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仮面ライダーS/L9話

Tale9:暴きだされたDesire

・将碁達がレベル30のグラファイトを倒したその日の夜。檀コーポレーションでは黎斗の叫び声が跋扈していた。
「おのれ!!!何がレベル10だ!?どうしてそれでグラファイトを倒せる!?倒したグラファイトはどこへ行った!?マグテラーバグスターとは何だ!?レベル100とは何だ!?」
「ひぅっ!!」
黎斗が叫ぶたびに瑠璃の頬を全力でひっぱたく、かれこれ3時間以上も続いている。実は今朝の戦いを見ていた瑠璃だが流石に得られた情報が情報なだけに黎斗への報告を渋っていて夕方になってやっと報告したのだがこの有様だ。父・嵐山はソファに座ったまま無言を貫いている。瑠璃を見捨てているというのもあるが今の黎斗に何を言っても意味がないとわかっているのとその瑠璃からの報告を重く受け止めているのだろう。
実際黎斗たちは今回の流れで完全に将碁達を抹殺するつもりだった。そのためにわざわざ制御できないレベル30のバグスターを使ったと言うのにそのグラファイトが実は自我を持っていて黎斗達を裏切った挙句レベル100と言うとんでもないバグスターと手を組んでいることが判明したのだ。おまけに倒そうと思っていた将碁達はレベル10の力を手にし、完全にこちら側の手に負えない存在となった。黎斗だけにとどまらず嵐山にとってもこの状況は完全に誤算なのである。
「……やはり西武椎名が仮面ライダーになったのが運の尽きだという事か」
父の発言に瑠璃は悪寒を覚えた。脅迫されたとは言え椎名をライダーにしたのは瑠璃なのだから。
「あ、あの、仮面ライダークロニクルの方は……」
「んあぁ!?」
「ひいいっ!!」
「……ああ、仮面ライダークロニクルか。完成度は現在89%。あと20体分のバグスターのデータが必要だ。だが、こちらの制御下にない本物のバグスターがレベル100だと判明した以上、たとえ仮面ライダークロニクルが完成したとしても支配できるのは人類だけだ。あいつらには通用しない」
「……あいつらのデータがあってもですか……?」
「どういうことだ?」
「……私がグラファイトからそのデータを奪ってきます。グラファイト自身もレベルは90あります。今までのバグスターの何倍ものデータを採取できるはずです。それを使って仮面ライダークロニクルを完成させさらに高レベルバグスターをも使役できるようにすれば……」
「……なるほど。確かに今まではグラファイトのレベル30をボスとして用意していた。だがその3倍、レベル90のグラファイトを使役できるようになればあいつらにも対抗できるかもしれない」
「……だが瑠璃。お前ひとりでレベル90のグラファイトをどうにかできるとは思えない。いったいどうやって奴のデータを回収するつもりだ?」
「……西武さん達の会話を盗聴していましたが西武さんは檀社長と会話をしたがっています。ならば取引が出来るのではないでしょうか?」
「……5人の仮面ライダーそして貯蔵してある人造バグスターをかき集めればレベル90のグラファイトのデータを採取することが可能かもしれないと?戦力的にはもしかしたら足りるかもしれないがどうやって奴をおびき出す?」
「町に人造バグスターをばらまきます。彼らにとって人造バグスターがどういう存在だと認識しているのかは分かりませんが無視できる存在ではないと思うんです」
「……バグスターの風評被害でも期待するつもりか?まあいい、西武椎名たちが来ると言うのなら利用しない手はない。嵐山親子はもう帰りたまえ。私は今夜使ってどうするか考えておこう」
「は、はい。お先に失礼します」
「……」
嵐山親子が檀コーポレーションを後にする。
「……仮面ライダークロニクルで奴ら自然発生したバグスターどもも制御できるのなら確かに有効な手段だ。だが、一筋縄ではいかないだろう。私も少しは腹をくくる必要がありそうだ」
黎斗は引き出しからハザードトリガーを取り出した。


夜。嵐山親子が乗る車内。
「瑠璃、顔は大丈夫か?」
「……全然大丈夫じゃないよ。20発以上全力で叩くんだもの」
「あれは狂ってる。このまま好きにのさばらせておけば取り返しがつかなくなるかもしれない」
