仮面ライダーS/L39話
Tale39:その結末はBad End
・ここは地球上のどこでもない、しかしそれを夢と呼ぶにはあまりに早計だろう。
「……ここは」
雷王院が目を覚ます。視線の先には町がある。見慣れた町。しかしどこか懐かしい違和感がある。
「……あれはまさか旧世界……!?」
「そうだ」
「!?」
声。しかしその声の主の姿はどこにも見当たらない。
「誰だ!?」
「地球の管理人とでも言っておこうか」
「地球の管理人……!?」
「今から6年前、地球の歴史は大きく歪んでしまった」
「バグスター……いやエボルトの事か?」
「違う。宇宙連合による歴史の修正。本来地球は自分の力でリセットする事も出来た。だが、そうする必要はないと判断したからこそ地球はその姿のままだった」
「……何を言っているんだ……」
「だがお前達は外側からの力で地球の歴史をリセットしてしまった」
「旧世界から新世界になった事か」
「そうだ。こっちゃいきなり始まったリセットに対応するためにお前達が言う旧世界をこうしてどこでもない、破れた世界に保存することにして何とかログを残すことに成功したんだ」
「……それがあの旧世界の景色だって事は分かった。だが、お前は何がしたい?まさか世界を旧世界に戻そうとでも?」
「そんなことをすれば宇宙連合が攻めてくるだろう。不可能な話ではないし、そうしたいのも山々なんだがな」
「……それで?」
「単刀直入に言えばいずれ第3の世界が誕生する。旧世界、新世界に続く新たな世界がな。だが、そんなのはこの星にとてつもなく大きな負荷がかかってしまう。管理人であるこっちも火の車さ。だからそれを何としてでも止めてもらいたい」
「……どうしてそれを俺に?世界の崩壊を止められる人物なら他に二人いる」
「いないからさ」
「は?」
「あまり未来の話をべらべら喋るのはよくない事だからこれ以上は言えない。だからこれを……」
・セキエイ高原。武と将碁が合流する。
「武か」
「将碁、何かあったのか?何か思いつめたような……」
「何でもない。それより遅かったがどうかしたか?」
「あ、ああ」
武は嵐山達から聞いた話をそのまま説明する。
「……確かに、クイーンバグスターなんてエボルトにとっていい餌に過ぎない。元が上級バグスターより少し上って程度のあいつに憑依しただけでキングバグスターを倒せるほどの強さを手に入れられるんだ。もしも最初からクイーンバグスターなんて存在に憑依されたら……」
「……馨さんを殺すのか?」
「もしも馨さんがクイーンになることを避けられなかった場合には、それを最優先にするしかないな。……とにかく急ごう。最優先で残り2体の上級バグスターを殲滅する!」
そうして二人はセキエイ高原の奥に向かって走り出す。草むらや山道などのオフロードが続くためバイクでの通行は難しい。一昔前ならともかく仮面ライダーとして鍛えられた今の二人には難なく踏破できる道のりだ。バグスターである武ならともかく将碁も崖などの道を数時間休まずに上り続けて何とかセキエイ高原の最奥が見えてきた。
「将碁、休まなくて平気なのか?」
「……いい。ただでさえ俺達は昨日家に帰って寝てしまったんだ。そのせいで間に合わないかもしれない。だから全速力で急がないといけないんだ……」
「……なあ、将碁。お前何か……」
「待て」
武が何か言いかけた時、将碁が足を止める。正面。中年男性が立っていた。
「あんたは……この気配、エボルトか……!?」
「ほう、察しがいいなスターライト。いや今はセーブだったか?」
エボルトが手に持って読んでいた本を閉じて近くの岩の上に置く。
「時間稼ぎのつもりか?」
「まあ、そんなところだ。この先は今は大事なことをやっているんでな」
「……馬鹿かお前は」
「あ?」
「お前を倒すのがそもそもの目的。ここでそれが果たせるのなら願ってもいない事だ!」
将碁がガシャットを出し、武もやや遅れてガシャットを出す。
「「Excite!!」」
「「変身!!」」
「仮面ライダーセーブ!!」
