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仮面ライダーS/L38話

Tale38:狙われたQueen

・エボルトを一時的に撃破したことで、世界は水没前の状態にまで戻った。
将碁達はまずCRへと帰還して状況の確認をすることを最優先に行動を開始した。
「で、本当にこいつまで一緒なのかよ」
武が片手にロープを持ちながら嘆息交じりに言う。そのロープは後ろで雷王院の首に繋がれていて、武によって全身グルグル巻きにされた雷王院は無言でずるずると引きずられて移動されていた。本来ならかなりの労力になるのだがバグスター故の力でほとんど疲労はない。
「戦力としてももはや雑魚以下。エボルトに利用されることしか存在価値がないと思うんだけど」
「本当に利用されるって言うのなら近づくはずだ。なら、餌として有効になる。それに、」
将碁が雷王院を見やる。雷王院はただズルズルと引きずられていて視線も合わせない。
「リセットされたとは言えこいつは取り返しのつかないことをした。けど、人間だ。人間なら罪はその身で償わなければならない。こうして生きている以上はCRに連行して黎斗社長達と同じデータ化して管理。その上で洗いざらい旧世界の話をしてもらいながら一生以上の永遠を償わせるだけだ。こいつにとってはただ悪として討たれるよりかも罪人として永遠を過ごすことの方が屈辱だろうしな」
「……」
雷王院は答えない。ただ二人がバイクに乗ってCRへの道のりを行くだけだ。
「にしても椎名が音信不通って何があったんだろうな?」
「ヘリがあれば楽なんだけど。バイクじゃ何時間もかかっちまうな。俺だけなら一足早く先に行けるんだが」
「もしもって話もあるから一緒に行動した方がいいだろう」
それから3時間経過してやっと見慣れた街並みに戻ってきた。夕暮れに落ちてはいるがしかしそのなつかしさには僅かながら涙腺が緩む。僅かな間だったとはいえ水没して壊滅した世界を見てきた後ではやや刺激が強い。
「お疲れ様です!」
駐車場に近付くと警備員が敬礼してきた。二人は見様見真似で敬礼してから頭を下げる。
「椎名と連絡がつかないんですけど何かありました?」
「椎名会長は先ほど出られました」
「会議か何かか?」
「そこまでは……」
「どうする?椎名を探しに行くか?それともCRで待機してるか?」
「……行く当てもなく探してもしょうがないだろ。こいつの事もあるし何より少し疲れた。休みたい」
「そうだな」
二人はバイクを置いてからCRのビルに入っていく。
「あれ?」
「どうした?」
「瑠璃さんまでいないな」
受付を見るとCRメンバーの不在を表す信号が出ていて、将碁達が帰ってきた事で3人分のランプが消灯したのだが椎名と瑠璃の分は信号が出たままだった。
「……何かあったのか?いや、それにしては警備員さんは平和そうだったし」
「馨さんに話を聞いてみよう」
エレベータに乗って3人が司令室まで向かう。ちなみに流石に怪しまれるからか雷王院のロープは解除してやった。傷だらけなこともあって怪しい足取りだったが無事司令室にまでたどり着いた。
「……おかしいな。馨さんがいない」
「利徳も春奈ちゃんもいないな。巡回にでも行ったのか?」
「……」
将碁はIDカードを使って隣の黒幕室へと入る。
「嵐山さん、正宗さん」
声をかけるとパソコンから二人の立体映像が出現する。
「何があったんですか?」
「それはこちらのセリフだ。黎斗は戻らないし、君達の反応がしばらく途絶えるし。何があった?」
「……それは、」
将碁はふたりにこれまでの経緯を話した。エボルトに体を奪われた雷王院によって世界は水没された世界になってしまった事、それを阻止しようとしてキングバグスター、黎斗が倒されてしまった事、黎斗が最後に開発した最強フォームによってエボルトを退却させて世界は元に戻ったこと。そして椎名達が行方不明であること。
説明している間に武が椎名にメールを送ったが返事はなかった。
そして、薄々察していたが嵐山も正宗も何も情報を持っていなかった。
「……将碁君。我が息子は十分に罪を償えただろうか?」
「いや、全然」
将碁は数秒考えてからその答えを放った。


衛生省に尋ねても椎名の不在理由は分からなかったため二人は一度帰宅することにした。ちなみに雷王院はほぼ気絶していたため衛生省からのスタッフに身柄を預けることにした。
「久々に家に来た気がする」
自室のベッドに横たわったが最後、呟きの後に目を覚ましたのは13時間後だった。スマホを見ると椎名からメールが来ていた。
「これは……」
