仮面ライダーS/L15話
Tale15:明かされたSecret/Lightning
・病室。予定通り午後6時には手術を終えて椎名が運ばれてきた。
「……やあ君達。久しぶりだね」
ベッドに運ばれてきた時には既に椎名は意識を取り戻していた。先に病室で待っていた将碁と武に言葉と視線を投げる。
「椎名、何があったんだ?」
看護師たちが退室してから将碁が口を開く。
「……ああ。まずはあの日、檀コーポレーションに行く前に君達と離れたところから説明しよう。あの黒い仮面ライダーじみた奴やサンダーウルフバグスターとの戦いの後僕は瑠璃ちゃんの車に乗ろうとした。けどトランクの中に隠れていた檀社長に刺されたんだ。幸い、瑠璃ちゃんがどういう心境かすぐに病院に連れて行ってくれてね。しかもらい……」
「らい?」
「……いや、通りかかりの医者に応急処置をしてもらったからすぐに動ける体になった。檀社長にスマホを奪われてしまったから君達に中々連絡できなくてすまなかった」
「……いや、無事でよかった。けどあれから一週間以上経ってるよな?」
「ああ。本当は僕も平和に暮らしたかったんだけど檀コーポレーションの火災、檀社長の失踪、おまけにまた嵐山本部長に会長の捺印無断使用されて仮面ライダークロニクルのガシャットが正式販売。退院にはちょっと早かったんだけど流石に黙ったままでいられなかったから行動を開始したんだ。具体的に言えば現在行方不明となっている嵐山親子の指名手配依頼と、仮面ライダークロニクルガシャットの回収依頼を警察に依頼。もちろん衛生省にも報告して僕自身もクロニクルプレイヤーを発見次第実力行使で確保してきた。だが、昨日問題が起きた」
「……瑠璃さんか?」
「……君達も遭遇したのか。レベル20の彼女に」
「ああ。けどまさか……」
「そのまさかだよ。僕は瑠璃ちゃんに襲われた。クロニクルプレイヤーと戦っている時にね。しかも彼女はクロニクルプレイヤーを庇って逃がした。その上で本来あり得ないレベル20のガシャットを用いている。しかも檀社長とは関係ないところでね」
「……嵐山本部長がすべての元凶とでも?」
「分からない。けれどレベル20のガシャットは檀社長とも檀コーポレーションとも関係ないだろう。恐らくあれが作られたのは檀コーポレーションが炎上した後だ」
「……椎名は檀社長の目的が仮面ライダークロニクルだったと思うか?人間をバグスターにしてグラファイトとかと共存関係になろうとしていると思うか?」
「……飛躍しすぎだな。その質問は今は置いておこう。君達こそこの一週間何をしていたんだ?聞かせてくれ」
「……」
将碁と武は顔を見合わせてから椎名と別れて檀コーポレーションでの戦いから先のことを話した。昨日二人で話して予想した黎斗の思惑についても。
「……思った以上に情報が過多しているな」
「……で、もう一度聞くけど……」
「分からない。確かに君達の予想したものは矛盾はないように思える。檀社長は人類を救うため人類をバグスターにして自然発生したバグスターと共存関係を結ぶか或いは仮面ライダークロニクルを通してレベルを上げまくったプレイヤーで彼らを撃破する。それを目的とするなら将碁、君も考えたようにどうしてその手段を檀社長達自身が使わなかったのが気にかかる。そしてなぜそんな便利なものがありながら瑠璃ちゃんは今まで通りガシャットと言う手段を新たに用意されたのか。それに嵐山本部長は年齢のせいで仮面ライダーにはなれないとされていたがどうしてその上でクロニクルプレイヤーにもなっていないのか。なって表に立っていないのかが気になる」
「……ならライトニングが犯人説は?」
武が放つ。
「……君達が何度か遭遇したというガシャットではないアイテムで変身する謎の仮面ライダーか」
「確かに檀社長との戦いやさっきの瑠璃さんとの戦いでは俺達に味方した。けどあいつはこの前、たくさんのクロニクルプレイヤーと行動を共にしていたんだぞ?俺達が戦ってたクロニクルプレイヤーも庇ってたし。何よりガシャットを使わずに変身なんて明らかにおかしいだろ」