「仮面ライダーリボルバー!!」
「「The Exciting!!!」」
変身を終えた二人が速攻でエボルトに迫る。
「容赦ないな」
その手が届く前にエボルトはブラッドスタークの姿に変身して攻撃を回避する。
「何!?」
「お前達の相手は俺じゃない」
エボルトがわざとらしく執事みたいに敬礼をすると、その背後から瑠璃が歩いてきた。
「瑠璃さん……!!」
「……変身」
「テンペストフォールイージス!!聖なる守護の翼、降臨せよ!アイジス・テンペスト!!!」
アイジスの姿に変身した瑠璃が翼を広げて二人に向かっていく。
「どうする?今のそいつはお前達の3分の1ほどの力もないぞ?手加減を誤ればあっさりと殺すことになる。だが、そいつはお前達を全力で殺しにかかる!」
「最初からわかり切っていたことだ!」
セーブは向かってきたアイジスよりも早く一歩を踏み出し、その勢いのままの飛び膝蹴りをその顔面に叩き込む。
「ううううっ!!!」
アイジスが悲鳴を上げて後ろに倒れる。
「……ムエタイか。まさかお前、本気で……」
「無駄口をきいている暇があるのか、エボルト!!」
セーブが走り出し、その勢いのままの飛び蹴りをエボルトの胸に叩き込む。
「ぐっ!!」
「今の俺を相手に喜劇も悲劇も生み出せると思うな!!」
後ずさったエボルトの顔面にこれでもかと言う程の拳を叩き込むセーブ。
「お、おい……」
「リボルバーは先に!ここは俺で片を付ける!!」
「…………分かった」
リボルバーが電子変換を用いて先行。エボルトはそれに気付いていたがセーブの怒涛の攻撃を前に防戦一方だった。
「ハザードトリガーでもついてるのか!?」
「違う!!お前を倒す正義の意思だ!!」
ついにエボルトの防御が崩れ、セーブの膝蹴りがエボルトの心臓を穿つ。
「ぐっ!」
「お前のような卑怯者は逃がしちゃいけないし、怯んでもいけない。持てる力の全てでド直球に叩き潰す!」
続いてエボルトの頭を抱え込み、その顔面に飛び膝蹴りを叩き込む。
「カウ・ロイ!!」
「ぐっ、今のお前には話が通じないわけだな。なら一度退かせてもらおうかな」
「許すとでも!!」
「それはお前が決める事じゃない」
次の瞬間、エボルトはまるで電子変換されたように姿を消した。
「……先に急……」
ごうとした時、セーブを後ろからアイジスが羽交い絞めにする。
「行かせない……」
「瑠璃さん……いや、アイギスバグスター……!ここが年貢の納め時だ!」
セーブは軽々とアイジスを振りほどき、膝蹴りの一撃でアイジスをぶっ飛ばす。
「ううううっ!!!」
地べたを転がりまわり、変身が解除されてズタボロの瑠璃の姿になる。
「……悪いけど、」
セーブがゆっくりと歩み寄り、気絶している瑠璃の頭に向かって足を踏み下ろす……直前、
「!」
青い光が迸ったかと思えば一瞬で瑠璃の姿が消えていた。そしてセーブの背後に瑠璃を抱いたバイオライダーがいた。
「あれは確かチートライダーの……」
「お前にもそれくらいの知識はあったか」
「……お前、」
やがてバイオライダーはライトニングの姿になった。そのベルトにはネオスターライトドラグーンのガシャットが刺さっていた。
「雷王院……どうして……!?」
「お前達が、いやお前が道を踏み外さないようにな」
「……お前が言うな」
構えを取ったセーブがミサイルのようにライトニングに向かっていく。
「ブライトタブレット!」
ライトニングがタブレットを出す。次の瞬間にはライトニングの姿が魔人ケイブリスになっていて股間から伸びた無数の触手でセーブの飛び膝蹴りを受け止める。
「!?」
「冷静になれ」
「そこをどけ。急がないと大変なことになる。それともお前、まだエボルトの影響があるのか?」
「ないと言っても信じないんだろう?」
「当たり前だ!お前を瞬殺してから先に進ませてもらう!」
触手を廻し蹴りで粉砕してセーブが接近。ケイブリスの腹に飛び蹴りを叩き込む。無敵結界の上から激痛が走る。
「くっ、やっぱり無敵結界は完全に再現されなかったか」
「お前が父さんの残したガシャットを使うな!!」
