仮面ライダーS/L14話
Tale14:戦いのVoltex
・緊急搬送された椎名。母親からの電話で半ば無理矢理に将碁と武も病院までやってくる。
既に鏡執刀医による緊急手術が行われていた。およそ10時間の難関な手術が終わり、深夜になってやっと鏡執刀医が手術室から出てくる。既には母は一時帰宅していた。
「あ、鏡先生!」
待合ベンチに座っていた将碁が武に支えられながら立ち上がる。
「あなたは……確か西武巌さんの……」
「西武将碁です。あいつは、従兄弟は大丈夫なんですか!?」
「……正直厳しい状態です。詳しくはうちの院長から話が行きますので」
そう言って鏡執刀医はふらつく足取りで暗い廊下を歩いて行った。ほとんど休みなく10時間ぶっ通しで手術をしていたのだからその心労は相当なものだろう。彼の背中が見えなくなってから鏡院長が数人のナースを伴ってやってきた。
「西武椎名さんのご家族の方ですね。こちらへどうぞ」
ナースによって松葉杖が用意されて将碁が武のフォローもありながら移動する。
暗い廊下を歩いた先。椎名が入院することになる病室。そこに鏡院長や将碁達は足を止めて中に入った。
「まず椎名さんの容態なのですが、左肺を中心に激しい損傷が見られました。心臓や背骨はかろうじて無傷なのですが神経系や血管はやはり悪影響が及んでいます。左の肺は完全に破壊されていて現在人工臓器を入れていますが数日以内に本物の臓器を移植する必要があります。また、それに伴いとにかく血液が足りない状況です。失礼ですがあなたは……」
「はい。椎名とは同じA型です。父親同士が兄弟の関係です」
「よかった。それなら問題なく輸血が出来ます。それで肺の方なのですが……」
「……それも俺が……」
将碁が重く返事をしようとした時。鏡院長当てに連絡が届いた。
「失礼………………はい、鏡院長です…………これはどうも。お久しぶりで……はい……はい……承知いたしました。では、失礼します」
1分に満たない通話。
「失礼しました。今、あなたのお父様である西武巌さんの病院から電話が入りまして、肺含む臓器をお父様から移植することが決まりました」
「え!?父さんが……!?」
思わずスマホの時計を見る。既に夜中の1時を回っている。しかもどうしてこんなタイミングよく電話がかかってくるのか。
「詳しいことは明日……もう今日になりますがまた後でご相談させてください。今日はどうされますか?何ならタクシーでも?」
「いや、その……」
「出来ればここにいて椎名の心配をしたいです。それにこいつ足怪我してますし」
将碁を遮って武が答えた。
「……分かりました。椎名さんはあと数時間ほどは状態監視室で様子が見られます。なのでそれまではこの部屋をお使いください。あと、将碁さんが入院していた病院へは私の方から連絡を行ないますのでご心配なく」
「ありがとうございます」
二人は頭を下げ、鏡院長はナースを伴って去っていった。
やがて、
「……椎名、誰にやられたと思う?」
「仮面ライダークロニクルのプレイヤーの可能性が高いんじゃないのか?あいつも最高レベルは10だから高レベルのプレイヤーには勝ち目がないはず。状況を調べようとして運悪くプレイヤーに出くわしてそのまま倒されたんじゃないのか……?」
「……それには少し妙だと思う」
「どうして?」
「攻撃が左胸に集中してるんだよ。つまり心臓狙い。まだゲームと言えなくもない仮面ライダークロニクルのプレイヤーにしては殺意が強すぎるように見える」
「……椎名に対して個人的に恨みを持っている者の仕業?」
「そう。そしてそれはエグゼスターであるとは限らない」
「……」
武が無意識に脳裏に浮かべた顔は二つ。1つは檀黎斗。そしてもう1つは、
