仮面ライダーS/L8話
Tale8:戦う姿はStarlightDragoon
・西武財閥管轄の病院。ドクター花家によるレーザー診断が行なわれた将碁。椎名の意向で隅々まで負傷がないかの確認が2時間かけて行われた。
「……背骨に亀裂が見られますね」
「……そうですか。後遺症は?」
「神経系には現在異常は見られません。ですが妙な反応があります」
「妙な反応?」
「細菌のようなものでしょうか……、血流を通じて心臓から見たこともない成分が検出されています」
「……バグスターウィルスか……?」
椎名は小さく呟く。
「その細菌のような成分のデータを渡してくれないでしょうか?」
「分かりました。ですが……」
「ああわかってるプライバシーの方は順守するよ。ちょっとこっちの方でも別の角度の医者を使おうと思ってね」
・夜。武だけが家に帰る。結局今日は何もできなかった。その無念とグラファイトに問われたことが気にかかる。確かに今日グラファイトの前に姿を見せた。レベル30と言う怪物の前だ。しかも実力行使で倒さないといけない。命懸けで挑んだって勝てる見込みはない。そんなところへ自分達はどうして向かったのか。檀黎斗に事実上の人質を取られたから?仮面ライダーとしてバグスターを何とかしたいから?後者はともかく前者に関しては関係あるのは将碁だけだ。最悪自分だけでも逃げる事は出来たはずだ。そうして仮面ライダーなんてやめてしまう事だって出来たはず。ただ流されただけのものに命を懸ける必要なんてあるのだろうか。
「……あいつは親父さんとか椎名とかそういう関係がある。けど俺にはない。金か?けど今は西武財閥のコンビニ店員だ。仮面ライダー時代に比べれば全然稼ぎは少ないだろうが一応満足に生活は賄えている。なら無理に仮面ライダー何てやらなくてもいいはずだ……」
言い訳はいくらでも言える。しかし実際にもしあの時将碁ではなく自分がグラファイトの前に立っていたらどんな返答をしたのだろうか。
「……まだ3か月しか経ってないのに仮面ライダーになる前に何してたか分かんねえや」
仕方ないからパソコンに向かうことにした。
・西武財閥本社。特別客室。
「すみませんね。急にお呼び出しして」
「いえ、自分に出来る事なら」
椎名は衛生省が雇っていると言う九条監察医を呼び出して例のデータを見せることにした。また既に自分や他に二人仮面ライダーがいることも説明してある。
「……これは……」
「単刀直入に聞きますけどこれはバグスターウィルスですか?」
「……恐らくは。しかしどうして……こんな異常な反応見たことがない……」
驚く九条監察医に椎名は引き続き以前までに検査した自分達3人の診断データも見せる。
「素人目に見ても以前までとは明らかにバグスターウィルスの様子がおかしいと思います。そして僕達仮面ライダーは善玉とは言えバグスターウィルスをこの肉体に宿さないと変身できない。けれども悪玉とは言え同じバグスターウィルスが体内で活性化し、ある程度以上にまで症状が進むとバグスターに肉体を完全に奪われて消滅する。……今の彼の状態はそれに近いんじゃないんですか……?」
「……今から言うことは衛生省から極秘情報だとされている事なので口外しないでほしいのですが、」
「何でしょうか?」
「……バグスターウィルスには善玉も悪玉もありません。あなた方が体内に宿しているウィルスも多くの被害者が感染しているウィルスも基本的には全く同一のものです」
「…………」
脳内で少しは予想していた答えだった。だが真実だとは思わなかった。所詮は素人の妄想に過ぎないと。
「あなた方は少量のバグスターウィルスをガシャットを通じて体内に注入。それに適合することで仮面ライダーになれるようになれます。あらかじめ自分達監察医の手によってある程度制御は出来るよう改造されてはいるため活性化はしないようになっています。ですがもし、何らかの要因で体内のバグスターウィルスが活性化してしまった場合には……」
「……彼の体からバグスター怪人が出現する。そしてそれを倒してしまえば彼の命は助かる。しかし体からバグスターウィルスがなくなるため二度と仮面ライダーには変身できなくなる……」
恐らく原因はレベル30ものグラファイトバグスターと接触したことだろう。もしかしたらそれに反応して将碁はグラファイトに向かっていったのかもしれない。だから武の体内に異常は見られなかった。
「バグスターの抑制は?」
「……あらかじめ活性しかしていないものに限れば手段はあります。ですがここまで活性化が進んでしまうと……」
