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仮面ライダーS/L 1話

Tale1:その話はExcite

・面白い話をしよう。君のための物語がそこにはある。冒険のように面白く、険しい物語が待っているんだ。


「……なんて言われたけどどうしろって言うのさ」


春川ショウゴはぶつくさ言いながらエレベータに乗っていた。本来なら今年で中学3年生になる年齢。だが学校には行っていない。否、重度の心臓病のせいで学校に通えない身が続いている。

最初こそ気が楽でよかった。たまに友人も遊びに来るし授業はさぼれるしで。しかしだんだんとつまらない日々に苛まれ始めてきたのだ。友人も半年もすればまるで自分を忘れたように気配をなくしている。無理もない、心臓病なのだ。助かる見込みもほとんどない。手術をしようが寿命を先延ばしに出来るかどうかと言う状態。それも過去に2度行なっている。その2度があったからこそ今自分は生きているというわけでもあるが、しかし実の話そうでもない。2回目の手術は実は失敗していたのだ。いや、飛躍しないでいい。ちゃんと足はついている。本来なら半年お迎えを先延ばしに出来るはずのそれが逆に2か月ほど縮ませてしまったというだけの話だ。なに、お迎えが来るまであと1年くらいはあるだろう。好きなアニメを4クール分見られると思えば決して短いものでもない。実際アニメを見る時間など無数のようにある。何せ、学校に行かなくていいのだ。それに精密器具などがいっぱいあるような病室にいるわけでもない。まさに実家のような安心感に溢れた、何一つ不自由のない牢獄のような部屋だ。もはや孤独も感じやしない。確かにもはや親にも見捨てられたような身だが最近アニメが面白い。手配されているパソコンで自由にアニメもプリプリ動画も見放題だ。この前は”先生”がこっそりとフィルターを解除してくれたおかげでちょっとばかし男に生まれた意味を感じる一夜を過ごしもした。


「……だから別にこんなことしてくれないでもいいんだけどなぁ」


ショウゴはぶつくさ言いながらエレベータから降りた。とあるビルの3階。


「いらっしゃい」


くわえたばこ……火がついていない……をした40代くらいのおじさんがいた。喫茶店と言う奴だ。別に駅までも上の階に探偵事務所があるわけでもない。間違いなく辺鄙と言ってもいい場所で客とてそうそうきやしないだろう。そこに喫茶店があっておじさんが煙草をくわえたままラジオか何かを聞いていた。ちょっとだけネットで見たことがある。声優ラジオと言うものだろう。何かのアニメについて声優達が和気藹々と盛り上がっている。


「大人も声優とか興味あるんだ」


「馬鹿言えよ、大人になってやっと楽しめるんだ。いいか少年。アニメとか特撮とかを子供向けだなんて思っちゃいけないし、そう思ってる大人を真似しちゃいけないぞ?子供向けであっても子供だましじゃない。むしろ子供の時に見て大人の時にも見て二重三重に楽しめるようにプロが本気で作った最高の物語なんだ」


「……最高の物語……」


「で、だ。少年。お前もそう言うのを求めてここにやってきたんだろ?全くあいつも人を完全に暇人扱いしやがって」


「……客来るの?」


「喫茶店は趣味だ。俺の本業はプログラマーだよ。客がいないこの時間にプログラム組んで会社に売りつけるんだよ。少年、大人だからって何もかもまじめにやることはないんだぞ?」


「……いいよ、俺は大人になんてなれないし」


「……まあそう言うな。人間いつだって誰だって明日は我が身さ。ある意味その期日が前もって分かっていてその期日まで誰かに守ってくれるなんてのがあったらそれはある意味幸せなことかもしれないぞ?」


