度は地面に叩きつけて大ダメージを与える。
「超級バグスター何するものぞ!」
「けど舐めるのもほどほどにしろよ?」
直後バローズの背中から4枚の翼が生えた。そしてバローズの蔦がリボルバーの手足を縛り付け、同時にバローズが羽ばたく。
「くっ!」
天井をぶち破って暴風雨の歪んだ大空にやってきたバローズとリボルバー。
「……薄々気になってはいたがお前はまさか……」
「そうさ!仮面ライダーローズ、仮面ライダーデーモン、仮面ライダーアイジスの力から生まれた超級バグスター!何だか俺より前に角永とかいう超級バグスターを倒したらしいがあんなものを基準にしてもらっちゃ困るぜ!!」
「どっちにしろ俺達は今、雑魚を相手にしている暇はないんだよ!!」
「!?」
バローズは突然重くなったのを感じた。見ればリボルバーがナイトゲーマーの姿になっていてその重装甲の重量だけで全身を縛る蔦を引きちぎろうとしていた。
「だけじゃない!!」
さらにそれに注目していたバローズの脇腹に槍を突き刺し、完全に束縛から解除。バローズから離されて上空を真っ逆さまするリボルバー。しかしその姿が再び変わる。
「久々のこの姿で!!」
そしてドラグーンゲーマーの姿になり、飛翔。バローズが見あげると同時にその顔面に射撃を繰り返し、動きを封じる。
「こいつ、調子に乗りやがって!」
バローズは蔦の塊を盾に射撃を防ぎつつ飛翔。暴風雨の中、射撃と蔦が空中で火花を散らしながら超高速の空中戦が開始される。
会場。状況に気付いた黎斗経由で将碁が大会の中止を検討する。
「だが将碁君。これはチャンスかもしれないぞ?エボルトでもライトニングでもない超級バグスター程度が相手ならやれるかもしれない。いや、やってもらわないと困る」
「……けど、せっかく今日と言う日を楽しみに遠くからわざわざ来てもらったんだ。戦いに巻き込ませたくはない……」
「元々そう言う計画じゃないか。将碁君、君はこの8か月でかなり強くなった。一人じゃ何もできなかったニートの君が仮面ライダーになって人々の生活を陰から支えている。独立できている。けど、独立すると言うことは誰かの独立を防ぐことではないし、況してや誰の助けも必要としない事ではない。今回の計画はそう言うものだろう?」
「……けど……」
「何か面白い事をしているようだな」
「!?」
声。見れば正面。本来対戦相手だったはずのプレイヤーを軽く粉砕して雷王院がプレイしていた。
「雷王院……!」
「中々面白いゲームだな。リアルじゃ勝てないからってこっちで勝負をしようって話か?それでもいいぜ?負けたら死んでくれるって言うのならな」
「……」
「待ちたまえ、ライトニング。本来そのプレイヤーの相手は私だったのだ。まずは私に勝ってから話をしてもらおうか」
「檀黎斗、お前とも決着をつける必要があったな」
「ビルゴサイトだけ協力させておいて逃げおおせた弱虫ライトニング。この私の正義で裁いてやる」
ゲームの画面に召喚される二人のエグゼスター。そしてゴングが鳴ると同時に対決が始まる。
「ライトニング!!」
「バグスターだからってチートしたらその時は報いを受けるだけだと覚えておけよ?」
「私がそんなことをするとでも?私は天才プログラマーであるために天才ゲーマーでもあるのだよ!」
膝まで冠水したステージで激突する二人。足元が水場であるため投げ技は通用しない。移動速度も激減されている。必然と勝負は殴り合いになる。それがセオリーだが、しかしこのゲームでは訳が違う。
「ぬはははははは!!!!」
黎斗が笑い、両者の間に石ブロックが大量に出現する。
「へえ、こういうスキルがあるのか」
「しかも誰でも出来る!!発想は自由であり無限大だ!!」
「ならこういうことも可能かな?」
「っ!」
雷王院が石ブロックに触ると猛烈な勢いで電撃が発生して全ての石ブロックに疎通。その上を走っていた黎斗に感電する。
「ぐっ!!」
