仮面ライダーS/L12話
Tale12:火ぶたを切って落とすFortress
・週末。日曜日の早朝。三日前の願いによって100人以上のクロニクルプレイヤーはそこに集められた。
それぞれのクロニクルガシャットにはイベントとだけ表示されていた。
「……まさかここまで多くのプレイヤーが集められるとは」
「ここで可能な限り殺し合ってレベルを上げるって寸法か」
「殺し放題、レベル上げ放題。まさにサービスタイムのスペシャルイベントだな」
各々が殺気と感想をばらまきながらしっかりとガシャットを握りしめてイベント開始の時を待つ。
「……」
建物の陰。そこに利徳はいた。自分が叶えた願いのせいで集められたのは事実だが何も戦闘に混じる必要はない。自分はここでライトニングが他のプレイヤーを皆殺しにするのを見学しているだけでいい。時刻は午前6時。集められた100人以上のプレイヤーを除いて一般人は朝早い事もあってほとんど見かけない。そんな朝日が昇る前に。
「トリニティセレクト!ライトニング!!Are you Ready!?」
「変身」
「孤高のサンダーボルト!ライトニング!!イイイイエェェェェェェェイッ!!!」
聴いたことのない電子音が響くと同時、建物の屋上にライトニングが姿を見せた。
「仮面ライダークロニクルのプレイヤー諸君。私はライトニングバグスター。レベルは50!!どのような手段を以てしてもかまわない!今から2時間以内にこの私を倒してみろ!!」
ライトニングはマイクなしで、しかし遠くまで響くような声で宣言した。最初こそ驚きの声が上がったがやがて、
「Ride on the game!Riding the end!!」
同じ電子音が無数に旋律を奏で次々と景色が変わっていく。
「むっ殺してやる!!」
怒号。そして一斉に動き出すエグゼスターたち。
「……」
ライトニングは屋上から飛び降り、向かってきた一着と二着とを共に拳の一撃で吹き飛ばし、ゲームオーバーさせる。どちらもレベルは20を超えていた。
「え……!?」
一瞬立ち止まる3人目以降。ライトニングが着地すると同時倒されたエグゼスター2体が合体キメラエグゼスター、レベル40となって出現。真後ろにいた10人を尻尾の一撃だけで粉砕してゲームオーバーさせる。
「……少しやりすぎだ」
ライトニングはキメラエグゼスターの懐まで歩み寄ると再び拳の一撃。それだけでキメラエグゼスターは空高く舞い上がり、戦慄走るエグゼスターたちの只中に落下。消滅はせずしかしかなり体力を消耗したのか瀕死の状態だ。それを見て多くのエグゼスターは動きを止める。もはや10秒前の熱気はどこにもない。だが、全員がそうではない。
「い、今だ!!」
誰かが声を上げ、キメラエグゼスターを攻撃した。そして何人かが続く。瀕死のレベル40と言う経験値の塊にとどめを刺すために。やがて20秒ほどでキメラエグゼスターは消滅し、その経験値がその場にいて攻撃に参加したメンバーに与えられ、一気にレベル20以上のエグゼスターが5人も誕生する。
「つ、付き合ってられるかよ!」
誰かが一人、エグゼスターの集団から背を向ける。そして変身を解除しようとした瞬間。
「逃げるのはルール違反だ」
すぐさま迫ったライトニングの一撃を受けて電子に消えていった。
「……すごい」
利徳は危険を顧みず物陰から姿を見せて戦いを、いや掃除を目撃していた。
「ライトニング、あんたは何者なんだよ……!?」
戦いは動いている。先程キメラエグゼスターを倒してレベル20を超えた5人のエグゼスターはすぐライトニングに向かわずにその5人で殺し合うこととした。数でせめてもライトニングには一撃で倒されることが推測できたからだ。だから質を上げるため可能な限りレベルを上げるために5人で戦いあうことにしたのだ。そして、その時。
「「スターライトドラグーン!!!」」
「あ?」
「「変身!!」」
「「スタァァァライト!!スタァァァァゲイザァァァァァァッ!!!」」
