仮面ライダーS/L13話
Tale13:蠢きのDarkness
・病院。まさか連日で同じ病院に、症状を更新した状態で入院することになるとは思わなかった二人。しかし前回暴走した時とは違って将碁はすぐに目を覚ました。そして二人で安静にしながらスマホで改めて仮面ライダークロニクルの情報を集めていた。
ライトニングが仕掛けた今日の一大イベントは当たり前だが犠牲者が非常に多く出ていた。
警官隊が導入されて多数の逮捕者が出たそうだがしかしそれ以上の人数が敗北によるゲームオーバーで消滅している。そのゲームオーバーで消滅したはずのプレイヤーは差異はあるもののやがて復活して元通りの生活を送っているらしい。
「なんだか寝てる間に色々起きたよな……」
「ああ。檀コーポレーションから発売されたって事は、檀黎斗社長はこれを目的に暗躍していたって事かもしれない」
「……何のためにだよ。誰でも変身できる上ガシャットの差し替えなしでレベルアップまで可能なエグゼスターってシステムを作り上げたのは確かに対バグスターとして有効かもしれないけど、だからってなんでエグゼスター同士で殺し合いをさせるんだよ!?」
「俺が知るわけないだろ。……あのライトニングってライダーなら何かを知ってるかもしれないけど」
「……嵐山本部長には聞いてみないのか?」
「繋がらない。椎名も。西武財閥には今全く連絡が出来ない状態にあるんだよ。椎名も今どこで何しているのだか」
「……瑠璃さんもな。けどこれじゃ俺達に一体何が出来るんだよ……」
「まあ、ひとまずは回復に努めることだよなぁ……」
将碁は<絶対安静治るまで動くな>と書かれた包帯で巻かれた両足を見て嘆息。
「……実際、今の状況って放置できるものなのか?」
「分からない。ゲームオーバーで死んでも一定時間後に復活できるって話が本当なら問題はないのかもしれない。それでも戦闘が始まれば町は破壊されるし。何より檀社長が作った低レベルのものとは言えバグスターが野放しになっているのはまずい状況だろう。だが、俺達が3か月かけてやっとたどり着いたレベル10、それをこの数日間だけで簡単に超えているプレイヤーが何人も出て来てるらしいから対バグスターの戦力としては問題ないどころかかなり良くなってるはずだ」
「……三日くらいでレベル10まで行くなら一か月でレベル100くらいまで行ったりしてな。そうすればグラファイトやマグテラーとかって奴にも勝てるかもしれない」
「ああ、それが目的だったのならあまり否定も出来ない。けど、それでもまだな……」
「何だよ」
「そんなすごいものがあるならどうして俺達どころか瑠璃さんにも使ってないんだ?いや檀社長自らも使ってなかったぞ?1つあれば檀社長か瑠璃さんが使ってひたすら低レベルのバグスターを倒しまくり続けていればとっくにレベル100にだってたどり着けたはずだ。それにレベル10ごとに願いが叶うって言うけどどうやって叶えているのか。どうしてその願いでバグスターを駆除しないのかどうしてバグスターに感染した人たちを治さないのか」
「……お前はどうしてだと思うんだ?」
「何かしらのデメリットがあるんじゃないかと思う。特に願いをかなえるのと一度消滅しても復活するって言うのが怪しい」
「……なあ、確か一度ゲームオーバーしたらエグゼスターではなくバグスターとして復活するとかあったよな?」
「……ああ」
「それって単純なゲームの話じゃないんじゃないのか?もしかしたらあのガシャットはプレイヤーをバグスターにするのが目的だったんじゃないのか?バグスターなら一度や二度死んでも再生できるみたいな話あったよな……?」
「……俺も少し考えてた。檀社長の変身する仮面ライダーゲンムも一度倒してもすぐに復活するから何かしらの不死身系はあるんだろう。そして檀社長は既に低レベルならバグスターを製造、複製、再生できていた。これが繋がっていないとも思えない。けど、人類全部バグスターにしてどうしようって言うんだ?同じ種族になればグラファイトとかに襲われずに済むとかそういう話になるのか……?」
「倒すべき敵に勝てないから同種族になって戦う意味をなくす……とか?」
「……それでいてレベルを上げまくって場合によってはグラファイト達を倒す……」
「……もしも本当にそうだとしたら檀社長マジで人類の事を考えて行動してたんだな」
「本当にそうだとしたらな」
背筋を伸ばす。それだけで体の節々が痛む。思った以上に戦闘のダメージが大きいようだ。それに檀社長から与えられたあの赤いパーツ。あれで変身すると同レベルのライダーなら圧倒できるほど強くなる代わりに全く制御が利かなくなる。それに体への負担もかなり大きい。あのパーツは一度ライトニングによって破壊されている。しかし先程は突然出現してまた暴走してしまった。あの赤いパーツは何なのだろうか?
