仮面ライダーS/L第5話
Tale5:3番目はFateroser
・西武椎名は西武財閥会長の弟の息子だった。生まれつき物心芽生えた時から裕福な家庭に育っていた。しかし、ハンデもあった。両親からも従兄からも使用人からも優しくされるのが当たり前になっていたために他人に対する感謝の念と言うものが育まれていなかったのだ。
「兄さん、椎名を次期会長にするという話は本当か?」
かつて椎名の父は兄に尋ねた。それはまだ椎名が小学生に上がったばかりの話だった。
「ああ、本当だ」
「何故俺の子を使う?将碁君はどうするつもりだ?あんたの直接の子供はあの子だろう。いくら血のつながりがあるとはいえ俺は西武財閥からは離れて田舎のおもちゃ屋を経営している身だ。その俺の子供をどうして……。あの子は他人の気持ちがわからないんだぞ?」
「そう育ててしまったのはお前であり私だ。しかしそれでもうちの子供よりはましなんだ」
「何故だ?将碁君はあまり明るい方ではないかもしれないがそれでも他人に気が遣えていい子じゃないか」
「あの子はな、欲がないんだよ。この前の7つの誕生日にも望むのであれば新しいゲーム機を買ってやることだって出来たがあの子はそれを望まなかった。代わりに望んだのは回転寿司で一緒に夕食を食べることだった。人間としてはいいかもしれない。だが、一企業を預かる者にはあまりに日和見が過ぎる。将碁に任せてしまえば私が生きている間は問題ないかもしれない。だが、私が死んだ後が不安なんだ。その点、椎名君を会長に選べば逆に将碁をあの子の補佐につけられる。そうしたらバランスがとれる」
「逆じゃダメなのか?」
「損な役回りを弟とは言え他人の子に任せられないよ」
「……」
その会話を幼い椎名は聞いていた。
「……どんな形であっても僕が会長になれるならそれでいい話じゃないか」
ハッピーエンドが確定している未来こそ気の抜ける道筋もない。それ以来椎名は学校の成績が悪くなった。クラスでもわがままを尽くし、クラスメイトはもちろん担任すら困らせている。しかし、財閥の次期会長だと裏で決定されたからか学校の外で椎名を迫害しようとしたり反撃しようとした生徒は西武財閥から派遣されてきたスタッフによって止められた。こうなると本格的に椎名を止められる存在はいなくなった。
「いい気持ちだ。給食を何度もお代わりしようと誰も文句を言えない。体育の授業で気に入らない奴の顔面に何度もドッヂボールを叩き込んでも問題ない。最高だね!」
しかし小学5年になった頃。学校から帰ると家のおもちゃ屋が火事になっていた。
「……え?」
「椎名君!」
野次馬の中から巌がやってきた。
「おじさん……」
「行っちゃだめだ!今消防隊員がお父さんお母さんを救助に向かってる!!」
「そんな事よりこの前買ってもらったばかりのゲームが……!!」
「そんなものおじさんが買ってあげるからおとなしく……」
「うん、それならいいや」
「え……?」
「だってお父さんもお母さんもどうせ助かるんでしょ?ゲームも新しく買ってもらえる。だったら何も心配いらないよね!」
「……椎名君……」
しかし両親は帰ってこなかった。焼け跡から二人の焼死体が発見された。状況から椎名の両親だと推定され、そのまま断定された。
「……」
無感動の葬式が終わり、椎名は叔父の家で暮らすことになった。学校も転校した。引き続きスタッフのボディガードがついていた。だが、スタッフの仕事は生まれなかった。椎名は無理やり他の生徒の分も給食を食べたり体育の授業をさぼったりしなかった。全てが無感動になった。自分が大企業の会長になるという未来に変化はない。だが、何故かそこに意味はないのではないかと思い始めていた。ただひたすらに頭の中には無だけが息づいていた。新しく買ってもらったゲームも当たり前だがセーブデータがなかった。最初からやり直すしかない日々。その中椎名が初めて見た目新しいものが将碁だった。同い年の従兄弟。自分とは正反対の人畜無害。頼まれてもないのに他の生徒に給食を分けたり授業中に問題を解くよう言われた他の生徒にアドバイスをしたりと気持ちが悪いほどの善人だった。理解が出来なかった。おぞましい。