「……おじさん絶対趣味悪いだろ」


「さてな。……で、何かおすすめを聞いて来たか?」


「……知らないよ。ただ先生からここに来れば何か楽しい物語が聞けるとか何とかで。ゲーム?漫画?」


「これだよ」


おじさんがどこからか出したのは


「それってガシャット?」


「そう。流石物知りだな」


「いや今どきの中学生……俺くらいの年の奴ならだれでも知ってるって。あれだけ騒ぎになったんだし。でも見たことないガシャットだね。何て言うの?」


「S/L」


「エスエル?えっと機関車?俺鉄オタじゃないんだけど」


「蒸気機関車じゃないさ。まあ、正式な読み方は決まってないが俺はスターライトって呼んでる。で、どうだ?プレイしてみるか?」


「……時間かかる?」


「まあ、短くはないかもしれないな。だけど、面白いと思ってくれれば短く感じるかもしれない。ただ残念ながらこいつは終わっちまった物語さ。アンコールはあっても続きはないぜ?」


「……いいよ。そこまで見るとは思わないから」


ショウゴはそのガシャットを受け取った。そしてスイッチを押すのだった。
「スターライト!!インディビンジュアルインフィニティ!!」


・狭い街道を走っていれば時々、意味もなく遅刻遅刻~!!と叫びたくなることがあるかもしれない。或いは自分に対しての言い訳になると思ってのことかもしれない。まあ、なにが言いたいかと言えば下らない言葉こそこういう必死な状況で繰り出されるものなのかもしれない。


「待て~!!」


「うわ、もう追ってきた!!」


「追ってるのはこっちだって言うのにな」


狭い道を走る自転車は2つ。声は3つ。なんてことはない。二ケツしてるのとそれを追いかけてるのがいるだけだ。そして前者も決して遊んでいるわけではなかった。体重だけを押し付けている方が……西武将碁が空を見上げる。


「あっちは全然スピード遅くする気配ないぞ。このままで間に合うのかよ」
「仕方ないだろ!二人分だぞ!と言うかお前乗っけてるから警察に見つかって追っかけられるんだろう!!」
「他にやり方ないから仕方ないじゃんか」
「お前もチャリくらい乗れるようになれよ!!免許取れとまで言わないけど!いや言いたいけど!!」
「いやあ、自分の足で移動しないとなんか気持ち悪くてさ」
「捨ててくぞ!?」


喜屋武は乾き声をあげた。何でこんな状況になっているのか、簡単な話だ。空を飛ぶあれを追いかけるためにチャリで走っているのだ。……運動音痴なせいでチャリにすら乗れない相方を仕方なく載せてやった状態で。それが見つかって警察に追いかけられている状態で。


「と言うかさ、このままだと警察いなくても絶対追いつかないよな」
「だったらどうするんだ?」
「こうする」
「は?」


突然、将碁は足を地面に着いた。それによりチャリは減速。すぐさま後ろを走っていた警察のチャリと激突を果たしてしまう。


「え、あ、おいまさか!!」
「足止めよろしく」


そう言って将碁は忍者よろしく走らず、しかし尋常なく速い徒歩でその場から離れていってしまった。


「……ま、ま、ま、まじかよ!!!」


そして武の肩に警察の手が置かれた。


武の恨み節を背に将碁は狭い道を超えて大通りに出る。


「じゃあ、ゲームを始めようか」


将碁はポケットからガシャットを取り出した。


「ジャンクセーバー!!」


CV:KAGEの電子音。ガシャットのスイッチを押した証だ。将碁の目に通常では見えない特殊な電子空間が映し出される。


「変身」


ガシャットを腰に巻いてあるライダードライバーに差し込む。


「レッツゲーム!ムッチャゲーム!メッチャゲーム!ホワッチャネーム?」


相変わらずテンションの高い電子音が流れるとそれに合わせるかのように将碁の姿が変貌していく。


「アイムア仮面ライダー」


「仮面ライダーセーブ参上ってな」


まるでタマゴから手足が生えたような、着ぐるみじみた……しかし鋼鉄質なボディ。西武将碁は仮面ライダーセーブ……レベル1スタンバイゲーマーに変身したのだ。


「ゲームスタート」


セーブは走り出す。ずんぐりむっくりなスタイルからは想像もつかないスピードで走り、その目に映る非現実的な空に浮かぶタイルを踏み台にして空の標的を追いかける。


「あ、仮面ライダー!!」


姿が見つかったのかどこからか歓声が上がる。まあ、変身するたびにテンション高く名乗りを上げていれば2か月でも十分有名になるだろう。


「仮面ライダー!面白いのみせてー!」
「はいはい」


空浮かぶ見えないパネルを飛び移りながらセーブはどこからかタブレットのようなものを取り出す。指で触れると電源が入り画面が表示される。画面には8個のアイコンが映っていた。そのうちのシマウマのアイコンに触れる。