「僕としてはどうして君達がそのライダーの名前を知っていたのか、そして将碁のベルトに出現する謎のアイテムも気になるけどね」
「……つまり、俺達が情報を集めても分かることは特にないか」
将碁が息を吐いて椅子に座る。
「君達もそろそろいい加減家に帰ったらどうだい?将碁も、おばさんが心配していたよ」
「あ~うん。そうなんだよな。最近全然帰ってないし」
「ここで煮詰まってても新しい情報とかないしな」
「そう言うことだよ。……ああ、言い忘れていたけど今後はあまり無理はしないように。僕達を利用していたとはいえ存在価値を認めてくれていた檀社長はもう相手ではないんだ。相手はいつどこで遭遇するかも分からない野生のバグスターとゲームに興じるクロニクルプレイヤーなのだから」
「……ああ」
それから二人はタクシーを呼び、久々に帰宅した。
「……さっきの話、どういう事かな?」
「……ん、」
ふたりが帰宅した後、巌が乗る車椅子を押しながら雷王院がやってきた。
「おじさん……」
「仮面ライダーとは何だ?」
「…………僕達がやらないといけない事なんです。西武財閥を継いだ僕の仕事なんです」
「…………我が社の製品を使っているそうだな」
「……ええ」
「主犯は嵐山本部長の可能性ありか。……雷王院先生、」
「はい」
「申し訳ないが……」
「……」
雷王院はある話を聞いた。非常に気まずそうな表情をしながらもしかし承諾するしかなかった。
・翌日。久々に自分のベッドで眠ったせいか起きたら昼過ぎだった。そこで将碁はメールが溜まっている事に気付く。
「……え、父さんが家に帰ってくる?」
それは椎名からのメールだった。何やら仕事関係で一時的な帰宅になるらしい。それでも父が帰ってくるのは4か月ぶりの事だ。嬉しくないはずがない。しかしその数字が不安も呼んだ。既にあれから4か月だ。きっとこれから鏡執刀医に言われたように神経系が悪化して喋る事も出来なくなり、やがて2か月以内に……。だから恐らくこれは最後の帰宅になるだろう。それを承知しているからか椎名も一時帰宅するとの話だ。
とりあえず無事を示すためにも椎名にメールを返信する。それから送られてきたメールで父と椎名の帰宅は午後3時過ぎになるそうだ。またヘルパーとして病院から1名スタッフが来るらしい。確かに全身不随の父はもちろん椎名も昨日手術したばかりだ。専門家がいた方がいい。一応男手を用意したいこともあって武にも声をかけておいた。
「え?力仕事が欲しいって話は別に構わないけどいいのか?せっかくの家族水入らず」
「ああ。どうせそんな長い時間じゃない。急な話だし病院のスタッフも一人しか来れないみたいだからさ」
「分かった。すぐ行く。その代わり飯頼む」
「あいよ」
短い電話だった。こういう時友人がいると心強い。
「……」
一人減ってしまっている。それも忘れて脳裏には武だけでないもう一人の姿までもが浮かんでしまう。しかし他ならぬ自分で決めた事だ。今更離別した心無い者に気遣ってやる必要などなく況してやたとえ夢想の上でも再び友と認める訳にはいかない。
「……あいつのことはもうどうでもいいんだ。今日と言う日においては欠片ほどでも思い出してやるわけにはいかない」
やがてインターホンが鳴る。武が来たのだ。
「よく来てくれた」
「ああ、けどあれ……」
武はドアを背中にやや開いた状態で後ろを指さす。家の前に一台の車が停まっていた。どこかで見覚えがある車だった。
「……あれってまさか……」
将碁が靴を履いて外に出る。と、車から予想通りの人物が下りてきた。
「……嵐山本部長……瑠璃さん……」
「久しぶりだな。仮面ライダー達」
嵐山親子が車から降りてきた。既に瑠璃はベルトにガシャットを差し込んでいた。
「武!」
「ああ、お前は部屋にガシャット取りに行け!」
「させない」
嵐山が指を鳴らす。と、車の後部座席から3体のエグゼスターが姿を見せた。しかも今までに見たことがないタイプだった。
「それは……!?」
