仮面ライダーS/L18話
Tale18:Go for クロニクル
・病院。中庭。ライトニングとクロノスがにらみ合う。
「旧世界の遺産、破壊する!!」
ライトニングは剣を手に走り出す。
「……ほう?」
疑問の声を小さく放ったクロノスはライトニングの斬撃を上半身の動きだけですべて回避していく。
「旧世界の遺産ね。どういうことか聞かせてもらおうか」
「っ!」
クロノスの前蹴りがライトニングの腹に叩き込まれ、ライトニングは2歩下がる。クロノスは素早く距離を詰めては手刀の一撃で剣をへし折り、そのまま胸に一撃。
「がああっ!!!」
胸部装甲に亀裂を走らせながら吹き飛ばされ、将碁達の足元を転がる。
「……おい、どうなってんだよ……」
「あの強さだけは本物だったライトニングが手も足も出ない……!?」
「黙ってろ!!」
立ち上がったライトニングがベルトのハンドルを回す。
「Ready go!! ボルテックフィニッシュ!!」
「ぐおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
跳躍、激しい電光を纏った左足の飛び蹴り。つい先日セーブハザードを真っ二つにしたものだ。しかし、
「ふむ。推定威力は99トンと言ったところか」
「!?」
クロノスはその一撃を片手で受け止めていた。ばかりかそのまま片手だけでライトニングを振り回し、ジャイアントスイングで20メートル離れた壁に叩きつける。
「がっ!……ぐっ!ううう!!」
「ガシャットを使わないライダー・ライトニング。レベルで言えば50前後。本人の技量と合わせれば60前後と言ったところか。このクロノスにはレベルは設定されていないが、敢えて言うのであれば100は超えている。なれば君ごときが相手になるわけがないというものだ」
クロノスがゆっくりとライトニングに歩み寄る。そうしてライトニングが立ち上がった瞬間。
「ポーズ」
クロノスはベルトのボタンを押した。同時、その場にいたすべての時間が静止する。
「……ふむ。ガシャットを使わないライダー相手にもやはり有効か」
クロノスを除いて。
「キメワザ・クリティカルクルセイド」
電子音、そして尋常ではないエネルギーが右足に集約。さらにクロノスを中心に時計盤のエフェクトが出現。その長針が回転し、55分の位置にいるライトニングの前で停止。
「君はもう、絶版だ」
そして、超エネルギーを纏ったクロノスの右足がライトニングに叩き込まれ、長針ごとそこから一回転する。2度、12時に達した瞬間、
「……あれ?」
将碁が言葉を発した。直後に周囲は元の夕暮れの病院中庭に戻っていた。
「な、なにがどうなったんだ?」
「刻が極まったと言うだけの話だよ」
見ればベンチに正宗が座っていた。胸ポケットから葉巻を取り出して優雅に煙を飲む。しかし、二人の視線はその前で止まっていた。
「……ま、まさか……!!」
正宗の手前。そこにはトリニティドライバーが巻かれた下半身だけが直立していた。へそよりやや上のあたりから上には何もない。
「……あのライトニングをここまで……!!」
その奥でグラファイトとパペットが目を見開いている。
「……さて、話を続けようか」
煙を吐きながら正宗が口を開く。将碁と武は表情を変えない。否、変えられない。
「君達にはバグスター社会となった世界で秩序を乱す者が発生した場合、それを取り締まる警察のような役割を担っていただきたい。報酬としてその任務に必要なレベル100のガシャットを与えよう。権力に関してもそこそこいいものを与える。これでどうかな?」
「……な、なにを……」
言葉が続かない。感情だけが喉より先を支配していた。薄汚い感情だけが。
