仮面ライダーS/L7話
Tale7:選択肢はDead or alive
・西武財閥。本社。普段椎名が仕事のために使っている部屋に椎名、将碁、武が揃っていた。
「状況を整理しよう」
椎名が口を開いた。机の上に置かれたパソコンの画面には椎名の言葉が自動入力されていた。椎名が会長に就任して手始めに開発した製品の試作型である。本来の製品とは異なり、椎名のスマホと無線でつながっていて会話内容含めてすべての発言や音などがスマホを通じて送られてきて文字として入力される優れものだ。
それを見て多少の驚きを見せる将碁と武を無視して椎名は続ける。
「君達が3か月前に偶然そのガシャットを手に入れて仮面ライダーになった。そしてあの二人に依頼されてバグスター退治を行なうようになった。ここまではいいね?」
「あ、ああ」
パソコンの画面を気にしながら将碁は答える。記録されていると言うだけで従兄弟との会話に妙な緊張感が生じている。
「バグスターウィルスはガシャットの中に入る事から電子的に、しかし実体化するウィルスであることは確実であり誰かに感染した場合にはそのストレスを餌に成長して怪人の姿を得た後はそれを確立するために今度は逆に患者のプラスになるようなことを始めてその安心感などを餌に成長、十分にその存在が確立された場合初めて患者から切り離されて患者は死亡……と言うか遺体も残らずに消滅してしまう訳だ」
「ああ。だが完全に存在を確立する前に仮面ライダーのレベル1の力で分離させることが出来る。レベル1で戦って分離させてからレベル2以上の姿で倒すことでバグスターウィルスはその患者から除外されて治療と言う形に収まる」
「嵐山さんが言うにはバグスターウィルスに感染してからスムーズに事が進めば1年とかからずに患者は消滅してバグスター怪人が誕生するらしい」
「で、バグスターに関して判明したのが6年前。それまで1号ライダーを除けば君達が3か月前に仮面ライダーになるまで一度も仮面ライダーは現れなかった可能性がある。とするならば当然バグスターウィルスの被害を受けた患者は最低でも5人はいそうな感じだね。君達がこの3か月で10体近くのバグスターと戦っている以上一か月で約3体。1年で36体で6年なら216体。1号ライダーがどこまで強いかは分からないがまあ間違いなく216体全てを倒せてなどいないだろう。もしかしたらその10分の1にも達していないかもしれない」
「そこも妙な話だな。だって1号ライダーって昨日お前にいきなり襲い掛かってきたあの白い翼の仮面ライダーだろ?」
「そう。そしてその正体は恐らく嵐山瑠璃。僕だけに標的を絞ってきていたし憎しみの感情も感じた」
「……あんた何したんだよ」
「企業秘密さ。昨日の件は恐らく情報を知りすぎた僕達を始末するためにあの二人が放ったことだろうさ。バグスター怪人2体に仮面ライダー。一気に襲い掛かられればレベル3が二人とレベル1が一人じゃ勝ち目はない。僕があの暴走するレベル10の力を使わなければ全滅は間違いなかった。そこで僕が暴走して君達を巻き込んで自滅したらあの二人にとってこれほど好都合なことはない」
「……あの二人に何か目的があるのは分かったが俺達を倒してもいいのか?仮面ライダーになれる人間はそうそういないんだろ?」
「そんなわけないじゃないか。何の前準備もしていない僕がぶっつけ本番で変身できたんだよ?確かに君たち二人だけを狙って仮面ライダーにしたわけじゃないかもしれない。だが、3か月前。君達含むあの日あそこで牛丼を食べていた全ての中から二人を仮面ライダーにするのが目的で動いていたのは間違いない」
「……となると仮面ライダーはいつでも生み出せるわけだから同時にいつでもバグスターを滅ぼすことも不可能ではないと?」
「必要があるかは別としてね。昨日の2体のバグスターそして1号ライダーは確実に結託していた。つまり檀黎斗と嵐山はバグスターを自由に生み出せてそれを使役できる可能性が高い。……檀黎斗の父と嵐山の妻が亡くなったのは事実だろうから恐らくバグスターを自由に使役するための実験に失敗して亡くしたか、あの二人も気付かぬ内にバグスターに感染していてそのまま早い内に亡くしたかのどちらかだろう。あの二人もバグスターと言う種を完全に使役出来ると言うのなら衛生省など関わらせずに好きなように暴れさせているだろうからね。また、ここまで話せばわかると思うが十中八九あの二人も仮面ライダーに変身できる。ダークネスドライバーがレベル10を制御するためのものだと言っていた以上レベル10を超えていることはないと思うがね」