「俺とお前の親父さんは同じ気持ちだ!」
「言うな!!!」
セーブはケイブリスの巨体を持ち上げて頭から地面に叩き落す。と、
「分からず屋が!」
魔人ケイブリスから魔王ケイブリスの姿になり、全身から破壊光線の雨を降らせる。
「そんなもの!!」
セーブが裏拳の一撃で全ての破壊光線を薙ぎ払い、一気にケイブリスの顔面に接近して跳び膝蹴り。命中した場所から亀裂が走り、瞬く間にケイブリスの巨体が砕けていき、残骸からライトニングが顔を出す。
「ちっ、ここまでとは……」
「お前も瑠璃さんもまとめてその機能を破壊する!だが安心しろ!後からバグスターとして復活すればいいだけの話だ!」
「なるかよ!!」
「Acceleration!!」
ライトニングの姿が変わり、超高速で走り出しセーブの顔面にパンチを繰り出す。
「遅い!!」
しかしセーブはそれを受け止め、一瞬で柔術家にシフトしてはライトニングをたやすく投げ飛ばす。
「お前の暴走を止められなかった。もっと早く仕留めておけばそれも出来たかもしれない!だが俺はお前を信じてしまった!そのせいでリセットされたとは言え世界は壊滅したんだ!だから俺はもう迷わない!結果だけを優先する!!もう、誰も信じない!!」
「この馬鹿野郎!!」
着地したライトニングが再び走り出し、セーブの繰り出したパンチに対してクロスカウンターを叩き込んだ。
「!?」
「ぐふっ!!!」
セーブの拳がライトニングの胸を穿ち、その変身を解除させた。
「がはっ!!!ごほっ!!ごほっ!!!」
倒れて吐血する雷王院。対してセーブは2歩下がるだけ。
「……もう気は済んだだろ?これ以上俺の前に姿を見せるな」
それだけ言ってセーブは超スピードでその場を去った。
一方。セキエイ高山の頂上。
「……いよいよクイーンの誕生だ」
カイトがボロボロの表情でつぶやく。その背後には手足の関節が逆に折り曲げられた椎名と利徳が倒れていた。
「くっ、将碁は間に合わなかったのか……?」
「別にいいじゃない。地球上の全生命がバグスターに置き換わるだけよ」
パペットがやたらと綺麗なゴスロリ服で姿を見せる。先程までは戦闘の影響でボロボロだったのが電子変換で新しいものに変えたのだ。
「さあ、目を覚ましなさいクイーン」
パペットが日傘を向ける。と、山のご神木とも形容できそうな大木に張り付けられた馨が表情を歪め始める。
「あうううう……!!!うあああああああああ!!!」
「そんなに苦しまないで、馨」
「……うううう……!!」
パペットが顔を寄せれば、一瞬だけ馨の心に隙間が出来てしまい、そして……。
「……まさか……!!」
椎名の前。そこに電子変換で転移してきたリボルバーがハンドガンを向けた瞬間に、異変は起きた。馨と背後の大木がまるでガラスのように割れたと思えば次の瞬間には巨大な姿がそこにはあった。形容すれば木で作られた天使のアート。しかしその翼はどこまでも続いていてまるで空と一体化しているようだった。
「あれがクイーンバグスター……遅かったか……!!」
リボルバーがハンドガンを下ろす。
「遅かったな。喜屋武」
「カイト!!」
リボルバーがハンドガンをカイト向けて発砲する。しかし、カイトの足元から出現した大木がそれを受け止めて防ぐ。
「馨さん……」
「我らが女王、我らが母を人間の名前で呼ばないでもらえないか?……さあ、母よ。この世全ての生命をバグスターに!」
「…………」
クイーンは大木の何倍もの大きさの両腕をゆっくりと振り回し、地面へと突き刺す。すると猛烈な速さで大地からすべてが電子変換されていく。
「くっ!こ、これは!?」
後ろを見れば椎名と利徳が電子変換させられて元の姿に戻る。
「ま、まさか今の一瞬でバグスターになってしまったのか!?」
「……確かにこの感覚、前に味わったことがある……」
驚愕する二人。その前で高笑いするカイト。
「いいぞ!まだ10秒も経っていないのに1万人以上も既にバグスターになっている!このままいけば30分以内には全人類がバグスターとなる!!」