「……」
「将碁?寝たのか?」
武が顔を覗く。既に将碁は眠りについていた。
翌日。利徳は自宅で目を覚ました。
「……何があったんだっけ?」
疑問。やがて少しずつ記憶が戻ってきた。
「……そうだ。あの戦いどうなったんだ!?」
ライトニングに電話をかける。しかし応答はなかった。代わりにそのままスマホでニュースなどを見て情報を集める。
「……クロニクルプレイヤーはまだ残ってるみたいだな。しかも逮捕者とか。警察に捕まってるってのか。だとしたらどうしようもないじゃんか……」
ベッドに飛び込むように体を沈める。クロニクルガシャットを見る。結局あの戦いで経験値をほとんど獲得できなかった。理由は明確だ。自分が途中であの乱入者を追いかけてしまったからだ。だからレベルも15で止まっている。これではライトニングに合わせる顔がない。完全に昨日の作戦は失敗に終わってしまっている。
「けどプレイヤーが逮捕されてるって事は同時にクロニクルプレイヤーも減ったって事だよな。戦いの規模は間違いなく縮小した筈。……まあ、だから経験値を稼ぎづらくなったって事なんだけど」
起き上がる。気分転換に外に出たくなった。日曜日だが連日のクロニクルのせいであまり人通りは多くない。
「……何か久しぶりだな、この退屈」
それが平和なのだと感じつつも認めるのは若さと言うか幼さが邪魔をする。このまま意味もなく散歩するのも何となくむず痒い。だから春奈の家に行こう。そう思って少しだけ進路を変えた時だ。
「はい、そこまで」
「!」
声。そして左手の車道に黒塗りの高級車が留まり、中からガタイのいい黒服が3人おりてくる。
「な、何だ……!?」
「悪いようにするつもりはないよ」
やがて一人の青年が降りてきた。どこか気品を感じる。どこかのおぼっちゃまだろうか。
「仮面ライダークロニクルのガシャットを渡してもらいたい」
「な、何だよ!」
利徳は後ずさりながらクロニクルガシャットを取り出す。それを見て急いで黒服が利徳に向かってくる。黒服がガードレールを飛び越えた瞬間に防衛本能により利徳はガシャットを起動した。
「渡せない!!」
エグゼスターとなって黒服3人を一撃でぶっ飛ばし、20メートルほど離れた信号機にまで叩きつけた。一瞬、あの日パラドによって吹き飛ばされた警備員を思い出す。だからか目の前の青年の動きを理解できなかった。
「フェイトローザ!!イン・ザ・ダークネス!!!」
「変身」
「ブラッディローズ・イン・ザ・ダークネス・トゥ・ザ・フェイト!!アイムアレベル10ダークネスゲーマー……!!」
目の前の青年は仮面ライダーローズへと変身した。
「な、何だ!?」
「西武財閥会長西武椎名。そして仮面ライダーローズ!」
ローズは神速の挙動で手首から薔薇を伸ばして利徳の両足を捕縛する。
「悪いけど実力行使で君を無力化させてもらうよ。その上でそのガシャットを頂く」
「や、やってみろ!!」
利徳は両腕に全力を込めて薔薇を引きはがす。と、ローズの飛び蹴りが顔面に叩き込まれる。
「ぐっ!」
「レベルはそっちの方が上かもしれないけど本物の仮面ライダーとして君のような醜悪な偽物ごときに負けてあげるわけにはいかない」
「キメワザ!!ダークネスクリティカルフィニッシュ!!」
手首から伸ばした薔薇が直径3メートルほどの大きさまで膨れ上がり、それを勢いよく利徳へと叩きつける。
「がああああっ!!!」
コンクリートの地面を大きく粉砕し、生じたクレータの中で利徳は激しいダメージを受けてうずくまる。ダメージは大きいが変身は解除されていない。しかし相手との実力差は感じていた。恐らくこちらの方がスペックは上だろうがそれでも勝てないと本能が悟っていた。