「……」
薄々想像はしていた。将碁はあの日ワイバーンバグスターを攻撃した何者かの存在に気付いている。最初は1号ライダーではないかと思っていたが昨日の戦いを見るに毛色が違いそうだ。だから別のライダー……それがあの二人のうちのどちらかだという事なのだろう。
「けどだとしたらどうして俺達にバグスターを倒させていたんだ?自由に操れるんじゃないのか?」
「自分達で生み出せたものはそうだろう。けど何も彼らは6年前に自分達でバグスターを生み出したわけではない。それ以降に衛生省から依頼を受けてガシャットの製作やバグスターの研究などを開始してそれから何かがあって暗躍を始めた。だからバグスターは飽くまで利用しているに過ぎなく、完璧に制御できているわけではない。どうしても邪魔な時にバグスターが姿を見せた際にはあの白いライダーに倒させていたのだろう」
椎名はやがてホワイトボードの前に来た。そこでペンをとり、表を作る。そこにはこれまで倒してきたバグスターの名前とレベル、特徴を書き入れる。
「今まで戦ってきたバグスターはレベルが不明なサンダーウルフバグスターを除けばすべて5以下。僕を始末するために送ってきた昨日のマンティスバグスターがレベル7。恐らくあの二人が制御できる最高レベルだろう。バグスターのレベルがその強さに比例するのは明白だがこのレベルがどうやって設定されるかは分からない。仮面ライダーに関して言えばレベル10が実験的だって言っていたのだから恐らくバグスターのレベルも弄れるのだろうね」
「……俺達には最初はレベル2まででついこの間レベル3になれるようになった。それでも基本的にはバグスターにレベルで負けている。もしもレベル7までなら制御可能だって言うなら最初からレベル7のガシャットを渡してくれていればよかったはずだ」
「……ど、どういうことだよ?」
「……つまりあの二人は君達には低レベルのまま常にレベルが上のバグスターと戦わせていたという事さ。しかもその目的は少なくとも君達の始末ではないし自分達で生み出したバグスターの性能テストと言うわけでもないだろう」
「……今まで一度だけ例外がある。サンダーウルフバグスターは嵐山さんに聞いてもレベルが不明だって言われた。つまりあの二人が生み出したものではない自然のバグスターはレベルがわからないんだ。もしかしたら10より上かも知れない。つまり、」
「……俺達に低レベルでの格上殺しをやらせていたってわけか。手が付けられないほど高いレベルのバグスターがいつ現れてもいいように」
「そう言う事だろうね。だがそれだけなら無理に僕達を始末するまで事を急ぐとは思えない。今まで低レベルで上のレベルのバグスターを倒してきた君達を始末してしまえば格上殺しのノウハウまでなくなってしまう。マッチポンプは褒められたものではないかもしれないが演習とすれば超法規的処置で衛生省も認可する可能性がある。いや、もしかしたら既にそこまではしているのかもしれない。あの二人にはもう一段階何か裏があると思っていいだろう
」
椎名が結論する。それに対して将碁も武も異論は示さなかった。だが、武が疑問する。
「これからどうすればいいんだ?」
「バグスターが現れたって時かい?あの二人が今まで通りに連絡してくるとも思えない。昨日みたいに奇襲をかけてくるだろうさ。逆に一般人を襲うメリットはないからある意味正当防衛でしかこれから先バグスターとの戦闘は起こらないよ」
「……仕事がなくなるってわけか。……俺の生活費どうしよ……」
「何だ、そういう話か。何なら僕が雇ってあげてもいいよ?」
「マジで!?」
雰囲気を変える武。ため息をつく将碁。席に着きパソコンの画面を変える椎名。
「君に合った仕事や部署を選ぼう。履歴書を僕の方で作るからフルネームとか生年月日とか教えてよ。……えっと、喜屋……何くんだったっけ?」
軽い調子で質問した椎名。固まる武。急に噴き出す将碁。
「……?どうしたんだい?」
