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仮面ライダーS/L 43話

Tale43:Xed the world

・破れた世界。将碁と雷王院がバイクでやってくる。
「あ、お前達」
戦兎が何か黒板に図式を書きまくってる。
「……何か用か?」
その奥で管理者はソファに座っていた。振り返らずに背中越しに疑問を投げる。
「答えは決まった。今すぐ俺の願いを叶えてほしい。つまり、第一世界に戻してくれ」
「なるほど。しかし断る」
「……は!?」
将碁、雷王院、戦兎が驚きの声をあげた。
「外の様子は見ていた。つまりお前達は宇宙連合によって滅ぼされてしまう地球を元に戻すために第一世界に戻すようこっちに嘆願してくれているわけだ。だがな、そんな後ろ向きな理由で世界を左右できる訳ないだろ」
「け、けど……!」
「確かにこのままなら地球は奴らの手によって滅ぼされてしまうだろうな」
「……分かっているならなぜ断る?」
雷王院が一歩前に出た。
「お前は地球の管理者であり、宇宙からの敵対者に関しては認めない旨を話していなかったか?今の事態、宇宙からの脅威によって地球は滅ぼされようとしているんだぞ?なのになぜ動かない?」
「確かにこのままならそうなる。けどこっちがわざわざ地球の最期を用意すると思ってるのか?ちゃんと地球は戻すし二度と宇宙連合の奴らも近づけさせない。次に近付いたら殲滅してやる。人の庭をよくも滅茶苦茶にしてくれやがったなって。けど、それを行なうのはお前達人類が絶滅してからだ」
「……何!?」
「決断したのさ。お前達人類じゃこの地球を任せられない。だからリセットする。お前達の中で最初に脱落した奴と同じ感じだな。地球を一度完全にリセットするのさ」
「……どうして俺達が死んだ後にリセットを掛けるんだ?どうせやるなら順序なんて関係ないんじゃないのか?」
「ああ、関係ないな。けど、」
「君達の力を見てみたいんだよ」
声。それは少女のもの。見れば管理者の隣にいつの間にか中学生くらいの少女が立っていた。
「誰だ!?」
「……いや、この声どこかで……」
反応を見せる将碁と雷王院。対して少女はもったいぶった表情と仕草で続けた。
「まあまあ僕の事は誰でもいいじゃない。地球の管理者の……ワイフとか?」
「……お前は本当に人のトラウマをほじくるのが好きなフレンドなんだな。いや、お前をフレンドだと思ったことは一度もないがな」
「まあまあいいじゃない。フレンド以上の関係でもあるわけだし」
少女が意味深に笑う。と、将碁と雷王院は声をそろえた。
「「……ロリコン?」」
「違う!!全部こいつが悪いんだ!」
「あれれ~?それあんな顔してあなたに本音を語っていたあの子に同じこと言えるのかな~?」
「そもそもお前とあの子は同一人物じゃないだろうが!!」
「……漫才はその辺にしてほしい」
雷王院が咳払い。
「……俺達の力が見たいからまだリセットをかけていない……あんたはそう言ったのか?」
「僕、この人の事ならある程度は分かるからね。付き合いも長いし。つまり、この人はこう言いたいんだよ。自分がこうやって突き放して、しかしリセットまでの猶予はやるからその間に自分達の手で解決してみろ。そうすれば願いを叶えてやらなくもないぞ?って」
「……ツンデレだったのか」
「うるさい!!……まあ、全部こいつが言ったとおりだ。24時間以内に宇宙連合と決着をつけな。さもなくば本当にこの世界を終わらせる」
「……逆を言えば地球を心配する必要はないって事か?」
「ああ。さっきマントルぶち抜かれたが実際には既に修復してある。そして地球にも結界を張ってあるからあのゼノンって奴は宇宙に出ることはない。サービスだと勘違いするなよ?お前達が倒せなかったらその瞬間、ジ・アースとしての力で奴を消滅させるだけだ。その役目をお前達に一日だけ預けてやるってんだ。感謝してさっさと第二世界に戻りやがれ」
すると、3人の背後に時空の歪みが出現して元の世界へと俄かに吸い込まれていく。
「……あ、そうだ。雷王院歴」
「ん!?」
「これを」
管理者が雷王院に向かって何かを投げた。それはUSBメモリだった。


「……随分だね」
そして誰もいなくなった破れた世界で少女が意地悪に告げた。
「…………いい加減にしないと“破壊”のあの子を呼ぶぞ」
「さっき話題にしたからってそのお返し?」
「いくら調停者を生み出した本人だからって破壊の調停者には破壊されざるを得ないはずだ」