「……分かりました。今日話したことを檀社長は?」
「極秘事項の事なら知っている筈です」
「……分かりました」
椎名は深くため息をついてから背もたれに体重を預ける。
どこか。月の光も届かない暗い場所。
「……人間はまだ我々と肩を並べる段階ではない」
グラファイトはそこにいた。竜人のような姿だったが今は青年の姿を取っていた。
「けどそれならどうして人間は俺達に肉体を与えたのか分からないんだよね」
別の青年の声がする。同時に何かゲームの音も聞こえた。するとまた別の青年の声がする。
「人間は我々に対してほとんど何も抵抗できていない形だ。我々がここまですんなり実体化できたのも奴らが何も抵抗できなかったからに過ぎない。それからパラド、会議中にゲームはやめろと何度も言ったはずだ」
「カイトは変に人間臭いんだよね。俺達バグスターは遊ぶために生まれたんだ。そんな俺達からゲームを取ったら何になるんだよ。せっかく人間が用意してくれた最高に面白いゲームなんだぜ?」
「……どうでもいいけどさ」
やや陰鬱そうな少女の声。
「どうしてグラファイトはレベル30なわけ?」
「檀黎斗とかいう人間が現在用意できる最高レベルだ。あの男は面白い。現状、わずかしかいない我々バグスターに対抗できる存在の一人だと言うのに我々に利することをしてくる」
「利すると言ってもレベル30は笑ったけどな」
パラドが笑い声をあげる。それを無視して別の女性の声が聞こえてくる。
「グラファイト、あなたはこれからどうするのですか?その檀黎斗と言う男を倒すのですか?それともまさか手を組もうとでも?」
「あわてるな、アイギス。……パラド、相手は強い方がゲームは楽しいよな?」
「当たり前だろ。……あ、なるほど、そう言う事か」
「……パラド、グラファイト、お前達まさか……」
「面白い人間を見つけた。このレベル30の肉体も中々役に立つかもしれない」
「グラファイト、面白かったら俺の分も残しておけよ。あの根暗おませさんに使いつぶされたくないし」
「ネクロマンサーよ、パラド」
根暗な声の少女の声が抗議。それを無視してグラファイトはとある人物に視線を向ける。
「いいな?キング」
「……いいんじゃないかな」
「……」
それだけ聞くとグラファイトは肉体を電子化させてその場から去っていった。
翌日。将碁は病室で目を覚ました。時計を見れば朝の5時。どうして病室で寝てるんだというのが一番最初に来てそれを上回る情報として、
「……まだ5時か。二度寝しよう」
となって目を閉じた瞬間にグラファイトの姿やら昨日の戦いやらがフラッシュバックされて一気に目が覚めて飛び起きた。
「……あの戦いから生き延びたのか。椎名が助けてくれたのか……?武は無事なのか……父さんは……?」
時間も考えずに椎名に電話する。
「椎名!」
「ねむい……あとで……がしゃっととりにいくから……そのときに……」
「あ、完全に寝てるぞこいつ!」
電話が切れてから将碁は一息つく。
「……ガシャットを取りに行く?俺のを?どうして……」
「決まっているだろう。消滅を防ぐためさ」
「!?」
声。振り返れば窓際に青年姿のグラファイトがいた。
「だ、だれだ……いやこの声まさかグラファイト……!?」
「そうだ。お前は俺との戦いの際にバグスターウィルスが活性化したんだ。お前の仲間はそれを知ってガシャットの回収を急いでいたというわけだ。ラッキーだったな、こんな朝早くに目が覚めて」
「……お前、そんな喋り方だったっけ?」
「そんなことはどうでもいい。俺と戦え。お前とはまだ決着がついていない」
「……無理だよ。お前には勝てない。レベル30だぞ?俺はまだレベル3だ。勝てっこない」
「ならこのまま仮面ライダーであることを捨てるか?……それでもいいがここは1つ人質を取らせてもらおう」
「人質だと……!?」
「そうだ。1時間後にこの病院を爆破する。止めたければそれまでにお前が戦うんだ。それ以外の誰が来ても俺はこの病院を消す。その中にお前がいたとしてもだ」
「……そんなこと……」
「1時間もあれば逃げられるだろう?可能なら逃げればいい。じゃあな」
そう言ってグラファイトは姿を消した。
「……くっ!結局それなのかよ!」
将碁は立ち上がり机の上に置かれていた自分の服に着替えた。朝起きたばかりか頭があまり回らない。それ故に危機感が心をわしづかみにしている。逃げるにせよ戦うにせよここから離れないといけない。
「……はあ、はあ、」