「……瑠璃さんだってのかよ」
「飽くまでも可能性の話だよ。こんな夜中だしまともな思考回路じゃないと思う。単純に事故かもしれないし。何にせよ椎名が目を覚ましてから何があったのかを聞かないと」
「……そうだな」
それから二人は少しだけ落ち着いたからか俄かに生まれてきた眠気に負け病室で3度目の睡眠を得た。
「「……これで10日間自分の部屋で寝てないことになるな」」
僅かなシンクロの後に。
7時間後。朝9時過ぎ。将碁と武は突然衝撃を受けて無意識に飛び起きた。
「な、何だ!?」
「何が起きたんだ!?」
何が何だか分からない混乱状態で立ち上がって周囲を見渡す。既に朝になっていて廊下からは何人かの声が聞こえる。また、一瞬だけだが白衣の裾がドアの向こうに消えていくのが見えた。
「……病院の人に起こされたのか?」
「って事はそろそろ椎名がこの病室に来るって事か」
しかし妙な痛みを頭から感じる。まさかと思うが殴られた?病院のスタッフが?まさか。
「西武さん、よろしいですか?」
やがてドアが開かれると鏡院長がやってきた。
「あ、はい」
「おはようございます。先程西武巌さんがこの病院にいらっしゃいました。このまま西武椎名さんに左肺及び周辺の移植手術が行われる予定です」
「あ、はい。分かりました」
「大体どれくらいかかりそうですか?」
「飛彩……いや、鏡執刀医の腕ならば3,4時間ほどで終わる見込みです」
「……あのひょっとして、」
「ええ……まあ、昨日の椎名さんそして4か月前の巌さんの手術を行わせていただいた鏡は私の息子です」
「……息子さん、大丈夫なんですか?昨日の今日で……」
「大丈夫。ご心配なく。先程娘……あれの嫁ですけどね、その手作り特大ケーキを丸ごと食べたばかりですから」
「……は、はあ……」
色々命の恩人に対してこう言うのもなんだが彼女持ちどころか既婚者だったのかと心の中で舌打ちをする。
「本日午後6時を目途に椎名さんをこの病室に移す予定ですのでそれまでは」
「えっと今日の手術は危険性とかはないんですよね?」
「ええ。既に椎名さんはもちろん巌さんの情報も持っているので内臓移植に伴う拒絶反応なども低い見込みです。気楽にお待ちください」
「……はい。ありがとうございます」
鏡院長が去り、二人はトイレで顔を洗ったり売店で軽い朝食を買ったりする。流石に病室で食事は出来ないため中庭で食べることにした。
「なあ、」
「ん?」
サンドイッチを食べながら武が口を開いた。
「俺達ってまだ仮面ライダーやる必要あるのかな?」
「……どういうことだ?」
「いや、昨日か一昨日俺達が話し合ったような形で仮面ライダークロニクルが発動したのだったらさ、確かに周囲の被害はあるかもしれないけどそれで上級バグスターを倒せるならもう俺達って無理に戦わなくてもいいんじゃないのかなって」
「……今ので答えが出てるじゃんか」
「え?」
「檀社長の思惑はともかくエグゼスターによって町に被害は出てる。それを可能な限り減らすこと。それが俺達の戦う目的ってのはどうだ?」
「……何だよ、今までと何も変わってないじゃんか」
「そうだよ」
そこまで言って二人は急に噴き出して大笑いした。ここまで笑うのは久しぶりだった。
「……だったらひとまずはさ、」
「ああ」
「「あれをぶっ潰すところから始めよう」」
同時に振り向く。それは病院の屋上……と言うよりは空。ワイバーンバグスターとジェットウィングバグスター、マンティスバグスターが病院に向かっているのが見えた。
「武、ガシャットを貸してくれ。まだ接近戦は厳しいと思うから」
「分かった」
ふたりがサブガシャットを交換し、スターダストドライバーを起動させる。
「「スタァァァライト!!スタァァァァゲイザァァァァァァッ!!!」」
