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仮面ライダーSL3話

Tale3:希望はNobody

・都内。終末医療センター<Transfer>。西武巌が入院して既に2か月と少し。将碁はもちろん武もたまに顔を出している。ちなみに仮面ライダーに関する情報は巌には話してはいけないらしい。なんでも、衛生省から話していいとされている相手は檀コーポレーションの人間と嵐山だけだと命じられているからだ。
「どうして嵐山さんの上司であるお前の親父さんには話しちゃいけないんだろうな」
「もう会長じゃないからじゃないのか?あと会長と社長は違うし。多分椎名の奴も仮面ライダーに関しては知らないと思う。いくら子会社と言っても本来は檀コーポレーションの仕事だしな。元から監督係として配属されていた嵐山さんだけが特別なんだろう」
「……よくわからないなその話」
実際将碁もあまり理解していないが、しかしそこまで理解をする必要もないだろう。自分達は飽くまでも仮面ライダーとしてバグスター怪人を倒してバグスターウィルスに侵された人々を開放する。それだけで十分だしそれが仕事なのだ。
「ん?」
「どうした?」
「……いや、今何か見覚えのある背中があったような気がして……」
「あ?」
武が見る。現在自分達は巌の病室に向かっている最中で、そこまで行くための廊下を歩いている。廊下には患者やスタッフや見舞客などがちらほらといる程度だ。一時的な治療のために入院する通常の病院とは違い、基本的にはここに入院している人達は残り少ない人生をここで永住することになる。言ってみればここで生涯を終える人にとっては住居のようなものであり健康に差し支えないのなら友人などが遊びに来ることもままあるだろう。そのため通常の病院よりかも来院者の割合はやや多い。
「まあ、町で一番大きなターミナルだからな。似たような人の中に知り合いがいたんじゃないのか?もしくは近所で見かけるやつとか」
「……ならいいけどな」
やがて二人が病室に到着する。ノックの後中に入る。
「父さん、」
「おお、将碁。それに武君もわざわざすまないね」
「いえ……」
首から下が全く動かない父親が真っ白なベッドの上で安らかな表情でこちらを眺めている。
「……もしかしてさっき?」
「ああ、そうなんだ。さっき私を担当してくれている先生が来てね。ベッドのシーツや寝間着などを取り換えてくれたんだ」
「父さん、先生って言うけど具体的にその人何をしてくれる人なの?」
「知ってるとは思うけれどもここは病気を治すための病院ではない。そりゃ何か症状が悪くなって手術などを望んだ場合には待機している執刀医などが来てくれるとは思うけれどもね。私を見てくれている先生はまだお若い。君達と同い年くらいかもしれないな。変わった経歴の人でね。これまで医療関係には携わってきていないみたいなんだ。けどなんでも人の死に触れたいとかで半年くらい前にこの業界に着て介護医として働いているらしい」
「なんじゃそりゃ。人の死に触れたいって……」
「確かにあまり趣味がいいとは言えないかもしれない。だが、人の死に触れるというのは大事なことだよ。私もお父さんが、お前のおじいさんが亡くなった時にはしばらく仕事にも手がつかなかった。どうしようもないほどに荒れた。まさか自分がこんなに荒れるとは思っていなかった。今でも思うよ。もう年老いた身だからかもしれないが、自分が交通事故に遭ってこんな状態になった時よりかもあの時の方が衝撃が上だったんじゃないかって思うよ。そして交通事故は起きないかもしれないが親の死と言うのは必ず起きる。誰しも必ず待ち受けられた運命なんだ。将碁、お前がそれを見る日は近いだろう。父さんよりも若い身で受けるのはしんどいことかもしれない。だが、お前には友達がいる。親を見送った後に自分の真価が問われるんだ」
「……父さん……」
「将碁、定職につけ。いくら宝くじで億万長者になったところでそれは決して増えることのない資産だ。一時の幸運に過ぎない。それに甘えてしまえば尽きた時に地獄を見ることになる」
「……」
「……おじさん、こいつは……」
武が何かを言おうとした。だが、将碁はそれを手で制した。
「……いいのかよ」
