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仮面ライダーS/L11話

Tale11:発動されたChronicle

・それは深い、闇(ゆめ)の中だった。
「お前が戦わないのはお前の勝手だが、代わりに誰が戦うことになると思う?」
「……俺が……やったのか……?」
「あいつは弱いから死んだ。だけど、いい奴だった」
「大義のための犠牲となれ……」
ぼんやりと頭の中に浮かぶ誰かの声。誰のものかは思い出せそうで思い出せない。
「戻ったぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「これでも今の俺の力は2%に過ぎない」
「やってくれたなぁぁぁっ!!!」
「そんな状態で俺の相手が務まると思っているのか?」
とても凶悪な存在に蹂躙された世界の記憶。多くの人達が悲鳴を上げながら死んで行ってしまった。だが、そのまま終わるわけでもなかった。
「みーたんが最期の大舞台を見てくれるんだ、全力で格好つけねえとなぁぁぁぁぁっ!!!」
「親父……やっとわかったよ……」
「ロストボトルを守っただけだ……」
男たちが最期の戦いに挑み、世界は救われた。宇宙からやってきた邪悪は月面に封印されたのだ。


・意識が戻る。見上げたのは見慣れない天井。一度小学校時代に体調を崩して保健室のベッドで眠って起きた時にも同じような感覚があった。つまり、
「……病院か」
将碁が目を覚まし、上体を起こす。起きて数秒だが体に異常はないように見える。完治したのかそれとも……。
「……お、目が覚めたか」
隣のベッド。そこには武がいた。
「武、お前も入院?」
「みたいだな。俺もさっき目を覚ましたばかりだからよく状況がわかってない」
武がスマホをいじる。
「ただ、分かっていることがあれば俺達は一週間くらい寝ていたって事だ」
「一週間……そんなに寝てたのか……。と言うか何で寝てたんだっけ?」
「檀コーポレーションでの戦い」
「……ああ、」
途端に記憶が蘇る。2020年6月末。それまでバグスターを生み出しては何らかの目的で自分達にけしかけていたことが判明した檀黎斗社長に事情を聴くために向かった先で檀黎斗社長が途端に発狂して人造バグスターと共に襲い掛かってきた。檀黎斗もまた仮面ライダーゲンムだった。
「……俺は檀社長の攻撃を受けて倒されたはず……あれからどうなった?お前が檀社長を倒したのか?」
「……倒したのは別の奴だった」
「別の奴?」
「……俺もよく覚えてない。けどこれだけは覚えてる。あそこに現れたのは仮面ライダーライトニング」
「……仮面ライダーライトニング……」
声にする。確かにどこかで聞き覚えがあった。
「……さっき変な夢を見たんだ」
「どんな?」
「俺達が他の仮面ライダーと一緒に化け物と戦ってた。そのほかのライダーも見たことがないはずなのに見覚えがあるんだ。俺達も今のセーブとリボルバーじゃない、別のライダーの姿をしていたんだ」
「……どうしてか分からないけど何故か知らないけど俺はその光景を想像できる。当時のお前も翼があった」
「当時のお前も銃持ってた」
「……」
「……」
押し黙る。お互いに知るわけがない情報を交換し合える。その奇妙な状態が不安を呼ぶ。
「……まあ、所詮夢の話だよな」
武がベッドから起き上がり、靴を履いて窓まで歩み寄る。カーテンを開ければ太陽は真上に燃えていた。つまり今は昼頃なのだろう。それだけの情報を推測した将碁だがやけに武が沈黙していることに気付く。
「どうした?」
「……おい、俺はまだ夢でも見てるのか……?」
「え?」
様子がおかしい。将碁も靴を履いて武の傍まで駆け寄る。共に窓の外を見た。窓の外ではあの日戦ったエグゼスターと呼ばれるバグスターの亜種怪人が無数にいて互いに戦っていた。


本宮利徳は三日前に行動を起こした。