病室を出てひたすら走る。まだ朝5時過ぎとあって当たり前だが誰もいない。朝日も昇っていない瑠璃色の中将碁は1階の窓を開けて外に飛び出した。
「ん、」
その先。一人の少年がいた。病衣姿だ。恐らく自分と同じで抜け出したのだろう。
「……君……」
「げ!見つかった!!」
少年は逃げようとするがしかし足元がおぼつかない。足のケガで入院したのだろう。元々軽いのか或いは骨折など重かったが治りかけなのか分からないが一応歩けてはいる。
「だ、大丈夫!俺も逃げ出してきただけだから」
「……そうなんだ」
「けど……もしかしたらここは危険かもしれない」
「どうして?」
「それは……」
「いいけど。俺は学校に戻るんだ。いっぱい入院しちゃったからな!みんなと早く会いたい!サッカーとかしたいんだよ!」
「……元の生活に戻りたい?」
「うん!!」
「……」
逡巡。そして、
「だったらちゃんと病院でけがを治さないとだめだ。無理して今学校に戻ったってもしかしたらまたすぐに怪我をするかもしれない」
「けど……もうこんなに歩けるのにただ病院の中居るっていやだよ」
「我慢は大切だよ。それにその様子だとそこまででもないと思う。俺もたまに遊びに行くから」
「……わかったよ……」
「じゃあ、病室に戻りな」
将碁は少年を連れて開いた窓から中に入れる。
「約束だかんね!!」
「……ああ」
少年が廊下を走っていく。将碁は見送ってから背中を向けて走り出す。約束を果たすため、自分の役割を担うためたった一人の戦場へ。
「……来たか」
駐車場。グラファイトは怪人の姿で立っていた。
「……」
「いい目をしているな。さっきまでとは別人だ。それでこそ我が戦う相手」
「……グラファイト、お前は俺が倒す。この病院も人類も好きにはさせない」
「ジャンクセーバー!!」
「変身!!」
「ジャンジャンジャンキージャンジャンセーブジャンジャンジャンクセーバー!!」
最初からレベル2の姿のセーブとなり、タブレットを取り出す。
「いざ尋常に!!」
「勝負だ」
走るグラファイト。同時にセーブはタブレットのアイコンをタッチする。
「ケンタウロス!!スライドフォーミング!!」
直後セーブの肉体が著しく変化し、手足が4本ずつに増え、4本の手全てに斧を握りしめた姿となる。
「ほう!!」
放たれたグラファイトの斬撃。それを4本の斧でしっかりと受け止める。
「くっ!!」
完全に威力を殺しきってから二人同時に蹴りを繰り出す。グラファイトの右足とセーブの両前足。3つの足裏がぶつかり合うと、目に見える速さでセーブの両前足がぐちゃぐちゃに変形されていく。しかし
「スライム!コンビネーションフォーミング!」
へし折られた両前足がスライムに変化してグラファイトの右足を捕縛。さらに下両腕でグラファイトの両腕を閂にして上両腕でグラファイトの首を絞め、
「せぇぇぇのっ!!」
そのまま仰け反り、グラファイトを頭から背後の地面に叩きつける。
「いいぞ!!」
しかしほとんどダメージを負っていないグラファイトは1秒後に立ち上がり、斬撃。まだ体勢を立て直せていないセーブを腰のあたりで上下に両断する。が、真っ二つになったセーブの全身が液体に変わり、少し離れたところで水たまりを作りその水たまりが噴水のように吹き上がる。
「レベルアップ!!アクセル!アクセス!!アクシズ!!フルスピードフルスロットルボーイ!!アイムアレベル3スピードゲーマー!!」
そして降り注ぐ雨の中レベル3の姿でセーブが出現した。
「行くぞ!!」
そこから今までよりも格段に速いスピードでグラファイトに迫り、両手に持った斧で斬撃を狙う。
「ははっ!!いいぞ!!どこまでも粘れ!!」
セーブの高速斬撃を、グラファイトはすべて紙一重で回避していく。が、グラファイトがそのスピードに慣れた瞬間。
「ジャンククリティカルスピード!!」
「む!!」
突如セーブのスピードが10倍に加速されグラファイトの目にもセーブの姿が消え次の瞬間グラファイトの緑色の肌のいたるところから赤い滴りが起きる。
「……見事だ」
振り返る。と、血を吸いすぎて役立たずとなった斧をセーブが捨てていた。投げ捨てられた斧が落下して砕け散ると同時にセーブはレベル1の姿に戻ってしまう。そしてグラファイトが膝を折った。
「10倍のレベル差をスピードで補ったか」
「だけじゃない。秒速12発の斬撃全てに炎とか電撃とかのエレメンタルスライドを加えた。けど、流石にレベル差が激しすぎるか」
セーブが振り向くとグラファイトが立ち上がり、鋭い蹴りをくらわす。
「ぐふっ!!」