「ゼブラ!!スライドフォーミング!!」


再びの電子音が流れる光のリングが空に出現し、それを抜けるとセーブは全身に白と黒の縞模様が走り、手足が伸びてまるでシマウマのような姿になる。


「ま、速いからな」


そして先ほどまでの4倍の速さで空浮かぶ道を駆け抜けていく。標的の姿も少しずつ鮮明に拡大されていく。


「やっと背中が見えたぜ。レベル4の空飛ぶバグスター・ジェットウィング!!」


その姿はまさに鳥人。科学忍法を繰り出しそうな、しかしやはり昔懐かしの鳥怪人のような奇抜なりにも奇怪なそんな姿をした怪人だ。怪人の名前はジェットウィング。セーブが言ったようにレベル4のバグスター怪人。時速90キロで空を飛び回る怪奇鳥人間。空を飛ぶだけならそのままスルーするなり観光名所扱いにしてもいいのだがこいつは奈良の鹿ほど可愛いものではない。存在し、活動するだけで多くの人間にバグスターウィルスをばらまく半電子の存在。肉体含め存在の多くが電子化されているが故に通常兵器では太刀打ち不可能で普通の人間では触る事すらできない。触れるようになったらそれはバグスターウィルスに感染している証拠になってしまう。このバグスター怪人に太刀打ちできるのが仮面ライダーと言う話だ。


空を走る仮面ライダーシマウマがついにジェットウィングと並走を成功させるとセーブの眼前に再びタブレットが出現する。宙に浮いている優れものの画面に鼻先でタッチをする。


「とりもち!エレメンタルスライド!」
「鳥にはこれ!」


タブレットが消えると同時、セーブのシマウマな鼻から鼻くそのように発射されたそれはジェットウィングの整った右翼に命中すると粘着質の強い液体となり、その飛行を著しく阻害する。それにより段々とジェットウィングの飛行速度が落ちていき、逆にセーブは加速して追い抜きジェットウィング前方のパネルに着地すると元の姿に戻る。


「そろそろ行くぜ!レベルアップだ!」


セーブがドライバーのスイッチを押すと再びテンションの高い電子音が鳴り響いた。


「レベルアップ!!ジャンジャンジャンキージャンジャンセーブジャンジャンジャンクセーバー!!」


電子音のメロディに合わせてセーブのずんぐりむっくりなボディが四方八方にはじけ飛び、代わりに内側からスリムな体系のまさにヒーローな形の姿が新たなセーブの肉体になる。これがレベル2・ジャンクゲーマーだ。


「よっ……ほげっ!!」


正面から迫りくるジェットウィングを受け止めようとして……しかし音速で迫るそれを受け止めきれずに吹き飛ばされ、空浮かぶパネルから落下してしまう。


「スライム!スライドフォーミング!」


新たなアイコンをタッチ。すると空中でセーブの肉体がスライムのような液体に変わり、体をうまく伸ばして真上を通り過ぎようとしていたジェットウィングに絡みつく。


「危ない危ない……」


本体を引き寄せてジェットウィングに肩車される形で元の姿に戻る。そのまま頸動脈を締め、ついでに嘴の中にスライムの塊を詰め込む。呼吸できなくなり、もしくは突然の意味不明にか、驚いたジェットウィングは再び飛行を遮られる形で減速。ついにビルの外壁に正面衝突してしまう。通常の生き物ならマッハで頭からビルの外壁にぶつかれば命はない。だがレベル4のバグスターはそんなにやわではない。地面に落下こそすれ、大したダメージではないらしく頭を数度振るい、ようやく敵と認めたのかセーブをにらんで構えを取った。