中学に上がった。またもや二人そろって同じ学校で同じクラス。
1年生の4月中には将碁は完全にいじめっ子からの標的になってて一週間に2回は殴られているし、服を脱がされたり逆に女子の服を脱がすよう言われたりしている。流石に見てられなかった。だから放課後、いじめっ子たちを椎名は呼び出した。
「こういう時さ、大企業って便利だよね」
スタッフに調べさせていじめっ子たちの住所や家族を特定、いつでも誰でも襲撃できる態勢を作っていじめっ子たちを脅迫した。当然最初は殴られた。1時間以上もボコボコにされまくった。だが笑顔は崩さなかった。何故なら既に実行の合図は出していたからだ。夕方いじめっ子たちが煙草吹かしながら家に帰るとそこに自分の家族はいなかった。いつまでたっても誰一人帰ってこなかった。翌日、よくわからないと言った表情でいじめっ子たちは登校した。すぐに椎名に問い詰めた。
「言ったはずだよ?僕は大企業のお坊ちゃんなんだからって」
それ以来いじめっ子たちは急激におとなしくなった。それでも彼らは生涯ずっと家族と再会は出来なかった。そして将碁はそんな彼らを笑うどころか慰めることにした。対して椎名は全く意味が分からなかった。自分もひどい目に遭ったのにどうして憎い相手を慰められるのか。だが、椎名はそれ以来決めた。会長の座は将碁に任せて自分はこうやって彼のサポートをしよう。他人への感情がない自分ならこの権力を最良に使える。もしもこれが逆ならこうはいかないだろう。ならこれでいいのだ。
現在。午後7時過ぎ。嵐山瑠璃は本日最後の仕事を終えて社用車を指定の駐車場に置いてから荷物を取りに社内のロッカーに向かう途中だった。だが、
「はい、そこまで」
「え、」
気が付けば目の前に天井があった。いや、何者かによって転倒させられていた。そして自分に襲い掛かった声には聞き覚えがあった。
「……西武椎名新会長……!」
「そろそろ新会長はやめてほしいな。おっと、駄洒落になっちった。まあそんな事よりもさ、君達がいろいろ動いてるのは知ってるんだよね。衛生省からも裏を取ったし。いくら衛生省からの口添えがあるとはいえ会長に何も言わないのはルール違反だよねえ?」
「な、何の話ですか……?」
「隠したって無駄だよ。嵐山瑠璃。19歳。去年度の新社員。母は5年前に逝去。父は我が西武財閥関東支部の本部長。父親である嵐山本部長専属の運転手。しかし最近は子会社である檀コーポレーションの社長・檀黎斗の運転手も賄っている。両者を結ぶものと言えばそう、衛生省から受けている極秘の仕事」
椎名は懐から1枚のプリントを出した。それは衛生省から配布されている指示書。
「ここには本来西武財閥会長の捺印が必要となっている。当然僕は推した覚えがない。だのに今ここにはその証である捺印が押されている。これはどういうことか。……前会長のおじさんから僕にその座が映る際に西武財閥会長の押印がコピーされて不正に使われているって事だ。これを理由に君も君の父親も会社法に基づいて罰することだって出来る」
「……何がお望みなんですか……?」
「ちょっと来てもらおうか?」
翌朝。
「じゃ、手筈通り頼んだよ」
「…………はい」
椎名の自宅から出てきた瑠璃は酷く陰鬱そうな表情をしながら出社した。
「……ふう、大学以来だね。この爽快感。さて、僕もそろそろ出社するかな」
椎名がスーツに着替え始めた。
病院。
「何とか治ったか」
武が病衣から私服に着替える。
「仮面ライダーって怪我の治り早いのかもな。本当なら1か月は安静にしておかないといけないだろうに。1週間ちょいで治るなんて」
将碁がゲームしながら言葉だけを飛ばす。
「あとは花家先生の治療だな。放射線治療って少し不安だったけど思った以上にすげぇ技術だぞあれ。普通なら1000万以上掛かるみたいだけど檀社長が出してくれたから出費は0だ」