ガシャットゲームで有名な檀コーポレーション本社が火災により大勢の社員がなくなった事件を耳にして、まだ中学生ながらも底知れぬ絶望感を抱いた。有名なスタッフの死去もニュースになっているが、何よりもうガシャットゲームは作られないのではないかと言う不安が勝ちすぎていた。2,3日学校を休むほどだった。しかし三日目の昼。昼食を食べている時に突然ニュースで檀コーポレーションの親会社である西武財閥の嵐山本部長と言う男から声明があった。
「この度は檀コーポレーションでの不幸、誠にお悔やみ申し上げます。現状、檀コーポレーションにおける経済活動の再会見込みは立っておりません。ですが檀社長から最後に託されたプロジェクトに関しましては予定通り実行する予定となっております。つきましては急な流れで申し訳ございませんが本日午後16時より檀コーポレーション本社跡にて新作ゲームである仮面ライダークロニクルを現状存在する在庫分のみ販売いたします」
「……ガシャットの最後のゲームだって!?」
会社には一度だけ見学会で行ったことがある。自宅からは2時間ほどで到着するはずだ。
「……行こう」
利徳は貯金箱から1万円を出してSUICAと一緒にポケットにしまい、親に内緒で家を出た。
「あ、リトくん。どこ行くの?」
駅。下校中の幼馴染・高良春奈と出会った。
「春奈、ガシャット買いに行くんだよ」
「ガシャット?もう体調は大丈夫なの?」
「いいから!」
「何で私まで!?」
結局春奈を道連れにして電車で2時間。檀コーポレーション跡地にはすでにたくさんの人や報道陣で賑わっていた。長蛇の列に並ぶのは面倒だ。
「春奈、裸になって踊ってよ。その間に目盗んで先の方に横入りするからさ」
「突っ込みどころだらけだよ!?しないよ!そんなこと!」
「ちぇっ、」
大人しく列に並ぶことにする。列は西武財閥の職員に管理されていて車道にはみ出ないように並ばされた。やがて、午後16時ぴったしに販売は開始された。いろんな人たちが目を血走らせて買いあさっていた。
「はい、押さない掛けこまないシャウトしないのお菓子の約束守ってくださいね~!一人1個までの受付となってます~!」
押し寄せるサラリーマン、土方、ニート、学生、医者、覆面レスラー、バンナム社長。行ったことはないがコミケを彷彿とさせた。が、15分後くらいに無事購入できた。
「ふう、」
人混みから抜け出る。
「あれ?春奈は?」
「こっち~!!!」
声に振り向けば人混みの中。どうやら巻き込まれているらしい。本当は早く帰ってプレイしたいのだが流石に見捨てるのも酷だろう。なんというかこのテンションがカオス状態な場所に女子中学生置いておくと色々危険な気がした。とは言え利徳でも簡単にはどうにかできそうにないごった返しだ。買った人が掃けるまでおとなしくそのまま押しつぶされていた方が賢明かもしれない。そう思った時だ。
「あ、あれはなんだ!?」
声がする。その場にいた多くは声を発したものの方か、その視線の先を見た。それは信号機の上。そこに赤と青の姿をした人型の怪物が立っていた。
「よう、人間の皆さん。お前達は今、素晴らしいものを手に入れた」
言いながら化け物は軽い調子で何メートルも飛び上がり、サーカスか何かのような流麗なパフォーマンスを空中で行いながら檀コーポレーション社屋跡の焼けた屋根の上に着地する。
「仮面ライダークロニクル。今手にしたものは直ちに起動してみるといい」
その声に従ってか何人かが恐る恐る仮面ライダークロニクルのガシャットを起動した。
「仮面ライダークロニクル!Ride on the game Riding the end!」
電子音の後、起動した人間の姿が変わり、エグゼスターの姿に変身した。
「こ、これは何だよ!?」
「おめでとう。仮面ライダークロニクルを起動した者には俺達バグスターに一歩近づいた存在・エグゼスターになれた。エグゼスターはこれから世界中のいたるところで出現するバグスターと呼ばれる存在を倒すことで経験値をためてレベルアップすることが出来る。そうしてレベルが10の倍数に上がったものはそのたびに1つ、あらゆる願いをかなえることが出来る」
