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劇場版「仮面ライダーS/L Be the Excite」

・雷雨の空。狂ったように吹き荒れる暴風雨の中にしかしいくつかの影はあった。

「仲間を討てるかな?セーブ、リボルバー!」

鈍い声を放つのはエボルト。しかしその肉体の別名はエボルレイライトニング。仮面ライダーライトニングの肉体を完全に奪ったエボルトが雷光を背に怪しく笑う。

「……仲間だからこそ俺達の手で討つんだ」

雨を弾くボディは仮面ライダーセーブ・エキサイトフォームと仮面ライダーリボルバー・エキサイトフォーム。どちらも最強フォームとなって宿敵と旧友をもろともに倒そうとしていた。

「やれるものならやってみな……!」

エボルトが動く。ライトニングのフルボトルから発せられる電気エネルギーにより小型のブラックホールをいくつも生み出しては同時に発射する。

「そんなもの!」

リボルバーが即座に射撃。放たれたブラックホール全てをエネルギー弾で相殺。その間にセーブが接近。

「!?」

「俺達は……世界を救う!!」

急速接近の勢いを載せた拳をエボルトの……ライトニングのボディに叩き込んだ。



それから1年が過ぎた。

日本にとどまらず世界中を震撼させた仮面ライダークロニクルによる集団バグスター化事件。2020年の1年間で事件そのものは収まったものの人間からバグスターに強制変換させられた者は全国で10億人を超えていた。衛生省は各国首脳と会議を進めてそれぞれの国家ごとにバグスターへの対策活動に 日々忙殺されていた。それは衛生省の配下にあり現場へと赴いて暴走したバグスターを止めるのが主な仕事である筈のCR機関でも大差はなかった。

「……はぁ、こんなことやりたくて仮面ライダーになったわけじゃないのに」

喜屋武がため息をつきながら無数のPDFに目を通していく。それらすべてが世界各国から収集されたバグスターになってしまった人間の情報だった。とは言え人間としての情報は名前と年齢、性別くらいしか記載されていない。主に記載されている内容はバグスターとしての情報だ。どんな種類のバグスターなのか、レベルや特徴は何なのか。バグスター専用の身体検査結果により握力だのジャンプ力だの100メートル走のタイムなどが記載されている。この記載内容をExcelにまとめて整理するのが武「だけ」の仕事だった。

「そう言うなよ。ちゃんと食わせてもらってるんだしさ」

向かいの机。慣れないパソコンを操作しながら西武将碁は小さくため息をつきながら、武によってまとめられたバグスター情報からバグスター同士の相性や世間への影響、各国に緊急で設けられたバグスター専用商業施設への適正度などを思案しまとめる作業を行なっている。もちろん他国の場合は飽くまでも提案程度に抑えているが日本国内の場合は将碁自らが対象人数をまとめて斡旋する必要があり、そのための書類作成やアポイントメントの獲得なども担当している。

「……二人とも、そろそろサブロクがやばいけど……」

お茶を運んできたのは郡山馨だ。クロニクル事変と呼ばれたかの事件の頃には肉体を失っていたのだが現在は体内のバグスターウィルスを逆利用することで元のとは別だがしかし酷似した肉体を手に入れて元通りの生活を送っている。とは言え学生時代の第一志望だった学校の先生と言うのはしばらくの間保留にして今はCRの一員として各サポートに集中している。基本的にやることは仕事に忙殺されている二人の愚痴を聞いてやることとお茶くみと業務連絡などの連携だ。

「……いま残業どれくらい?」

「今年に入って4度目の80時間オーバー」

「……そりゃ日曜日以外毎日夜遅くまで働いてるからなぁ……」

将碁と武が頭を抱えながら背もたれに全体重をかける。

「土曜日は利徳と春奈ちゃんが手伝いに来てくれるから多少は楽だけど平日はどうしても大人の俺達がやるしかないんだよなぁ……」

「これでも椎名よりはずっと楽なんだろうけどさ」

西武椎名。CRの司令官であり西武財閥の会長でもある。現在は衛生省の会議や場合によっては各国首脳との会議にすら参加する事があるとされていて、一か月の残業時間はそれこそ200時間をもオーバーしているとされる。……尤もその中には会社で眠っている時間も含まれているがそれでも重労働に代わりはない。

「お、噂をすれば」

武が顔を向ける。

「どうした?」

「エレベータの音」

バグスターになった事で聴覚がよくなった武には執務室からだいぶ離れたエレベータの音でさえ聞き取ることが出来るようになっていた。そして武の発言通り1分足らずでくたびれた様子の椎名と嵐山瑠璃がやってきた。

「やあ、将碁。武君、馨さん。おはよう」

「……お疲れみたいだな」

「そりゃそうだよ。今日は朝4時に叩き起こされて総務省とリモートで8時間くらいぶっ通しで打ち合わせを行なってその後衛生省に行って3時間の会議。今やっと2時間かけて戻ってきたんだよ。車の中でもひっきりなしにメールが来るから眠れやしない」

「ごめんなさい。本当は椎名会長には休んでいてほしかったんですけど、総務省とか衛生省からどうしてもすぐに繋いでほしいって言われてて……」

「瑠璃ちゃんは悪くないよ」

モンスターエナジーを飲みながら椎名が指令席に座る。瑠璃の方は武の隣の席に座る。

「少し手伝います。あまりパソコンとか詳しくありませんけど」

「え、いや悪いよ。ってか運転手は体力温存させておかないとまずいんじゃ……」

「大丈夫です。今のところ今日はもう移動の予定は入っていませんから」

とか言ってたら懐の携帯がバイブした。

「……会長……」

「……何だい?」

「…………外務省からです」

「……はぁ」

椎名が自分の携帯を取り出して連絡を受け取った。

「瑠璃ちゃんも今月残業が60時間超えてるからそろそろ注意してね」

「はい……。でも私は他の皆さんに比べたら……」

「でも瑠璃ちゃんは仮面ライダーやりながら運転手もやってるんだから。女の子だから気を使ってるんじゃないのよ?」

「……それは分かっていますけど」

言いながら瑠璃はビッグマックを5個カバンから取り出した。

その光景にドン引きしながら将碁と武が仕方なく作業を再開する。ちなみにここ最近、具体的に言うと3か月くらいは仮面ライダーとしての出撃は一切ない。ずっとデスクワークだった。最初は楽でいいかもって思っていたが一日15時間以上ずっと座ったままの作業は思ったより厳しかった。その分月給はかなり高くなってはいるもののそれを消費するだけの休暇が与えられない。週1日曜だけの休みではずっとグダグダしているだけで過ぎ去ってしまう。当然どこかに行くだけの余裕もない。

「……将碁。武君。今いいかな?」

電話を終えた椎名が話しかけてきた。

「何かあった?出撃?」

「違うけど移動だよ。瑠璃ちゃんには悪いけど」

「いえ、私の仕事ですから。外務省ですか?」

「いや、病院」


そして瑠璃が運転する車で40分ほどの短い間だが惰眠を貪った3人がたどり着いたのは衛生省直営の特別病院だった。

「……」

将碁達がとある病室の前にやってくる。僅かな緊張の後にノックする。

「入るぞ」

「……ああ」

中に入る。そこには雷王院歴がベッドに横になってSwitchで遊んでいた。

「……元気そうだな」

「そう羨むな。まあ、それくらいの事しか俺には出来そうにないがな」

「調子はどうだい?雷王院君」

「椎名、健康不良の相が出過ぎだぞ。その顔は過労だな。時には思い切って休暇を取ることも大事だぞ。もしかしたらお前達が戦っている仕事って相手はバグスターよりかも強敵かもしれないんだから」

