仮面ライダーS/L4話
Tale4:二人はSpeed&Knight!
・病院。ターミナルではない、通常のしかし檀コーポレーションや衛生省の手がかかった特別病院だ。
「……」
将碁は手術室前の長椅子に座って時間が過ぎるのを待つ。やがて手術中のライトが消えて汗まみれの鏡執刀医が退室してきた。
「手術は終わったんですか!?」
「はい……。右腕の粉砕骨折をはじめとして各部の骨折や打撲、圧迫されて損傷した内臓など命に別状はないものの極めて重傷です。手術そのものは完了しましたがこの後放射線治療医によるレーザー回復術が行なわれます」
「レーザー回復術?」
「患者の自然回復能力を高めるレーザーを照射する技術です。使えるものが少なく、また自然治癒力が元々高い若年にしか意味がない技術ですので聴き慣れないと思われますが檀社長からの要望なので」
「……檀社長が……」
将碁はオウム返しをしてから一礼し、立ち去る鏡執刀医を見送ってから手術室から担架で運ばれる武を見た。まだ意識はないようだ。無理もない。100メートル近い高さから落下したのだ。仮面ライダーの装甲があっても無事で済まなくて当然の話だ。
担架で武が放射線治療室に運ばれ再び部屋の前の長椅子に座ったところで、
「将碁君」
「檀社長、嵐山本部長……」
黎斗と嵐山がやってきた。
「容態は鏡先生から聞いたよ」
「すみません……。意思疎通を間違えてしまいました」
「いいんだ。君のせいではない。レベル5をお相手にレベル2しかなれない君達に任せっきりにしてしまった私の責任だ。本当に済まない」
「……レベルを上げる手段と言うのはないんですか?俺達は防御に優れたレベル1と防御力を捨てた代わりに個性を得るレベル2までしか使えません。けど相手のバグスターはそれこそレベル4だの5だの俺達よりもかなり上のレベルを持っています。今回のように飛行能力はを持ってるわ格闘能力は高いわおまけにレベルは二人合わせて物よりも高い5だと勝てる保証がありません。必ず勝てる手段を求めようなんて甘い事を言うつもりはありませんけれどもそれでも勝率は出来るだけ上げておきたいものです」
「……いや、尤もな話だよ。だから本当は今日君達にこれを渡しておきたかったんだ」
黎斗はキャリーケースから何かを取り出した。それはGBAカセットのようなものだった。
「それは?」
「EXPカセット。簡単に言えばガシャット内に溜まった経験値を使ってレベルアップをするためのアイテムだ。君達のこれまでの戦いで1回くらいはレベルアップできるはずだ」
「……」
将碁が受け取り、ポケットの中に入れる。
「これが間に合っていれば武君もこんな目に遭わなかったかもしれない。申し訳ない限りだ」
「……いえ、そう言えばあの時俺を助けてくれた謎の攻撃。あれは何なんですか?」
「嵐山本部長の報告にあったものか。現在調査中だよ。何者かはまだわかっていない」
「……そうですか」
「……それよりも郡山馨に会ったそうじゃないか」
「はい」
「だがもう彼女に会うのはやめておきたまえ。既に聞いているかもしれないが彼女は現在唯一の特例。どういった作用を及ぼすバグスターウィルスなのかもわかっていない。もちろんワクチンも出来ているわけではないから万一君達に感染して仮面ライダーになれなくなってしまったら取り返しのつかないことになるかもしれない」
「……あと1度会っちゃダメでしょうか?」
「認められないな」
「……分かりました」
将碁は放射線治療室から花家医師が出て来てから再び武が担架で運ばれるまで何も言葉を発さなかった。
・翌日。
「それで来ちゃったんだ」
馨の前に将碁はいた。
「最近どうにも上が信じられなくてね」
実際罪悪感はある。今のこの姿も誰かに見られているんじゃないかと不安になる。それでも口にした言葉は嘘ではない。
「けどどうして止められてたのに私のところに?私が患っているのはあなたが知っているバグスターウィルスじゃなかったんでしょ?」
「だからこそだよ。あまりに俺達が知ってるバグスターウィルスとは症状が違う。嵐山さんや檀社長が信じられないわけじゃないがそれでも信じきれない。昨日確かに俺達を助けたのは仮面ライダーの攻撃だった。嵐山さんはもう一人仮面ライダーがいると言っていたけれどももしそのライダーだったらそう言えばいいのに調査中って言ったんだ。つまりあのライダーはあの二人の言うもう一人ではない。……それに1つ嫌な予感もあってね」
「いやな予感?」