「……無料(ただ)より高い物はないにならないといいけどな」
「郡山さんの話か。あの特殊なケース。嵐山さんや檀社長は唯一って言ってたけど実際には最低でももう一人はいるって話だったよな」
「そうだ。郡山さんを5年も前から知っているあの二人ならその話を知らない筈もない。それに5年も前に郡山さんには仮面ライダーの存在を話している。けど俺達は言わずもがな、1号ライダーとて5年前にはいなかっただろう」
「なぜそう言えるんだ?」
「5年間も仮面ライダーになるための実験繰り返していれば3人しかいないなんてことない筈だ。檀社長は少なくとも3人と言う人数が少ないと焦っている様子だったからそれ以上も恐らくいない。そこから導くと、今いるライダーは俺達3人だけかもしれないが歴代ではもっといたかもしれない。それこそ5年前にも」
「……その歴代ライダーはどうしたって言うんだよ」
「……仮説だが死んだ可能性が高い。もしかしたら俺達に埋め込まれた善玉バグスターウィルス。あれは遅効性でやがて悪玉と同じように活性化するのかもしれない。そしてある程度の期間が経つと……」
「体を乗っ取られる……か」
「まだ可能性の話だがな。郡山さんのバグスターウィルスが俺達の知る通常のバグスターウィルスとは全く違うのは確実だと思うし、接触しすぎると感染するリスクがあるのも事実だと思うが檀社長達が俺達と会わせない様にしているのは他に何か重大な理由があるんじゃないか」
「……郡山さんみたいに肉体を失ったまま幽霊状態になったりしてな」
「……笑えないな、それ」
着替え終わった武が帰り支度を始める。と、電話が鳴った。
「もしもし」
「将碁君か。バグスター怪人が現れた。座標を教えるから急行してくれ。武君の調子はどうだい?」
「いつでも行けます」
「それはよかった」
電話が切れて二人は顔を見合わせてから急行した。
檀コーポレーション。機密室。
「……」
瑠璃が入室する。本来は檀コーポレーションの上層部か嵐山しか入れない部屋だ。しかし今日は父のカードを借りることで無断で入室している。そして目当てのものを2つ入手する。
「……これしかない」
そして瑠璃は機密室を出て駐車場に向かった。
「……ん?」
社長室。黎斗が異変に気付いてPCに意識を集中する。
「……機密室に誰かが入った?今日そんな予定はなかったはずだ。……調べてみるか」
黎斗が社長室を出て機密室に向かう。
「……これは……」
中に入って異変に気付く。
「……完成したばかりのダークネスドライバーとフェイトローザのガシャットがなくなっている……!?嵐山か……!?」
すぐに退室して携帯を取り出す。
戦場。上半身がイカの化けものとなっているクラーケンバグスターレベル5が暴れていた。
「イカカカカカァァァッ!!」
8本の触手を使って逃げ惑う人々の中から女性ばかりを狙う。
「イカ墨カメラぁぁぁぁっ!!」
その状態でイカ墨を吐き散らす。空中に浮遊するイカ墨の全てがその場の全てを録画して宿主のPCに映像を送る。
「……何だあれ」
将碁と武が現場に到着し、チャリを乗り捨てる。
「行くぞ!!」
「ジャンクセーバー!!」
「ガンガンリボルバー!!」
「「変身!!」」
「「レッツゲーム!ムッチャゲーム!メッチャゲーム!ホワッチャネーム!アイムア仮面ライダー!!」」
二人ともレベル1になって、リボルバーはバイクに乗りセーブはゼブラにスライドして疾走。まっすぐクラーケンに向かっていきそのまま突撃。
「イカカカカカァァァッ!!」
「早く逃げて!!」
バイクから降りたリボルバーが避難誘導すると同時にセーブが人型に戻る。
「レベルアップ!!」
レベル2となってクラーケンの触手を抱え込んで止める。それが完了するとリボルバーがレベル2になってクラーケンに射撃を与えていく。
「ゴリラ!スライドフォーミング!」
セーブがゴリラのパワーを得てクラーケンを触手から持ち上げて頭からスープレックスで地面に叩きつける。