「くそっ!!」
「逃がさないよ」
跳躍する利徳。しかしローズの薔薇が空中で利徳の左足を捕らえる。
「それっ!!」
そのまま引きずりおろして地面に叩きつけようとした時だ。白い何かが飛来して薔薇の茎を切断する。
「……へえ、」
その白い影は利徳をキャッチして信号機の上で着地。
「……」
「瑠璃ちゃんじゃないか。どうしてこんなことをするのかな?しかもその姿、レベル4のウィングゲーマーじゃないよね?どういう事かな?」
「これはレベル20のイカロスゲーマー……」
アイジスが利徳を地面におろす。
「逃げて」
「あ、はい」
「逃がさないって言った」
「逃がすって言った」
ローズが薔薇を伸ばす。しかしアイジスには軽く払われ一瞬で目前までの接近を許す。
「!」
「あなたには借りが2つもある」
直後の膝蹴りはローズの体を宙に浮かび上がらせ、その次の廻し蹴りはローズの体を遠くまで吹っ飛ばし、電柱をへし折る。
「ぐっ!!」
「この前は檀社長が間違っていたと思った。だから助けた。でも、今日は違う」
「キメワザ!スカイフォールクリティカルフィニッシュ!!」
「あなたは邪魔だからここで消す」
「な、なるほど……そう言う事か……」
何とか立ち上がったローズ。そこにドリルのように高速回転しながらアイジスが突撃した。
ターミナル病院<Transfar>。
「……ん、」
巌の車椅子を押しながら院内を散歩していた雷王院は珍しい顔を見つけた。
「鏡先生。珍しいですねあなたがここに来るとは」
「雷王院先生……」
鏡執刀医。同い年で以前医師研修で一緒になった事がある。その時既に鏡執刀医は多くの外科出術を成功させてきた天才医師だった。しかしだからこそ基本的に彼が配属されるのは大きな病院のはずだ。基本的に手術の必要がないここではその顔を見かけることは皆無だと考えていた。
「西武巌さんもお久しぶりです」
「ああ、お久しぶりです。その節はお世話になりましたよ」
「まさか……そんな御冗談を」
「鏡先生、西武さんから聞きましたけどあなたが責任を感じる必要はありませんよ。なんでもあの手術、鏡先生以外ではそもそも成功すらしたか怪しいそうじゃないですか」
「……ですが結果的には患者を二度と歩けない体にしてしまった。……実は今日はしばらくぶりに休暇がもらえたので西武さんにお見舞いに来たんです」
「そうだったんですか。いや、その若さで大したものです」
「……西武さん、私が言うのも何ですがお体の方は……恐らくそろそろ……」
「あと2か月ほどですなぁ、私の余命も。ですが私は別にそのことはもう踏ん切りがついているので構わないですよ。強いて言うならあなた方と同い年の息子達が心配なくらいで。いや、親馬鹿で申し訳ない」
巌の発言に二人の白衣ではない医者は苦笑するのが限度だった。しかし、すぐにその空気は消えた。鏡執刀医のスマホが震えたからだ。
「失礼。……俺だ。……そうか。分かった。すぐに向かう」
「もしかして急患ですか?」
「……ええ。……西武巌さん、西武椎名さんと言う方はご存じですか?」
「椎名がどうしたのですか……まさか……!?」
「……はい。たった今酷い重傷を負って私の病院に運ばれてきたそうです。雷王院先生、もしよろしかったら」
「はい。ご家族には私の方からお伝えします」
「……それでは」
鏡執刀医は踵を返して駐車場へと早足で向かった。
「……病室に戻りましょう」
「ええ」
雷王院はすぐに病室へと向かい、動けない巌の代わりにやや緊張しながら家に電話した。幸い、電話を取ったのは母親だった。