「……悪い。……父さん、俺も全く働いてないわけじゃないんだ。誰かのために今やりたいことがあるんだ」
「……ならそれでもいいさ。自分の人生に、親に胸を張れるのであれば」
「……」


病室を出た二人。中庭のベンチに座って自販機で買ったドリンクを飲む。
「……どうして仮面ライダーだって話さなかったんだ?」
「どうしてって止められてるだろ。それに父さんに余計な心配かけたくない」
「……お前がそう言うならいいけどさ……」
「……ん?」
二人が会話をやめて同時に一転に視点を集中させた。
「はあ……今日もいない……」
それは女性だった。年の頃は自分達と同じ社会人に入ってすぐくらい。スーツに見えなくもないいわゆるカジュアルスーツに身を包んでいる。しかし別に何も、二人は一目ぼれをしたわけじゃない。整った顔をしているものの残念な話だがひどくタイプではない。それ以上に目を引くのはその姿。まるで旧時代の漫画のように半透明で両足がなくて、浮いていた。
「「お、お、お化けゴーストゾンビファントム!?」」
「は?」
あまりに意味不明な絶叫を聞いたからか女性がこちらを見た。じっくり数秒ほど二人を眺めると少しずつこちらに近寄ってきた。歩み寄るならぬ浮き寄る。
「あなた達もしかして仮面ライダー?」
「…………は?」
「だって私の事見えるんでしょ!?」
「……えっと見えるし仮面ライダーだけどあなたは?」
「……こほん。ごめんなさい。取り乱してしまったわ。私は郡山馨(かおり)」
「西武将碁です」
「喜谷武です」
「あと、話の前に聞きたいんですけどこの会話ってやばかったりします?」
「……そうね。普通の人からは私見えないし。声も聞こえない筈だから」
「じゃあ電話してるふりします」
将碁がスマホを出す。
「……意外と賢いのね。で、私なんだけど実は6年前からこの状態なのよ」
「6年前?」
「そう。今の私、鏡にも映らないし。誰にも触ることもできないし。でも最初のうちはそうでもなかったのよ?たまにだけど元の姿に戻れた。でもどんどんと肉体を保てている時間が短くなって……今だともう2か月連続で元の姿に戻れなくなってるの」
「……それでどうして仮面ライダー?」
「何とかってウィルスに感染してる疑いがあるって衛生省の人に言われたのよ。今の私をまともに見ることが出来るのは仮面ライダーくらいだって」
「……まさかあなたバグスターウィルスに感染しているとか……!?」
「そう!それ!バグスターウィルス!」
「……ちょっと整理させてほしい」
将碁はスマホを置いて口黙る。1分くらい経過してから口を開いた。
「おかしい話だ。バグスターウィルスに感染したら神経系を蝕まれてバグスター怪人をストレスで育て、安心感と引き換えに完全に肉体を奪われる。感染から消滅までどれくらいの時間ががかかるかは分からないけれども流石に6年は掛かりすぎだ。もしかしたら2か月すら長すぎるかもしれない」
「どういうことだよ。いや6年が長いのは分かるけど2か月も長すぎるって」
「俺達はこの2か月で7体のバグスターを倒してる。約一週間に1回のペースだ。いずれも街で暴れているのにたまたま遭遇するか檀社長や嵐山本部長からの依頼での出撃なわけだが別にそれはペースを調整されたわけではない。飽くまでも自然発生だ。1回もバグスターと戦わなかった週だって確か2回くらいあっただろう?そして今までバグスター怪人になって数時間と言う早いタイミングの処置まで行なわれている。つまり疑うわけではないが俺達は非常に早いタイミングでバグスター怪人を除去していることになる。なのに2か月も放置されているなんてあるか?況してや6年間もだなんて」
「……たまたま社長が見つけられなかったんじゃないのか?もしくは郡山さんがこの姿になっていると仮面ライダーにしか声がかけられないのだから助けを求めることも出来なかったとか」
「郡山さん、衛生省に言われたのはいつ?」
「5年前よ」
「……5年も前に衛生省と接触しておきながら檀社長に話が行っていないわけがない。そしてこんな症状がバグスターウィルスにあるだなんて話も聞いたことがない」
「……じゃあどうするんだよ?」
「……檀社長に聞いてみる」
将碁がスマホをもう一度取り出して黎斗の番号に電話を掛ける……その直前その黎斗から電話がかかってきた。