「将碁へ。大変なことが起きてしまった。カイトとパペットによって馨さんがさらわれてしまった。そして、落ち着いて聞いてほしいのだけれど、馨さんはキングバグスターに並ぶ存在・クイーンバグスターだったらしい。正確に言えば馨さんのあの症状の源の原因がクイーンバグスターだった。カイト達はキングを失った後の保険としてクイーンを覚醒させるために馨さんをさらっていったんだ。世界が元に戻ったのは確認した。君達がエボルトか雷王院君相手に何らかの決着を得たのは分かっていて疲れているとは思うが、申し訳ない。すぐに増援に着てもらいたい。僕と利徳君、瑠璃ちゃんは今……」
「……マジかよ」
将碁はすぐに武を呼び、共にバイクに乗って現場に向かうことにした。
「まさかここでバグスターと戦うことになるとはな」
バイクを路肩に停めて二人が景色を見渡す。到着した現場はセキエイ高原。関東の山地に存在する高原。そしてその最奥には神々しき宮殿が存在する。
「……バグスター達が電子変換で作り出したのか?」
「かもしれないな。……何となくだけどゲムデウスとかが封印されていた場所とかかもしれない」
どこからともなく聞こえてくる4拍子の中の会話。すると近くの草むらが小さく揺れる。まさかと言う疑問と期待の表情で二人が見やると、
「あ……」
そこからは全裸の春奈が出てきた。
4拍子も止まり、沈黙だけが支配する。
「……ショートコント」
「俺達は行方不明になった仲間を探しにセキエイ高原にやってきた。草むらが揺れたからメタモンでも出てくるのかと思ったが全裸の女子中学生が出てきた。何を言っているのかさっぱり分からない」
「それはこっちのセリフ」
とりあえず武がマントとモーニングスターを電子変換で生み出して、スマホで爆射してから春奈に手渡し、二人が後ろ手に手を組んで胸を張る。
「「ばっちこい!!」」
「いやああああああああああああああああ!!!!」
そして二人に鉄球が叩き込まれた。
1時間後。意識を取り戻した二人は春奈から事情を聴くことに。
「昨日の昼くらいの話です。世界が元に戻って少し経ったら突然上級バグスターがCRに現れて……。椎名さんとリトくんが戦って、でもその間にもうひとりの上級バグスターに馨さんって見えない人が攫われて……」
「それでここに来たんだな。どうして君までいる?」
「一緒にさらわれたんです。馨さんって人は私に見えないので本当に一緒かどうかは分からないんですけど……」
「……今の椎名、それに瑠璃さんなら上級バグスターくらい余裕で倒せるんじゃないのか?」
「それが、瑠璃さんが操られてしまって……」
「……あの力が敵に回ったのか。……厄介だな」
「キングバグスターを失った上級バグスター達が最後の手段として瑠璃さんを、アイギス経由で操って馨さんをクイーンバグスターに変えようとしてるのか」
「それで椎名と利徳はどうしたんだ?」
「分かりません……。私だけ逃がされたので……」
「……何で君裸だったの?」
「………………………………女の子に見える上級バグスターの相手をさせられてて……」
「……パペットか」
「そういやお気に入りにされてたっけな。……はぁ、エボルトで忙しい間に上級バグスターかよ。やっぱアイギスはちゃんと仕留めておくべきだったか」
「武……」
「将碁、俺は春奈ちゃんをCRに届けてくる。電子変換で一発で行けるはずだ。だからここで待っててくれ。先走るなよ?」
「分かった」
武は裸マント状態の春奈を抱き寄せると一瞬で姿を消した。
「……そろそろ出てきたらどうだ?」
将碁がポケットから仮面ライダークロニクルのガシャットを出して前に投げる。と、
「気付いていたか」
ガシャットからグラファイトが出現した。
「パラドはともかくお前を倒した際には違和感があった。その時にこのガシャットを持っていたことを思い出してな」
「俺が潜んでいると気づいてここまで持ってきたわけか」
「俺達がいない間のCRで好き勝手されても困るからな。……俺は最強の力を手に入れた。お前の望み通りその力で決着をつけてやる」
「……片鱗は見せてもらった。俺の力がどこまで通用するか分からないが俺の再興で最後の戦いにふさわしい!!」
「グラファイト・クロニクル!!」
「……ちょっとだけ惜しい気もするけどな」
「Excite!!」
ガシャットのスイッチを入れて電子音が響く。
「変身!!!仮面ライダーセーブ・The Exciting!!!」
一瞬でエキサイトフォームに変身したセーブ。しかし、見た景色は思っていたそれとは違った。
「!?」
セーブの埒外の動きで、グラファイトに接近して一瞬で打撃が繰り出されていた。
「ぐっ!!」
グラファイトの鳩尾にセーブの貫手がめり込み、その電子構造を大きく歪ませていく。