「ロックシューター!ウェポンシフト!」


今度はセーブの手元におもちゃのような派手な外装の銃が出現した。


「攻略する!」


迫りくるジェットウィングの突進を回避しながら引き金を引く。発射されたのは石だ。とは言え直径1センチほどに凝縮された200キロもの銃弾。それが発射されてはジェットウィングの肩に叩き込まれる。先ほどと同様右肩を集中的に狙っているのがセーブの作戦だ。


「アクア!エレメンタルスライド!アクア&ロックシューター・コンボ!!」
「この水石鉄砲ならば!」


アイコンによる属性付与で強化された石の弾丸を再び発射する。放たれた石が振り向いたジェットウィングの胸に命中すると同時、水風船のように破裂してその威力でジェットウィングを後ろに弾き飛ばす。一発ではない。ジェットウィングが体勢を立て直すと同時に次の一撃が、さらにもう一撃が。


「こかぁぁぁぁっ!!」
「カラスだったのかよお前!」


衝撃。ジェットウィングは濡れた翼を広げて再び飛翔する。翼に向けて射撃するも今度は当たらない。


「シューティングは苦手なんだよな……」


何度か狙いを定めて引き金を引くも放たれた攻撃は虚空を貫くばかり。対してジェットウィングはセーブの動きを観察していた。そして刻が来たと見たのかミサイルのようにセーブに向かって急降下を始める。


「うわっ!!」


回避も防御もパニックになりながら行なうがどちらもままならずにセーブは2メートル後ろに弾き飛ばされる。その上マウントポジションを奪われ、シューターを弾き飛ばされ、ひたすら嘴で顔面や胸のあたりをどつかれまくる。


「くっ!!レベル差があるよなやっぱり……!!」


ガードしようとする腕も相手の腕で押さえられていて不可能。回避も相手に腹の上に乗っかられている以上不可能。その上でひたすらレベル4の嘴を受け続け、えぐい速度で胸のライフゲージが減り続けている。このままでは何も出来ないまま倒されてしまうのは明白だろう。まだ24歳なのになぁと走馬灯が見え始めた時だ。


「ガンガンリボルバー!!」
「お?」


頼もしい電子音。同時に、


「変身!!」
「レッツゲーム!ムッチャゲーム!メッチャゲーム!ホワッチャネーム!!アイムア仮面ライダー!!」


後ろから走ってきた武が電子音で出来たゲートを通り抜けてずんぐりむっくりな姿に変身する。これが武が変身する仮面ライダーリボルバーだった。


「レベルアップ!!」
「レベルアップ!!ガンガンバキュンバキュン!!ガンガンズギャンズギャン!!ガンバズギャットリボルバー!!」


そして走りながらレベルアップを遂げてセーブとはまた違った趣のヒロイックな姿……レベル2ガンバズゲーマーに変身した。


「おらよっ!!」


後ろからセーブに跨っているジェットウィングにエルボータックルをかまし、ジェットウィングを前方に吹っ飛ばす。


「助かったぜリボルバー」
「お前、今日晩飯おごれよ」
「え~俺働いてないのに」
「働けっての!!」


ともあれ二人の仮面ライダーが立ち上がり、ジェットウィングの前で構えを取る。セーブは忘れずにシューターを拾ってリボルバーに手渡した。


「やっぱり銃はお前だな」
「当たり前だろ」


リボルバーはシューターと自らのハンドガンを両手に握る。


「こかぁぁぁぁ!!!」
「あいつカラスだったのか!」


衝撃。しかしものともせずにリボルバーはジェットウィングの動きに合わせて射撃。2つの銃口から違った種類の弾丸が飛ぶ。シューターからの水風船石は地面などにぶつけてはじけ出た水圧でジェットウィングの下半身を攻撃し、自身のハンドガンで放った銃弾はわずかな差異もなく狙った場所に次々と打ち込まれていき、ジェットウィングは空に飛び出して1ミリも動けずに体が削られていく。その間にセーブは再びタブレットを出現させる。