「……………………………………楽しみにしているよ」
それだけ言って少女は姿を消した。


・都内。戦場。
「……はあ、はあ、」
武が建物の陰で膝を折っていた。
「流石にゲムデウスの力でもそろそろきついぜ全く……」
武がそ~っと街中を見る。そこで5体のキングバグスターがたむろしていた。
「いくら倒してもクイーンの力で何度でも復活してしまう。まったく、こういうシチュエーション嫌いなんだよな。もっと素直にやらせろってんだ」
ぶつくさ言っていると5体のキングバグスターが急に動きを変えてどこかに飛んでいく。
「……何だ?」
やがていくつもの大きな音が響くようになった。
「戦闘音……!?けどあいつらはまだ帰ってくるには早すぎるし、椎名達だってまだ……」
やがて、1つの姿が高速で空を貫いたのが見えた。アイジスだった。
「瑠璃さん!?」
「……!」
その声に気付いてアイジスが近くに着地する。
「喜屋さん!どうしたんですか!?いったい何があったんですか!?」
「話はあと!瑠璃さんならあのキングバグスター相手に時間稼ぎできるか!?」
「……時間稼ぎくらいなら……」
「頼む。俺はその間にクイーンバグスターを倒す。そうしないとキングバグスターは何度でも……」
「はい、そこまで」
「!」
声。見れば二人の前にパペットがいた。
「パペットバグスター!!」
「その呼称、正確じゃないんだよね。バグスターとしての名前はリザードバグスターだし」
「……何の用だ?風穴開けられたいのか?」
「まったく?ただ取引しに来たのよ」
「……取引だと!?」
「そう。私の目的は知っているわよね?ハーレム」
「……それを叶えたとしてお前は何をしてくれるって言うんだ?」
「クイーンを止めてあげるわ」
「何!?」
「考えても見てよ。もう私のほかに上級バグスターはいない。あそこにいるクイーンとキングはガワだけコピーした存在。高レベルだけど、上級ではない。低レベルだけど上級の私になら制御できる。そしてバグスター側に誰も私に指図できる存在はいない。……このまま放置したらものすごい勢いで人類はバグスターになっていく。全人類をバグスターにされてもいいのか、それとも私が気に入った美人だけをハーレムとして献上するのか。どっちがいい?」
「論外だな。メリットがない」
「どういうこと?」
「俺はお前の指図に従わなくてもお前もクイーンもキングも倒せんだよ。仮面ライダーリボルバー・The exciting!!」
ガシャットのスイッチを押して武の姿がエキサイトフォームになる。
「パペット!!もう世界はお前が想像できるレベルをとっくの昔に越えた現実に達してるんだよ!!」
リボルバーがハンドガンを向ける。
「こ、郡山馨を生き返らせると言っても!?」
「……何?」
「人間としては無理だけど、バグスターとしてなら生き返らせられる。美人だから私のハーレムに入ってもらうけど、それでも自我は持ったまま復活させてあげるわ!!それでどう!?」
「……」
「逆に言えば最後の上級バグスターである私を殺せば二度と郡山馨は復活しないわ!ううん!郡山馨だけじゃない!アイギスにめちゃくちゃにされたあんたの家族、故郷も全部バグスターとして復活させてあげる!この奇跡はもう私にしか叶えられない!!」
「……」
アイジスは黙ってリボルバーを見た。何も言わない。仮面のため表情も分からない。リボルバーがそれに気付いているのかもしれない。しかし、
「!?」
銃声が響いた。
「…………え」
硝煙が風に舞う時、パペットの胸に小さな穴が開いた。
「……ど……うしt……」
「人間は、死んだら終わりだから人間なんだ。どんな形であれそれを覆したものは人間じゃない。馨さんを死なせてしまった……いや、殺してしまった事実も家族や故郷をめちゃくちゃにされた事実も、全部終わった事なんだよ。過去なんだ。過去は思い出すものであって、懐かしむものであって引きずるものでも況してや巻き戻すものでもない!」
「あ、あんたバグスターでしょうが……!」
「心は人間でいたい」
「……人間……私にはもう……分からないわね……」
パペットは倒れ、しかし地面に背を落とす前に完全に消滅した。
「……よかったんですか?」
「やけくそでもいい。未来に向かって生きられなくなったら人間は終わりだ」
リボルバーが言うと、銃声に反応して5体のキングバグスターが迫ってくる。
「瑠璃さん、頼んだ」
「……はい」