「「変身!!」」
「ガンバズ星数シューティングフォーメーション!アイムアレベル10フォートレスゲーマー!!」
「星屑ポップ!星銃ステップ!屑銃パーフェクトゲッチュー!!アイムアレベル10ハンティングゲーマー!!」
ふたりはレベル10となって空飛ぶ3体のバグスターに向かっていく。
「ミサイルで!!」
セーブが両肩から4発のミサイルを同時に発射。思ったよりかは大きな音を出しながら4発のミサイルはマッハ3の速度で宙を貫き、3体のバグスターに着弾を完了する。
「ワニャワニャ!!」
「ぴっこんぐわっ!!」
その一撃だけでワイバーンバグスターとジェットウィングバグスターは消滅した。マンティスバグスターは可能な限り迅速に動き、窓を割って病院に入ろうとする。が、
「させるかっての!!」
リボルバーが取り出したタブレットの画面にナイフを突き刺す。と、マンティスが割ろうとした窓からリボルバーの腕が出て来てその手に握ったナイフがマンティスの鎌を砕き、胸に突き刺さる。その間にセーブがマンティスの背後にまで移動して股間のバルカンを連射、マンティスの背中をハチの巣にすると脱力して動かなくなったマンティスを担いで飛翔。
「いまさらレベル7など!!」
パイルドライバーの要領でマンティスを頭から地面に叩きつけて爆砕。経験値を吸収する。
「……経験値って多分もう意味ないよな」
「確かに。けど椎名があの状態だしな。新しいガシャット手に入りそうにないし何とか経験値で何とかするしかないのか?」
「……かもな」
空中で合流した二人。その視線の先に一人の少女を見た。
「あれは……」
避難民の中。戦場へと向かうスーツ姿の少女。紛れもなく瑠璃だった。
「スカイフォールイカロス!!」
瑠璃がガシャットのスイッチを入れる。
「変身」
「最初で最後の空からクイーンオブザスカイ!アイムアレベル20イカロスゲーマー!!」
「……何!?」
変身が完了したアイジスの新たなる姿。
「……今、レベル20って言ったか?」
「嘘だろ!?檀社長も椎名もいないのにどうして新しいガシャットが!?」
驚く二人。その間にもアイジスは4枚の翼を広げて飛翔。マッハ6の速度で一気に距離を詰めて二人の目前まで迫る。
「!」
「申し訳ございませんが、もうあなた達は邪魔なんです」
両手同時のパンチ。ふたりは腕でガードするもその上から凄まじい威力が胴体を貫通する。
「ぐっ!!!」
「将碁!!」
「……まだ怪我が深いようですね」
アイジスは一瞬でセーブの背後に回り込み、スターライトドラグーンのガシャットを奪いにかかる。
「させるか!!」
リボルバーはそのアイジスの左手の甲にナイフを突き刺す。
「っ!」
「今更レベル差が通じると思うな!!」
セーブのエルボーがアイジスの顔面に叩き込まれ、後ずさるアイジス。その間にリボルバーはタブレットの画面に両腕を突っ込む。するとアイジスの背後にリボルバーの両腕が出現しアイジスの両腕を掴み上げる。
「!?」
「今だ!!」
「キメワザ!!フォートレスクリティカルバースト!!」
「てやーりゃああああああああああああああああ!!!!!!!!」
動きを封じられたアイジスに向かって無数の火力が迫る。ミサイル、ガトリング、バルカン。
「このっ!!」
アイジスは力ずくでリボルバーの腕を振り払い、逃げずにガシャットのスイッチを押す。
「キメワザ!!スカイフォールクリティカルフィニッシュ!!」
アイジスが無数の火力に向かって体をドリルのように高速回転させて突進。一瞬触れただけでミサイルが爆発すらせずに粉砕され、しかし複数までは処理できない。
「あああああああああ!!!」
何発か被弾しながらもアイジスは超音速の突進を遂行し、火力の海を貫きセーブに激突する。