「……郡山さん、昨日俺達に何か言いかけてましたよね?どうして俺の父さんの事を知っているのかって話で」
「あ、うん。実はね、あなた達のほかにももう一人私を見ることが出来る人がいるのよ
「……それが父さん?」
「違う違う。実はね、私のほかにもいるのよ。この症状の人」
「……」
血流が逆流するような感覚。
「まだ私達より全然幼い女の子。私よりも先にこの症状になって幽霊みたいになった。2か月前に肉体を失って放浪してた私を見つけてここに呼んだのよ。それ以来私はよくここにきてる。幽霊だからあれだけどここに住んでるって言ってもいいかもね。その子から最近西武巌って人がこの病院にやって来たって聞いたから」
「……」
「西武君?」
「……いや、何でもない。……何でもないけど、すごく何でもなくないけど今はいいや。郡山さんはその子を探してたの?」
「そうよ。でも最近姿を見かけないのよ。もしかしたら元の肉体に戻れたのかもしれないし逆にバグスター怪人に完全に肉体を奪われたのかも……」
「……」
重い腰がベンチに座ったまま動かない。すぐにここから離れなければならないという焦燥感と親のいるこの病院に閉じこもっていたいと言う臆病さが戦っている。そしてそれはあまりにも乱暴に打ち砕かれた。
「え……?」
正面。やけに大きな鳥が下りて来たかと思ったらそれはワイバーンバグスターだった。
「連絡は来ていないぞ……!?」
「あれがバグスター……!?」
「待って!空に逃げたらだめだ!俺が守れない!走って逃げるんだ!なんとなくだけど郡山さんがあいつに触ったらやばい気がする!」
「あ、うん!」
宇宙にいるように無重力ながらも馨は走るように低空飛行でワイバーンから距離を取る。一方で将碁はガシャットを取り出す。
「ジャンクセーバー!!」
「変身!」
「レッツゲーム!ムッチャゲーム!メッチャネーム!ホワッチャネーム!アイムア仮面ライダー!!」
レベル1に変身してワイバーンの突進を真っ向から受け止める。
「生きていたのか……けど今度は負けない!」
相手を飛ばさないように両足を踏んづけて両腕を脇の下で固めて動きを封じる。しかしレベル1の非力では抑えきれずに少しずつワイバーンが力ずくで姿勢を変えていく。
病院。
「……将碁君は応戦しているか」
黎斗が長椅子に座りながらどこかに電話している。
「……分かった。念のため私も動こう」
電話を切った黎斗は武の病室に入る。
「……檀社長……?」
「武君。バグスター怪人だ。今将碁君が応戦しているが一人で勝てるかは分からない。できれば君にも戦ってもらいたい」
「……けど、俺……」
「元来君は激しく動き回るわけじゃないだろ?それにこれがある」
黎斗は武に赤いガシャットのようなものを手渡す。
「これは?」
「ガシャットの力を引き出すアイテムさ。これと先に将碁君に渡してあるアイテムを使ってレベル3になればきっと勝てる」
「……」
「嵐山本部長、車を出してくれ」
黎斗は電話に向けて短く告げた。
ターミナル。駐車場。
「レベルアップ!!」
レベル2となったセーブがワイバーンを突き放し、
「アクア!エレメンタルスライド!」
「濡らせば!!」
ワイバーンの翼に向かって放水する。しかし、ワイバーンの翼に羽毛はなく、
「しまった!」
返しの膝蹴りを受けて後ずさり、続いて眉間に飛び膝蹴りを打ち込まれる。連日トンクラスの蹴りを頭に受けた事により再び脳震盪がセーブを襲う。
「ワニャワニャワニャ!!」
佇むセーブにワイバーンがとびかかり、その胸にドロップキックを打ち込む。
「くっ!やっぱりずるいだろ!レベル5!」
「将碁!!」
そこで武の声が響く。見れば嵐山の車から武が飛び出していた。
「武!?何でここに!?お前は病院に……!」
「だからって仕方ないだろ!お前ひとりで勝てるのかよ!!」
武は病衣のまま走り、ガシャットを取り出す。
「変身!!」
「ガンガンリボルバー!!」
レベル1に変身し、その勢いのままワイバーンをタックルで突き飛ばす。続いて懐から先ほど黎斗に渡されたアイテムを取り出した。
「それは……」
「檀社長から渡された。恐らく強化アイテムだろう。使わせてもらうぜ!!」
リボルバーがそのアイテムをドライバーに近づける。その瞬間。
「アガジャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「うわ!!」
どこからかサンダーウルフバグスターが飛来してリボルバーの手からそのアイテムを奪い去る。