「苦しいか?所詮ゲームなのに。それは何故か。……檀黎斗ぉ!!ゲーム上では一切いかさまをしていないがお前の存在はそろそろ目障りなのでな!!このゲーム上で発生したすべてのダメージはバグスターの肉体及びコアプログラムに対して有効となっている!即ちお前がこの勝負に負けるのであれば同時にお前は二度と再生できなくなって消滅する!!」
「何……!?」
「これはゲームであっても遊びじゃない!命懸けのゲームなんだよ!!」
「だったらお前も何か賭けてみろ!」
「俺はそんなお遊びなんてもうしないと決めたんだよ!失われるものなど何もない、他の全てを打ち砕き踏みにじるためだけに力を振るう!!そんな強さを手に入れたんだ!!」
「……それが強さだと言うのならお前が見る全ては幻に過ぎない!!」
電撃を耐えながら黎斗は突進して雷王院に接近。その腹に膝蹴りを打ち込み、しかし受け止められた。
「くっ!」
「バグスターになってから体が鈍ったようだな。プログラマーに科学者に仮面ライダーに社長。いくら天才と言ってもこれだけ兼任していれば満足に何かに打ち込めるはずもないだろう。だが俺は違う。全てを打ち砕く!ただそれだけのために俺は、悪魔に魂を売ったんだ!!」
「……それがお前の弱さだよ、ライトニング」
「他の誰より強ければいいだけの話だ!」
「!?」
雷王院の貫手が黎斗の胸を貫く。その左手が黎斗の心臓を鷲掴みにした。バグスターでなければ即死の攻撃。だが、ここからそれもまた即死へと変わる。
雷王院は黎斗の心臓を掴みながらその体を片手で持ち上げてもう片方の手による素早い手刀で黎斗の両腕の関節を外す。
「ふんぬがぁぁぁぁぁっ!!!」
そして右手で黎斗の顎のあたりを掴んで左右の腕を大きく開くことで黎斗の背骨が変形、首が骨で繋がりながらしかし胴体から離れる。その衝撃で掴んでいた心臓が粉々になる。
「黎斗社長!!」
「永遠に砕け散れ!!檀黎斗!!」
雷王院は脱力し、そしてキリンのように伸び切った黎斗の首を掴んでジャイアントスウィングの要領で空高く投げ飛ばし、一瞬で背後に回り込み背後から両腕を掴み、放電。凄まじい電圧により黎斗の肉体がバスケットボール大にまで圧縮される。
「プラズマギミックインフェルノォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!」
そしてオーバヘッドシュートで凝縮された黎斗が光の速さで地面に叩きつけられ、ステージ全体が大きく歪み、データ域として崩壊していく。
「黎斗社長……」
画面の中の全てが消滅する寸前、将碁は黎斗と視線が合った。そして次の瞬間には画面もそして座っていた黎斗の肉体も完全に消滅し、
「ふわ~あ、中々面白かったぜ」
雷王院があくびをしながら立ち上がる。
「ゲーム、壊れちまったな。じゃあ次はリアルでやるか?」
「やらせない!!」
天井を突き破ってリボルバーが飛来。着地と同時に雷王院の胸に銃口をつけ、引き金に指を触れた瞬間に、
「変身」
「エボルレイライトニング!!ヌゥハッハッハッハッハッハ!!!」
雷王院の姿がエボルレイライトニングへと変わり、発射された銃弾を無防備にはじき返す。
「くっ!」
「駿河はどうした?」
「捲いてきた!雑魚に構ってる場合じゃないからな!」
「俺にとってはお前も雑魚だ」
「やってみろ!!」
「何回やったって結末に変わりはない」
「どうかな!?」
リボルバーがナイトゲーマーの姿になり、槍による攻撃を開始する。さらに腰の鞘にハンドガンをセットして自動で射撃するように仕掛け、槍による攻撃とハンドガンによる自動射撃とを同時に繰り出す。しかし、ライトニングには通用しない。攻撃力が全く足りないのかその体に命中した途端にすべてが霧散する。そして逆にライトニングのパンチ一発でリボルバーの装甲が砕けて変身が解除され、将碁の足元にまで転がってくる。