「衛生省から話は聞いている。君達は今まで低レベルながらも常に自分達よりも格上の存在と戦い続けてきたと。つまり技量だけなら十分だ。そこにレベル100のハイスペックガシャットが与えられればたとえ上級バグスターであろうと1対1ではまず勝ち目がないだろう。全人類をバグスターにすれば恐らく上級バグスターの数は増えるだろう。そうなれば今はまだ私と同盟関係を結んでくれているだけの彼らがいつ反逆をするとも限らない。だから君達の手を借りたいのだよ。私では誰が相手でもこのようになってしまうからね」
正宗が葉巻を目の前の下半身に投げる。と、やがて下半身だけの死体は炎上し、跡にはトリニティドライバーだけが残った。それを拾いつつ、
「……まあ、一日考えてくれたまえ。上級バグスター諸君はこれから会議だ。今回のような目先の都合だけでの仲間割れはしたくないのでね」
「……」
グラファイトとパペットは顔を見合わせてから正宗と共に姿を消した。
あとには顔面蒼白の将碁と武、そして馨だけが残されていた。
電子の世界。上級バグスターが会議室として使っているゲームセンター。そこに正宗達はいた。
「君達は高レベルのバグスターであり、バグスターと言う種族の繁栄と言う大目的がある。そのために半ば組織立っている。しかし、個人の目的が相違しているだけにとどまらず対立関係にあるのではないかと私は考えている」
葉巻を吸う正宗。正面にはパラド、グラファイト、パペット、カイト、アイギス、マグテラー。
「で、あんたはどうしたいって言ってるのさ」
パラドとマグテラーが同時に尋ねる。
「端的に言えばここでそれぞれ個人の目的を明かし合いその上でなるべく相互に干渉しないように心掛けてほしい。君達上級バグスターはいずれバグスターがこの地球を支配する際に重要な存在となる。だのにまだ刻が来ていない状態で反目し合うような事態になるのは君達にとっても私にとっても避けたい事情のはずだ」
「……別にいいんじゃないの?」
パラドは近くの筐体に座り、ゲームをプレイする。
「俺の目的はどんなことでもどんな相手でもいい。この俺の心を滾らせてくれる存在が欲しい。この前仮面ライダークロニクルに協力したのはせめて俺のレベルに人類が到達してほしいと思ったからだ」
「……なるほど。ならばパラド、君には定期的にレベル100の相手をさせよう。ゲームに関してもF完結編のような難易度の高いものを与える」
「あれ難しいと言うより面倒なだけなんだけどな。まあいいや」
一瞬あっけにとられた表情の正宗だがすぐに元に戻して続けた。
「キン……マグテラー。君は?」
「俺もパラドと似たようなものだな。最高に面白い戦い(ゲーム)がしたい。それだけさ。もちろんバグスターの繁栄も望んでいるけどな」
「なるほど。……しかしならば君達同士が手合わせしないのはどういう事かな?」
「たまにやってるぜ。時間制限がないといくらでも時間がかかるから頻度は落としてる」
「……それはいい事だ。で、次はパペットかな」
「私は前にも言ったけど美しさを求めてるの。この私の肉体提供者のようにね。それと檀正宗、あなたのように」
パペットの言葉に正宗は小さく笑う。
「人類はバグスターと比べるといい外見をしている事が多いわ。その代わりに寿命が短いのが問題なのよ。けどそれをバグスター化することで補えて永遠の美しさが手に入る。私は私のハーレムで永遠に美しさを堪能したいのよ」
「なるほど。ではバグスターの社会が誕生したら顔面偏差値の高いものは優先的に君の元へと送るようにしよう」
続いて正宗の視線がグラファイトに向かう。
「俺はパラド達と同じだ。より強いものとの戦いを望んでいる。そのためもしもあの二人にお前がレベル100のガシャットを与えるのであれば俺はあの二人と戦いたい」
「……流石の君でもレベル100を二人同時に相手したら命はないと思うが?」
「それでもかまわない。それにバグスターはそう簡単には死なない」
「……分かった。なるべく君の望むようにしよう。カイト、君はどうか?」
「私は人類と言う不特定で不安定で醜い存在さえこの地上から消えてくれるならそれで構わない。しかし人類がすべてバグスターとなるのであれば調教が必要となるだろう。それを私に任せてもらいたい」