「……お父さんはあの人と協力して仮面ライダークロニクルを完成させるんじゃないの?お母さんを生き返らせるために」
「……そうだ。そのためだけにあのような若造と手を組んでいる。腕と頭は確かだが気は確かじゃない。だからな、瑠璃。檀黎斗が仮面ライダークロニクルを完成させたら私が動くつもりなんだ」
「……どうするつもり?」
「……」
嵐山は無言のまま夜空に浮かぶ月を見上げた。


一週間後。将碁退院の日。しかし朝一番に来た報せはその旨ではなく嵐山からのメッセージだった。
「……向こうから来るとはね」
病室。武と椎名がメッセージを見る。
「……いったい何しようってんだ?宣戦布告か?」
「いや、恐らく何かしらの筋からこの前のグラファイトやマグテラーバグスターについて知れて焦っているんじゃないのか?裏がどうであれ檀社長達の表向きの目的は自然発生したバグスター怪人の殲滅。これまでは低レベルの人造バグスターだけだったがこの前化け物が姿を見せたんだからな」
「あわてて僕達と手を組もうってつもりかもしれないね。仮にそうだとすれば向こうからすればこの前のグラファイトを差し向けた件は最悪話す必要がない。……まあ、グラファイトは檀黎斗が差し向けたのはほぼ間違いないがしかしあれを見る限り自然発生したバグスターで間違いはないだろうから案外檀黎斗がドジっただけでグラファイトを差し向けたつもりはないのかもしれないけど」
「何だよそれ。……まあ確かにあいつらにとっても予想外の出来事が起きているのは間違いないみたいだけどさ」
「……けど俺達にとってはうれしい誤算だ。向こうから来てくれる上、交渉材料もある」
「……何を交渉する気だよ」
「俺達からはレベル10、3人の戦力を。その代わりに向こうには情報を提供してもらう。椎名は前にパソコンに会話記録を取るって奴を頼みたいんだけど」
「問題ないよ。僕のスマホからいつでも会長室に繋げられる。望むのであれば衛生省にもリアルタイム送信が出来ると思う」
「……リアルタイムではやらなくていいけどいつでも衛生省に会話内容を送信できるようにはしておいてほしい。向こうの手の内が分からない以上こちらにとってそれ以上の交渉材料……と言うか脅迫材料は存在しないから」
「……分かった」
「で、いつ頃どこに行けばいいんだよ?」
「……午前11時。また瑠璃さんが車で迎えに来るそうだ」


午前11時。駐車場。将碁達3人はいつでも変身できるようにドライバーを腰に巻いた状態で待機していた。やがて瑠璃の車が来た。嵐山は乗っていない。
「……何でそんな気合全開で……?」
「いつこの前みたいにレベル30のバグスター差し向けられるか分からないからな」
「……それが新しいレベル10のドライバーですか」
「そこまで知っているのか」
「まあ、檀コーポレーションに盗まれたりしないように西武財閥で商品登録したからね。既に衛生省にも話は通ってるし」
「……」
椎名が衛生省の名を出せば瑠璃は少しだけ肩を震わせた。
「と、ともかく乗ってください。檀社長がお待ちです」
3人は顔を見合わせてから乗車した。
「行先は?」
「檀コーポレーションです」
将碁と武がそこへ向かうのは最初の日以来3か月ぶりだ。椎名はまだ行ったことがない。直接話をするならこれ以上適した場所はないのかもしれないがしかし緊張もある。何しろ敵対行動をとっている連中の本拠地だ。まさかと思うが場合によっては無数のバグスターに襲われる可能性もある。
「盗聴器があるので発言にはお気を付けください」
発車して数分。瑠璃は告げる。すると、椎名がにやにやしながら口を開いた。
「へえ、今度はちゃんとついてるんだ」
「……な、何の話でしょうか……」
「えぇ~?べっつに~?」
「お、おい椎名……」
「ってかお前この車乗ったことあったっけか?」
「ああ、言ってなかったっけ?実は一回そこの瑠璃ちゃんとは縁があってね」
「……っ!!」
一瞬。ちょっとだけ運転が荒くなった。
「……お前、なにしたんだよマジで」
「椎名、俺は身内から犯罪者が出ることを望んでないぞ」
「安心しなよ。僕は何もしてないさ。ねえ、瑠璃ちゃん」
「……盗聴器があると言いませんでしたか?すぐ着きますので私語は慎んでください」