「させない!」
リボルバーがクイーンに向かって連射。確かな破壊を与えているのだがしかしクイーンのサイズが大きすぎるため大した痛手にはなっておらず、その動作を止める事も出来ない。
「母よ、我に力を」
さらにカイトが大木の中に吸い込まれると、やがて大木が巨大なクラーケンバグスターへと姿を変える。
「これで貴様達をごみのように踏みつぶせるわけだ!!」
「やってみろ!!」
リボルバーが発砲。しかしクラーケンは被弾箇所が破壊されても猛烈な速度で修復されていく。逆にクラーケンが一歩すれば地面から無数の蔦が伸びて一瞬でリボルバーの全身をグルグル巻きにしてしまう。
「くっ!仮面ライダーが戦っていい相手じゃないぞこれ!!」
「ならどうする?助けてウルトラマンとでもいうつもりか?」
クラーケンが笑えば、リボルバーを束縛する圧力が増強されていき、全身の骨を砕かんばかりに締め付ける。
「ぐううううううう……!!」
「このまま我が養分となれ!!」
「武ぃぃぃぃぃっ!!!」
と、そこへセーブが走ってきてクラーケンを蹴り飛ばす。
「し、将碁……」
「大丈夫か!?」
セーブの手刀がリボルバーを縛る蔦をすべて粉々にする。
「将碁、大変だ」
「分かってる。クイーンが誕生してしまったんだな。残った上級バグスターもろとも消し去る」
「お、おいおい……!だからクイーンは馨さんだぞ!?」
「けど、もう止められない。エボルトが近くにいるんだ。一刻も早く跡形もなく消し飛ばさなければ世界はもっと大変なことになる……!」
「させるか……!!」
起き上がったクラーケンがセーブに向かっていく。
「相良宗介、ラムダ・ドライバの力を!」
セーブが念じると、どこかの世界にいる相良宗介のイメージがセーブにラムダ・ドライバの力を与える。そしてイメージの力を宿したセーブの拳がクイーンに叩き込まれ、
「いやああああああああああああああああ!!!!!」
「!?」
絶叫をあげた。クイーンの超サイズな大木のようなボディが大きくへこみ、そして馨の声で悲鳴が上がり始める。
「何なの……何なのこれ……!?」
「……馨さん……!?」
着地したセーブ。対してクラーケンが笑う。
「お前達のために人格だけは残しておいたのさ。尤もクイーンとしての人格も存在している。むしろあの女の人格だけが録画映像のように残っているのさ」
「……貴様……!!」
「未来が存在しない過去の映像でしかない仲間の女のために人類を売れるのかな?売って見せたらどうだ?仮面ライダー!」
クラーケンがセーブに向かって手を伸ばす。セーブは巨大な腕にも関わらずに片手で払いのけてクラーケンへと跳躍。
「貴様だけでも!」
拳を放つ。しかしクイーンから伸びた蔦が盾となり、セーブのパンチを受け止めて粉々になる。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!痛い!!!痛いよおおぉぉぉぉ!!!!」
「……くっ!!」
着地するセーブ。高笑いをするクラーケン。その間にも秒速1万人のペースで人類がバグスターへと電子変換されていく。
馨の絶叫響く世界で、セーブは何も出来なかった。
「……どうして、覚悟したのに……どうして殺せない……!?クイーンを殺さないと世界が大変なことになるって言うのにどうして馨さんを殺せないんだぁぁぁぁっ!!!!」
「それはお前が人間だからだよ」
「!?」
声。振り向けば雷王院が立っていた。
「お前……」
「ライトニング!!ネオスターライトドラグーン!!スーパーベストマッチ!!Are you Ready!?」
「変身!」
「迸る雷龍転生!!ライトニングドラグーン!!イイイィィィェエエエイ!!!」
「Acceleration!」
見る見るうちにライトニングの姿が変わっていく。
「……お前、まさか……」
「俺は彼女が見えないからな」
「Ready Go!!!ドラゴニックフィニッシュ!!!」
「や、やめろぉぉぉぉっ!!!」