「さすがは元医者だね。いや、今もまだ免許は健在だっけ」

「……で、俺に何の用だ?ただの見舞いと言うわけじゃないんだろ?雁首揃えてさぼるだけの度胸がお前達にあるとは思えない」

「……相変わらず言いたい放題だなこいつは」

呆れながら武が4人分の椅子を用意してそれぞれが座る。そして椎名が切り出す。

「雷王院君、君最近病院の外に出たりはしたかな?」

「いや、確かに最近やっとエボルトに乗っ取られた時のダメージが回復して機能的には外出は可能になったがまだ実行できていない」

「……そうか」

「……強敵か?」

「いや、そう言うわけじゃない」

「椎名、どういうことだよ。俺達もまだ何も聞いてないんだからな?」

「……そうだね。話しておこう。当然だけど部外秘だ」

椎名がスマホを用意して録音モードにする。CR以前からの打ち合わせをする時の癖だ。もう慣れたものだから誰も気にしたりはしない。

「さっき外務省からこういう話があった。日本時間で言う7時間前に北欧で仮面ライダーらしき姿を見たとね」

「……北欧で仮面ライダーか」

「見間違えって事は?」

「大いにあり得るさ。何せ一般人からしたら仮面ライダーとの違いがよく分からないエボルトって存在もいる。まあ、この世界じゃ仮面ライダーの元祖はエボルトだからある意味では同一の存在としていいんだけどね」

「……エボルトが復活したとでも?」

「それもあり得ない。エボルトが使うライダーシステムとかって言うフルボトルのエネルギーの波長は地球全土フルタイムで監視されているけれども今回感知されていなかった。エボルトがあの姿に変身していないのなら波長は出ないかもしれないけど」

「……それだとつまり人間の……石動惣一の姿の筈だから仮面ライダーに見間違えるという前提が起こりえないってわけか」

「そういうこと。で、現在仮面ライダーは僕、将碁、武君、瑠璃ちゃん、雷王院君の5人。ドライバー取り上げ状態も含めるなら嵐山元本部長や檀正宗、檀黎斗も含まれるけどこれもまた厳重に封印されているため可能性はかなり低い」

「……エグゼスターはどうだ?」

「それも可能性は低いよ。仮面ライダークロニクルのガシャットは利徳君のそれを除いてすべて回収済み。利徳君はパスポート持ってないしその時間帯は学校にいた事が証明されている。海龍帝国のものも同じ」

「……桐生戦兎は?」

「衛生省から連携済み。当然日本にいていつも通り喫茶店にいたのがカメラの映像から立証済みだよ」

「……つまり少なくとも俺達が知っている仮面ライダーは全員アリバイがあるってわけか」

「……え、じゃあ何だよ。新しい仮面ライダーでも誕生してバグスターか何かと戦っているとでも?」

「衛生省としてはその可能性が現状一番高いんじゃないかって心配しているよ。まあ僕としては北欧周辺にいたバグスターの誰かが電子変換で仮面ライダーに近い姿に一時的に変身していたんじゃないかって思ってるんだけどね」

「……確かに北欧とかにもバグスターは何人かいたっけな」

将碁と武が遠い目で労働の光景を思い出す。

「雷王院君。旧世界での仮面ライダーについて詳しく教えてもらえないかな?」

「……新世界では戦兎以外は普通の人間として生活しているぞ?まあいいけど」

それから15分かけて旧世界にいた3人の仮面ライダーについて説明がされた。変身者の情報も聞いてすぐに椎名が調べたがやはり全員普通の生活をしていて今回の件には全く関わっていないようだった。

「……コミケの仮装とか?」

「……北欧で?」

「冗談だよ」

「……よし、僕が聴きたいことは以上かな。雷王院君、何か変わった事とかあるかな?」

「いや、特にないな。エボルトの影響ももうほとんどない」

「……エボルトはまだ生きていると思うかい?」

「……可能性は否定できない。だが著しく低いと思う」

「……僕もそう思うよ」

それから4人は病院を後にした。帰りの車内も爆睡だった。


次の日。CRに来客があった。

「お久しぶりです」

赤原紅葉と赤原詩吹だった。

「あなた達は確か……アカハライダーズの……」

死んだ目で椎名が顔をあげる。それに驚きながらも紅葉が一歩前に出た。

「1年以上お暇させていただきましたが何か変わったことはありませんでしたか?」

「……むしろ何もかもが変わりすぎてるよ」

将碁と武もまた遠い目で無を見つめ始めた。埒が明かないと感じたのか瑠璃と馨が二人に事情を話した。

「エボルトですか。単独ながら私達が戦ったブラックマグマやショッカーよりかも強敵だったみたいですね」

「それであなた達はどうしてここに?またショッカーの怪人がこの世界にやってきたとか?」

「ショッカーとは別口です。ブラックマグマでもありません。あれは未来からやってきた侵略宇宙人です」

「……聞こうか」

一瞬さらなる死んだ目になった椎名だったがすぐに元の表情に戻った。

「私達の仲間には未来に生きる人たちもいます。正確に言えば私達が一時期30世紀の未来にいた頃がありまして、その際に一緒に戦った仲間達がいるんですけれど」

「仮面ライダーに類する戦力かな?」

「違います。彼女達についてはプライバシーの問題もあるんで詳しくは話せませんけれどそこそこ以上の実力者です。けど彼女達6人掛かりでやっと追い返すことが出来たほどの宇宙人がこのあたりの時代にやってきたという情報が入ったんです」

「……エボルトと言いやけに凶悪な宇宙人に狙われるよな地球」

「そのうちウルトラマンでも来るんじゃないのか?」

無心にキーボードをたたき続ける将碁と武を心配そうな目をしながら指さす詩吹に対して瑠璃は無言で首を横に振った。

「……あなた方も非常に強敵との戦いを経験したようですし問題ないとは思いますが、もし奴と遭遇しても無茶だけはしないでください。少しでも力が足りないと思ったらすぐにご連絡ください」