「治安維持用エグゼスター。タイプブレイブ、タイプスナイプ、タイプレーザー。さあ、新容疑者を逮捕しろ」
嵐山が言うと、3体のエグゼスターが走る。
「スターライトドラグーン!!」
「変身!!」
武がリボルバーに変身して3体の進行を止める。しかし、ブレイブエグゼスターが持ってた剣からの斬撃の一撃でリボルバーは吹き飛ばされてしまう。さらに宙を舞うリボルバーを、スナイプエグゼスターが持ってるハンドガンで何度も撃ち抜く。
「ぐうううう!!!」
さらにレーザーエグゼスターがバイクを召喚して時速220キロで、落下してきたリボルバーを跳ね飛ばす。
「があああああっ!!!」
「この3体のエグゼスターのレベルは50。そして既に警察に向けて量産されている。もちろんこの私の支配のもとな」
嵐山が言う。同時にボロボロの武がアスファルトに転がる。
「……ぐっ……レベル50……ううっ!!」
吐血。死の予感を焦燥する。
「武!!」
2階の窓から将碁が姿を見せる。
「このっ!!」
「スターライトドラグーン!!」
窓から飛び降り、セーブに変身。そのまま3体のエグゼスターに向かっていくが素早くスナイプエグゼスターの狙撃を受けて撃墜。アスファルトに倒れたところレーザーエグゼスターに跳ね飛ばされ、さらにブレイブエグゼスターの斬撃を受けて変身が解除されてしまう。
「つ、強すぎる……」
家宅門柱に叩きつけられ、吐血する将碁。
「所詮レベル10ではこの程度だ。さあ、こいつらを連れていけ」
3体のエグゼスターは呼吸するのがやっとの状態の二人に歩み寄る。その時、一台の車が走ってきた。それは病院の車だった。
「……間に合わせたかったがまあいい。西武椎名と西武巌両社長も拘束しろ。瑠璃はこの家の中にいる西武夫人を殺害してこい」
「……はい」
瑠璃がアイジスに変身して西武家に近づく。その間に3体のエグゼスターが病院の車に向かっていく。車は異変を感じたのか急ブレーキする。
「嵐山……!!」
中から松葉杖をつきながら椎名が出てくる。
「お久しぶりですな、椎名会長。ですがもうその席は私のものになります。何故ならあなたにはここで死んでいただくためだ」
「……そう簡単に僕を殺せると思うな」
椎名がダークネスドライバーを腰に巻こうとした時だ。
「……」
運転席から雷王院が下りた。
「……あ、あいつ……!!」
将碁と武の表情が歪む。
「……何者だ?」
「……巌おじさんの担当医だ。けど君、下がっていた方が……!!」
「……必要ない」
雷王院は臆せず3体のエグゼスターに歩み寄っていく。その手に小さなペットボトルのようなものを握りしめ、上下に揺らしながら。
「……あれは!!!」
その物体に見覚えがあった。やがて吹いた突風に雷王院の白衣がめくれ上がり、その腰にベルト……トリニティドライバーが出現する。
「トリニティセレクト!」
電子音が響くと雷王院は降っていたフルボトルをベルトに差し込む。
「ライトニング!Are you Ready!?」
「変身」
ベルトに出現したハンドルを回すと発生した電気が渦となって雷王院の全身を巻き込み、
「孤高のサンダーボルト!ライトニング!!イイイイエェェェェェェェイッ!!!」
電気の渦が粉々になった直後、仮面ライダーライトニングがその姿を見せた。
「ら、ライトニング……貴様だったのか……!?」
驚く嵐山。構わずライトニングは走り始め、正面。一番近くにいたレーザーエグゼスターの胸に右の拳を叩き込む。
「はあっ!!」
拳の一撃が電光を呼び、微かな打撃音を出した直後にレーザーエグゼスターはまるでトラックにひかれたように宙を舞う。
「……そんな、」
レーザーエグゼスターは嵐山の車の屋根に墜落し、激しく損傷させる。
「れ、レベル50が……」
「西武財閥本部長・嵐山。人類の敵であるバグスターと共謀し、人類に騒乱の種である仮面ライダークロニクルのガシャットを配り、多くの犠牲者を作ったその罪、万死に値する」