「おわっ!」
「将碁くん。出撃だ。58区にバグスター怪人が出現したとの通報があった。車を用意するからすぐに向かってほしい」
「あ、あの!」
「頼んだぞ!」
それだけで電話が切れてしまった。
「……タイミングが悪すぎる」
「……流石に少し疑わしいよな」
「確かにな。バグスターウィルスには衛生省が秘匿にすべき俺達が知らない情報があるのかもしれない。とにかく急ごう」
「あ、あの……私は……」
「郡山さんはここにいてよ。今日はもしかしたら戻らない可能性もあるだろうけど基本的にこの病院にはよく来るから」
「……西武巌さん?」
「……どうしてその名前を……」
「私もね、実は……」
馨が何か言いかける。しかしそこでクラクションの音が響いた。嵐山の車だった。
「とにかくまた来るからここにいて!!」
二人は車に向かっていった。
「急いでください」
嵐山が窓から顔と声を出す。
「嵐山さん、後で聞きたいことがあります」
「……何でしょうか?」
「車出してからでもいいでしょう」
将碁が言ったことで車は出る。出るのだが、妙に遅い。
「……瑠璃、どうした?」
嵐山が運転手に話しかける。よく見れば運転手の名前は嵐山瑠璃となっていた。顔は見えないが
「……何でもありません」
声からして嵐山の娘だろう。どうやら運転手として雇われているようだ。嵐山がもう一度声をかけると車は病院を後にして走り出す。
「……それで話と言うのは何でしょうか?」
「バグスターウィルスの話です。俺達はバグスターウィルスは人間の神経系に寄生し、そのストレスを餌に成長してバグスター怪人が誕生し、バグスター怪人はプラスの感情を餌にして宿主から肉体を奪うと聞きました。ですが今日、それとはまったく違う症状の人と出会いました」
「……バグスターウィルスに感染している人物と遭遇したのですか?」
「その人は既に肉体を失っていた。正確に言えば一定期間ごとに肉体を失い、意識だけが電子として空中を漂う……幽霊のような状態になっていました。その人は5年前に衛生省にこのことを相談しているそうです。ならば檀社長やあなたの耳にも当然そういうケースは入っている筈です」
「……彼女の話ですか。ええ、確かに。私も檀社長も知っています。彼女の場合はかなりレア。現状バグスターウィルスに感染した人の9割以上、ほぼ全員と言っていい確率で同じ症状を発症します。ですが彼女だけは例外です。バグスターウィルスに感染しているのはほぼ間違いないのですが肝心のバグスター怪人が中々誕生しないのです」
「……バグスターウィルスが感染してからバグスター怪人になるまでは大体どれくらいの期間なんですか?そしてどれくらい放置したら宿主となった被害者は消滅してしまうのですか?」
「まずバグスターウィルスは感染しただけでは何の症状も起こしません。ストレスを感じやすい人であれば一か月ほどで発症しますが感じにくい人であれば1年近く潜伏している場合もあります。その1年もあれば前述のストレスを感じやすい人であればほぼ間違いなく消滅してしまっているでしょう」
「その速度はどうやって割り出しているのですか?」
「詳しい方法は分かっていませんが衛生省が雇っている監察医からの報告です。まず間違えないでいただきたいのは、私も檀社長もガシャットなどに関しては詳しいですが、化学的医学的観点からバグスターウィルスを診ることは出来ません。もしかしたらこれから医学が発達し仮面ライダーの技術を使わずともバグスターウィルスを除去することが可能になるかもしれません。インフルエンザなどと同じくワクチンが作られてそもそも感染しなくなるかもしれません。ですがそれを私どもが窺い知ることは出来ないのです。私どもが衛生省より認可を受けて動けるのは飽くまでも仮面ライダーを生み出し、協力を仰ぎ、事後的にバグスター怪人を撃破することでバグスターウィルスを除去して患者の命を救う事。それだけです。そしてそれ故にバグスターウィルスに関しては我々もそして衛生省も与り知らない性質があると思われるので彼女との接触も今後おやめください。通常のバグスターウィルスであればあなた方は既に免疫が存在しますが彼女が有するレアウィルスは監察医が5年間かけてもほとんど解明できていないブラックボックスのようなものなのです。あなた方も彼女のように幽霊人間になりたくはないでしょう?」