「……どうやら初見殺しの達人がプレイしているみたいだな……」
「ぐっ、な、なるほど……この力貴様が制御できているわけではないようだな……それでこの俺に勝てるものか!!」
グラファイトはセーブの右腕をつかみ取り、そのまま投げ飛ばそうとするが逆にセーブが一瞬でグラファイトを上下逆転させて頭から地面に叩きつける。
「確かに俺には制御できない力だが、仮面ライダーセーブは世界を守るもの。それが為されるのならこの身を投げ出す事は最初から織り込み済みだ!」
セーブはグラファイトの右足を掴み、勢いよく振り回してその膝関節を破壊しつつ100メートル離れた大木にまで投げつける。今のセーブは1000トンの握力、雷鳴すらスローモーションに見える程の動体視力、12万度の高熱を以てすらその熱エネルギーを無に出来るボディを手に入れた柔術の達人が使役している状態だ。
「破砕柔術・弐の型……鎮鞠(しずまり)の理……!!」
「俺を破砕するだと……やってみろ!!」
両手に100トン以上の重さの刃を以て二刀流のグラファイトが襲来。既に電子変換によって修復された右足での縮地からの斬撃は、しかしセーブの左手一本で止められた。
「!?」
「鎮鞠の理は迫ってきた銃弾でさえも受け止める破砕柔術の奥義が1つ……。極めしものに対象の形状など意味がない」
「大した防御だな」
「防御?破砕柔術に防御の型など1つもない。この手が奏でるはすべて相手を破砕させるためだけの技なり!!」
セーブが掴んだ2本の刃を勢い良く引き寄せると、握ったままだったグラファイトの両肘と両肩の関節が破壊される。
「ぬおおおおおおおお!!!」
「チェック!!」
セーブの右手がグラファイトの顔面を鷲掴みにすると、次の瞬間にはグラファイトの胴体だけが首から離れて投げ飛ばされ、再び大木に叩きつけられては落下して動かなくなった。
「……ぐっ!!」
口と首の断面から大量の緑色の鮮血を走らせるグラファイト。
「闇よりなお昏き技だな。お前にはふさわしくない……」
「かもな。けど、手段は択ばないって決めたんだ。……選んでる余裕なんてないから」
「……今の貴様はライトニングと何が違うのかな」
「……興味のない話だ」
「………………そうか」
それだけ言い、グラファイトは消滅した。
「ゲームクリア!!」
電子音が鳴ると同時にセーブの変身は解除され、グラファイトの胴体は消滅した。
「……上級バグスターはこれでカイトとパペットだけ」

CR。
「ここでいいかな」
司令室。武がそこへ春奈を引き連れた。
「あ、あの、出来ればもう少しまともな服を……」
「え?あ、そっか。趣味でしか考えてなかった。はい」
武は自分が昔通っていた高校の制服を生み出して春奈に手渡す。
「詳しくないから下着とかは勘弁して」
「ま、まあ仕方がないですよね」
そうして春奈を再びノーパンにした武は隣の部屋に行き、嵐山達に状況を知らせる。
「クイーンバグスターか」
「あんた達はその存在を知っていたのか?」
「確証はなかった。だがキングバグスターが全てのバグスターの始祖であるのは知っていた。しかしキングバグスターは長年ゲムデウスの封印のためにその力の大半を使って上級バグスターの1体に甘んじていた。なら他の上級バグスターや自然発生したバグスターは誰が生み出したのかと言う話になる」
「そうして考えた時に仮定できるのが女王、クイーンの存在だ。これまでのパターンから上級以上のバグスターはいずれも6年前の初期の段階からバグスターウィルスに感染している事が予想されていた。キングバグスターもそうだ。キングバグスターは6年前にゲームの大会中に観客もろとも消滅した宝生永夢と言う青年が感染源となっていると言われている。嵐山君の奥さん含めパラド、グラファイト、カイトもまた6年前の感染者だ。そしてパペットと郡山馨も発症したのはつい最近だが感染自体は6年前」
「けど、馨さんは今までバグスターの姿になった事はないはずだ。それなのに他のバグスターを生み出せるのか?」
「これは推定だが、彼女の肉体は既にバグスター化しているのではないかと思われる」
「……何……!?」
「ここ半年ほどから肉体に戻れないと言っていたな。その半年前に何が起きた?」
「……えっと?」
「アイギスバグスターとパペットバグスターの誕生だ。我々は推定した。郡山馨の肉体は6体の上級バグスターを生み出すために使われていた。その上級バグスターによって少しずつだが下級バグスター達が生み出された。しかし上級バグスターが上級バグスターを生み出すことは出来ない。そして上級バグスターでさえも既に半数以上が撃破され消滅している。キングでさえもだ。だから残った上級バグスターは郡山馨を完全にクイーンバグスターとして覚醒させて上級バグスターを再び生み出させてはバグスターの復権を狙っているのだろう。バグスター達がエボルトに対抗できる唯一の策としてな」