「い、いや、その……」
どもる武。大笑いし始めた将碁にコブラツイストをかけてがっちり絞めてから告げた。
「……まるた」
「……は?」
「……喜屋武(きやたけし)じゃなくて喜屋武(きゃん)まるた……。俺の本名なんだ」
夜。執務室。椎名が一息ついて体重を背もたれに預ける。
「……しかしさっきは笑わされたよ。喜屋くんじゃなくて喜屋武くんだなんてね。まあ、彼が言ったようにこれからも喜屋くんって呼ぶことになったけれども」
椎名はそこまで呟いてからパソコンにメールが届いたのを確認した。
「……解析完了か。48時間かかるとは流石檀コーポレーションの極秘技術だ」
椎名が席を立ち、壁に掛けられた掛け軸をめくる。そこにはスイッチがあり、椎名が触れるとその指紋を認証し、壁の一部が左右に分かれて新しく通路が出現する。その通路をやや速足でわたり、その先に機械室があった。
「……ダークネスドライバーとフェイトローザのガシャットの解析完了。これでレベル10の技術が手に入ったという訳か。さて、どうするかな?」
しばし考えてから椎名は新たなるコマンドを機械に入力した。
一週間後。
「あれから全く音沙汰ないよな」
西武財閥本社の食堂。将碁と武が昼食を食べながら会話を始める。前会長の息子であり現会長の従兄弟と言うこともあり顔パスの将碁と今週から社内コンビニの店員として働きだした武は普通にここで食事をとることが多くなった。ちなみに最初は社内食堂のスタッフとして働く予定だったのだが初日に食器棚を丸々ひっくり返して皿200枚をたたき割ったためにシフトされたのだ。
「嵐山さん達か。ってか檀社長はともかくとして嵐山さんここの社員じゃなかったのか?」
「椎名が言うには扱いとしては出張中って事になってるらしい。実際あの人の本職は檀コーポレーションと共同で衛生省からの極秘依頼を成すことだから6年前からそういう扱いらしいな」
「羨ましいね、暗躍して役員レベルの給料もらい放題なんて」
「……椎名が勤務表見たら月残業100時間超えてたって言ってたぞ?まあ、その分月給も100万近く行ってそうだけど。……けど確かに全く動きを見せないんだよな。当たり前だけどバグスター出現の連絡もなくなってるし」
「……連絡とかした?」
「してない。出来るわけないだろ。一応今月末に役員会議があってそこで椎名と嵐山さんは顔を合わせることになるから遅くともあと3週間後には事態は変わるだろうな」
「それまで何事もなければいいけれども」
しかしそれは打ち砕かれた。将碁の電話が振動する。相手の名前は檀黎斗。
「……」
一度武と顔を見合わせてから将碁は電話を取った。
「もしもし?」
「ターミナルにバグスターが現れた。急行してくれ」
「……!」
「瑠璃君を向かわせた。それでは」
「ま、待ってください!相手の、バグスターの名前とレベルは!?」
「……グラファイト・バグスター。レベルは……30だ」
「……さ!?」
「では、よろしく頼むよ」
通話が切れる。
「……何だって?」
「……ターミナルにバグスターが現れた。名前はグラファイト・バグスター。レベルは……」
「……レベルは?」
「……30だ」
「………………マジかよ」
沈黙。ある意味奇襲よりかも面倒な事態になっている。しかもターミナルと言うことは巌が危ないという事でもある。黎斗は確実に人質として使っているに違いない。
「……レベル30って……インフレしすぎだろ……」
「この一週間で無理やりレベル30まで制御できるようにしたのか或いは制御できないままレベル30まで上げたバグスターを放って来たって事か……」
「……椎名に話したほうがいいよな……?」
「けど今椎名は会議中だ。しかもここにはいない。すぐには来られないぞ……?」
「……俺達だけでやるしかないか……レベル30相手に」
「……駄目元で電話とメールしておくか」
将碁がスマホを取る。と、
「……お迎えに上がりました」
声。視線の先に瑠璃がいた。
「……電話したいんだけど……」
「急いでください」
「え?」
「2分以内にお願いします。それ以上はお父さんを騙せません」
「……瑠璃さん……」
すぐに椎名に対して電話をする。しかしすぐに応対できない旨の電子メッセージが来る。そのため同じ文面のメールをいくつもコピーして送信しておくことにした。