「……そうかもしれませんが……」
「あなた方は世界で3人しかいない仮面ライダーなのですから」
「……はい、わかりました」
「……3人って俺達以外にもいるって事ですよね?誰なんですか?まだ一度も会ったことないですし名前も聞かされていません」
「申し訳ございませんがプライバシーにかかわる情報なので控えさせていただきます。もちろん私や檀社長は把握していますが」
「……そうですか」
「……そろそろですね。現場から入った情報によると相手はレベル5ワイバーンバグスターだそうです。飛行能力と格闘能力を兼ね備えた強力なバグスターです。お気をつけて」
「……どうしてバグスターの情報を細かく?」
「我々が仮面ライダーを用いて対抗できるようになったのはこの半年程度ですがケースとしては5年前から調査がされていましたので。ただ、これまではバグスター怪人が出現してしまった場合対抗できる手段がなかったため……」
「……出現=誰かが死ぬって事か。少なくとも患者は間違いなく……」
「はい……」
「武、行こう」
「ああ、分かった」
二人が車から降りる。と、前方。ワイバーンバグスターと思われる翼竜と竜人を合わせたかのような怪物がスーツ姿の初老の男性を襲っていた。
「見覚えがあるな……確か社会党の……」
「政治家か。確かバグスター怪人は患者にとって都合のいいことをしてえられた安心感を餌に肉体を奪い取るんだったな。じゃあ患者は反社会党派って事になる」
「社会党は衛生省と繋がりがある。だからあのワイバーンバグスターを倒して患者を助けると言うことは衛生省の敵を助けることにもつながるわけだけれども……」
「見過ごす手はないな!」
二人同時にガシャットを出してスイッチを入れる。
「ジャンクセーバー!」
「ガンガンリボルバー!」
「「変身!!」」
「「レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ホワッチャネーム!!アイムア仮面ライダー!!」」
二人同時に変身し、ワイバーンバグスターに向かっていく。
「ゼブラ!スライドフォーミング!」
「リボルバーは!!」
「分かった!!」
シマウマ型になったセーブがまっすぐワイバーンに突撃し、その間にリボルバーが追われている社会党議員を嵐山の車まで案内する。
「ワニャワニャワニャ!!」
「くっ!!これがレベル5……!!可愛い鳴き声しておきながら容赦なくレベル1の装甲の上からダメージ与えてくる……!!だが!」
「スライム!スライドフォーミング!」
今度はスライムの姿となりワイバーンの上半身をぐるぐる巻きにする。
「半分だけでも人型である以上スライムは有効だな!」
「ワニャワニャワニャ!!」
しかしワイバーンは腕力だけで自身を縛るセーブを少しずつ引き剥がしていく。そしてセーブの頭が地面に垂れ掛かるとその頭に蹴りを入れる。
「ぐっ!!」
装甲に守られているとはいえ頭にトンクラスのキックを受けたセーブは脳震盪を起こしてしまい、スライドフォーミングが解除されてその場にうずくまる。解放されたワイバーンはセーブを持ち上げてそのまま飛翔する。
「セーブ!!」
「レベルアップ!!ガンガンバキュンバキュン!!ガンガンズギャンズギャン!!ガンバズギャットリボルバー!!!!」
被害者の避難を完了させたリボルバーがレベルアップし、ハンドガンでワイバーンを狙うが、しかしあまりのスピードで縦横無尽に飛び回られているため上手く定まらない。
「いくらレベル1の防御力でも100メートルの高さから落とされたらやばいんじゃないのか……!?」
「喜屋さん!!」
そこで嵐山が声を飛ばす。振り返ればカプセルのようなものが投げられた。リボルバーがそれを受け取ると同時、光り輝き次の瞬間には目の前にバイクが出現していた。
「バイク!?」
「開発段階でブレーキが利きません!しかし最高時速は600キロ以上!建物の壁ですら走破可能です!仮面ライダーの装甲同様破壊されても問題ない仕様です!!」
「さんきゅー!!」
リボルバーはハンドガンを片手に持ちながらバイクに乗り、アクセルを全開にする。
「とは言えバイクは免許取った時以来……や、やるか……うわあああああああああああ!!!」