その声にざわめきがあったのは言うまでもない。
「人間どもよ、戦え!バグスターを、そして同じエグゼスター同士で競い合い、争い、己の欲望をかなえるがいい!!そうしてレベルが100に達したものはこの世で最強の存在、絶対無敵の究極戦士である仮面ライダークロノスへの変身権を獲得する!!!」
ざわめきは過熱していく。その心の鼓動は加速していく。
「ああ、言い忘れていたがこの俺の名前はパラドクスバグスター。レベルは99。いわゆるボスキャラだ。最強の戦士になるための最後の壁として立ちはだかる。いずれこの中の誰かが俺とガチでやり合える日が来る事を祈ってるぜ」
それだけ言って化け物はその場から姿を消した。それから数秒は全くの沈黙。やがて少しずつ熱気が熱狂となり白熱し、手が付けられない大騒ぎとなった。パラドの説明に乗じて何とか抜け出してきた春奈。
「何かすごいことになっちゃったね」
「……ああ。こりゃ今日と言う日から世界が全く新しいものになっちまったかもしれないぞ」
「何よそれ。……あ」
「ん、どうした?」
「いや、これ」
見れば春奈のカバンに仮面ライダークロニクルのガシャットが入っていた。恐らく人混みなのと先ほどの白熱騒ぎによって誤って誰かのが入り込んでしまったのだろう。
「返してこなくちゃ……」
「まあ待てよ。流石に今からあの中入るのは止めるぞ」
「……それもそうだよね」
いつしか警察隊がやってきて軽い乱痴気騒ぎになっていた。あの中また突撃するのは正直勘弁したいところだろう。
「記念に取っといたらどうだ?」
「え、万引きしろと?」
「いや開封されてるし」
「窃盗だよ?」
「かと言ってあの中突っ込んだらそれ確実にあの中の誰かが加害者になるぞ?」
「……それもそうかもしれないけど……だったらせめて警察の人に……」
その時だった。
「ワニャワニャ!!」
奇声を上げてワイバーンバグスターが飛来し、既に変身していたエグゼスター3人をまとめて殴り飛ばす。
「な、何だ!?」
騒然。すぐに警察官が4人掛かりで駆け寄るがワイバーンバグスターの一撃を受けて全員がぶっ飛ばされて赤い花を散らす。
「きゃ!!!」
惨劇をもろに見てしまった春奈は悲鳴を上げ顔を背けて失禁。混乱する利徳のすぐそばを警察官の首だけが飛んできた。
「……これ……ゲームなんだよな……?」
その言葉を落とすのだけが精いっぱいだった。
「バグスターだ!!倒して経験値にするぞ!!」
何人かがエグゼスターに変身してワイバーンに向かっていく。1対1では間違いなく勝てない。しかし、10人ほどで掛かればほとんど勝負は決まったようなものだった。流石のレベル5バグスターもレベル1エグゼスター10人にサンドバッグにされれば10秒足らずで体力を削り切られて消滅。その10人の経験値になった。
「あ、すごい。レベルが上がっていく……!!」
脳に直接レベルアップのメッセージが表示され10人は一気にレベル4にまで上昇した。
「……」
それを目撃しながら利徳は痙攣したまま動かない春奈を背負ってその場から走り去った。
翌日。春奈が心配のため利徳はまた学校を休みつつ朝から春奈の家に向かった。その道中もエグゼスターの姿をいくつか見かけた。あろうことかエグゼスター同士で戦っていた。信号を待っている間に決着がつき、片方は変身を解除しもう片方はいつの間にか消えていた。しかし、信号が青になった頃に消えた場所に先ほど倒されたエグゼスターが出現し、再び勝負になった。その決着は見なかった。
「春奈?調子どうだ?」
家に行く。幼馴染だから当然家は知っている。と言っても行くのは小学校以来だ。多少の緊張はあったがおばさんが覚えてくれていたからすんなりと中に入る。
「……ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ」
部屋。ベッドの上で体育座りしながら何かぶつぶつ言いながらスマホに文字を打っていた。
「……春奈……?」
様子がおかしい。寝間着の春奈に歩み寄る。スマホの画面を見てみると何だか難しい言葉が羅列していた。と言うか日本語じゃなかった。