「いいだろう。元人類の下級バグスターを武力で支配するためにも君達上級バグスターの存在は欠かせないものだ。武力以外での統治をしてくれると言うのであれば私にとってもありがたいことだ。感謝しよう。……アイギス」
「私の目的は完全なる存在であるバグスターの繁栄。ただそれだけです。あなたとカイトの目的が果たされるのであればそれで構いません」
「へえ、パペットと同じくらい最近誕生した上級バグスターにしては随分殊勝な心掛けじゃんか」
パラドが口笛を吹かす。
「ちょっとパラド。それどういう意味よ」
「そのままの意味だよ。それとも宿主の都合かな?」
「パラド、パペット。そこまでだ。……アイギス、君の目的は分かった。これからもカイトの補佐をよろしく頼みたい。では続いて西武将碁及び喜屋武まるた、つまりは仮面ライダーに対しての考えをまとめよう。私は彼らには君達同様上級バグスター程の権力と地位を与え、バグスター犯罪を取り締まる役割を果たしてもらおうと思う。また、万が一の場合を考えてレベル100のガシャットを与えようとも思っている。それが不都合だと思っているものはいるかな?」
正宗の発言に誰も挙手はしない。
「パペット、先ほど君はそれに異を唱えて単独行動してグラファイトと対立していたが?」
「けどもっと顔面偏差値が高いのを寄越してくれるんでしょ?だったら別にあの二人じゃなくてもいいわ」
「結構。あの二人へは明日返事を聞きに行くつもりだ。それまでは自由行動とする。ただし人類への干渉は許可制にしたい」
それだけ言って正宗は電子の世界から去った。
「……マグテラー。いいのか?一応奴はまだ人類。その人類に我々バグスターの指揮権を与えても」
カイトが疑問する。
「確かに仮面ライダークロノスの力は教えられていなかったから意外だったけれどもまだバグスターでないと言うのであればいくらでも手はある。自分の利益優先とは言え一応はまだ俺達バグスターのための世界を作ろうとしていることは確実だ。なら利用できる内は利用しようじゃないか。……グラファイト」
「何だ?」
「もしもだ。もしも仮面ライダーの二人が明日、あの男の望み通りにならなかった場合、まとめて始末していい」
「……了解した」
翌日。
将碁と武は馨と共に椎名の元を訪れていた。正宗との件やパペットなどの件を話すためだ。
あと、一度くらいは馨とも対面させておきたかった。
「……確かに僕にも見えるね」
ベッドの上でパソコンで仕事しながら椎名は馨の姿を確認する。
「こんな姿で申し訳ない。西武椎名だよ、よろしく」
「郡山馨です。よろしく」
「しかし君達は本当の本当に僕が見ていない間に事態を一変も二変もさせてくるね。新手のスタンドかい?」
「スタンドなんてのがあったならもう少し戦いを有利にできるかもしれないけどな」
「けどあの仮面ライダーライトニングですら歯が立たずに殺されてしまうなんてね。一応Transfarにも連絡したけどやっぱり雷王院君は今日連絡が取れないらしい」
「……あいつの生死なんてどうでもいい」
「そう思いたいのならせめて他人を騙せるような表情をしてからにしなよ。けど檀正宗か。まさか生きていたとは思わなかった」
「……檀コーポレーションってどうなったんだ?いや、建物はこの前焼失したけど組織として」
「可能な限り西武財閥でやりくりしてるよ。ガシャット開発部門を急遽作ってそこで檀コーポレーションの社員だった人達を集めて雇ってる。檀正宗は姿を見せていない事から表向きには死んだまま過ごすらしいね」
「……家にも帰ってないって事か」
「檀家は既に衛生省の家宅捜索を受けている。ここ一か月ほどの調査期間で誰かが出入りした形跡はないそうだ。一応衛生省にも檀正宗の事は報告しておこうか」
「……それで椎名。レベル20の事なんだけど」
「悪いけどそれは着手できなさそうだ。実は……」
椎名が何かを言いかけた時だ。病室のドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼するよ」
「!」
入室したのは檀正宗だった。
「君が西武財閥の新会長である西武椎名かな?」
「……あなたが檀正宗/仮面ライダークロノスか」
正宗は椎名以外の3人に軽く会釈してから椎名に歩み寄る。椎名はパソコンの画面から正宗の挙動へと視線を注視する。
「そう構えないでくれ。ただ君にお願いがあってやってきたんだ」
「一応聞いておくよ」
「仮面ライダークロニクルを西武財閥の手で全国リリースしてほしい」
「何だって!?」
驚きの声を上げる将碁達。対して椎名は飽くまでも冷静に。
「全人類をバグスターにするために?」
「そうだ。私の今の立ち位置は既に彼らから聞いていると思うが改めて述べよう。私はこの6年間電子の世界でバグスターと交流を深めこの肉体をバグスターのそれと大差ないものへと変えた。それでバグスターであることのすばらしさと人間の肉体の醜さを感じた。……バグスターの肉体はいい。不老不死を超えていつでも最適な状態を保つことが出来る。常に自分を完璧な状態で保てる。この時点で人間の時にあった些細な悩みなどすべてが消えた。自身をデータ化すればどこへでも通信で移動できるし、住居などの問題もない。況してや飲食や就寝の必要もなくなる。仮に何らかの影響で肉体を失ったとしてもバックアップさえあればいつでもどこでも何度でも復活できる。人類は死の恐怖からすら解放される。全ての存在がいつでも100%の満足を得られる以上、戦争も起きない。娯楽に関しても我々エンジニアの手で無限にエキサイト出来るゲームが開発されれば退屈はしないだろう」
「……」
「世界にはかつて全ての人類を幸せにするための思想……共産主義と言うものがあった。それを実行するためには大胆な暴力革命が必要だったために民主主義によって打ち砕かれたのだがしかし、全人類がバグスターになれば共産主義になど頼らなくても我々は幸福を掴める。悩みもない、飢餓もない、戦争による苦しみもない。素晴らしい世界だ。そうは思わないかい?」
正宗が椎名を見やる。
「……あなたは共産主義を悪だと断じ、古いものだと認識しているようだが……全ての人類を無理矢理バグスターに変える時点でそれは人間としての尊厳を完全に打ち砕く悪しき暴力に過ぎない。つまり、あなたのそのやり方はあなた自身が否定した共産主義と全く同じものだ。僕にはそれに同意できる理由がない」
「……なるほど。残念な話だ。君達はどうかな?」
正宗は将碁達を見る。その表情にはわずかながらしかし確かな怒気があった。だが、怯まなかった。
「俺達も椎名と同意見だ。少なくとも俺はささやかに一人の人間として生きてそのまま死んでいきたい。永遠の命なんて永遠の呪いも同じだ」
「……やれやれ」
正宗は大きくため息をつき、踵を返す。
「君達はまだ若い。それなのに永遠と言う未来を、不老不死以上の幸福をどうしてそこまで拒めるものなのか。その若さの身で大財閥の会長となれた幸運があったから?今までの数か月の戦いで運よく死ななかったその細やかな幸運があったから?……目先のつまらない小事のために大義を見ようともしないのは現代日本人の悪習だよ。愚かで仕方がない。それを破壊するためにも私は仮面ライダークロニクルを発動させなくてはならない」
言いながら正宗はポケットからガシャットを取り出す。
「!」
同時に将碁、武、椎名もガシャットを取り出した。
「仮面ライダークロニクル」
「フェイトローザ・イン・ザ・ダークネス」
「「スターライトドラグーン!!」」
4つの電子音が同時に流れる。
「え、ちょっと、こんなところで……!?」
慌てふためく馨。すると、
「「「「!!?」」」」
まるで風のようなものが吹き、4人のガシャットが窓の外へと吹き飛ばされていく。
「え、え、ぽ、ポルターガイスト!?」
驚きながらも椎名以外の3人は窓から飛び降りる。
「郡山さん、制御は出来ないのか!?」