ライトニングが跳躍。稲妻を迸らせながら左拳を正面に突き出すと、ドラゴンのような形状の電撃が放たれてクイーンのボディに命中。
「!!!」
「いやああああああああああああああああ!!!!!」
馨の悲鳴は轟く。だが、雷王院には聞こえない。だから放たれた雷は出力を最大まで振り切り、
「ぐおおおおりゃああああああああああああああああ!!!!!」
ついにはクイーンのボディを貫き、内側から発火炎上させた。
「ら、ら、ライトニングぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
迫るクラーケン。出力を出し切って空中で動けないライトニングをたやすく殴り飛ばし、
「ごふっ!!」
変身が解除されて雷王院が転げまわる。ただでさえ重傷の状態だった雷王院だが転がるたびに全身から血が吹き上がる。
「……お前……」
足元に転がってきた雷王院をリボルバーが見下ろす。
「……はやく……や……ちまえ……」
「……分かった。将碁!!!」
「……くっ!!」
セーブとリボルバーが同時に跳躍。クラーケンが振り向いた瞬間に、
「ハイパーエキサイティングフィニッシュ!!」
「ハイパーエキサイティングバースト!!」
リボルバーが発射したビームの束がクラーケンを完全に飲み込み、その体を完全に焼き尽くす。
「がはっ!!」
そして炎の中から落ちてきたカイトに向かってセーブがライダーキックを叩き込む。
「てやーりゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
衝撃は炎も光の束も貫き、セーブとリボルバーが着地すると同時にカイトは倒れ、大爆発して消滅した。
「……馨さん……」
そして二人は炎上しながら朽ちていくクイーンを見あげる。
「…………」
クイーンは何も言わず、そのまま何時間もかけてこの世から完全に焼き尽くされて消えた。
「……こんなの、望んでない!!」
セーブが咄嗟にクイーンが消えた後の虚空に両手を突っ込む。すると紙のように虚空が破けてそれが広がっていく。
「全部……全部なかったことになれば……!!!」
「……将碁……」
セーブが開いた虚空の先に旧世界の景色が見える。
「あれは……」
「いや、よくやってくれたぜ本当に」
「!?」
声。振り向けばそこにエボルトがいた。
「エボルト!!」
「ふっ、」
エボルトが手を前に出す。すると、破れた世界の先から黒い箱のようなものが出現してエボルトへと引き寄せられる。
「あれは……いや、見たことがある……。あれはまさか……」
「パンドラボックスだよ!!!俺の力の源ぉぉぉぉ!!!」
エボルトがパンドラボックスを掴み、その胸へと注ぎ込む。すると見る見る内にエボルトの姿が変わっていく。紫色のまるで内臓のような不気味な色と形状となったエボルト。
「これが俺の完全体!本来の姿だ!!!ヌゥハッハッハッハッハッハ!!!よくやってくれたぜお前達!!パンドラボックスが破れた世界にあるって事は知ってたけど流石の俺様も手が出せなくってな!!いやぁ、セーブが人の心を忘れたようになった時はちょっと焦ったぜ。なんせ、お前程の力の持ち主が心から後悔してやり直しを望まない限り破れた世界への扉は開かれないんだからよぉ!!!いやぁ、人間様々!!人の心様々だぜ!!ヌゥハッハッハッハッハッハ!!!」
「ふ、ふ、ふざけるな!!!」
セーブが走り、リボルバーが発砲。しかし突如としてエボルトの前に出現した黒い何かが銃弾を飲み込み、接近したセーブを弾き飛ばす。
「何!?」
「ライトニングから聞かなかったか?真の俺の力はブラックホールだとな。この力で、そうだな。今すぐ地球を滅ぼしてしまっても構わない。だが、それじゃつまらない。だから24時間くれてやるぜ。24時間後に俺はブラックホールの力で地球を跡形もなく消し飛ばす。その間は好きに生きろ。じゃあな、チャオ」
それだけ言うとエボルトは発生させた黒い球体の中に吸い込まれて消えた。あとに残ったのはセーブとリボルバーと傷だらけの雷王院達と、クイーンの残骸だけだった。