「……行こう」
現場に向かう車内。
嵐山はいない。運転する瑠璃と後部座席の将碁と武しかいない。
「……」
気まずい沈黙。やがて最初に赤信号に捕まった際に瑠璃が口を開いた。
「大丈夫ですよ。盗聴器などはありませんから」
「……あんたはあの二人が何か企んでるって知っているのか?」
「……檀社長に関しては詳しくわかりません。ですが父に関しては、バグスターウィルスで亡くなった母を思っているのは間違いありません。少なくともバグスターを飽くまでも根絶すべき災厄だと認識しています」
「……あんたはこんなことを話してくれるんだから100%あの二人の味方ってわけでもない……のでは?」
「……自分でもわかりません。父さんがやっていることは間違いなく悪い事だけれども、でもやろうとしていることは間違っていないような気がするんです」
「……」
「俺から質問してもいいか?」
「何でしょう?」
「先週椎名を襲った白い仮面ライダー。あれはあんたか?」
「……仮面ライダーアイジス。父や檀社長が言っていた一人目の仮面ライダー。1年前から私が変身してバグスターと戦っていました。この前も父の命令で西武椎名会長と戦って自滅させるよう言われて初めてあなた方の前に姿を見せました」
「……レベル10を制御できていない椎名を暴走させるためか。あの時あんたとバグスターは連携していたように見えた。事実か?」
「……私にも真実は分かりません。ですが低レベルのバグスターを生み出してある程度制御する技術なら既に開発されています。それは衛生省にも認可されているものです。最初はそこからだったんです。そこから仮面ライダーの技術が開発されて私達はその力を得た」
「……」
信号が変わり、車が走る。
「この3か月間俺達を戦わせていたのはより低レベルの俺達を使って高レベルのバグスターと対抗できる力を、ノウハウを得るためなのか?」
「それだけではありません。どこまで仮面ライダーのレベルは上げられるのか、それを見定めて安全な基準を確認してから仮面ライダーを量産する計画です」
「……仮面ライダーを量産する……」
「はい。私のガシャットとドライバーは私専用に作られています。ですがあなた達のは専用機ではなく量産試作機。試したかどうかは分かりませんがガシャットを二人交換して使用しても問題なく作動すると思います。私と父は仮面ライダーを量産することでバグスターの根絶を行なう。そのために許されざる領域に手を出しています」
「……今日戦う相手はレベル30のバグスターだって聞いている。レベル10ですら制御できていなかったんじゃないのか?」
「……グラファイトバグスターは普通のバグスターではありません。こうして指定された場所にあなた方をお送りしている私が言うのもなんですがあれは人が手を出していいものじゃない。あなた方はたとえ西武会長と合流したとしても絶対に勝てる相手ではありません」
「……そうか」
将碁はため息をつき、なるだけ音が出ないようにしつつスマホの録音を停止させ音声データを椎名に送信する。それに気付いてから武は質問を続けた。
「あんたがライダーだってのは分かった。そしたらあの二人はどうなんだ?檀社長と嵐山本部長は?」
「……檀社長は分かりません。ですが父は少なくともライダーではありません。仮面ライダーになるには……と言うより仮面ライダーの存在意義としてバグスターワクチンを体内に感染させる必要があるのですが、父は年齢のために拒絶反応が出てしまうのです。自分が仮面ライダーになれないために父は内心ひどく焦っているんです。だから手の内が全く分からない檀社長と手を組んでこんなことを……」
「……あんた、俺達の味方にはなれないのか?ここまで情報を話してくれているんだ」
「……無理ですよ。父たちの研究がどうなるかは分かりません。ですがその一部に過ぎないあなた方ではバグスターを根絶することは恐らく出来ないでしょう」
多少腹が立った。しかし恐らく事実だろう。自分達は檀黎斗が開発された低レベルのガシャット頼みでしかバグスターとは戦えない。それも1桁レベルを二人掛かりで何とか倒せる程度だ。今回のようなレベル30が相手で勝てるとは思えない。それにレベルの上限がどこまであるのか不明だが仮に100だとすれば30は弱い方だ。