「……ん、」
一歩離れる。と、分かりづらかったが何故か春奈の股間が膨れ上がっていた。もちろん春奈が女子だと言うことは知っているためあれではないのは分かっている。多少気になって、躊躇してそして思い切ってズボンの中に手を突っ込んでみた。
「……お前これ……」
パンツの中にクロニクルのガシャットが入っていた。しかも自分のにはないトロフィースターが1つついていた。昨日家に帰ってから取説映像(ナビゲータ)を呼び出して調べたところ、レベルが10の倍数になるごとにその強さを表すためにつけられるものらしい。つまり春奈はこの一晩だけでクロニクルをプレイしバグスターやほかのプレイヤーを倒してレベルを10まで上げたということになる。
「……」
昨夜の説明を思い出しガシャットを操作する。どんな願いをかなえたかを表示するコマンドを打ってみた。
「……あんだよこれ。何でこうなったのかが知りたいだって?」
春奈の願いはどうしてこのような惨劇が起こったのかを知りたいだった。それを踏まえてもう一度スマホの画面を見る。
「……まさか脳じゃ足りないからスマホにありったけの情報を打ってるってのか?その処理で忙しいから何をしても反応がない……」
まさかと思ってスマホを無理矢理奪って一番最初の文字を見る。
「……宇宙創世……ってマジでそこからすべての情報得てるのかよ……」
「返して……」
力なく春奈は手を伸ばす。それがスマホなのかガシャットなのかは分からないが今ガシャットを渡すわけにはいかなかったからスマホだけを返した。するとまたぶつぶつ言いながらスマホに文字を打ち込み続ける。
「……文字打つだけでもどれだけ時間かかるか分かったもんじゃない。全ての知識って言うのは興味あるけれども、けどこのままじゃだめだ」
利徳がガシャットを操作する。出来ないと分かっていても願いのキャンセルが出来ないか試してみる。しかしやはり結果は変わらなかった。
「……俺がレベル10上げてその願いで春奈を元に戻すしかない……」
結論はそこに至った。利徳は春奈のガシャットを持ったまま町へと向かう。程なくしてレベル7マンティスバグスターを発見した。
「……やるしかないのかよ」
「Ride on the game Riding the end」
「変身!」
そしてレベル10のエグゼスターに変身する。敵を発見したことでマンティスは雄たけびを上げてその鎌を向けて突進してくる。
「これでも空手やってたんだからな!!」
突進を受け止め、完全に威力が死ぬ前に膝蹴りを相手の懐に叩き込む。
「キビャキビャキビャキャァァァァァアッ!!!」
奇声を上げて悶えるマンティス。利徳はひるまずに追撃。
「武道の奥義は基礎にあり!!」
一歩踏み込んでからの正拳突き。レベル10のパワーで放たれた一撃はマンティスの腹をぶち破り、その一撃だけでマンティスを電子分解して経験値に変換した。
「経験値はこっちに!」
目に見える光の粒子となった経験値を利徳は自身のレベル1しかないガシャットで受け止める。
「レベルアップ!!」
電子音が響き、画面のレベル表示が1から6にまで上がった。
「……出来るものだな。一回でここまで上がるならもう一体レベル7くらいのバグスターを倒せば……」
「見たぜ……?」
「!」
声。振り向けば一人の男がいた。背が高く、雰囲気だけ見れば大学生くらいだろう。その手の中には仮面ライダークロニクルのガシャットがあった。
「ガシャット!?」
「変身!!」
男がエグゼスターに変身し、利徳に襲い掛かる。
「ぐっ!」
「面白い方法だな!ガシャット2つ持ちかよ。けどずるはいけねえよな?」
人と戦うにはまだ躊躇があった。それでいて対戦相手は妙に戦い慣れしていた。自分のように格闘技を習っているという感じではない。しかしこの独特な戦い方、ダーティトークだのフェイントだのを組み合わせてとにかく集中させないこの戦い方。間違いない。相手はこの仮面ライダークロニクルにおける対人戦に慣れている。と言うことは既に何人か倒している可能性が高い。