ライトニングが言葉を終えると同時、素早い裏拳が飛び隣にいたスナイプエグゼスターを吹っ飛ばし、半壊した車に突っ込み、レーザーエグゼスターごと大爆発する。それを見たブレイブエグゼスターが剣を振るうが、
「八百轟(やおとどろき)の刃(じん)」
ライトニングはベルトから剣を取り出し、抜いたまま放った斬撃でブレイブエグゼスターの剣をその腕ごと縦一文字に両断。片腕と武器を失って戸惑うブレイブエグゼスターにライトニングの拳が襲う。
「!?」
ブレイブエグゼスターの反応よりも早くその胸がライトニングに貫かれ、その状態のままブレイブエグゼスターは大爆発した。
「……3体のエグゼスターをここまであっさりと……!?」
後ずさる嵐山。急いでアイジスが嵐山をかばうように前に出るがしかし明らかに恐怖が見えていた。
「……」
ライトニングは無傷のまま爆発の中を抜けて静かにアイジスへと歩み寄る。その時だ。
「「雷王院!!!」」
将碁と武が立ち上がった。将碁のベルトには既にハザードトリガーが発生していた。
「「変身!!」」
二人が同時に変身する。しかし色はふたりとも違う色だ。
「……お前達……」
「出てくるな!!消えてなくなれ!!」
リボルバーの射撃。ライトニングは軽く手で払うが直後にセーブハザードが蹴りかかる。
「ちょっと、君達何をしているんだ!?」
椎名も変身してローズとなってセーブハザードへと向かっていく。
「将碁、落ち着け!」
「……!」
セーブハザードは無言のまま割り込んできたローズの胸に前蹴り。
「っ!!」
正確に手術した左胸に叩き込まれた一撃がローズを吹き飛ばす。が、その放った足をライトニングが掴み、
「いい加減にしろ」
その握力だけでセーブハザードの右足をへし折る。そのままセーブハザードをリボルバー向けて投げ飛ばす。
「関係ない!!」
リボルバーは飛翔することで激突を回避、空からライトニング向けて射撃。
「キメワザ!スターライトクリティカルフィニッシュ!!」
「消えてなくなれ!!!」
トリガーを引き、通常の10倍の出力のビームが発射される。
「はあっ!」
ライトニングは剣を振るい、発生させた衝撃波で放たれたビームを打ち消す。
「……こいつら、ハザードレベルがどこまで上がっているんだ……?」
呟きながらライトニングが跳躍。必殺技をかき消され茫然としていたリボルバーの顔面にパンチ。
「ぐふっ!!」
真下のアスファルトに叩き落され、リボルバーは再び変身が解除される。しかし、
「……!」
右足が折れていたはずのセーブハザードが右足を修復して後ろからライトニングに迫る。それを気配で察したライトニングはベルトのハンドルを回す。
「Ready Go!!!ボルテックフィニッシュ!!!」
「はぁっ!!」
振り向くのと同時に電光を纏った左の廻し蹴りがセーブハザードの側頭部に叩き込まれる。
「っ!!」
その衝撃でセーブハザードの上半身がちぎれ飛び、50メートル離れた石垣に叩きつけられる。また、同じく衝撃により下半身に巻かれたベルトに差し込まれたハザードトリガーもまた爆発する。それによりセーブハザードの下半身が消滅し、上半身だけのセーブハザードが五体無事の将碁の姿に戻った。
「お、俺は……」
激しい眩暈に襲われてその場で何度も嘔吐する将碁。
「……」
ライトニングは振り向くと既に嵐山親子の姿はなかった。
「……だから嫌だったんだ」
ライトニングは変身を解除して雷王院の姿に戻る。
「……まさか君が……くっ、」
椎名が地面にはいつくばって吐血する。
「喋らない方がいい。鏡先生の医術は素晴らしいものだが手術翌日にここまでのダメージを負うことなど想定されていない」
雷王院が椎名に肩を貸して車に戻る。
「……これが……」
後部座席。巌が唖然としていた。
「……」
雷王院は椎名を座らせると車のトランクから車椅子を出した。
「西武さん、」
「……雷王院先生、私はどうすれば……」
「…………行きましょう。あれを西武椎名(こいつ)に届けるのでしょう?」
「……むう」
雷王院が巌を乗せた車椅子を進ませる。
その途中に転がっていた将碁と武。しかし誰も口を開けなかった。