「……そろそろ到着します。何か遺言などがありましたら私から家族にお伝えします」
「……容赦ないんだか優しいんだかよく分からないよ、あんたは」
「椎名が会議に行ってる会社分かるか?そこに行って椎名を迎えに行ってほしい」
「……あの人と二人きりは嫌です」
「……あいつ何したんだよ本当」
車が駐車場に到着する。緩やかにブレーキを踏み、将碁と武が降車する。
「……あんたはこの後どうするよう言われてる?」
「……檀コーポレーションに戻るよう言われています」
「なら俺達に情報を流したことは絶対に伝えないようにしてくれ。この戦いから生きて帰った後にあんたがいなかったら不利になる」
「……わかりました。お気をつけて」
瑠璃はどういう表情をしたらいいのか分からないと言った顔でそれだけ言うと窓を閉じてから車を出した。
「……」
正面。エントランス前。緑色の竜人と表現出来る異形の怪物が佇んでいた。紛れもなくあれがグラファイトなのだろう。
「……どうするよ?」
武が苦笑いを浮かべながら問うた。
「……やるだけのことはやろう。せめて手傷を負わせてここから撤退させたい。だから狙うのは奴の目だ」
「……目か。確かにいい作戦だ。最悪視力を奪えば死んだふりとか隠れたりしてやり過ごせるな」
「……死ぬなよ」
「お前もな」
二人が裏拳を合わせ、ガシャットを取り出した。
「ジャンクセーバー!!」
「ガンガンリボルバー!!」
「「変身!!」」
「「レッツゲーム!ムッチャゲーム!メッチャゲーム!ホワッチャネーム!アイムア仮面ライダー!!」」
二人がレベル1の姿に変身してグラファイトの前に立つ。
「……貴様達が仮面ライダーか」
「喋った!?」
「知能があるのか……!?」
「無礼なことを言うな。人間の手で作られたバグスターならいざ知らず我らバグスターは皆、心を持った存在だ」
「……」
二人は戦慄する。グラファイトは担いでいたバカでかいバットかこん棒のような剣を構える。
「我が名はグラファイト。強者と剣を交えることだけが生きがいの侍バグスター。さあ、貴殿らの実力を見せてみろ」
「……武、」
「何だよ!?」
「……絶対にレベルアップするな」
「……は?」
「シューター!ウェポンスライド!」
セーブはシューターを取り出し、グラファイトに発砲した。
「ふん!」
グラファイトは放たれた弾丸を目にもとまらぬ速さの斬撃で粉砕し、気付いた時にはセーブの眼前まで接近していた。
「!?」
「弱い!」
そしてセーブ本体に向かって斬撃が放たれる。
「スライム!スライドフォーミング!」
斬撃が液体になったばかりのセーブを真っ二つにした。
「ほう、面妖な」
「グラファイト!!俺達は決して強くない!強者との戦いがお望みならほかを当たったらどうだ!?」
「そんなはずはないだろう。貴殿達はこれまで多くの同胞を、たとえ人の手で作られたものだとしても破ってきた実績がある!それを某に見せてみろ!」
「いやだ!!」
「猪口才な!!」
グラファイトは剣を振るうその風圧だけでスライムとなっていたセーブを何メートルも吹き飛ばし、駐車場に停めてあった車を巻き込み爆発の中に叩き込まれる。
「セーブ!!」
「貴殿だ!」
グラファイトがリボルバーに視線を向け、斬撃を振るう。
「くっ!!」
リボルバーはバックステップで回避しながら一瞬だけガシャットに触れる。レベルアップしようか迷ったのは一瞬だけ。しかしすぐにガシャットから手を離した。
「どうした!?貴殿もまともに戦うつもりがないというのか!?」
「……俺達は誇りとかそういうもののために戦っているんじゃないんだ。ただ救える人がいれば救うために戦う。そのための仮面ライダーだ。だからお前が誰も襲わないと言うのであれば俺達はお前と戦う必要なんてないし、そのつもりもない!!」
「……だが某には戦う理由がある!!我らバグスターは人間と全力で戦いあうのが本望!!」
グラファイトはリボルバーの腕をつかみ、たやすく持ち上げては片手だけで振り回して何メートルも投げ飛ばす。
「ぐっ!!」
亜音速で空中を貫いたリボルバーは停車していた車に突っ込み、爆発を作る。
昼間の駐車場に生まれた爆発。そこからレベル1のままの二人のライダーがゆっくりと姿を見せる。