アイジスが飛翔してキングバグスター達を攻撃して気を引き付ける。その間にリボルバーはハンドガンに可能な限りエネルギーを集中する。
「……クイーンバグスターの再生能力はゲムデウスに匹敵するかそれ以上。ちまちま攻撃しても意味がない。だから、これで最後にしてもいい……それでも俺はこの一撃にかけてクイーンバグスターを消し飛ばす!!」
エネルギーが集約する。景色さえ歪ませるほどの膨大なエネルギーが全国から集められていく。あまりの高エネルギーにリボルバーの全身に亀裂が走り、しかしゲムデウスの力で再生していく。そのたびに夥しいまでの激痛が叫びをあげる。
「バグスターである俺だけが限界を超えてでも戦える……唯一の仮面ライダー……!!」
しかし、そこでリボルバーの、武の意識は途絶えた。


「ここは……」
そこはどこかで見た事のある部屋。それは幼き頃の記憶。
「……海龍王国の玉座の間……」
見れば両親や弟がいる。皆、国王である自分を讃えている。
「……おいおい、マジかよ。俺が海龍王国の王様になったifだとでも?」
「兄上」
「え!?」
弟が口を開く。
「今日は西武大臣との打ち合わせがあります」
「……そうか」
一瞬で場面が変わり、椎名との打ち合わせが始まった。よくわからない内容。しかし打ち合わせは何の問題もなく終わっていく。
「喜屋武王、あなたのようにシンプルでわかりやすい政策をしてくださる方はとてもありがたいですよ」
「……そうか」
単純でしかし、何もかもが酷く物足りない。
椎名の腕や立場なら本州側の代表になることもおかしくはないだろう。
だが、
「……へっ、たとえ妄想でも夢の中でもこんな退屈なのはごめんだぜ」


「……なぁ?」
リボルバーがチャージを終えた。感覚が既に死に絶えている。それでもこれが夢ではないと言うのは見ている景色でわかる。
「障害がなかったら面白くない。リセットなんてifなんて俺はまっぴらごめんだ!!ハイパークリティカルバースト!!FIRE!!!」
引き金を引く。それが最後のトリガーだったとしてもリボルバーは自分の両腕と引き換えに最期の一撃を……
「させるか!!」
「!?」
砕け散ろうとしていたリボルバーの両腕をセーブとライトニングが握りしめた。
「お前達……!?」
「負担を分けろ!!」
リボルバー一人を襲うはずだったエネルギーの氾濫はセーブとライトニングにも流れていき、リボルバーの両腕は崩壊よりも再生が勝っていく。
「「FIRE!!」」
そして二人の力によってリボルバーの銃口から正常に砲撃が発射されてまっすぐクイーンバグスターを貫く。貫通した場所から凄まじいエネルギーがクイーンバグスターの全身を駆け巡り、1秒と待たずにその肉体を完全に消し飛ばした。
「……どうして……」
「願いが違おうが、道が分かれようが見捨てられるか」
過労で倒れるリボルバーをライトニングが受け止めた。
その背後。1体のキングバグスターが迫りくるのが見えた。
「コズミューム光線!!」
振り向くと同時にエクリプスモードの姿になったライトニングが光線を発射してキングバグスターに命中。そこから波紋のように黄金の光が周囲に広がっていき、他4体のキングバグスター、そしてアイジスにさえ光が届く。
「……これは……」
アイジスの体内からアイギスバグスターウィルスが除去され、レベル20の姿になった。さらに5体のキングバグスターは光の粒子へと変わり大地に降り注げば戦いの被害が修復されていく。
「お前達……」
「今は休んでいろ」
「……よくやってくれたな」
二人がリボルバーの肩を優しく叩く。それが引き金になったのかリボルバーは武の姿に戻り、眠るように意識を失った。
「瑠璃ちゃん」
ライトニングが声を飛ばせばアイジスが傍に着地する。
「はい」
「こいつを頼む」
「……分かりました」
アイジスが武を背負うとまっすぐCRの方へ飛んでいく。それを見届けてからセーブとライトニングは互いに視線を合わせた。
「……変身を解け」
「は?」
「今すぐだ」
「……?」
言われるがままにセーブは将碁の姿に戻る。同じようにライトニングも雷王院の姿に戻る。直後、
「!?」
「……すまない」
雷王院の拳が将碁の下腹部を打ち、将碁は気絶して雷王院の胸に倒れた。
「……」
気を失った将碁を近くのベンチに寝かせると、
「ゼノン!!!出てこい!!」
空に向かって叫ぶ。全ての戦いの騒音が終わり、静寂を取り戻した空の果てからやがてパンドラボックスを持ったゼノンが姿を見せた。
「……ライトニング、貴様何をした?どうして地球の外に出られない?」