それだけ言って紅葉と詩吹は去っていった。

「……椎名。この前北欧で発見された仮面ライダーってあの二人だったりしない?」

「……流石に外見が違いすぎるでしょ。あのボディビルダー達ならまだ見間違う可能性はあるかもしれないけど」

そしてまた仕事に戻る。


夜。

「そうですか。21世紀のあたりに逃げたと思ったんですけど」

「今のところ情報は来てないみたいですね」

紅葉が時空間を超える特殊な装置で通話している。

「僕達もそちらの世界に行けたらよかったんですけど……」

「大丈夫ですよ。こちらの世界には仮面ライダーって言う頼りになる人達がいますから」

「仮面ライダー……確かあの人の家にいた頃にテレビで見てたような気が……」

「あらら、30世紀には仮面ライダーは残っていないのですか。残念です」

「とにかく無茶はしないでくださいね。僕達も場合によっては手段を変えてそちらに向かいますので」

「それこそ無茶ですよ、もう。あ、お土産は何がいいですか?」

「えっと、じゃあJS恐怖の人間ランタン殺人事件って小説を……全部で38巻くらいあるんですけど」

「…………妹さんにドン引きされますよ?」

通話を切った紅葉。そのまま近くのコンビニに行こうとした瞬間だ。

「……この気配は……」

走る。小柄な外見からは想像も出来ない速度で走りながら髪に脱臭炭を結わえ始めた。

「あかはら・めもはら・らりろれらりぴょ~ん(棒)」

やがて赤い閃光となって一瞬で夜空を貫く。そして銀色の影の前に着地した時にはその姿は先ほどまでとは違った姿になっていた。

「経営幼女戦士アカハライダー!久々のソロ活動でも問題なく標的の撃破に尽力します!」

正面。見れば上半身だけで悶える女性と、それを行なったと思われる銀色の怪物・デモンザウラーが咆哮をあげていた。

「あれは椎名さんの話にあったスマッシュモンスター……!」

デモンザウラーの突進を跳躍して回避した紅葉は背後に回り込み、その尻尾を抱え込んで動きを止めつつ

「輝神殻醒バルトフォーム!」

髪にシュールストレミングを結わえてフォームチェンジすると先程の倍近いパワーでデモンザウラーを投げ飛ばす。

「光になってください!!」

メイスを取り出してデモンザウラーに向かっていく。

「響輝奏光……バルトロメガ……きゃ!!」

しかし打撃は決まらなかった。急に紅葉の体が何かに引き寄せられた。見れば後方にもう1体の銀色の怪物・グルーラーがいて口を開いてあらゆるものを吸引していた。

「このクラスの相手を2体同時はちょっと厳しいかもしれませんね」

メイスを地面に突き刺して吸引に耐える。と、その間にデモンザウラーが電柱を引き抜いては吸引に耐えつつ紅葉を殴りつける。

「きゃううううう!!!」

何とかメイスを握る手だけは持ちこたえたがバルトフォームの装甲に亀裂が走ってしまった。

「……やっぱり詩吹ちゃんと一緒に行動すべきでしたか……!」

デモンザウラーが再び電柱を振り回す。今度直撃を受ければ耐えられないだろう。そう確信した時だ。バイクの爆音が響き渡る。

「え、まさか先輩達……!?」

しかし期待した影とは違った。

「見えた!紅葉さんだ!!」

「しかもあれはスマッシュモンスターだぞ!?」

将碁と武だった。

「ネオスターライトドラグーン!!」

「ガンガンリボルバー!!」

「「変身!!」」

「レッツゲーム?メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ホワッチャネーム!?アイムア仮面ライダー!!」

「ガンガンバキュンバキュン!!ガンガンズギャンズギャン!!ガンバズギャットリボルバー!!」

一瞬の閃光が夜空の景色を塗り替えれば次の瞬間にはレベル50と100の二人がグルーラーに突進を叩き込んでいた。

「大丈夫ですか!?」

「あ、はい!……本当に強くなられたのですね……」

吸引が終わり、自由になった紅葉は振り回された電柱をメイスで受け止めながらかぼちゃを頭にかぶる。

「ヴラドフォーム……さあ、紅葉と一緒にあそぼ?」

新たな姿になった紅葉は黒い翼を広げて高速で夜空を飛び回りながら電撃をデモンザウラーに浴びせていく。

「俺達も強くなったつもりだけど……」

「ああ、紅葉さんもかなり強いよな以前から」

言いながらセーブはグルーラーの口を抱え込むようにして塞ぎ、そこへリボルバーが射撃を加えていく。すると、電撃を浴びながらデモンザウラーがグルーラーへと走っていき、セーブとリボルバーをたやすく吹っ飛ばすと自らグルーラーの中に吸い込まれていった。

「な、何だ……!?」

次の瞬間、グルーラーの体がまっぷたつになり新たな姿のデモンザウラーが立っていた。合体怪獣デモンルーラーだ。

「ぎぎぎういうdcげwbfffffffffffrk!!!」

咆哮をあげると正面を向いたままなのに尻尾が振るわれてセーブとリボルバー、さらには空を飛んでいた紅葉までもまとめて薙ぎ払う。

「くっ!一気に強くなりやがった……」

一番前に立って盾になっていたセーブの装甲が大きく凹んでいた。未だここまでサンクチュアリゲーマーにダメージを与えた者はいない。

「……最近ヴラドフォームがかませになってる件」

プラズマーフォームに戻ってしまった紅葉が痙攣する。一番ダメージが軽いリボルバーが前に出てハンドガンを構える。その時。

「……残念。こんな弱虫だったなんて」

少女の声がした。

3人がその声の出どころを見やる。夜風にスカートをなびかせた制服姿の少女。短い丈のシャツで本来へそが見えるであろう場所にはベルトが巻かれていた。

「あれはまさか……」

「新世界になって腑抜けたってわけじゃないでしょ。本当最悪だよぅ……」

「トリニティセレクト!!」

「トリニティドライバー!?」

「スターライト!ガンナー!!ライトニング!!!Are you ready!?」

「変身」

「たった一人の三位一体!ライトニングフレイム・雷火!!イイエェェェイ!!」

3つのフルボトルの輝きが少女を新たに姿に変えた。それはまさしく仮面ライダーだった。

「……新しい仮面ライダー……」

「仮面ライダー雷火……!!」

雷火と姿を変えた少女は跳躍し、文字通りの電光石火となってデモンルーラーの懐に入り込んでは相手の両腕を自身の両脇に挟んで関節を決める。

「んなろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

そのまま関節を軸にデモンルーラーの巨体を背後にスープレックスで投げ飛ばす。

「中々強いぞあの子!」

「けど流石に一人じゃ難しいだろうな」

「助太刀しないと!」

紅葉が立ち上がり、新たなる脱臭炭をベルトに差し込む。

「エクシードプラズマー!!」

「え、紅葉さんの新フォーム!?」

「エクシードプラズマーフォームです!」

新たなる姿になった紅葉が素早く走り、雷火の背後で立ち上がったデモンルーラーの背中にドロップキックを叩き込む。

「何あんた。仮面ライダーなの?」

「アカハライダーです!」

「は、はぁ?なんでもいいわ。邪魔さえしてくれなければね!」

走る雷火。タイミングを合わせて紅葉も跳躍して二人同時にドロップキックを叩き込み、デモンルーラーは2歩後ずさる。が、後ろに下がった筈なのにデモンルーラーはふたりの背後に立っていてその太い両腕で二人のツインテールをつかみ取り、そのまま持ち上げる。

「こら!!女の命を何だと思ってるのよ!」

「天誅ならぬ女誅です!」

ぶら下げられた状態から体をねじってデモンルーラーの胸にキック。直後にリボルバーの狙撃がデモンルーラーの両手首に命中し、二人は解放されすぐに離脱。それを確認してから、

「オープンウィング!」

「胸に秘めた熱い思い!!感じるフリーダム!!アイムアレベル50サブリメノンゲーマー!!!」

「ガチムチ怪獣にはガイア・スプリームバージョンで!」

姿を変えたセーブが突っ込み、デモンルーラーの腰のあたりを掴んでは滅茶苦茶に投げ飛ばす。

「……あれが新世界で手に入れた力……くだらないわ!」

雷火が投げ飛ばされたデモンルーラーにタックルを打ち込み、そのままパイルドライバーで頭から地面に叩き落す。

「どうだ!?」

「……」

しかしデモンルーラーは体を一切動かさずにいつの間にか4人から離れた場所に立っていた。そして両腕を前に出すと魔法陣のようなものが出現し、そこから無数の光の触手が伸びて4人を秒速で叩きのめす。

「ぐっ!!エボルト程じゃないがかなり強いぞこいつ……!!」

「弱音をあげるくらいだったら下がってなさい!」

立ち上がった雷火がまっすぐデモンルーラーに向かっていく。

「やめろ!!無茶だ!」

「無茶でもなんでも私はそうやって一人で戦ってきたんだ!!」

迫りくる無数の触手を何とかして振り払いながらデモンルーラーの前に到着した時には既にボロボロの状態だった。それでも、

「Ready go!!ボルテックフィニッシュ!!!」

「ラァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

ベルトを通して3つのフルボトルの力が流れ込んだ右の貫手をデモンルーラーの胸に突き刺す。突き刺さった部分から激しいエネルギーがデモンルーラーの体内を駆け巡る。それでもデモンルーラーは雷火の両肩を掴んで圧し潰さんばかりに圧力を加えていく。