信じられない打撃のダメージがセーブの体を持ち上げて吹き飛ばす。何台もの車をビリヤードのようにぶっ飛ばしながらセーブは100メートル以上離れたところでやっと着地がかなった。既にレベル1の装甲が跡形もなく擦り切れていて将碁の姿+ベルトとガシャットと言う状態だった。
「悲しいかな。レベル3ではここまでか。正直ここで息の根を止めるのもまた口惜しい。だが、俺も武人だ。相手の首を取らずに勝利を宣言できん」
グラファイトが少しずつ近づいていく。その足音を死神と揶揄した将碁は目を閉じる。しかしそこに少しだけ別の音が混じっていた。
「これは……」
目を開けて振り向く。
「馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉ!!!こんな早朝に起こしやがってぇぇぇぇっ!!」
例の改造バイクに乗ったリボルバーとローズが時速600キロで突っ走ってきた。
「ローズ!!」
「はいはい!!」
二人同時にガシャットのスイッチを押す。
「ガンガンダークネスWクリティカルフィニッシュ!!」
二人分のエネルギーを帯びたバイクがマッハ1の速度に達しそのままグラファイトに突っ込む。
「ぬお!!」
直後にレベル1の姿に戻ったリボルバーとローズが飛び降り、バイクはグラファイトごとミサイルのように空高く吹っ飛んでいき高度1000メートルで大爆発を起こした。
「まったくお前は無茶ばかりするよな」
「たった今バイクをミサイルにしたお前に言われたくはないけどな」
「将碁」
ローズが歩み寄り、その腹に軽くパンチをぶち込んだ。
「へぶっ!!!」
「あ、悪い。レベル1でも8トンくらいあったっけ」
「……い、いや、なんとか……」
腹を抑えてうずくまる将碁。その足元にローズが何かを置いた。
「これは……ドライバーとガシャット!?」
「そうだよ。僕が一週間かけてダークネスドライバーとフェイトローザのガシャットから生み出した君達用の新しい力だ。言いたいことは山ほどあるが今はこれを使ってくれ」
「お、おう……」
何とか立ち上がった将碁は腰に巻いてあるベルトからガシャットを外す。と、ベルトが消滅し代わりに
「名前は?」
「スターライトドライバーとスターライトドラグーンのガシャット」
将碁はスターライトドライバーを腰に巻き、スターライトドラグーンのガシャットのスイッチを押す。
同時にリボルバーもレベル1から変身を解除してスターライトドライバーにスターライトドラグーンのガシャットを入れる。
「「スターライトドラグーン!!」」
新たな電子音。同時にグラファイトが空から帰還し、着地する。
「……む、あれは……!!」
グラファイトの真紅の目の中で、
「「変身!!」」
将碁と武の二人が変身を遂げる。
「「スタァァァァライト、スタァァァァゲイザァァァァァ!!!アイムアレベル10ドラグーンゲーマー!!!」」
「これが……」
誕生した仮面ライダーセーブ及び仮面ライダーリボルバーレベル10・ドラグーンゲーマー。
「特徴だけ先に伝える」
ローズの声。同時に迫るグラファイト。その突進を二人同時に受け止める。
「ドラグーンの力は空を飛べることだ。本来ならそれだけだがスターライトドライバーの力がある。スターライトドライバーにはもう1つガシャットを差し込むことが出来る。これにより2つのガシャットの力を同時に行使できる」
「なるほど!!」
セーブがジャンクセーバーのガシャットを出してドライバーに差し込むとタブレットが出現する。
「アイコンが大幅に増えてる!?あ、アップデート入った!?」
「これでジャンクセーバだけで使ってもアイコンが大幅に増えているはずだ」
「うれしいけど大事なの今だよね!?ぐわ!!」
「何をごちゃごちゃとしている!?」
タブレットを払いのけセーブの首を片手で締め持ち上げるグラファイト。
「レベル10になったらしいがまだまだ俺の3分の1ほどだ!」
「分かってるよ……!!」
「けど1+1は2じゃないんだぜ!!」
一瞬。リボルバーがグラファイトの背後に回り込みそのわき腹にハンドガンの零距離射撃を撃ち込んだ。1発2発3発と続けばグラファイトは目に見えて余裕をなくしセーブもリボルバーも払い飛ばして距離を取る。が、リボルバーはそれを利用して飛翔。上空120メートルからグラファイト向けて射撃。放たれた10発の弾丸はすべてグラファイトの両手の指に命中して吹っ飛ばす。
「ぐっ!!」
「アップデート完了!!」
「ブルホーン!スライドフォーミング!」