「いったい何人今まで倒してきたんだ!?」
「ほう、よく気付いたな。俺がPKだって。12人だよ。おかげで俺のレベルは現在15。レベル10時の願いは他のプレイヤーの居場所とレベルがわかるようになりたい、だ!」
パンチ。かと思いきや手首から小さなナイフのようなものが飛び出て利徳のボディを切り裂く。徒手空拳しかないと思いきやエグゼスターにはこんな機能があるとは思わなかった。
「他のプレイヤーを倒してるならどうして他のガシャットを奪わなかったんだ?」
「一緒になって消えたからに決まってるだろ?」
「え?」
「仮面ライダークロニクルはただのゲームじゃない。命懸けのリアルファイトゲームなんだよ。負けたら死ぬに決まってるだろ!?」
「け、けどさっき負けたのに無事だった奴が……」
「無事なわけがあるかよ!!負けた奴はな、人間をやめる。人間だからエグゼスターのままでいられるけど、負けて死んで人間やめた時点でそいつはエグゼスターからただのバグスターになるんだよ!!つまりエネミー!!一粒で二度おいしい敵ってわけだ!!」
「……人間がバグスターに……!?」
驚愕と動揺が新たな傷を生む。脳内に表示されているライフゲージは既にレッドラインに達している。もう1分程度しか持たないだろう。
「どうだ?お前もその2つのガシャットを差し出すなら命だけは見逃してやってもいいんだぜ?」
「そんなこと……!!」
「選べよ!命を取るか!?バグスターになるか!?」
ナイフ攻撃に見せかけての前蹴り。利徳のボディを吹っ飛ばし塀に背中から叩きつけられる。エグゼスターのボディのおかげで今のところ怪我はない。だが確実にライフゲージと言う命は削られつつあった。そしてそれによる最後の時はもう近いように見える。
「春奈……」
「女の名前か?は!そんなに味占めたいならさっさと降参しろってんだ!」
敵エグゼスターの攻撃が利徳に迫る。しかし、それは届かなかった。
「あ!?」
「……え?」
利徳が見る。敵エグゼスターの背後。そこに黒い仮面ライダーが立っていた。
「……また戦争が始まる。以前よりも凶悪な戦争が……」
「んだてめぇ!?どんな改造しやがってそんな姿に……」
言葉は続かない。敵エグゼスターは黒いライダー……ライトニングの拳の一撃で膝から崩れ落ち、
「ゲームオーバー」
電子音を流して消滅した。その経験値データが利徳の2つのガシャットに均等に分けられる。春奈のガシャットはレベルが12になり、利徳自身のガシャットはレベルが9にまで上がった。しかし、喜ばしい気持ちはわかない。ほぼ不意打ちに近いとはいえレベル15のエグゼスターを一撃で倒した男が目の前にいるのだから。
「あ、ああ……」
「怯えるな。殺しはしない。だが、いくつか言うことを聞いてもらう」
一歩踏み出すライトニング。直後、
「ギビャビャンビャンビャガガアァァァァァァァァッ!!!」
背後で先ほど倒されたエグゼスターが復活し姿を変える。利徳の脳内画面ではライガーエグゼスター、レベル15と表示されていた。しかし、ライフゲージを見るより先に表示は消えた。
「……お前にやってもらいたいことは2つ」
ライトニングは後ろを向いたまま裏拳の一撃でライガーエグゼスターを撃破していた。ゲームオーバーの電子音が流れることなくライガーエグゼスターは今度こそ完全に消滅した。再び経験値データが利徳の2つのガシャットに吸い込まれていき、
「1つは今レベル10になったであろうそのガシャットで1つ願いをかなえてほしい。三日後に全てのエグゼスターをとある場所に集めてほしいと。そしてもう1つ。俺が三日後にお前以外の全てのエグゼスターを滅ぼす。その経験値をお前は浴びていい。願いもかなえていい。だが、限界までレベルが上がったそのクロニクルのガシャットを譲ってほしい」
いつの間にか互いに変身が解除されていた。利徳は自分よりも10歳くらい年上の相手に対してほとんど無意識に頷いていた。手元の二つのガシャットはそれぞれレベルが14と11になっていた。