「キメワザ!!」


今までのとは違ったアイコン。押されると一時的にセーブの下半身にエネルギーが集中する。また、ジェットウィングの背後に岩盤が出現し退路を塞ぐ。


「決めちまえ!」
「おうよ!!」


セーブが飛び上がり、リボルバーが射撃をやめ、その手に持っていたシューターが消滅する。


「ジャンククリティカルフィニッシュ!!」
「てやーりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


ジャンプ後、背中からものすごい熱量のエンジンが吹き、セーブの体をミサイルのように吹っ飛ばす。そしてエネルギーが集中している右足からジェットウィングの胸に打ち込まれ、背後の岩盤を大きく凹ませ、ついにはジェットウィングの体と岩盤とを貫いてセーブが岩盤の向こう側に着地。


「こかぁぁぁぁ!!!」


ジェットウィングの断末魔。直後に大爆発が起き、ジェットウィングの残骸と爆発と砕け散った岩盤とが一緒くたにデータとなってセーブのガシャットの中に吸い込まれていく。


「ゲームクリア!!」


その電子音が戦闘終了の証だ。
振り向いたセーブと歩み寄ったリボルバーがハイタッチを交わし、同時に変身を解除した。


ラーメン屋。
「へいらっしゃい」
店主のあいさつを受けながら将碁と武の二人が入店する。


「まったくお前のせいで色々大変だったんだぞ。仮面ライダーって言う身分を明かすことで何とか逮捕されずに済んだけどよ」
「へえ仮面ライダーって警察にも顔効くのか」
「だからってハメ外すんじゃねえぞ。俺のチャリの番号控えられたから何かあったら罰金だかんな」
「相変わらず文句が多い奴だよなお前」
二人がカウンターに着く。と、同時に会話が止まった。


「……」
先客。隣の席。同い年くらいの青年が座ってラーメンを食べていた。
「……雷王院」
「ちっ、いやがるのかよ」
交錯する視線。悪態と邪見と嘆息。
「他の店にするか」
「だな」
「……」
雷王院と呼ばれた青年はラーメンをすすりながら二人が去っていくのを見た。


「あれ?さっきのお二人は?」
「……すみません。俺のせいで客を逃がしてしまって。弁償と言っては何ですがお代わりください」
「へ、へい。豚骨ラーメンチャーシュー大盛ですね。少々お待ちを」
「……」
雷王院は無言のまま二人が座っていた席を眺め、やがて来たラーメンに手を付けるのだった。


「そうか。もうレベル4を倒せるようになったのか」


どこかのオフィス。残業時間故か照明も半分近くが消され、薄暗い執務室。そこに複数の声が響く。1つは大柄な男性のもの、


「……はい。これがそのレベル4のガシャットです」


1つはまだ若い女性のもの。そしてその女性がジェットウィングスクランブルと描かれたガシャットを男に手渡す。


「……と言うわけだ。そろそろ動いてもいいんじゃないのか?檀社長」
「……私に指示はしないでもらいたい。一応あなたは親会社とは言え本部長に過ぎず、私は子会社とは言え社長なのだから」
もう1つは無線から聞こえる男の声。


そして……
「…………」
廊下。気配を殺して佇む青年の姿。


「なに、前社長が倒れてはや二か月。そろそろあなたには本格的に動いてもらいたいと思っている頃合いだ。今まで抑圧されてきて退屈じゃないのかね?」


「だから私に指示しないでもらいたい。いくらプライベート通信を使っているとはいえな。……心配せずともそう長くはかからんよ。……仮面ライダークロニクルの発動は」
「……そうか。なら構わない。私の期待を裏切ってくれぬように」
そう言って男は通信を切った。


「……あ~あ、きな臭いったらありゃしないよ」
青年は小さくため息をつきながら夜の会社を後にした。