「ぐはっ!!!」
「お前がどんなに策を講じてきたとしても少し俺の興味を引くだけであって脅威に等決してなりようがない。だから無意味なんだよ、お前など」
「無意味なものか……!!」
吐血しながら武は立ち上がる。
「正直お前の事はどうしようもないほど嫌いだ。存在を認めたくない。けど、こいつは裏切られながら一度はお前の事を再び仲間として認めた。だから俺もお前をどうにかしようとまでは思わなかった。過去の事もある。どんなにお前が許せなかったとしても過去、一緒に楽しくやってきた思い出がある。それに免じていた。けど、それをもくだらない理由で裏切ったお前を絶対に許すわけにはいかないんだ!!」
「……よく言う。お前も一度俺が憎くて檀正宗の下に下ってそいつを裏切っただろう。俺は絶望したんだ。信じた仲間達と共に掴んだ未来で、その仲間達に裏切られるどころか世界を混沌に導こうとしていた存在に尻尾を振った事実が」
「違うだろぉが!!お前は俺達に勝てないからこんなくだらないことをしてエボルトと組んだ!!そして世界をみんな滅茶苦茶にした!!勝てなかった理由を、その悔しさを後付けするんじゃない!!」
「そうやってグダグダと言い訳をする貴様が!」
「だからそれはお前だろうが!!!」
「いい加減にしろ!!!」
そこで、将碁が怒鳴った。今までにない怒声に二人は一瞬で会話を止めて将碁を見た。
「……今のお前は、世界を滅ぼそうとしている。その事実に変わりはない。そして、それを止めるのが俺達仮面ライダーだ」
「……やってみろ」
「……やってやるさ」
将碁が筐体を操作する。と、本来コインを入れるべき場所から2つの光が放たれて将碁と武の手元に注ぐ。
「これは……」
二人の手には1つのガシャットが握られていた。
「過去なんて関係ない。大事な未来を奪うと言うのならそこへ向かう全ての命がお前を打ち砕く!!」
「Excite!!」
ガシャットのスイッチを入れて電子音が響く。
「……」
「Excite!!」
武もまたスイッチを入れる。
「「変身!!」」
その瞬間、世界中の全ての命が光となって二人に降り注ぎその姿を変える。
「仮面ライダーセーブ!!」
「仮面ライダーリボルバー!!」
「「The Exciting!!!」」
水没した世界は一瞬で形を変えた。
「これは……」
それはまるでゲームのバトルフィールド。全てがポップのカラフル世界。空中にいくつもの道が走り、満月が3つと太陽が1つ浮かんでいる。ライトニングの正面には新たな姿となったセーブとリボルバーの姿があった。そして何より目を引くのがライトニング、セーブ、リボルバー3人の頭上にそれぞれHPゲージのようなものが浮かんでいる事だ。
「まさかこのエボルレイライトニング同様、変身するだけで世界を書き換える能力を持っているのか……!?」
ライトニングが周囲を見渡す。と、リボルバーが引き金を引いた。
「そんなもの……」
ライトニングは回避しない。が、命中した瞬間に異常が発生した。頭上のゲージにノイズが走り、ドクロマークがつく。
「これは……毒……!?」
「頼むぜ……全国のトップファイター!」
セーブが走る。応対したライトニングのパンチ。それをセーブは紙一重で回避し、手首のあたりを掴んでは一瞬で腕をひねり、ライトニングの左腕の肘関節を破壊する。
「くっ!?」
「打つべし!!」
そしてガードが下がったライトニングの顔面にセーブが飛び蹴りを叩き込む。
「!?」
リアルではない。しかし漫画ほど派手でもなくライトニングは後方に吹っ飛んだ。
「馬鹿な、何だこの感覚は……?」
立ち上がったライトニングが電撃を放つ。対してセーブとライトニングは信じられない速度で反応して絶対に攻撃が当たらない距離へと移動。空中に浮かんでいたブロックを軽く殴る。と、ランダムでアイテムが出現する。
「鎖鎌!」