「ぐっ、……ううううううううううううううううう!!!」

ある程度力を注ぎこむと雷火はデモンルーラーの両腕を振り払って離れる。直後、デモンルーラーの全身から激しい火花が巻き上がり数秒後には倒れて大爆発した。

「……勝ったのか」

3人がゆっくりと雷火に歩み寄る。と、

「……う、」

雷火は倒れ、変身が解除されて元の少女の姿に戻った。

「……どうやらデスクワークはしばらく先延ばしに出来そうだな」

変身を解除して将碁がつぶやく。



翌日。衛生省直営の病院。椎名に呼ばれて将碁達がやってきた。今度は紅葉と詩吹も一緒だ。

「私達が先に入りますので」

瑠璃、馨、紅葉、詩吹、春奈が先行して病室に入った。そう言えば何かハプニングもあったような気がすると将碁と武が何かを思い出そうとすれば瑠璃に足を踏まれた。

将碁、武、椎名、利徳はカバディでもやりながら15分ほど待っていると、

「入って大丈夫ですよ……って病院で何やってるんですか?」

春奈が呼びに来たので4人も中に入る。

「……」

ベッドに昨晩の少女がいた。普通に起きててぶすっ垂れている。

「雷扇(らいおうぎ)烈火(れっか)ちゃんだそうです。年齢は14歳で中学3年生」

「……で、」

「はい。旧世界の出身だそうです」

瑠璃から説明を受けて4人もまた押し黙る。

「まあ、色々聞きたいこともあるけどまずは自己紹介から。僕は西武椎名。西武財閥の会長でこの仮面ライダー部隊であるCRの指揮官もやってるんだ」

「俺は本宮利徳っす。中2っす」

「俺は……」

「…………西武将碁。それに喜屋武まるた。あんた達の事なら知ってるわ」

「……ひょっとして旧世界で知り合いだったとか?」

「……違うわ」

「で、烈火ちゃん。そろそろ事情を聴いてもいいかな?君は本当に旧世界の仮面ライダーだったのかい?」

「……そうよ。これが見えないの?」

烈火が病衣の裾をめくるとトリニティドライバーが見えた。

「……ずっとつけてるんだね」

「常在戦場。あんた達が旧世界を離れて新世界に移ってから旧世界は地獄になったのよ」

「どういうことだい?」

「……エボルトによって滅ぼされた世界・旧世界。多くの人々は新世界と呼ばれる世界に遷移した。でも、残されたものも多くいたわ。そして残されたものは溢れ出して止まらなくなったネビュラガスの影響で苦しみ、場合によってはスマッシュ化してしまう。そして私は、ただ一人残された仮面ライダーとしてたった一人でスマッシュと戦ってきたのよ」

「……そのドライバーやフルボトルはどこで?」

「旧世界には起きた出来事や新世界の事を記すために英雄の神殿とかいう御大層な場所が用意されたわ。そこにトリニティドライバーも3つのフルボトルもあった。戦うにはそれを手にするしかなかった。フルボトルを手にした時にすぐにその本来の持ち主だったものの情報が流れ込んできたわ。西武将碁、喜屋武まるた、雷王院歴。私はあなた達が見捨てた旧世界でたった一人で戦い続けてきたのよ!」

烈火の鋭い視線が将碁と武をにらむ。すると、

「それはご苦労な事だな」

病衣姿の雷王院が入室してきた。

「お前……」

「あんたが雷王院歴ね」

「君の苦労は分かった。だがその苦労を終わらせるために新世界にやってきたんじゃないのか?」

「え?」

雷王院の発言にその場が惑う。

「確かに俺達は旧世界を見捨てた。それで新世界に移住することにした。旧世界で死んだ者はもちろん、生き延びた者もそのまま新世界に移動した。君はどういう訳か旧世界に残り、そして今何らかの理由があって新世界にやってきたんじゃないのか?」

「……何もわかっていないのね雷王院歴。私は旧世界を見捨てない。ただ厄介な奴が近くにいただけよ」

「厄介な奴?」

「スマッシュ以外にも旧世界には厄介な敵がいた。ここ最近になって突然姿を見せたのよ。そいつは旧世界の支配をもくろんでいる。何度か戦ったことがあるけどそいつはとてつもない強さだった。そいつが新世界に行くのが見えたから私も追いかけた。決して新世界に逃げるためなんかじゃない!」

ベッドから立ち上がった烈火はまっすぐ雷王院へと歩み寄る。

「……3本全部刺さったトリニティドライバーか」

「皮肉なものよね雷王院歴。戦いの只中だった旧世界ではこの力を使えた。それだけの絆があんた達にはあった。けど新世界の平和ではそれはかなわない。あんた達は絆を結べた環境から逃げてつまらない平和の中でつまらない人生を送っているのよ!!」

「……」

烈火の叫びに雷王院は黙り、春奈が傍による。

「烈火さん、流石に言い過ぎだと思います。戦いのない平和はいい事じゃないですか」

「……あなたみたいにただ幸せに暮らしているだけの女の子が私は一番嫌いなのよ!」

「ないものねだりがしたいからか?」

利徳が一歩前に出る。

「何よ。仮面ライダーじゃないなら下がっていなさい」

「けど俺にだって戦う力はある。あんたの言うようにただ幸せに暮らしているだけじゃ物足りなかったからな。けどあんたは逆なんだろ?春奈がうらやましくて仕方がないんだろ?」

「……喧嘩売ってるの?」

「そこまでにしなよ中学生たち」

椎名が手をたたく。

「烈火ちゃん。その敵って言うのはまさか未来から来た宇宙人じゃないだろうね?」

「……そんなことも言っていたような気がするわ」

「……じゃあ」

椎名が紅葉と目くばせする。

「……歴史破壊者(レコードブレイカー)・ザナトス」

「……あなたも知っているのね。あの悪魔の事を」

紅葉と烈火が視線を合わせる。

「……話を整理しよう。そのザナトスと言う宇宙人は未来からやってきた。30世紀だっけ?それで今度は旧世界にやってきて烈火ちゃんと小競り合いをしてそして今は新世界にいる。その目的は歴史の破壊だっけ?」

「そうです。ザナトスは過去にさかのぼり、修正不可能なくらい歴史を自分の思うとおりに改ざん、破壊して快楽を得ている侵略宇宙人です。とある理由で宇宙に関する知識や技術が失われた30世紀に出現したのも恐らくそれ以降人類は宇宙で活動することになり、それを阻止するためにそれより過去である30世紀に姿を見せた。そこでは偶然戦力が整っていたため迎撃されたようですが今度はこの21世紀の旧世界にやってきたようですね」

「……どうして旧世界を?新世界ならまだわかるけれども」

「……旧世界は世界から閉ざされた、切り捨てられた世界だからだ。それを侵略して新世界を覆してしまえば人類の歴史に修正不可能な影響を与える事など造作もないだろうな」

雷王院が椅子に座る。

「はっきり言って宇宙連合が動く案件(レベル)だ。また去年みたいな大騒ぎになりかねない」

「……下手をすればまた地球滅亡の危機か。エボルトが倒されたってのに危機は続くものだなぁ」

将碁がため息をつく。

「……別にあんた達に期待なんてしてない。私は私だけでザナトスを倒す」

「いや待ってくれ烈火ちゃん」

「何よ」

「君は悪い意味でザナトスから狙われてる可能性が高い」

「は?」

「ザナトスがどうして新世界に来たのか。そしてどうして君が新世界に来たのか。この2つの異変を考えると最悪の可能性が考えられる。だって烈火ちゃん。君は新世界を憎んでいる。たった一人で旧世界のために戦い続けてきた。ザナトスは最初こそ旧世界を狙っていたがそこで君と出会って実力が十分だと知った。そしてその旧世界への思いも知られた。だから、ザナトスは君を僕達と戦わせて利用するためのコマとして考えている可能性がある」

「……え?」

「……なるほど。確かに。ただ旧世界で活動するだけなら烈火ちゃんを倒すだけで旧世界は支配できるはずだ。それをせずにわざわざ烈火ちゃんが来るって知りながら新世界にやってきて、しかもスマッシュモンスターまで寄越したのは俺達と衝突させるためか……」