リボルバーの想像をはるかに超えるスピード。一瞬で視点が真上へと突き上げられ、ビルの柱に突っ込んでいく。が、そこで激突して終わらず、嵐山の説明通りにあまりの速さに地面と垂直に壁を突っ走っていく。
「と、とんでもない化け物バイクだな……けど!!」
高度が整った。リボルバーが壁をバイクで走りながらハンドガンで空を舞うワイバーンに狙いを定める。一瞬だけだがハンドルから完全に手を離し、ガシャットのボタンを押す。そして引き金を引く。
「キメワザ!!ガンバズクリティカルバースト!!」
「FIRE!!」
銃口からエネルギーを纏った一発の弾丸が発射され、音速で宙を貫く。それは数珠穴を正確に通すようにまっすぐとワイバーンの腹に叩き込まれる。
「ワニャ!?」
突然腹をぶち抜かれたワイバーンが血反吐を吐きながら飛翔を止めて逆に落下を始める。その際にセーブのホールドが解除されてセーブは空中に投げ出された。
「くっ……何かないか……!?」
「セーブ!!」
リボルバーがハンドルを切り、壁を横に走り抜ける。落下していくセーブに間に合うように壁を走り、そしてそのまま飛び上がり、壁から離れたバイクごとセーブに向かっていく。そのままセーブをキャッチしようとした時。
「スライム!スライドフォーミング!」
「は!?」
「え?」
リボルバーの手はスライム状になったセーブの体を突き抜けてしまい、
「大馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉ!!!」
リボルバーはそのままバイクごと落下していった。
「り、リボルバー!?」
限界まで手を伸ばすがもはや全く届かない距離までリボルバーは飛んで行ってしまった。そしてそれとは逆に腹と口から大量の血を流しながらワイバーンが飛翔してくる。
「危険だけどやるしかない……!」
セーブはスライムボディを限界まで薄く伸ばす。それによりワイバーンのタックルをも突き抜けさせて回避する。が、突き抜けて弾け散ったボディの断片が宙を舞い、セーブ本体から離れていく。落下していくごとに受ける空気摩擦により急激に乾燥していき、空中でどんどんスライムボディは液体から個体へと状態変化を起こす。
「このままだと落下の衝撃で粉々になってしまう……!!」
そしてそれより早くワイバーンが急旋回して再びタックルで迫ってくる。
「ここまでか……!!」
何とか手を動かしてタブレットを操作しようとするが視覚が追い付かない。画面を見ようとした瞬間ワイバーンの肩がパキパキに乾燥しきったセーブのスライムボディに命中する……直前。
「シャカリキクリティカルストライク!!」
「え?」
聞き覚えのない電子音が響くと同時、どこからか自転車のタイヤのような丸い大きなものが飛来し、ワイバーンの腹に命中し、ワイバーンを遠く弾き飛ばす。
「……今のは……」
タブレットを操作。地面に叩きつけられる寸前に再びスライム化して液体となって威力を完全に打ち消し、難を逃れると同時に元のレベル1に戻るセーブ。辺りを見渡すがしかし、ワイバーンもワイバーンを攻撃したなにかも見えなかった。
「…………そうだ!!武は!?」
「サーチ!エレメンタルスライド!」
パネルの効果で周囲の探索を行う。半径200メートル以内のバグスター反応やあらかじめ設定してあった電話番号を持つスマホの反応、さらには登録してあったガシャットの反応とその座標が表示される。
「……見つけた!!」
70メートル先。セーブが走り出し、現場に駆け付ける。
「………………」
「武!!」
車道の真ん中。燃えるバイクの残骸。その傍に武は倒れていた。腹もしくは肩のあたりから大きく出血していて激痛だろうに意識はなさそうだ。呼吸があるかもわからない。
「武!」
「待つんだ!!」
駆け寄ろうとしたセーブを制す声。それは黎斗だった。
「檀社長!?」
「私経由ですぐ病院へと運ばせる。君は嵐山本部長と合流してから病院にきたまえ」
「……お、お願いします!!」
セーブは変身を解除し、将碁の姿に戻ってから嵐山のところへと駆け出す。それを見送ってから黎斗は手に持ったキャリーケースから何かを取り出した。
「……奴のセリフを言うのは癪だが仕方がない。さあ、実験を始めよう」
黎斗はそれを……バグヴァイザーを武に向けた。