「どうするんだよこれ……」
「……どうもこうもない。ひたすら戦わない。そうしてこの騒ぎに病院の人が避難してくれたら……」
セーブはちらりと病院の方を見る。だが避難の動きは全く見られなかった。そこでやっとセーブは理解に至る。元々この病院は助からない命が集まっている場所だ。だからたとえ目の前に火の手が迫っていても必死に逃げようなどとは思わない。彼らは既に諦めているのだ。
「……誰も逃げるつもりはないみたいだぜ」
「……グラファイト、何度でも言う。俺達はお前と戦うつもりはない。俺達が戦う理由なんてものもない。今でこそ何とか九死に一生を得ているが俺達は絶対にお前には勝てない。生きて帰れる保証もない」
「……それを理由に己が挑んだ理由にケチをつけるつもりか?」
「何……?」
「貴殿達は勝てぬ勝負を、それでも挑まねばならない勝負をするために命を懸けてここへやってきたのではないのか?」
「それは……」
「貴殿達は一度命を懸けてここへやってきたのだろう!?それが嘘ではないというのであれば某と戦え!しかし嘘だと言うのであればなるほど、某と貴殿達は戦う意味がない。その首取らずにいよう。だが、二度と貴殿達はその力を振るうべきではない、その価値もない!」
グラファイトの言葉は本物だ。そして間違ってもいない。確かに自分達は命を懸けてしかし死ぬつもりはなく九死に一生を得るためにここへやってきた。それは自分達の意思と言えるのだろうか。黎斗からの指示と瑠璃に運ばれるがままにここへやってきて、そんな他人任せの運命に命を懸けて仮面ライダーを名乗っていいのだろうか。逃げることは出来たはずだ。だがそれをせずにここに立っているその意味は何なのだろうか。
「……おい、セーブ?おい、将碁どうした?おい、将碁!」
「……俺は……俺は……」
セーブはドライバーに刺さったガシャットに触れる。レベルアップして戦うことも変身を解除して逃げる事も出来る。逡巡。全てを超えた迷いが時間と感覚を奪う。そして一瞬。何かにたどり着いたセーブは、
「レベルアップ!!」
「アクセル!アクセス!!アクシズ!!フルスピードフルスロットルボーイ!!アイムアレベル3スピードゲーマー!!」
「うああああああああああ!!!」
「将碁!?」
「戦うことを選んだか!」
レベル3になったセーブは最大速度でグラファイトに向かう。グラファイトは限界まで意識を集中させてセーブの高速移動をとらえ、斬撃を繰り出す。
「はああああっ!!」
しかし斬撃はセーブの頭上僅かを通り抜け、逆にセーブの勢いがこもった飛び蹴りがグラファイトの胸に叩き込まれる。
「ぬ、」
着地と同時に今度は拳を打ち込む。一発一発は軽いがひたすらに連打する事で少しずつグラファイトを押していく。
「面白い!死合おうぞ!!!」
グラファイトが膝蹴りの一撃でセーブを空高く吹っ飛ばし、跳躍追随。空中で身動きが取れないセーブに向かって斬撃を繰り出す。刹那秒後にセーブの死が迫る。が、それより早く衝撃がセーブに叩きつけられ、後ろからセーブを前方に吹っ飛ばした。
「む……」
「あ……」
「ぐっ!」
グラファイトの背後に叩きつけられたセーブは変身が解除されて将碁の姿に戻る。息を荒くした将碁が見上げると、
「全く。時々信じられないことをするよな君は」
「……椎名……」
そこにはレベル10の姿のローズがいた。薔薇の一撃でギリギリでセーブを攻撃してグラファイトの斬撃から救ったのだろう。手加減などしていられる状況ではなかったためかセーブを一撃で倒してしまっていて将碁は背中に尋常ではない激痛を感じている。これではろくに立ち上がる事も出来ないだろう。
「貴殿も仮面ライダーだな。確か3人いると聞いている」
「言っておくけど僕達より君にその話をした男たちの方が強いと思うよ?そっちの方に勝負挑んできたら?」
「……ほう、と言うことは奴らもまた仮面ライダーだとでも?」
「そうさ。ほら、いったいった」
「……」
グラファイトは武器を収めた。そして将碁を一瞥する。
「貴殿が戦士であることを祈ろう。そう信じてこの場は勝負を預ける」
それだけ言うとグラファイトはまるでノイズのようにその場から姿を消した。
同時にそこで将碁の意識も途絶えた。