「おのれいかぁぁぁぁぁしゅ!!」
「は?イカッシュ?」
謎の奇声を上げたクラーケンはイカ墨を吐き散らす。と、そのイカ墨がすべて直径10センチほどの砲丸に変わりまっすぐ二人に向かっていく。
「くっ!」
「レベル2じゃ一発でも当たったらアウトだな!!」
ギリギリで回避するが弾は尽きず次々と迫りくる。
「だったら!!」
「レベル3だな!!」
「「レベルアップ!!」」
「アクセル!アクセス!!アクシズ!!フルスピードフルスロットルボーイ!!アイムアレベル3スピードゲーマー!!」
「騎士甲冑串刺し甲冑ガンバズ甲冑グササーン!!アイムアレベル3ナイトゲーマー!!」
二人同時にレベル3に変身し、セーブは超スピードで砲丸の間を縫うように走り、一気にクラーケンに接近。そのスピードを生かしたタックルでもろともに押し倒す。一歩でリボルバーは迫りくる砲丸をすべてその甲冑ボディを受け止める。
「くっ!レベル3の装甲でも意外ときついかもな……!!」
傷口が開きそうになりながらリボルバーはハンドガンを出して起き上がったばかりのクラーケンの頭を狙撃。フラフラになったクラーケンの目の前で起きああったセーブがドロップキックを叩きつけてクラーケンを吹っ飛ばす。
「そろそろ決めるぞ!」
「ああ!」
二人そろって必殺技を繰り出そうとした時だ。
「それが仮面ライダーか、すごいね」
そこへ椎名がやってきた。
「椎名!?」
「僕もそろそろ混ぜてよ」
椎名は傍らにいた瑠璃からダークネスドライバーとフェイトローザガシャットを奪い取り、装備する。
「まさか……!?」
「さあ、社長を超えた会長の時間だ」
「フェイトローザ!!イン・ザ・ダークネス!!!」
ガシャットのスイッチを押すと腰に巻いたダークネスドライバーが電子音を放ち、差込口にガシャットを叩き込んで接続する。
「レッツゲーム!ムッチャゲーム!メッチャゲーム!ホワッチャネーム!!アイムア仮面ライダー!!」
「……仮面ライダーローズ……ってね」
「……なっちまいやがったぞ……」
「……3人目、いや4人目のライダーか……!!」
変身した椎名……仮面ライダーローズは腕を回しながらゆっくりとクラーケンに歩み寄り、静かに膝蹴りを打ち込む……直前にクラーケンに殴り飛ばされた。
「がふっ!!」
「うわ、顔面にもろ」
「椎名!!レベル1の長所は防御力だけだ!レベルアップしないとレベル5のバグスターには勝てないぞ!!」
「レベルアップ……ああ、なるほど。取説は読むタイプだったけど忘れていたよ」
立ち上がったローズはガシャットを操作する。それを見て瑠璃は誰にも気づかれない程度に微笑む。
「レベルアップ!!」
「これがスイッチか。さあ、レベルアップの時間だ!」
「ブラッディローズ・イン・ザ・ダークネス・トゥ・ザ・フェイト!!アイムアレベル10ダークネスゲーマー……!!」
「え?」
その電子音を聞いてセーブとリボルバー、そしてクラーケンが驚きの声を上げた。その中でローズは姿を変えていく。ゆるキャラボディがはじけ飛び、闇色のバラが全身に咲き誇る。ツタで出来た甲冑に身を包み、手首からは太長くバカでかいバラが生えてボクシンググローブのように両手を包み込む。
「……………………が、あああああああああああああああああああああ!!!!」
こうして仮面ライダーローズ・レベル10ダークネスゲーマーは変身を終えた。同時に走り出し、一番近くにいたリボルバーの腹に飛び蹴りを叩き込む。
「ごぶっっっがああああああああああああっ!!!」
「武!!!」
レベル3の重い甲冑を身に纏ったリボルバーが空高く飛び上がり、空中で変身が解除された。
「おいおい……!!」
慌ててキャッチして回収したセーブ。
「……れ、レベル3の防御力が……」
「……聞き間違いじゃないみたいだな。あれは間違いなくレベル10、しかも制御できていない暴走状態ときやがったか……!!」
武を抱いたままセーブが荒れ狂うローズの姿を見やった。