を手に入れたセーブは僅かな間の後、猛烈な勢いで鎖鎌を振り回し、ライトニングが対応できない間に右肩に鎌が突き刺さる。
「な、何だ……!?この動き素人の動きじゃない……!!まるで何十年もその道に生きて極めたと言っていい達人の技……まさか、あの新フォームの力は……!!!」
「そうだ!アクセラレーションの数倍のスペックを、俺達だけじゃない。世界中の人間が最適と思った通りに動かす。世界中のプレイヤーの誰かが一人でもお前の攻撃に対応できれば俺達も対応できる。お前が絶対に対応できないような奥義と呼べる技術の持ち主がいれば俺達もまたその奥義を扱える!!俺達はふたりじゃない、世界中の人間がプレイヤーとなって戦う超大人数制協力アクションゲームの姿!!それがこのエキサイトフォームだぁぁぁっ!!!」
ライトニングが何かしようとすればその肩口や膝、腰の動きを見て動きを先読みした人物のスキルと狙撃の達人のスキルが合わさってリボルバーがライトニングの動きを先手で潰すように射撃。しかも麻痺や毒などのデバフが山盛りでありライトニングの動きが明らか目に見えて鈍くなる。そこへセーブが極めし者の縮地で急接近。その運動エネルギーをすべて用いた発勁の一撃をライトニングの心臓に叩き込む。
「くっ、ぐううううううううううう……!!!」
吹っ飛んだライトニング。その背中が地面に着く寸前にリボルバーがブロックを滑らせて地面と背中の間に滑り込ませる。と。倒れたライトニングによってブロックが発動しライトニングの右手に強制的に大鎌が握られる。
「な、何だ……!?」
「そして鎌VS鎌の達人にシフト!!」
セーブが大鎌を持って接近。起き上がったライトニングの素人鎌術を余裕で受け流し、1秒でその脳天に鎌の刃を突き刺す。
「馬鹿な……こんなあっさりと……?」
「まだだ。フィニッシュが残ってる」
膝から崩れ落ちたライトニングに向かってセーブとリボルバーが再びガシャットのスイッチを押す。
「ハイパーエキサイティングフィニッシュ!!」
「ハイパーエキサイティングバースト!!」
発射されたリボルバーのビーム砲撃がライトニングを大きく吹っ飛ばし、背後にあった巨大な岩山に叩きつけられ、
「てやーりゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
そこへセーブが飛び蹴りを叩き込み、背後の岩山ごとライトニングを打ち砕き、大爆発させた。
その爆発の中でも見えるHPゲージがついに最後の目盛りをも消灯させると同時、
「ゲームクリア!!」
軽快なラッパ音が流れ、戦っていた場所が元に戻る。しかも、冠水がなくなっていて町は元通りの景色に戻っていた。
「原因を倒したんだからすべて解決する。ゲームのお決まりだな」
セーブが着地すると同時、世界中のプレイヤーから歓声が上がり、拍手喝采が体育館中に響き渡る。
「……そんな馬鹿な……」
ボロボロになった雷王院が倒れたまま動かずに吐血する。
「雷王院。どんなチートじみた力を手に入れても世界中の誰かによって必ず突破されるんだ。覚悟を決めたつもりでもたった一人ですべてを背負い込もうとしていた時点でお前の敗北は必然。……エボルト!!!雷王院の体から出ていけ!!」
「……仕方がないなぁ」
突如、雷王院の腰から外れたエボルドライバーが消え、代わりにエボルトがその姿を見せた。
「エボルト、ここでお前も倒す!」
「遠慮しておくぜ。俺は本調子じゃないんでな」
「逃がすと思っているのか?」
「お前達こそ俺に構って遊んでていいのか?宇宙連合の総大将を倒したんだ。奴らが本腰入れてこの星に攻めて来るぜ?」
「それも全部お前の仕業だろうが!!」
「ごもっとも。いや、楽しませてもらったぜ。チャオ」
そう言ってエボルトは煙のように消えた。
「……」
それをしっかり確認してからセーブとリボルバーは変身を解除した。そして再びひときわ大きな歓声と拍手喝采が大空に響き渡ったのだった。