空からセーブとリボルバーが飛来した。
「……何なんだよこれ。何が起きてるんだ……!?」
「グラファイト達、野生の上級バグスターの仕業か!?」
「「ともかく!!」」
セーブとリボルバーが一番近くにいたエグゼスターに向かっていく。セーブは飛び蹴りを、リボルバーは後方からの射撃を。しかしどちらも望んだ成果は上げられなかった。
「え!?」
どちらの攻撃もレベル20となっていたエグゼスターには通じなかった。
「弱いくせに下克上かよ!」
「そう言うのはチャンスをうかがってからにしろよ素人!!」
レベル20エグゼスターの攻撃を受けたセーブとリボルバーは瞬く間にボコボコにされて集団から弾き飛ばされ、変身が解除されてしまった。
「……なんだ、こいつら喋るうえにめちゃくちゃ強いぞ……!?」
「まさか人間……!?いや、バグスターでも仮面ライダーでもない筈だ……なのにどうして……」
「お上りさん、いい加減死ね!!」
二人を見つけたレベル14のエグゼスターが勢いよく走ってくる。
「再変身は体に負担がかかるけど……!!」
「このままだと殺される……!!」
二人が突撃を回避してガシャットを取り出してスイッチを入れた。
「ガンガンリボルバー!!」
「ジャンクセーバー!!」
「「え?」」
「ガンバズ星数シューティングフォーメーション!アイムアレベル10フォートレスゲーマー!!」
「星屑ポップ!星銃ステップ!屑銃パーフェクトゲッチュー!!アイムアレベル10ハンティングゲーマー!!」
二人は全く新しい姿になっていた。
「……サブガシャット間違えた!?」
「それでフォームチェンジするのかよ!このピンチに!!」
「姿が変わった!?なんでもいい!!経験値になれ!!」
エグゼスターが迫る。その動き、二人にはやや遅れて見えた。
「しょ、照準!?」
セーブが慌てて両肩のミサイルランチャーを起動。エグゼスターの拳が届く寸前に発射され、目の前に爆発が広がる。その炎と煙の中敵の姿をリボルバーは捉えていた。
「武器は……ナイフかよ!!」
ハンドガンを取り出したと思ったらナイフだった。しかし十分だ。リボルバーは忍者めいた動きで爆発の中を突き抜けて怯んでいるエグゼスターの喉元にナイフを突き刺す。
「ぎっ!!」
「ハンティングクリティカルフィニッシュ!!」
「FIRE……じゃなくてえっと、えっと、てやーりゃー?」
喉元に突き刺したナイフからビームが発射され、エグゼスターは喉を貫かれながら衝撃で20メートル以上吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ば、馬鹿な、レベル10ごときに……」
そのエグゼスターはぐったり倒れると電子となって消滅した。
「ゲームオーバー」
「……何だったんだよ、なにが起きてるんだよこれ」
息を切らし、肩で呼吸する二人。すると今度は3人のエグゼスターが勢いよく走ってくる。
「殺せ!!経験値になれ!!」
「お前がな!!」
「え!?」
突然の裏切り!一緒に走っていた中央のエグゼスターが左右の二人から廻し蹴りを受けて顔面とベルトに刺さったガシャットを破壊され、倒れる前にゲームオーバーとなって電子に消えた。その経験値を得た二人がセーブとリボルバーに襲い掛かってくる。
「リボルバー、一度撤退するぞ!」
「あ、ああ!」
「フォートレスクリティカルバースト!!」
背中のエンジンを起動し、10メートルほど舞い上がったセーブが両肩のミサイルと両腕のガトリングガン、腰のグレネードランチャー、股間のバルカンを同時に起動し砲撃。
「てやーりゃああああああああああああああああ!!!!!!!!」
瞬間、爆発的に生じた一斉火力が向かってきた二人だけでなく半径100メートルほどにまで広がり、包んでいきやがて尋常ならざる大爆発を作り出した。
「ふう、」
全ての弾薬を使い果たし、ドラグーンゲーマーに戻ったセーブ。流石に脱力したのかリボルバーに支えられる。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。けど……急いで逃げた方がよさそうだ」