「……ゼノン、地球は今蓋をされている。リセットされようとしているんだ」
「……そうか、ジ・アースの仕業だな。破れた世界とも干渉していようとは、ますます生かすわけにはいかない。そんな危険な生物は排除するのが我々宇宙連合の仕事だ」
「それは違うぞ、ゼノン」
「何?」
「ゼノン、何が何でも排除すればいいって言うものじゃない。命はやり直せるんだ。生きている限り何度でもやり直せる。過ちを償うことが出来る。それが人間なんだ」
「大罪人の貴様が何を言うか」
「罪を背負ったからこそ言えるんだ」
「旧世界でも新世界でも貴様は罪を背負った。エボルトによる宇宙の破滅の危機を見てもなお、自らエボルトの操り人形と化し地球を滅ぼしかけた今もなおどうしてそのような言葉を出せる?それこそが地球人の危うさと言うものではないか?」
「だが、やり直せる。ゼノン、地球人をこの星を消すのはやめてほしい」
雷王院は頭を下げた。その様にゼノンはわずかに表情を変える。
「詫びになるとでも?貴様が地球の流儀を語るのはいいとして、私には宇宙連合の流儀と言うものがある。その正義に誓ってこの星を、この星の民を許すわけにはいかない」
「それでも、信じてほしい」
「……許せとは言わないのか?」
「言わない。地球人は不確かだ。いくらでも罪を犯す。中にはその自覚がないものさえいるだろう。だが、少ない悪人のために多くのいい人を見捨ててもいいものなのか」
「……」
「人には可能性がある。その可能性を危険性のために踏みにじることが宇宙の正義だとでもいうのか?お前は罪を犯したことがないとでも言うのか?可能性を踏みにじることが罪ではないとでも言うつもりか?」
「偽善だな。ライトニング。確かに貴様の言う通り地球人には可能性と呼ぶべきものがあるかもしれない。ほんの1万年前まで宇宙と言う概念さえ知らなんだ種族が既にこうやって宇宙連合と関りを持てている。その功績自体は非常に目を見張るものだ。だが、それ故に地球人は多くの過ちを犯す。それは貴様が一番よく知っている筈だ。エボルトの口車に乗せられて宇宙連合に牙をむき、ついには己の星さえ滅ぼそうとした。そのような種族が宇宙や世界を滅ぼさないと何故言える?その可能性がないと何故言えるのだ?」
「言うつもりはない」
「……何だと……!?」
「生きているものに地球人も宇宙人もない。地球人は確かに宇宙をも滅ぼす可能性を秘めている。だが、救う可能性もまた秘めている。地球人は、破滅の光も救済の闇も知っている。だからこそそのどちらをも天秤に乗せる力を秘めているんだ。ゼノン、地球人の可能性はそう言うものだ」
「……認められないな。地球人はあまりに危険すぎる存在だ。調停者にさえなりうる存在を放置しろなどと本気で言えるのか?」
「監視してもらって構わない。危険と判断した行為には手を下してもらっても構わない。だが、」
「そんなことを貴様に言う資格があるとでも?」
「ないかもしれない。それでも俺は地球人だ」
「……そのような支離滅裂にこの私が頷けるとでも思うのか?」
「……頷くまで、せめて様子見でもいいから可能性を感じてくれるまで俺は説得を続ける」
「……それでもなお退かぬと、この星を破壊すると私が言えばお前はどうするのかな?」
「その時は、人類の可能性のためにお前と戦ってでも止めて見せる。相手を殺すためではない戦いを、相手に自分を信じてもらうための戦いを続ける。それが人類の戦う意味だ!」
「……小賢しい!」
ゼノンはパンドラボックスを掲げる。すると、大地が激しく揺らぐ。
「これは……」
「今この星は外からの脅威に立ち向かうために結界のようなものが張られている。ジ・アースの力でな。それを外から破壊することは至難を極める。だが、内側からならどうか」
「……ゼノン……!」
「滅ぼすための力でないと言うのなら、相手に認めさせるための戦いだと言うのなら、まずはこの私にこの星の破壊をやめさせてみろ!」
「……」
雷王院はドライバーからネオスターライトドラグーンのガシャットを引き抜いて眠っている将碁に握らせる。
「人間が強さと呼ぶ力はそのためにある。そしてそれを実際に可能と導くものを人はヒーローと呼ぶんだ!!」
「ライトニング!!バージョンティガ!!Are you Ready!?」
「変身!!」
「不死身のサンダーボルト・ライトニングスリィィィイイイイェェェェェェイ!!!」
変身を終えたライトニングがゼノンに向かっていく。
「ストラーダ!!」