「ああっ!!」
「お、おい、今のサンダーウルフバグスターだろ!?倒したはずじゃ……!?」
「それよかアイテムが……!!これじゃ勝てるか分からないぞ……!?」
「いや、もう1つを使えばいい」
セーブはレベルアップ用のアイテムをリボルバーに渡した。
「これは……」
「檀社長が作り出したレベルアップアイテムだ。これをガシャットに使えばいいそうだ」
「……もう1つアイテムがあったのか……」
前方。ワイバーンが立ち上がる。そこで二人はレベルアップアイテムをガシャットに突き刺す。
「「レベルアップ!!」」
「アクセル!アクセス!!アクシズ!!フルスピードフルスロットルボーイ!!アイムアレベル3スピードゲーマー!!」
「騎士甲冑串刺し甲冑ガンバズ甲冑グササーン!!アイムアレベル3ナイトゲーマー!!」
光が暴れだし、セーブとリボルバーの姿が変わる。ただでさえ細身だったセーブの肉体がさらに引き締まり、両足には刃つきジェットブーツが加わる。一方細身だったリボルバーにはレベル1以上の頑丈な甲冑が全身を包み込み、ハンドガンの上部からは刃が生え、その手には新たに槍が備わる。
「これがレベル3……!!」
二人が自身をそして互いを見る。レベル2に似た姿ながら確かな違いが見受けられる。
「ワニャワニャワニャ!!」
ワイバーンが低空飛行込みで突進。
「それなら!」
リボルバーがその突進を真っ向から受け止める。衝撃こそあったがしかしダメージはない。完全にレベル5のパワーを受け止めきっていた。
「後ろだ!」
そして次の瞬間には背後に回り込んでいたセーブがワイバーンの背中にパンチの応酬。
「……パンチがあまり効いてない。スピードは倍くらいになってるが代わりにパワーはそこまで上がってないみたいだな」
「ランサー!ウェポンスライド!!」
タブレットを操作して槍を召喚してワイバーンの背中を突き刺す。
「わにゃ!!」
「リボルバー!」
「ああ!!」
今度は正面からリボルバーが槍を出してワイバーンの腹を串刺しにした。
「俺の方はパワーは十分上がってるみたいだな。逆にスピードは遅く感じるが」
言いながらリボルバーは串刺しにしたままの槍をワイバーンごと持ち上げて背後に投げ飛ばす。そして投げ飛ばされたワイバーンに余裕で追いついたセーブが槍で何度もワイバーンをめった刺しにする。
「行くぞ!!」
「キメワザ!!ジャンククリティカルスピード!!」
槍を捨て、ワイバーンの右腕を掴み、関節を決めた状態で超スピードで走り回る。空気摩擦などでワイバーンの右腕回りがズタズタに引き裂かれていき、
「ナイトクリティカルフィニッシュ!!」
「いいタイミングだ!!」
リボルバーめがけて走り抜け、リボルバーがすれ違いざまにハンドガンでワイバーンの脇腹を撃ち抜く。
「わにゃああああああああああ!!!」
ワイバーンが大爆発し、その爆発をセーブが駆け抜けてリボルバーの横に戻ってきた。
「「ガッシューン」」
「ん?」
聴き慣れない電子音。気付くと二人はレベル2の姿に戻っていた。
「……レベル3で必殺技を使うとレベル2の姿に戻るのか……?」
「まさか一度しかレベル3になれないなんてことないよな……?」
「君達、」
そこへ黎斗が歩み寄った。
「檀社長……」
二人は変身を解除する。同時に黎斗は将碁の襟首をつかんだ。
「言ったはずだ。彼女に関わってはならないと。君達まで未知のバグスターウィルスに侵されてしまったら大変なことになるんだ。仮面ライダーで助けられる命が助けられなくなってしまう。今回は水に流そう。だが今後私の指示を無視した場合にはやむを得ない。君達のドライバーとガシャットを没収させてもらう」
「……分かりました」
「……さて、問題なのはサンダーウルフバグスターだ。何故倒したはずのバグスター怪人がまた姿を見せたのか。あれに関しては私も気になることが多すぎる……」
ぶつぶつ言いながら黎斗は嵐山の車に戻っていった。嵐山が将碁たちに視線を配る。載せていくという事なのだろう。だが将碁は断った。
「……俺正直しんどいんだけど」
「悪いけど我慢してくれ。それよりも伝えたいことがある」
「あん?」
将碁は今日一日、馨と話した内容を武に伝えた。
「……」
一方。雷王院はそんな二人を病院の窓から眺めていた。その手には先程まで武が持っていた赤いアイテムがあった。
「……ハザードトリガー……どうしてこれが……」
小さくつぶやき、姿を消した。