二人の視線の先。確かにいくつか数は減った。しかし多くのエグゼスターは生き残っていた。そのエグゼスター達がセーブとリボルバーを見つける前に二人は空を飛んでその場から可能な限り離れていく。しかしその姿を利徳は追い続けていた。
1時間後。病院から30キロ以上離れた公園。
「ふう、」
将碁と武が深く息を吐きながらベンチに座り込む。
「……何だったんだよ、あれ」
「さあな。喋ってたし、人間かもしれない。仮面ライダーでもバグスターでもない状態で」
「……俺達が眠っていた一週間に何があったんだよ」
二人は息を整えながらスマホで最新情報を探る。ネットニュースではすぐに仮面ライダークロニクルのついて見つかった。
「……檀コーポレーションの遺作……仮面ライダークロニクル。6500円でガシャットが販売された」
「ガシャットを使うとエグゼスターに変身しエグゼスター同士で戦ったりバグスターと戦ったりする。そしてレベルが10上がることに願いが1つ叶えられる」
「……バトルに負けたプレイヤーは……バグスターとして復活する……!?」
「……いったい何が起きてるんだよそれ……しかも販売元は西武財閥になってるぞ!?」
「……嵐山さんや椎名に電話かけてもつながらないし……この一週間で本当何がどうなったんだよ」
理解できない頭に理解できない情報を詰め込む。仮面ライダークロニクルのガシャットを使えば、あの時檀コーポレーション本社で戦った仮面ライダーとバグスターが混ざったような怪物であるエグゼスターに変身できる。そして戦いを続けてレベルが10上がるごとに叶えられる願いをかけてプレイヤーが日々戦っている。戦いに負けた場合エグゼスター及びプレイヤーとしては死亡するがバグスター状態で蘇る。このバグスター状態となって甦ったプレイヤーは体調などに関しては元から何も変わらない状態になるらしいが、もう一度クロニクルガシャットを使うと今度はバグスターでプレイすることになってしまうらしい。しかしそれ以外には人体への影響は出ないそうだ。しかし物理的な被害は存在し、むやみに一般人が近づいた場合、死亡することもあり得る危険な状態であり現在は西武財閥から支給された専用のクロニクルガシャットを用いて鎮圧が検討中だそうだ。
「……おい、本当に日本語で書かれてるんだよな、これ」
「……」
二人とも信じたくない事実を目撃して頭がパンク寸前だ。ちょっとした刺激1つでパニックになりかねない状態である。
「……西武財閥に行こう。もしくは衛生省に」
「その必要はないよ」
「!」
声。見れば公園の入り口に利徳が立っていた。
「やっと見つけた」
「……君は……?」
「構えなよ。仮面ライダークロニクルを終わらせるんだ」
「Ride on the game Riding the end!」
「変身!」
「仮面ライダークロニクル」
電子音。そして仮面ライダーと同じように利徳はガシャットを用いてエグゼスターへと変身した。その姿は三日前とはまるで違った。現在のレベルは45。3つの願いを用いて可能な限り性能が強化されている。
「やるしかないのかよ……」
「おい!相手は人間だぞ!!しかもまだ子供!!」
「だったら大人しく殺されろ!!」
利徳が走り、一瞬で距離を縮めてはパンチを振り下ろす。
「!!」
咄嗟に二人は手前に転ぶようにしてベンチから離れる。直後にベンチは下の地面ごと粉々になり、底が見えないほど深い穴が出来上がる。
「せめて逃げる!」
「そうだな!!」
「「スタァァァライト!!スタァァァァゲイザァァァァァァッ!!!」」
「「変身!!」」
立ち上がる前に二人はレベル10の姿に変身して飛翔。
「逃がすか!!」
利徳が跳躍。一気に60メートル飛び上がり、空にいた二人をまとめて殴り飛ばす。
「ぐああああああああああああ!!!」
一撃で背骨がへし折れんばかりの威力。二人はまとめて意識を失い、自由落下を始めた。