焦る気持ちとは裏腹に赤信号が見えた瑠璃はブレーキを踏む。その直後。
「アガジャァァァァァァァァッ!!!」
突然の奇声と共に正面を横断していた車が吹っ飛ばされた。
「え!?」
瑠璃が慌ててアクセルを踏み入れてハンドルを振り切り、車線を切り替える。直後にすぐ横に車が飛んできて爆発炎上した。
「おわっ!!」
「な、何だよ!?」
「まさか……!?」
3人が窓を開けて外を見る。炎上した車の向こう。そこにはサンダーウルフバグスターがいた。
「サンダーウルフバグスター!?」
「何であいつがここにいんだよ!?」
武の疑問の声は瑠璃に向けられた。
「分かりません!あのサンダーウルフバグスターは自然発生したバグスターです!」
「何だって!?」
「敵レベルがわからない以上戦闘はお勧めいたしません!急いで道を変えて檀コーポレーションへと急行します!」
「いや、待て!!」
瑠璃がアクセルを踏むと同時、将碁と武がドアを開けて車から飛び降りる。
「な、なにを……!?」
「君達!?」
「俺達は仮面ライダーなんだ」
「こんなに派手に暴れてる化け物を放っておけない!」
二人が同時にガシャットを手に取りスイッチを押す。
「「スターライトドラグーン!!」」
「「変身!!!」」
「「スタァァァァライト、スタァァァァゲイザァァァァァ!!!アイムアレベル10ドラグーンゲーマー!!!」」
二人同時にレベル10に変身してサンダーウルフに向かっていく。
「……お互いに誤算だね」
椎名がため息をつきながら降りる。
「……どうして私達の仕業だと疑わないのですか?」
「君は嘘をつく時に左肩が上がる癖がある。車に乗ってからその癖は見受けられなかった。それに今のは完全に君が咄嗟にハンドルを切ってくれなかったら僕達はまとめて助からなかった可能性が高い。……君は檀社長に連絡しなよ。僕達はあれがレベル30未満だと祈って戦うからさ」
「フェイトローザ!!イン・ザ・ダークネス!!」
「変身」
「ブラッディローズ・イン・ザ・ダークネス・トゥ・ザ・フェイト!!アイムアレベル10ダークネスゲーマー……!!」
椎名はレベル10ローズに変身してサンダーウルフに向かっていく。
瑠璃はただ炎の中に走っていく3人を見送ることしか出来なかった。
その炎上する十字路。
「一度勝ってる相手だ!遠慮はしない!!」
セーブのパンチがサンダーウルフの胸に叩き込まれる。
「アガジャァァァァァァァァッ!!!」
悲鳴を上げたサンダーウルフが後ずさると、そこへリボルバーの射撃が加わり血しぶきが上がる。
「何だい、大したことなさそうじゃん」
そこへローズが走ってきてドロップキックをぶち込む。まるで車にひかれたようにサンダーウルフが吹き飛んで電柱に頭から突っ込んで電柱をへし折る。
「ふう、僕だって肉弾戦は出来るのさ」
ローズが着地して構える。直後、
「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「!?」
背後から謎の衝撃を受けてローズが吹き飛ばされる。
「ローズ!?」
セーブとリボルバーが振り向く。そこには白と黒の2色の仮面ライダーがいた。
「何だこいつ!?」
「瑠璃さんじゃないな……!」
二人が身構えると、謎のライダーはジャンプで二人の頭上を飛び越えて立ち上がろうとしていたローズの腹にニードロップを叩き込む。
「ぐはっ!!!」
「こいつ、椎名が狙いか……!!」
セーブとリボルバーが謎のライダーを引きはがそうとするも謎のライダーはバック転で二人から離れ、緑色のドライバーを腰から外して右腕に装着する。
「ドライバーが武器になった!?」
「バグヴァイザーだ!!」
謎のライダーが叫ぶと、右腕に装着されたドライバーからビームが発射されてセーブとリボルバーを弾き飛ばす。
「ぶわああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!」
謎のライダーは奇声をあげながら走り、倒れたままのローズにとびかかる。
「ぐっ!僕がどうしても憎いようだね……!」
「喋るなぁぁぁぁぁぁっ!!!」
マウントを取り、ひたすらローズの顔面にエルボーをぶち込む謎のライダー。
「ローズ!!」
セーブは立ち上がりタブレットを出す。