「……理屈は分からないでもないけど、そんなことしたら馨さんはどうなるんだ?」
「……お前も私もその答えは知っているはずだ」
嵐山が静かに言葉を放つ。そのおかげで武はすぐに嵐山の妻であるアイギスバグスターの事を思い出した。
「……元の人格を失い、バグスターと言う種の繁栄のみを優先として行動するようになる、か」
「そうだ。仮面ライダークロニクルでバグスターになってしまった人々は恐らく下級バグスターだからこそ元の人格を失わずに済んだ。だが、上級バグスターは完全にバグスターの幹部と言う位置に立つが故、人間としての人格は無用の長物なのだろう。そしてキングに並ぶクイーンバグスターとなればどれほど強力な力を持っているか想像もできない」
「だが、それは少しまずい状況かもしれないな」
正宗が葉巻を吸いながら言う。
「ライトニングと言う依り代を失ったエボルトが黙っていないぞ」
「……まさか、バグスター達はそのために泳がされている!?」
「その通り。だから俺がここに来た」
「!?」
声。振り向けばそこに見覚えのある男が立っていた。
「こいつ、確か超級バグスターの!」
「バローズ!!」
叫ぶと同時、駿河の姿がバローズバグスターへと変わり正宗と嵐山のデータが眠るパソコンへと炎を吐く。
「させるか!!」
前に出て炎の盾となる武。体が焼けただれながらも、
「Excite!!」
「変身!!仮面ライダーリボルバー・The Exciting!!!」
炎をかき消した姿を見せたリボルバー。
「また姿を変えやがったのか!」
「だからお前に勝ち目はないぜ!」
リボルバーは誰の目にも見えないほどの速さでハンドガンを引き抜き、引き金を引いては再びホルダーに戻す。
「……が、がががが!!!」
気付いた時にはバローズの額に風穴が開いていた。
「ここでは戦えない。フィールドチェンジ!!」
リボルバーが指を鳴らすと、戦場が一瞬でゲームのバトルフィールドのようになる。
「こ、これは……」
「お前が死ぬまで消えない戦場さ」
「いい気になるな!!」
飛翔したバローズ。その勢いのまま離脱しようとするが、
「馬鹿な!?空に見えない天井がある!?」
「どんな格ゲーでもバトル画面からは逃げられない」
一定の高さで止まったバローズ。そこへひとっ跳びでやってきたリボルバーがその勢いのままバローズの脇腹に廻し蹴りを叩き込む。
「ぐふっ!!!」
「ありゃ、一撃で倒すつもりだったんだが。ゲージが赤で止まってる。まだ打撃は慣れないな」
「……っ!!」
「けど未来に変わりはない!!」
電子のボディが崩壊しかかり、悶えるバローズの背中にハンドガンを押し付けて引き金を引く。
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
「FIRE!!」
一発の銃撃がバローズの2メートルを超えたボディを瞬く間に消し飛ばし、
「ゲームクリア!」
バトルフィールドは消失して元のCR黒幕室に戻った。
「……それが最強フォームの力か……!!」
嵐山が震えていた。奥の正宗も葉巻を噛み潰していた。
「我々と戦った時も十分すぎるほど強かった。だが今のお前はその何倍も先を行っているのか……!?」
「そう言うことだな。とっくにインフレが起きてる。仮に仮面ライダーとしてあんた達が味方になってくれたとしても正直時間稼ぎすら怪しいよ。……あ、ポーズは別だな」
「……残念だがクロノスには変身できない。ビルゴサイトに襲われた時にガシャットを失ってしまったらしいからな……」
「……そう言えばそれもあのクソ野郎が回収してたっぽいな。だからエボルトがポーズを使っていたわけだし。まあ、今更俺達にポーズなんて通用するわけがないから別にいいけど」
武の姿に戻り、首を回す。
「じゃあパペットとカイトの奴をデリートしてくる。そうして馨さんをクイーンにさせないことが最優先だろ?」
「……あ、ああ、そうだ。だが、瑠璃が向こうに洗脳されているのだろう?まさか倒すつもりじゃないだろうな?」
「……あのクソ野郎と違って瑠璃さんは被害者だ。可能な限り善処はするよ。でも、覚悟だけはしておいてほしい。……じゃあ」
武は電子変換でその場から姿を消した。
「……私達が作り上げた仮面ライダーはいつの間にか手に負えない怪物となってしまったのかもしれない」
「それが寿命でしか管理できない人間の器にいるのが怖くてたまらない」
正宗が葉巻を吐き捨てた。