セーブは牛の姿に変化する。その角はかなり太くごつい。その角を向けたまま時速160キロの速度で突進し、グラファイトの胸に激突。
「ぐううううっ!!!」
レベル30故の防御力で角は刺さらなかったがそれでも激突した場所がかなり変色している。
「こんなもので……!!」
グラファイトは気合で10本の指を再生させるとセーブの巨体を持ち上げて空高く投げ飛ばす。
「おっと!」
しかしセーブは空中で元の姿に戻り飛翔することで空中で態勢を維持。見上げたグラファイトが剣を投げ飛ばそうと構えを取ったが、
「!?」
いつの間にか両足が膨大な量のスライムに包まれて固定されていた。恐らく先程突進された時に仕掛けられたのだろう。
「しまっ……」
「「スターライトクリティカルフィニッシュ!!」」
告げる電子音。グラファイトの背後に棘だらけで3メートルほどの鉄の壁が10層出現、
「てやーりゃああああああああああああああああ!!!!!!!!」
そしてマッハ2の速度でセーブが迫り、エネルギーを集約させた右足をグラファイトの変色した胸に叩き込む。
「ぐお……!!!」
威力にスライムで固定された両足が切断されグラファイトは上半身だけの状態のまま棘付きの鉄壁を次々と貫通していく。そして、
「FIRE!!!」
10層突破した瞬間に逆方向からリボルバーの放った直径2メートルほどの太いビームが迫り、セーブがグラファイトから離れると同時にグラファイトはビームの中に吸い込まれる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
そしてやがて大爆発が発生し、駐車場全体が跡形もなく消し飛んだ。
「……損害賠償とかすごそうだよな」
セーブとリボルバーが着地してハイタッチをして同時に呟いた。
「……あれ、レベル1に戻らない」
「……そっか!スターライトドラグーンはレベル10で固定だからレベルダウン起きないのか!」
「え、チートじゃん……」
会話が終わり、再び視線を駐車場があった場所に向ける。核爆弾でも撃ち込まれたかのように朝焼け前の瑠璃色な空に煙が上がる。それが少しずつ晴れていくとそこには喜ばしい光景は映されていなかった。
「……あれは……!?」
煙が完全に晴れる。そこには2つの姿。
「……まさか来ていたとはな。キング」
「キング?何のことだい?僕はマグテラーだよ」
そこには溶岩の翼をもった翼竜のような姿の怪人と、そして無傷どころか切断された両足も修復されさらに先ほどまでは全身緑色だったのが真紅となったグラファイトの姿だった。
「グラファイトが無傷!?」
「いやそれより何だあのバグスターは!?」
驚く二人にマグテラーが視線を向けた。
「初めまして、仮面ライダー。僕の名前はマグテラー。マグテラーバグスターでレベルは100」
「れ、れ、ひゃ、ひゃ……!?」
「そして隣にいるグラファイトは人間が作ったつまらない肉体を捨てた真の姿。そのレベルは90」
「さっきまでの3倍……!?」
「うむ。だが先ほどまでは先ほどまでで全力だった。やはり面白いな貴様たちは」
「だよね。だから君達仮面ライダーはまだまだ僕達を楽しませてくれよ?そのためにその時が来るまでは生かしておいておくからさ」
「また会おう」
それだけ言うとマグテラーもグラファイトも姿を消した。
セーブとリボルバー、ローズは変身を解除してもなおしばらくの間何も言葉を発せなかった。
昼。病室。とりあえず2時間くらい椎名と武から説教を受けた将碁。またその際に椎名は昨夜九条監察医から聞いた話を二人にも話した。
「また嘘ついてたのかあの社長は」
「いや、今回ばかりはただの嘘ではないな。恐らく善玉なんて用意できなかった。けど仮面ライダーは必要だった。だから敢えて黙っていたのだろう。結局監察医によって制御されていることに変わりはないのだから。それより将碁、なんともないのか?あれだけ大量のバグスターウィルスが体内にいるんだぞ?」
「ああ、それなら何ともない」
「けどお前昨日だって今朝だってらしくなく一人でグラファイトに向かっていったな。様子もおかしかったぞ?」
「……違うんだ。俺、やっとわかったんだ。仮面ライダーを続ける理由」
「仮面ライダーを続ける理由?」
「そうだ。俺は誰かの役に立ちたい。誰かに必要とされたい。今俺に求められているのは仮面ライダーであることだから。だから続ける」
「……仮面ライダーであることか」
「……それでどうするんだい?僕でもレベル10を作るのが限界だったけど」
「……退院次第檀社長に直談判してみる」
将碁は迷いなくそう告げた。