「……だとするとザナトスって奴は未来でよっぽどひどい目に遭ったんだろうな。わざわざ搦手を使ってきているわけだし」

椎名、将碁、武がそれぞれ考えを口にする。それを聞いて思考する烈火。

「……待って。だとしたらまずいわ!すぐに旧世界に戻らないと!」

「……どういうこと?」

「話している暇はないわ!」

言いながら烈火が病衣に手をかけたためすぐに男どもは女衆によって外に叩きだされた。

1分と待たずに烈火が病室から出てくる。将碁達に一瞥もせずに走り出し、慌てて将碁達が後を追いかける。

「何でついてくるの!?」

「当たり前だろうが。ってかどこに行こうとしてるのさ」

「旧世界よ!」

「自由に行き来できるのか?」

「トリニティドライバーの力を使えばね!」

駐車場まで出ると、急いで瑠璃が車の準備をするが構わず烈火はフルボトルのスイッチを入れた。

「変身」

周囲の状況も構わずに雷火に変身して手を正面の空間に伸ばすと、時空の歪みが生じる。

「おわっ!?」

驚く将碁達を無視して雷火はそのまま時空の歪みに進んでいく。

「あ、ちょっと!!」

慌てて将碁と武が時空の歪みに入るとそこで歪みが消えてしまった。

「……えっと、どうするのこれ?」

椎名は滝のような冷や汗をかいた。



旧世界。強いデジャブを感じながら将碁と武は烈火の後を追う。

「あんた達は来なかった方がいいんじゃないの?虚憶がすごいことになってるでしょ?」

「きょ、虚憶?」

「新世界に移った人間にとって旧世界での記憶は脳がなかったことにしているのよ。それなのに本来あるはずがない旧世界に関する情報を得てしまうとデジャブとか眩暈とかで大変になるってフルボトルからの記憶で見たわ」

「……そう言えば初めてライトニングの姿を見た時も眩暈がすごかったような気がする」

「で、烈火ちゃんとやらはどこに向かってるんだ?」

「……教える筋合いはないわ」

しかしその進先には病院があった。

「病院……?」

構わず中に入る3人。大変なことになってるとされる世界で、しかしそこは静かだった。やがて烈火はある病室に入った。

「春果……」

「いらっしゃい、烈火。あれ、そちらは?」

病室には一人の少女がいた。年ごろからして烈火と同い年くらいだろう。

「関係ないわ。それより大丈夫?何も起きてない?何か変な奴来たりしなかった?」

「大丈夫だけど……」

春果と呼ばれた少女が将碁達に視線を向ける。

「西武将碁です」

「喜屋武っす」

「あ、甘園春果です」

「えっと……?」

将碁が烈火に視線を送る。

「……少しだけ場所を変えるわ。春果。ちょっと待ってて」

「うん」

そして病室を出て少し歩いたところにある広間。ソファに座った3人。やがて烈火が口を開いた。

「あの子、ネビュラガスの影響が強いの」

「……スマッシュになりかけ?」

「分からないわ。檀黎斗や嵐山宗男がいなくなったこの世界ではスマッシュやネビュラガスに関する詳細な情報を持った人物がいないから……」

「……新世界に戻って黎斗社長に見てもらった方がいいんじゃないのか?」

「……でも春果をここから移動するわけにはいかないわ。春果はネビュラガスを浴びる前から心臓病で滅多に外を歩けない体なのよ……」

「……つまり君が急いでここに来た理由はザナトスが彼女を狙う可能性があったからか」

「ええ。けど、姿を見せないようだし……」

烈火が窓の外を見る。と、そこには3体のスマッシュが跋扈していた。

「スマッシュ……!」

「ザナトスのお出ましかもしれないわね。けど、だったらここを離れるわけには……」

「……行けよ」

「え?」

「春果ちゃんは自分のために君が躊躇する事なんて望んでないんじゃないのか?君達の事はまだよくわからない。けど、君があの子を大事に思っていることは分かった。ここは俺達が見張っておくから君はスマッシュを」

「……私はまだあんた達を信用できないわ」

「……なら君が彼女を守ってやればいい」

「俺達が行ってくる」

将碁と武が窓を開けてガシャットのスイッチを押した。

「ネオスターライトドラグーン!!」

「ドグマ!ガンガンリボルバー!!」

「「変身!!」」

そして空から飛び降りると同時に変身を果たし、サブリメノンゲーマーとドグマトリガーが3体のスマッシュを正面から攻撃する。

「……旧世界を見捨て、そのことすら覚えていないくせに」

烈火は小さく笑ってから春果の病室に向かう。

「春果……」

「おや、早かったね」

「!?」

病室。そこには異形の存在がいた。歴史破壊者ザナトスである。

「ザナトス……!」

「ほう、私の名前を知っているとなると新世界の、さらに別世界の戦士たちと合流したようだねぇ」

「春果から離れなさい!」

「なら、私が君に要求することは分かっている筈だ」

「……くっ!」

「ま、待って烈火……」

「おっとお嬢さん。体に障りますよ?その大きく実り育った胸の奥にまでね」

「……ううう、」

烈火は唇をかみ、そしてフルボトルのスイッチを押した。

「これで最後!!」

セーブとリボルバーの攻撃で3体のスマッシュが撃破されて蒸発する。それを二人が確認して一息ついた瞬間に背後に雷火が着地した。

「……烈火ちゃん……?」

「……悪いけど」

「……まさか……!?」

二人が最悪の可能性を思考する。そして雷火が走り出した。

「待ってくれ!!椎名が言っていた通りの罠に従うのか!?」

「私は……それしか出来ない……!!春果のために、この世界のために戦うことしか出来ない!!」

「そんなことをあの子が望んでるのかよ!!」

「私が望んでるのよ!!」

リボルバーの射撃を、セーブを盾にすることで防ぎつつ雷火が高速で距離を詰めてリボルバーのナイトゲーマーボディを蹴り飛ばす。

「ぐっ!!」

「旧世界の土に眠らせてあげるから……空しい最期を飾りなさいよ!!」

「駄目だ……!!」

リボルバーに迫ろうとした雷火を背後からセーブが抑え込む。

「そうやって無理に悪役ぶって全ての責任を自分一人で背負うとするなんて間違ってる!!」

「あんたなんかに何が分かるって言うの!?」

「ああ、確かに分からない。けど、君が俺達の事を知っているように俺達にも君の事が分かるんだよ!その腰に差し込まれたフルボトルが俺達に教えてくれるんだ!どうにかして自分だけで何とか全てを解決しようとした奴なら恥ずかしながら仲間に何人かいるし、それでも何だかんだで仮面ライダーとして戦おうとしているって言うのも分かるんだ!」

「分かるわけないでしょ!!」

雷火はセーブを振り払い、ドロップキックで吹っ飛ばす。

「ごふっ!!」

「旧世界を捨ててぬくぬくと新世界で過ごしたあんた達に何が分かるって言うのよ!!好きな人が重い病気で苦しんでて何も出来ない私の、まだ小学生だった頃から見捨てられたこの世界のためにたった一人で戦い続けた私の、それでもこの世界を守りたいからって悪魔に身をささげる私の何が分かるって言うのよ!!!」

「Ready Go!!ボルテックフィニッシュ!!」

「うああああああああああああああああああああ!!!!!」

「将碁!!」

立ち上がったリボルバーの前で雷火の貫手がセーブの胸を貫いた。

「………………ぐはっ!!」

吐血。それを以てセーブは倒れ、将碁の姿に戻った。同時、軽快な拍手の音が響く。

「よく出来ましたね。仮面ライダー雷火」

先程までいた通路の窓の淵。そこにザナトスが座っていて大げさに手をたたいていた。

「あいつが……!!」

リボルバーが銃口を向けると同時、

「けどあなた方程度なら私なら遊びながら倒せる」

「!?」

リボルバーが伸ばした右手。その肘の外側にザナトスはいた。タイミングは分からない。ただ、ザナトスが手を軽く伸ばしたら気付いた時にはリボルバーは武の姿で地面にはいつくばっていた。