「え、いや、これあたし!? ええっと、この前完結したばかりの幽霊漫画のヒロインになり切って……」
「……幽霊が幽霊漫画を立ち読みしてるのか……」
「私、幽霊じゃありません!! あ、出来た」
「「「「!?」」」」
同時、空中でガシャットをつかみ取ろうとしていた3人の手の先からまるでブーメランのようにガシャットが旋回して病室まで戻ってくる。
「あの幽霊めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「幽霊じゃありません!!」
叫ぶ将碁。正宗が思い切り手を伸ばす。が、
「もらった!!」
正宗を踏み台にして武が跳躍。伸ばした手にガシャットが……
「あれ?これって!!」
武が掴んだのは仮面ライダークロニクルのガシャットだった。
「まずい!」
正宗が表情を変えると同時、武はガシャットのスイッチを押した。
「武!?」
「今こそ刻は極まれり!!……だっけ?」
武がスターライトドライバーにクロニクルガシャットを差し込んだ。直後、
電子の世界。
「!?何だ!?この波動は!?」
ゲームをしていたパラド達が異変に気付く。
「檀正宗が何かをしたのかもしれない……!」
「行くぞ、グラファイト!!」
パラドとグラファイトが電子の世界から姿を消す。
病室。窓の淵。そこに仮面ライダークロノスは立っていた。
「……ポーズ」
クロノスがスイッチを押す。と、全ての時間が停止する。それを確かめるためにもクロノスがゆっくりと振り向くと、背後の空には焦燥しきった表情の正宗と、落ちていく将碁の姿があった。
「……将碁!」
クロノスは正宗を殴り飛ばし、飛び降り、空中で将碁をキャッチして着地。直後。
「リスタート」
停まっていた時間が再生され、クロノスの背後に正宗が頭から墜落する。
「……お前、武なのか……?」
将碁が落下した正宗と自分を抱えるクロノスを交互に見る。
「……すごい力だぞこれは。レベル20の何倍もある」
「……か、返せ……!」
頭から血を流しながら正宗が立ち上がる。
「誰が返すか!!もう一回!!」
クロノスがベルトのスイッチを押す。だが、
「待て!!そのスイッチは!!」
「リセット」
「あれ?」
スイッチを押したのに時間は止まらなかった。どころか何か聞いたことのない電子音が響いた。直後、目の前の正宗の流血が収まる。
「今のは……」
「くっ!!」
正宗は素早くクロノスのベルトからガシャットを引き抜く。
「あ……」
強制的に変身が解除された武が呆気にとられる。
「まさか、私以外にクロノスに変身できる人間がいるとは……!!」
正宗は小走りに二人から距離を取ってから改めてクロニクルガシャットのスイッチを押す。
「バグルアップ」
「変身」
「今こそ刻は極まれり!!」
昼前の病院駐車場が月のない夜へと変貌し、時計盤の輝きを背に正宗の姿がクロノスのものへと変わっていく。その時一瞬だけ正宗のネクタイが風に舞い上がった。
「!あの人さっきまで黒いネクタイしてなかったか……?」
「ああ、今は昨日と同じ茶色いネクタイだった。……傷も治ったしまさかさっきのリセットは24時間前の状態に戻す効果があるのか……!?」
「疑問はそこまでだ。君達をこれより絶版にする」
変身を終えたクロノスがゆっくりと二人に歩み寄る。
「やるしかないみたいだな!」
二人同時にガシャットをドライバーにセット。
「「変身!!」」
「スタァァァァライトドラグウウゥゥゥン!!」
「レベル10が二人でどうにかなるとでも?」
両手を左右に開き、攻撃を誘うクロノス。そこへセーブとリボルバーが攻撃を集中する。しかしクロノスは傷ひとつつかないどころか微動だにしない。
「無敵結界でもあるのかこいつは!?」
「私を26分の1扱いしようとでも? ふっ、そんなものなくとも1000年だろうと生きられるようになるものを……」
「いいや、お前は今ここで死ね」
「!?」
声。直後にクロノスは背後から何者かに蹴り飛ばされる。
「……何だ!?」
「お前は……!!」