「ケンタウロス!スライドフォーミング!!」
4つ足4本腕に姿を変えて突進。しかし、
「アガジャァァァァァァァァッ!!!」
今度は背後からサンダーウルフがとびかかってきて腰に着地しセーブの首を立ちながらのキャメルクラッチで痛めつける。
「おいおい……何がどうなってんだよ!」
リボルバーはどっちを助けるか迷ったが、
「どっちもとる!!」
両手に二挺のハンドガンを出して謎のライダーの後頭部とサンダーウルフの喉元を同時に撃ち抜く。
「ぐぶうううう!!!」
「アガジャァァァァァァァァッ!!!」
「「今だ!!」」
衝撃で相手が怯んだ瞬間にセーブが元の人型に戻り、バランスを崩したサンダーウルフを閂で固めながら飛翔。ローズは両足キックで謎のライダーを蹴り飛ばす。
「「キメワザ!!」」
レベル10のガシャット2つが同時にエネルギーを開放する。
「スターライトクリティカルフィニッシュ!!」
「てやーりゃああああああああああああああああ!!!!!!!!」
飛行速度がマッハに達したセーブがその勢いでサンダーウルフの両腕を引きちぎり、空中で落下を始めたサンダーウルフの背後に無数の棘付き壁が出現。それらまとめてキックでぶち抜く。
「ダークネスクリティカルフィニッシュ!!」
「乾坤一擲!」
ローズは勢いよく立ち上がり、そのまま手首から出したバカでかいバラの塊をモーニングスターのように振り回し謎のライダーを空高く吹っ飛ばしては落下してきたところに飛び廻し蹴りをぶち込む。
「どどどべばばばばばばばばばばばば!!!」
「アガジャァァァァァァァァッ!!!」
サンダーウルフと謎のライダーは空中で激突して同時に大爆発を遂げた。
「……あれ、死んじゃった?」
3人が見ると、爆発からは何も出てこなかった。
「……サンダーウルフバグスターはともかくあのライダーは何だったんだ?」
「もしかして偽仮面ライダーバグスターみたいな感じとか?」
「なるほど。その可能性も否定できないな。しかしどちらもレベルはそんなに高くなかったな。体感で言えば10前後。この前の二人が例外的に強すぎるだけで野生のバグスターは基本この水準なのか」
3人は変身を解除する。そして車に戻る。
「ん?」
後部座席に座る前。トランクに血痕が付いているのを椎名は発見した。
「……手形もある。何だ?」
トランクを開ける。次の瞬間。
「!?」


「あれ、椎名は?」
走り出す車。少し疲れていたこともあって将碁と武は隣に椎名がいないことに気付いた。
同時にスマホが振動する。
「どうした?」
「……椎名からメールだ。調べものがあるから先に行っててくれってさ」
「……そっか」
スマホをポケットにしまう。
「……どうかなさいましたか?」
「いや、何でもない」
「……そうですか」
通り道をすること1時間半。やっと檀コーポレーションに到着した。
「……私は車を停めてきますのでロビーでお待ちください」
そう言って瑠璃は二人を下ろしてから駐車場に向かう。慣れた手つきで車を指定の場所に停めて自身も降車する。そのままロビーに向かおうとした時、車がかすかに揺れる。
「?」
振り返れば再び揺れる。中を伺う。運転席や助手席にはもちろん後部座席にも誰も載っていない。しかしまだ揺れる。
「……まさか」
トランクを開ける。すると、
「やっと出られたか」
中から血だらけの黎斗が出てきた。
「だ、檀社長!?」
だけではなかった。
「予定とは少し違ったが、目的は果たせた」
「…………」
黎斗が出た跡。トランクの中。そこには腹から大量の血を流したまま動かない椎名の姿もあった。
「こ、これは……」
「瑠璃君、君の失態をここで果たしたまえ」
「……え……」
「1時間以上念入りにナイフで腹を刺しまくったから問題ないと思うがまだ息があるかもしれない。新しい車を購入するから君はこの車を変身して跡形もなく破壊するんだ。もちろんこの男を閉じ込めたままでな」
黎斗は狂気的な顔をしながら椎名が入ったままのトランクを閉めた。
「……………………」
「私は着替えてからオフィスであの二人を相手する。君はこの車を始末してから戻ってきてくれ」
黎斗は返事を待たずにオフィスに裏口から入っていった。
「……」
瑠璃はいくらか考えてから再び車に乗り込んだ。