「がはっ!!」

「あのエボルトを倒したという21世紀の仮面ライダーの実力、どんなものかと思えば道具を使えばここまでたやすいとは。少し楽な方法に頼りすぎてしまったかな?」

再生が始まる武の肉体。それをサッカーボールのように蹴り飛ばし嘲笑するザナトス。それを見て体を震わす雷火。

「どうかしましたかぁ?まさかと思いますが心が痛むとでも?ま・さ・か!あなたは今、この旧世界を、そしてあなたの大好きで仕方がない彼女を助けるために行動したのですよぉ?……笑えよ、仮面ライダー。ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

「……くっ、うううううう……!!」

自らの握力で拳が砕けそうだった。出来る事ならザナトスに殴りかかりたい。けど、あのスピードを見るにザナトスはいつでも春果を殺せるだろう。従うしかない。たとえ世界を滅ぼす悪魔であっても彼女を守れるのなら……。

「…………あ」

いつしか景色が変わっていた。気付けば雷火は烈火の姿で春果の前に立っていた。

「烈火……」

「……は、春果……」

「……どうして私なんかのためにこんなことをしたの……?」

「え……?」

「烈火が仮面ライダーだってことは知ってたよ?でも、あの人達だって仮面ライダーで、しかも烈火を助けるために来てくれたんじゃないの……?それなのに……うっ!!」

糾弾は吐血にかき消された。

「春果!!」

「来ないで!!」

「……春果……」

「……私なんかのために自分を変えないで……」

「……くっ!!」

雷火は窓から飛び降りた。ザナトスの隣を通り過ぎた気がする。気付けば烈火の姿になっていた。けど、今は何も分からない。ただどうしてこうなってしまったのかが分からない。わかるのは取り返しのつかないことをしてしまったという事だけ。

「何で……どうして……何で……どうして……」

ネビュラガスに汚染された街を泣きながら走った。理不尽への怒りが、それを招いてしまった自分への悲しみが、やり直したいという無尽蔵の後悔が心と頭の中で疼いていた。

雨が降り出した。走る気力も体力もなくなって泥につまずいて水たまりの中に倒れる。

「……何でよ……どうしてなの……全部、全部間違ってたって言うの……」

起き上がらず泥の中で無意味を吐く。汚泥にまみれる内に心の全てが汚れてしまったのだと錯覚する。こんな汚い事で自分を慰めようとしている醜さを感じる。

「………………あ」

異変に気付いた。顔をあげれば雨がやんでいた。しかし光は差し込まなかった。代わりに空には翼を広げた三本首の怪獣が君臨していた。

「……キングギドラ……!?」

情報だけ知っている怪物。金星を滅ぼしたという空想の破壊者。ザナトスが呼んだのだろうそれが今旧世界の町々を引力光線で破壊していた。

「……何で、どうして……旧世界を救うためじゃないの……?」

「どうして私が旧世界を救う必要があるんですかね?」

「!?」

声。景色を遮るようにザナトスがおどけたポーズで空から降ってきた。

「ザナトス……!!」

「エボルトを倒したというあの二人。それをあなたが倒してくれたおかげで私はたやすく新世界への侵攻を開始できる。あのキングギドラで破壊行動を行なうのは楽ですがもっと楽な方法がある。……それはね、旧世界を滅ぼす事」

「……え」

「新世界は旧世界の上に成り立っている。パソコンの仮想環境のようなもの。仮想環境で生きている命は、しかし土台となる物理環境が消えればまた運命を共にする」

「……あんたは旧世界が欲しかったんじゃないの……?」

「私が欲しいのはいつだって今の君のような絶望にまみれた表情だけさ!!ふはははは!!」

「……よ、よくも……よくも……!!!」

烈火は一瞬で雷火に変身してザナトスに向かっていく。しかし絶望と怒りに衰弱した雷火の攻撃はザナトスに当たらない。逆に一撃で雷火は吹き飛ばされてしまい、病院の駐車場に落下する。

「あぐううううう……!!!」

激痛。反撃のため反射的に立ち上がろうとして、しかし立てない。

「無駄だよ。今の一撃で背骨を粉砕した。見たところ下半身不随は確実。そのうち他の臓器や神経をも蝕む。よかったじゃないか。愛しの彼女と同じ重病人だ。この町で唯一の病院はここしかない。同じ病院で余生を過ごすことが出来る幸せを謳歌したまえよ!……尤も君は彼女から拒絶され二度と彼女の笑顔を見ることは出来ないまま永遠の孤独の中で悔恨と忸怩にまみれて死んでいくことしか出来ないんだけどねぇ!!!」

「……くっ、うううう……!!」

「まずは手始めに旧世界の崩壊によって新世界が滅ぶ様を見届けるがいい!」

「させるか!!」

笑うザナトス。そこへセーブとリボルバーがやってくる。

「半死人が」

ザナトスは余裕で攻撃を回避しながら重傷の二人を弾き飛ばす。

「がはっ!!!」

「セーブ……リボルバー……」

「おやおや旧世界を見捨てた新世界の仮面ライダー達がノスタルジックにどうしてもここを死に場所にしたいようだ」

「ふ……ざ……けるな……」

吐血し、変身が解除されて這いつくばる将碁と武が血だらけの視線をザナトスに飛ばす。

「人の心を……どこまで弄べば気が済むんだ……!?」

「なるほど。だが君達は誰の心も弄んでいないと言うのかな?新世界で君達はどうした?雷王院歴の心を弄んでいないと言うのかな?そこの彼女と同じことをした彼に何の謝辞もなく、なあなあに日常を過ごしておいてどの口で言っているのか」

「……くっ……!!」

「雷王院歴も雷扇烈火も自分の気持ちを優先させた。他の誰かを傷つけることになっても別の誰かを救えるのならと君達を傷つけた。やっていることは同じだ。それをやるだけの覚悟もなくのうのうと新世界で遊んでいただけの君達が、少女と言うだけで彼女を救おうと言うのは烏滸がましいと笑わずして何だと言うのかね?」

ザナトスは笑いながら二人の前で雷火の腹を踏みにじる。

「ぅああああああああああ!!!」

「烈火ちゃん!!」

「そんな君達にふさわしい最期は君達を傷つけしかし君達がどうしても救いたいというこの少女を目の前でいたぶり、その上であっけなくその命をもらい受ける事。面白いだろ?」

「貴様……!!」

「そうだな。ついでに新世界の滅亡もその目で見せてやろう」

ザナトスが指を鳴らすと町を破壊していたキングギドラが行動を変えた。ザナトスたちの頭上上空を飛翔してザナトスが出現させた時空の歪みへと向かっていく。

「まさか……!!」

「奴を新世界に……!?」

「エボルトを倒したという君達がいないあの世界は無力も同然。楽しいねぇ!君達が、何の犠牲も出さずに守ろうとした二つの世界が今こうして面白半分の私に踏みにじられて滅亡を迎えようとしている!愉快だねぇ!!すべてを守ろうとしたものがすべてを失う時の表情は宇宙の宝玉として何よりも価値がある!!さあ!!さあ!!!もっと私に忸怩にまみれた醜い表情を見せてごらん!?」

言いながらザナトスが雷火の腹を踏み抜く。

「うああああああああああああああああああああ!!!!!」

「雷火!!!」

痙攣した雷火の手が力なく地面に落ちる。そして変身が解除された。彼女のセーラー服もツインテールも血と泥で汚れていた。擦り切れた腰のトリニティドライバーが解けて水しぶきを立てて落ちる。3つのフルボトルが弱々しく点滅を始めた。