振り返ったクロノス。セーブ達が見れば、そこにはライトニングに酷似したライダーが立っていた。
「何者だ貴様は……!?」
「仮面ライダーライトニングチャージ……!!トリニティドライバーとフルボトルを返してもらうぞ!!」
「ライトニングチャージだと……!?」
「人間であることを捨て、人類を裏切ったその罪……万死に値する!!」
ライトニングのパンチ。クロノスは片手で受け止める。しかし、つかみ取ったクロノスの右手から煙が上がり、やがて五指の間から火花が巻き起こる。
「くっ!パワーが格段に上がっている!?」
「ぐおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
和らいだクロノスの右手を掴み、そのまま右腕の関節を決めた状態でスープレックスと背負い投げを組み合わせたかのようにクロノスを背後に投げ飛ばす。
「くっ、絶版状態からどうやって……そうか、さっきのリセットか!!」
「どういう理屈かは分からないがどうやら生き返ったようだ。そしてこの新しい力でお前を倒す!!」
「……ふん、確かにパワーは上がっているようだが所詮この私に勝てるものなどいやしない」
「ポーズ」
クロノスがボタンを押し、周囲の時間が静止していく。しかし、
「何!?」
ライトニングはかなり鈍重になりながらも動いていた。
「俺のハザードレベルをなめるな……!!」
ライトニングのタックル。その一撃でクロノスを吹っ飛ばし、その衝撃でポーズが停止する。
「リスタート」
「くっ!」
壁に叩きつけられクロノスが肩で荒い呼吸をする。一方でライトニングもまた荒い呼吸をしている。ポーズで止まった空間の中で無理矢理動くために一時的とはいえハザードレベルを上昇させるのはかなり肉体に負荷がかかるのだ。
「ハザードレベルとは何だ……!?」
「闘争心の全てだ!!」
ライトニングがベルトのハンドルを回す。
「チャァァァァジライトニングクラァァァァァァァァァッシュ!!!」
野太い電子音。同時にライトニングの左足に電光が発生し、集約する。
「……ちっ!!」
「キメワザ・クリティカルクルセイド」
クロノスもまた右足にエネルギーを集約、クロノスを中心に時計盤が出現して自身を中心にライトニングも範囲内に含める。
「ぐおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
「たぁっ!!」
そして、空中で二人の廻し蹴りが激突を果たす。
凄まじい電撃がクロノスの右足を一瞬で包み込み、その装甲を電圧とEMPで破壊していく。が、破壊し終える前に長針のエフェクトがライトニングの左足を吹き飛ばす。
「ぐっ!!」
「ぬうううっ!!!」
激突は終わり、互いに片足を破壊された両者が後ずさってその変身を解除する。
「……はあ……はあ……」
正宗が慌ててスーツの裾をめくって右足を確認する。火傷で変色こそしていたが感覚はあるし、痛みもそれほどでもない。飽くまでも持っていかれたのはクロノスの右足だけのようだ。一方、正面。雷王院は滝のような汗をかきながらもやはりその左足は健在だった。
「……はあ……はあ……トリニティドライバーを返せ……!!」
「はあ……はあ……断る……。ガシャットでもなくバグスターとも無関係なライダーシステムに心躍らないわけがないだろう……?」
正宗はゆっくりと立ち上がり、雷王院やセーブ達を一瞥すると、
「必ず後悔させてやる」
それだけ言い残して姿を消した。
「……いいものを見たな」
物陰。パラドとグラファイトが身を潜めていた。
「ライトニングが復活してパワーアップ。それだけじゃない、旧世界の産物であるフルボトルを檀正宗が所持しているとは」
「パワーだけならクロノスとも互角に見える。ライトニング一人でも引き分けることは不可能ではない状態にまで進化している」
「……利用しない手はないよな?」
顔を見合わせてからパラドとグラファイトもまた姿を消した。