「ぐうううううっ!!!」
全ての弾薬を使い果たした無防備の状態で穿孔の一撃を受けたセーブは受け止める事も出来ずに吹き飛ばされ、病院の屋上に叩きつけられる。ダメージがひどいが変身は解除されない。しかし立ち上がるには厳しい。しかもアイジスの突進は旋回してまだ続いていた。屋上足場のコンクリートにギリギリ水平な超低空状態でアイジスは再びセーブに向かってドリルの高速突撃を行なう。アイジスが進むだけでコンクリートの足場が破壊されていき、異音が響く。しかも、セーブの背後には給電設備があった。それを破壊されたとしても病院内の配電は問題ないかもしれない。けど問題があるかもしれない。少なくとも今手術をしている椎名と巌に支障が出るかもしれない。だからセーブは逃げられない。覚悟を決めて攻撃を真っ向から受け止めることにする。状況に気付いたリボルバーも急降下してセーブより前でアイジスの突撃を受け止める。
「うわああああああああああああああ!!!」
触れた両腕が砕ける感覚、激痛が襲い掛かりリボルバーの脳を攻撃する。それでもリボルバーは足腰に力を入れて突撃から逃げない。
「まだだぁぁぁぁぁっ!!」
セーブが後ろからリボルバーを支え、突撃の盾を作る。両腕のガトリングをそのまま叩きつけるも一瞬で粉々になる。だが逃げない。それでも二人は確実に給電設備までの距離を縮められていた。あと1メートルを切ったその時。
「トリニティセレクト!!」
「「!!!」」
どこかで聞いたことのあるような電子音が聞こえた。
「ライトニング!!Are you Ready!?」
「変身!!」
「孤高のサンダーボルト!!ライトニング!!イイイイエェェェェェェェイッ!!!」
「はぁぁぁぁっ!!!」
やがて稲光と共に仮面ライダーライトニングが姿を見せた。
「仮面ライダー……」
「ライトニング!!」
「っ!?」
「Ready Go!!!!!ボルテックフィニッシュ!!!!」
ベルトのハンドルを回し、とんでもない電気のエネルギーが発生してはライトニングの左足に集中する。
「はああああっ!!!」
「!?」
ドリル回転しているアイジスをその側面からライトニングの電光を纏った飛び蹴りが叩き込まれる。
「うううううああああああああっ!!!」
爆発したかのような音と光の衝撃。気付けば将碁と武は変身が解除されていた。しかも武は砕け散った筈の両腕が元に戻っていた。そして右方。煙を上げてひん曲がったフェンスに瑠璃が半裸で倒れていた。スーツは完全に焼け落ちていて下着や肌着すらほとんどが燃えて灰となっている。羞恥やら悔恨やらで表情を歪めているのだが力が入らないのか立ち上がる事すら出来ずにいる。
「……」
ライトニングは無言のまま瑠璃へと歩み寄る。
「駄目だ!」
将碁はライトニングの殺意を感じた。だから武のドライバーからガシャットを抜き取り、
「ジャンクセーバー!!」
「変身!!」
「ジャンジャンジャンキージャンジャンセーブジャンジャンジャンクセーバー!!」
レベル2の姿になってライトニングと瑠璃の間に立ちふさがった。
「……」
「もう勝負は終わった筈だ……」
「その子はまたお前達を襲うぞ?」
「今助けてくれたことには感謝する。けど、これ以上はやらせない」
見ればセーブのドライバーにハザードトリガーが出現していた。それにライトニングが意識を取られていると、
「くっ!」
瑠璃はフェンスから飛び降りた。やがて電子音の元アイジスが飛び去って行くのが見えた。
「……ふん、」
踵を返すライトニング。
「待ってくれ、ライトニング。俺達、前にどこかで……」
しかしセーブの質問に答えずライトニングもまたフェンスから飛び降りた。セーブが追いかけるが既に誰の姿もなかった。