「うん?」

ザナトスがそれに気付いた瞬間。

「悪いが最も醜い表情を見せてやるための鏡は持ち合わせていない」

声が聞こえた。

正面。時空の歪み。いくつかの足音が向こうから近付いてきた。

「……あ、あああ……!!」

将碁と武が感嘆を以て迎え入れた先に雷王院、椎名、瑠璃、利徳、紅葉、詩吹が立っていた。

「ふん、新世界の仮面ライダーどもか。悪いが君達雑魚を相手にしている暇なんてない」

ザナトスが指を鳴らすと、その傍らにデモンルーラーが出現した。

「……椎名」

「分かってるさ。雑魚は僕達に任せてくれ」

立ち止まった雷王院。立ち止まらなかった5人がそれぞれアイテムを取り出す。

「インフェルノスペクター!!」

「テンペストフォールイージス!!」

「仮面ライダークロニクル・パラドックス!」

「「ハイパープラズマー!!」」

「「「「「変身!!!!!」」」」」

5つの閃光が瞬き、次の瞬間にはローズ、アイジス、パラドクスエグゼスター、二人のアカハライダーがデモンルーラーへと攻撃を開始していた。

「……無駄な抵抗だ」

ザナトスは笑う。視線は正面にいる雷王院に。

「雷王院歴。エボルトの操り人形風情が私と遊びたいとでも?」

「どんな言葉で着飾ろうともお前の未来は死だ」

雷王院の姿を将碁、武、烈火が見る。

「1年間考えていた。俺は間違っていたのか、それとも焦りすぎていただけなのか。ようやくその答えが分かった」

「トリニティセレクト!!」

「自分の正義を信じるあまりに、自分に責任があると思い込んで突っ走るよりかも」

「ライトニング!!」

「……あ」

烈火の腰に落ちたライトニングのフルボトルが輝き、烈火の傷が治る。

「自分の信じた道に相手を無理に引き寄せるでも、自分の信念を忘れるでもなく、」

「ガンナー!」

「……」

傷が治った武が立ち上がる。

「そうまで大切に思った仲間達を信じて相談して共に寄り添うこと。そうすればたとえ求めた結果が得られなくても自ずと心が満足するんだ」

「スターライト!!」

「……雷王院……」

将碁が立ち上がり、武、烈火と共にその傍らに寄り添う。

「誰かを信じ、共に過ごせば何のために力を尽くそうとも心は楽しいと思えるんだ。何でも出来そうな気分がして、ドキドキして、人は無敵になれるんだ!!」

「ハイパーベストマッチ!!!Are we Ready!?」

雷王院は一度だけ後ろを振り向く。将碁、武、烈火は無言で頷いた。

「……変身!!!」

「轟け流星!閃け銃声!撃ち抜け迅雷!!We’re 三位一体!!!ライトニングトリニティー!!!やぁぁぁぁぁぁぁぁぁってやるぜ!!!!!」

電子音とシャウトと3つの光が雷王院の体を包み込み、そしてその姿が仮面ライダーライトニングトリニティーへと変わった。

「……それがエボルトを倒した姿か。面白い。君の言う通り、楽しませてもらおうか。……私の流儀で!!」

ザナトスが高速移動する。秒速100キロはくだらない超スピードだ。しかしライトニングの目にははっきりとザナトスの姿が映っていた。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあああああああああああああああ!!!!!!」

笑いながら迫りくるザナトスの顔面にライトニングの左拳がめり込む。

「!?」

音よりも光よりも早い衝撃がザナトスを貫き、猛烈な勢いで空へと弾き飛ばす。

「逃がしはしない!!」

二色の翼を広げ、電光の剣を手にしたライトニングが飛翔。空を進んでいくザナトスへと追撃する。

「調子に乗るなよ……前科者が!!」

「自分の罪などとっくの昔に自負している!!その程度の事でこちらの心を乱せると思うな!!!」

空中で体勢を立て直したザナトスが両腕からビームを放てば、ライトニングはそれを斬撃で粉砕する。

「くっ!」

「てやあああありゃああああああああああああ!!!」

一気に距離を詰めたライトニングがザナトスのボディに両足でキックを叩き込み、吹き飛びそうになったザナトスの右腕を掴んで無理矢理引き寄せると左手に握った剣をザナトスの胸に叩き込む。

「がああああっ!!」

「自分の弱さを棚に上げてひたすらまでに他人の心を汚す卑怯者よ、貴様ごときには旧世界も新世界も、どんな世界も渡しはしない!!」

突き刺した剣を支点にハンマー投げの要領でザナトスを振り回し、

「電撃稲妻落としぃぃぃぃぃぃ!!!」

激しいスパークを発生させその只中にザナトスを巻き込んだ状態でハンマーのように地面に叩き落す。

「……す、すげぇ……」

将碁達は感嘆の表情と言葉を作る。あれだけ強かったザナトスが目の前では砕けた大地を背に痙攣しながら曇天を仰ぎ見ていたのだ。その傍らにライトニングが着地する。

「く。くくく」

「どうした?狂ったか?」

「いや?ただ君達何かを忘れてないか?新世界には今頃キングギドラが向かって暴れている。それに甘園春果がほったらかしじゃないか」

「……まさか、」

「すでに手を放っているに決まっているじゃないか!!さあ、どうする?これから一歩でも動けば甘園春果の命はないぞ!?」

笑うザナトス。しかしライトニングは動じなかった。首元にマフラーのように生じた電光が風にたなびく。

「…………いや、そうでもないようだ」

「……何!?」


病室。

「ザナトスも人使いが荒いぜ」

甲冑宇宙人ボーグ星人がそこにはいた。正面には怯え震える春果。

「命が惜しかったら動くなよ、お嬢ちゃん」

ボーグ星人の無機質な手が春果に迫る。しかし届くことはなかった。

「何!?」

「……外道にくれてやる明日はない」

いつの間にか一人の青年がいてボーグ星人の手を掴んでいた。

「誰だ貴様!?」

「俺か?俺は、最後の人類だ」

言うと、青年はどこからかΣの形をしたアイテムを取り出した。

「そ、それはシグマドライバー!?」

「話が早くて助かるよ」

そして懐から3つのメダルを取り出してシグマドライバーに差し込んでいく。

「トレギア!カイザ!サイコマン!!パーミッション・シグマ。コンプリート」

「この力、たとえ許されざる運命でも!変身!!」

「ブルース・コンプリート!フォービドゥンブルース」

青年の姿が変わる。それはまるで、仮面ライダーのよう。

「か、仮面ライダーだと!?」

「仮面ライダーブルース。運命に狼煙を上げる俺の歌を聞け」

変身したブルースはボーグ星人のボディに素早くワンツー。後ずさる鋼鉄ボディのボーグ星人は顔面から熱光線を発射する。対してブルースはカイザブレイガンを抜いてその熱光線を切り払う。