接近しながら槍を召喚してゼノンの持つパンドラボックスへと刺突を放つ。稲光のように鋭い一撃は、しかしゼノンにもパンドラボックスにも届かない。
「!」
「その程度で何が強さか!」
パンドラボックスが小さく光ると、衝撃波が発生してライトニングを吹き飛ばす。
「ぐっ!!」
後退が止まらない。ストラーダの穂先を地面に突き刺してもなおライトニングは真後ろへと全速力で退けられていく。
「そのまま彼方へと消え去るがいい」
ゼノンの声が小さく遠くライトニングの耳に届いた時、彼我の距離はそれ以上離れることはなかった。
「何……!?」
ライトニングの後退が止まっていた。
「俺は教わったんだ。あいつらの仮面ライダーとしての強さの一部を」
「……なるほど。ライトニング3のラーニング機能でエキサイトフォームの性能を劣化コピーし、今の攻撃に対する防御力を発揮したという事か」
「そんなんじゃない。自分だけが、自分一人がと焦ることなく生きるという名の快楽を得るために分け隔てなくあらゆる命と力を合わせて強くなるその生き方だ。奴らはたった一人でも、守るべきもののために戦う俺の姿に仮面ライダーとしての強さを感じてくれたのかもしれないが俺からしたら奴らの群れる事の強さの方が羨ましい。それをこのライトニング3は少しでも実践させてくれる。俺はあいつらのようにはなれない。誰かと一緒に楽しむために戦うなんてことは出来ない。けど、それを守ることは出来る。一人だけど、一人じゃない」
「……支離滅裂だな」
「なら理路整然と教えてやるぞ、ゼノン。これが人間の可能性の力だ!」
再びストラーダの銀の槍を構えたライトニングがゼノンに向かって駆けていく。先程よりかも幾段か速度は上がっている。だがゼノンからすればまだ遅い範疇にある。
「分からないのか?お前達がその可能性とやらを示す事こそ我らにとっては脅威にしかならないのだと!」
パンドラボックスから破壊光線を放つ。それは先ほどマントルを撃ち抜いたものと同じ。つまりライトニングにはどうやっても止められない一撃である。
だが、
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「!?」
ライトニングは真っ向からその破壊光線に飛び込んでいく。
「馬鹿な!塵も残らんぞ!?」
通り抜けた衝撃波だけで町々が破壊され、大地に亀裂が走るほどの凄まじい熱量の黒は、しかしライトニングの質量を消し飛ばせないでいた。
「な、何を……」
何が起きているのか、ゼノンには分からなかった。いや、視覚は出来ていたが理解が出来ない。
「ボルテックフィニッシュ!!」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあああああああ!!!!!!」
ライトニングはボルテックフィニッシュでストラーダの槍を何度も破壊光線の熱量の壁に叩きつけてはわずかにその威力を相殺、次の瞬間にはまたボルテックフィニッシュを発動させては少しずつその凄まじい熱量を削っていた。本来、この方法は不可能だ。フルボトルのエネルギーを臨界点まで引き出し一時的に100%を超える出力を発揮するボルテックフィニッシュを連発しようとすればフルボトルもライダーシステムも、何より変身者の肉体が持たない。が、ライトニング3のマフラーとベルトが真っ白に輝いていた。
「まさか、破壊光線のエネルギーを少しずつ吸収しているのか……!?」
実際賭けにも満たない、とんでもない方法だった。だがライトニングは実行した。一縷の迷いも許されない決死の作戦。沈む前に足を進めれば水の上を走れると言わんばかりの無茶。
それでも現実としてライトニングはそれを成功させていた。
そして、
「……………………」
「はあ……はあ……はあ……」
ゼノンの眼前。そこに雷王院が立っていた。ライトニング3の機体は完全に破壊され、ベルトも発火炎上していた。それでも雷王院が握ったストラーダの穂先はパンドラボックスを貫いていた。
「……馬鹿げている……」
「ああ、俺も成功するとは思わなかった。けど、これが可能性って力で……そして、やろうと思えば出来てしまう力だ……。それは人間だから可能なんじゃない。きっとお前にだって出来る……力だ……」
パンドラボックスに亀裂が走り、割れるのを見届けた雷王院はその場に倒れた。
「…………」
ゼノンはパンドラボックスの残骸を見もせずに何も言わずその場を去った。地球の結界が解除されたのはそれから1時間が経過してからだった。