「戦いを終わらせるために!!」
利徳の拳が再びリボルバーの背中に叩きつけられ、その装甲が粉砕され武の姿に戻る。
「武……!!」
爆音に目を覚ましたセーブ。一瞬だけだが心に闇が生じた。次の瞬間にはスターライトドライバーにハザードトリガーが出現していた。
「うああああああああああああああああ!!!!」
「ヤベーイ」
意識した時には既にセーブの全身が漆黒に染まり追撃しようとしていた利徳の拳を掴んで手首を膝蹴りでへし折る。
「ぐっ!」
「……!!」
怯んだ隙にセーブは利徳の背後に回り込み肩車に近い形で、利徳の両腕を両足で抑え込み肩関節と肘関節を固定。そのまま背中の翼で高速飛行。完全に両腕の関節をロックして抵抗できないような状態にした利徳を頭からマッハ2で地面に叩きつける。
「がああああああああああっ!!!」
レベル差故か骨折も頭蓋骨陥没も避けられた。しかし、攻撃はまだ終わらない。すぐ横に落下してきた武をギリギリでキャッチして地面におろすと、態勢を変えないまま利徳ごと再びマッハで空に舞い上がる。今度は抱き込むようにがっちりと両腕で頸動脈をロックして呼吸を防ぎつつ急降下して再び頭から地面に叩き込む。コンクリートでできた道路に2度目の穴が開き、局地的に震度2の地震が発生する。
「ぐううううっ!!!」
勢い強く、セーブから離れ飛んだ利徳。やはり骨折などはまだないがダメージはある。むしろレベルアップの願いで防御力を重点的に鍛えていなければ既に命はなかっただろう。それでも脳震盪は負ってしまったのか立ち上がるとすぐに立ち眩みがする。すぐには消えてくれない上中々強い。そしてそれを待つセーブではない。超スピードで接近し、まだうまく立てない利徳の股間に膝蹴り。激痛に怯んだ利徳の頭をわきに抱えた状態で飛翔、その勢いで頸動脈や肩の筋肉を破壊。空中で体勢を立て直し、利徳の両足を自身の脇に入れて膝の関節を決める。さらに自身の両足の膝を利徳の胸に置いてからマッハ2で地面に向かって急降下する。
爆音一閃。
「……ぐっ、」
気絶していた武が目を覚ます。右方。両足と胸部装甲を完全に破壊され、中途半端に変身が解除されて吐血する利徳の姿があった。
「しょ、将碁……!またあの姿に……くっ!殺しちゃだめだ!!」
何とか立ち上がり、ガシャットを握る。が、変身よりも前にそこに新たなライダーの姿が生まれた。
「……」
ライトニングだった。
「……」
セーブは利徳をジャイアントスウィングで投げ捨てるとそのままライトニングに向かっていく。ライトニングがタイミングを合わせるようにパンチ。しかしセーブはそれをギリギリで回避するとその腕を掴んで肘関節を決める。しかしライトニングは関節を決められたままセーブの体をその腕で持ち上げて片手だけでセーブを地面に叩きつける。地面と両翼に亀裂が走りながらもセーブは立ち上がり今度はライトニングの右足を抱き着くようにしてその膝関節を決める。が、
「……」
ライトニングの右肘がセーブの顔面に叩きつけられ、刺さった。
「将碁!!」
武が近寄る前にライトニングは動きが鈍くなったセーブを片手で持ち上げベルトのハンドルを回し始める。
「Ready Go!!!!!!!!ボルテックフィニッシュ!!!!」
電子音と同時に激しい電気エネルギーがライトニングの左拳に集約し、
「やめろー!!!」
武が走る中、雷に染まった拳がセーブの胸に叩き込まれた。
「………………っ!!」
空中。漆黒の装甲が完全に破壊され、物理的に変身が解除された将碁が宙を舞う。壁に叩きつけられ両肩と両脚が破壊されて気絶している利徳の横に将碁が叩きつけられ意識を失う。
ライトニングは見る。将碁のドライバーにはハザードトリガーは刺さっていなかった。
「……」
それを確認するとライトニングは利徳を俵のように担ぎ上げてその場を去っていった。
「……本当に一体何があったんだよ……俺の人生」
武はスマホで救急車を呼ぶので精一杯だった。