「馬鹿な、貴様その力は何だ……!?あり得ていいものなのか……!?」

「だから言ったろ?許されざる運命だと」

カイザブレイガンを腰に戻し、ブルースは正面に魔法陣のようなものを形成した。

「や、やめろ!!金なら払う!!だから!!」

「輪廻の果てに消えろ!トレラアルティガイザー!!!」

魔法陣に向かって両拳を突きだすと同時、魔法陣から凄まじいエネルギーが発射されて逃げ出したボーグ星人の背中から貫通してその肉体を跡形もなく消し飛ばした。

「…………あ、あの……」

「その命、無駄にしない事だ」

ブルースは元の青年の姿に戻り、どこから出したのか花束を春果に向けて投げると姿を消した。



新世界上空。突如出現したキングギドラに世界は騒然としていた。迎撃するための仮面ライダーは一人もいない。

「ええい!!誰か私達の封印を解けないのか!?」

黎斗、正宗、嵐山がパソコンの中から声をあげる。しかしそれを聞いていた馨には3人の封印を解く権限は与えられていない。

「……どうしよ……。今はあの3人以外に戦える人なんていないのに……」

馨が司令室で右往左往している。意を決して冷蔵庫から2リットルのペットボトルを取り出して3人のサーバに流し込もうとした時だ。衛生省から緊急連絡が届いた。

「え……!?宇宙から未確認飛行生命体が!?」

引力光線をまき散らすキングギドラ。逃げ惑う人々。助けを叫ぶ子供達。まっすぐそこへと飛んでくる3つの輝き。

「あれは……まさか……!!」

人々が見上げる3つの光の巨人。

「ギャラクシーレスキューフォース!ウルトラマンベルーガ!!」

「ギャラクシーレスキューフォース!ウルトラマンネメシス!!」

「ギャラクシーレスキューフォース!ウルトラマンゼファー!!」

大地に降り立った3人の光の巨人の姿に人々が歓喜の声をあげた。

キングギドラも警戒してそちらへと向かっていく。

「歴史破壊者ザナトスと共に数多の星々を破壊する怪獣キングギドラよ」

「我々ギャラクシーレスキューフォースが相手になるぞ!!」

「……救世(すくい)の風の名に懸けて」

構えた3人のウルトラマンは突進してきたキングギドラを受け止め、迎撃を開始する。

引力光線をばらまこうとするキングギドラの3つの首を3人で抑え込み、3人同時にキックを放てば一気にキングギドラを後退させる。翼を大きく広げ、飛翔を開始したキングギドラはその大きな翼からの突風で瓦礫を巻き上げて3人への空襲を開始する。

ゼファーが前に出ると同時に風は竜巻へと姿を変えて瓦礫は空中分解され、その間にベルーガとネメシスが飛翔、キングギドラに突進。

エネルギーを込めた光の手刀でキングギドラの左右の首を切断。さらにゼファーが風の刃・サイサリスを放ち、真ん中の首をも切断する。

首を失い、墜落していくキングギドラに対して3人のウルトラマンがそれぞれエネルギーを集約し、

「サーペントブレイク!!」

「プロミネンシキア光線!!」

「ゼフィランサス!!」

3つの光線が放たれてはキングギドラの胴体を貫通してその存在を無に帰した。

「……ザナトスは彼らに任せよう」

ベルーガが言うと3人は破壊された街を元に戻してから飛び去った。


旧世界。

「馬鹿な……!?キングギドラもボーグ星人も気配が消えただと!?何が起きている……!?」

倒れながらザナトスが驚きの声をあげた。

「ザナトス、1ついい事を教えてやろう」

ライトニングが一歩前に出る。

「誰かを笑い、蔑み、貶せばいずれは必ず自分に返ってくる。人、それを因果応報と言う!!」

「黙れ!!」

立ち上がったザナトスが指を鳴らす。と、旧世界全国に散らばっていたスマッシュ達を一斉に引き寄せ、自らに吸収していく。

「……まさか旧世界をネビュラガスで汚染したのも貴様なのか……!?」

「知るかそんなこと!!」

全身銀色の異形と化したザナトスが走り、ライトニングと真っ向から殴り合う。

「ぐっ!」

「信じ合う仲間?楽しければ満足できる?それは貴様が弱いからだ!!弱い人間だからこそ逃避して笑えるのだ!!真に強いものにそんなものは必要ない!!他の全てを踏みにじってでも自分のやりたいようにすべてを叶えられる!!それが真の強さだ!!」

「それは違う……!」

ザナトスの拳を受け止めてライトニングが剣で切り払う。しかしその銀色の装甲には傷ひとつつかない。

「見ろ!お前の攻撃など私には通用しない!なぜなら私が真に強いものだからだ!!貴様もそう信じたからこそエボルトに利用されたのだろう!?」

「それは……」

「だからどうした!?」

声をあげて一歩前に出る将碁と武。

「真に強いものなら自分を奮い立たせるための言い訳なんてしない」

「本当の楽しさは誰かを蹴落として得られたりはしないんだ」

二人同時にエキサイトのガシャットを手に取る。

「「Excite!!」」

「誰かの当り前な楽しさ、ドキドキを守るために、仮面ライダーセーブ!!」

「それを邪魔する奴を決して許さない仮面ライダーリボルバー!!」

「「変身!!」」

「「The Exciting!!」」

ネビュラガスに汚染された旧世界が一瞬で自然豊かな元どおりの世界へと姿を変えた。そしてその中心にエキサイトフォームになった二人の仮面ライダーが立っていた。

「……お前達……」

「一緒に戦おう」

「それが俺たち、仮面ライダーだ!」

「……そうだな!!」

ライトニングの正拳突き、セーブの飛び蹴り、リボルバーの射撃が同時に命中して後ずさるザナトス。

「馬鹿な……!?お前達は互いに裏切られ絶望して……それなのにどうして……!?」

「人間は決して過去に負けない!!」

「ふざけるな!!」

ザナトスが飛翔して空から破壊光線を発射する。

「知るか!!」

3人の廻し蹴りの衝撃波が真っ向から破壊光線を撃ち破る。

「ど、どうしてどこにそんな力が……!?今のは地球を破壊するだけの威力が……」

「地球上の全生命はそんなくだらないことに負けない程の希望と言う名前の強さを持っているんだ」

「その強さと共に戦う仮面ライダーに」

「敗北はない!!」

自由落下を始めたザナトスに3人がそれぞれ構えを取った。

「ハイパーエキサイティングバースト!!」

リボルバーがハンドガンから発射した莫大なビームの束はザナトスを一瞬で押し戻していき、1秒で2回程地球の周りを回転させる。

「ハイパーエキサイティングフィニッシュ!!」

10周したところでザナトスは突如空中に出現したバカでかい石ブロックに叩きつけられたと思いきや、

「てやーりゃああああああああああああああああああああああ!!!!」

セーブのライダーキックを胸に受けて背後の石ブロックが大粉砕。

「がはっ……!!!」

血の雨を降らしながら石ブロックの残骸と共に落下を始める。

「Ready Go!!!ハイパーフィニッシュ!!」

3つのフルボトルからのエネルギーを最大限に起動させたライトニングが剣を振り上げるとその刃が電光へと変わり、一瞬で大気圏を突破するほどの長さになる。

「稲妻無限斬りぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

そしてそれを鉄槌がごとく振り下ろし、

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあああああああああああああああ!!!!!!」

無数の瓦礫ごとザナトスを跡形もなく消し飛ばした。

「……やったようだね」

ローズ、アイジス、利徳、紅葉、詩吹がデモンルーラーの爆発を背に決着を見届けた。

「……いつの間にか私達と同じハイパーに到達してたんですね」

「……私達もうかうかしていられませんね」

手を合わせるセーブ、リボルバー、ライトニングを見てから二人のアカハライダーはどこかへと去っていった。



戦いは終わった。CRとしての活動を終えた椎名は巨大怪獣への対策を考えて対怪獣部隊の編成を衛生省に打診した。利徳と春奈もそれについていくことにした。

馨はもう一度教員免許を取得して念願の教師になった。

烈火は春果とまたもう一度やり直すため病院に通う日々を続けることにした。もうその腰にトリニティドライバーはない。

武はバグスター犯罪に立ち向かうために政府が新設した仕事人部隊に所属、隊長として日々銃口に火を灯している。

将碁は西武財閥の新会長となって誰でも楽しめる安全な仮面ライダークロニクルの開発を嵐山親子、檀親子と共にやっていくことに決めた。

そして雷王院は再びTransferの終末医として患者に最期にして最大の楽しみを届ける日々を全うしていた。

「面白い話をしよう。君のための物語がそこにはある。冒険のように面白く、険しい物語が待っているんだ」