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仮面ライダーS/L16話

Tale16:決断のblasteright

・夜。西武家。戦いが終わってから2時間経過してやっとまともに立ち上がれるようになった将碁と武が椎名の車椅子を押しながら家の中に入る。人の気配はリビングに集中していた。汗びっしょりかきながらリビングに向かうと、そこでは巌が妻からお茶を妻の手で長年使ってきた愛用のコップで飲まされていた。その光景に将碁と椎名は同時に表情を歪める。しかし将碁と武はまた別の意味で表情を歪めた。
巌夫妻から少し離れたところにあるソファに雷王院が座っていたからだ。
「……」
「……父さん、」
「将碁、武君。話は椎名と雷王院先生から聞いている。君達がこの4か月間何をしていたのか。それ自体は私に止めるべきではない事だろう。もちろん心配はさせてもらうがね。だがさっきのあれは何だ?どうして雷王院先生を攻撃した?もしあれがなければ嵐山親子を逃がすこともなかったはずだ」
「……だってそいつは父さんの今の状態を侮辱したんだ!」
「私の死を無駄にせずこれからは一人独立して生きてほしいって事かな?それのどこが侮辱なんだ。むしろ私が祈っていることそのものじゃないか。将碁、お前は私の死からまだ逃げているつもりなのか?」
「……けど」
「おじさん、こいつの代わりに言いますけど雷王院(そいつ)があまりに無作法にいうから俺達は気に入らなかったんです。まだ亡くなっていないのに既に亡くなったつもりでしかもそれを当たり前のように俺達にも強制してきた」
「事実だろう?この4か月私は運よく平和な日々を送ってこれた。だがあと2か月は間違いなく違う。既にまともな食事が出来ない状態にある。いつ私が逝くのかもわかったものではない状態だ。その中で私が願うことはたとえ父親とは言え死にゆく私のためにああだこうだと駄々をこねるよりもむしろもっと立派な姿を見せてほしい。それが西武巌の父親としての最後の言葉だ。以前君達は何か立派なことをしていると私に教えてくれた。私に心配させないようにするために敢えて隠していた。君達を信用しているからこそ深くは言及しなかった。実際に檀黎斗や嵐山親子、そしてバグスターなどとても普通な事ではない事に君達は誰にも相談することなくただ二人だけで立ち向かい続けてくれた。それ自体は父親として誇りに思えることだ。椎名や雷王院先生から話を聞いて私は心配よりも先に嬉しかった。父親から離れて君達が一人の大人として使命を以て動いているのだと分かったからだ。だけどさっきのは違うだろう。雷王院先生に謝りなさい」
巌の視線は厳しい。今まで滅多に叱られることがなく、また叱られる時でも優しく諭すように告げるのがこの父親だった。だが、今のこの目は将碁は見たことがなかった。だから将碁は耐えられなかった。
「もういい!!」
「将碁!!」
将碁はその場から走り去ってしまった。靴を履いて玄関を飛び出した。
「将碁……」
武は腰を浮かせた。場を支配する沈黙。それに耐えかねず武もまた走り去ってしまった。
「……やれやれだね」
椎名がため息。巌は先ほど以上に背もたれに体重をかける。
「……で、雷王院君。君は仮面ライダーライトニングらしいけどどこでその力を?」
「……教えても意味がない事だ。檀黎斗やバグスターとは関係がない。けどだからこそ俺は嵐山親子の横暴を止めないといけないし、人類を襲う上級バグスターの脅威も何とかしなければいけないと思っている」
「……雷王院先生」
「はい、何でしょうか?」
雷王院がソファから立ち上がって巌を振り返る。
「……そろそろ病院に戻りましょう」
「……よろしいのですか?私のことなど気になさらずあいつとも話したかったでしょう?」
「あれが大人にならぬ限りは意味のない事だよ。そしてどうやら私がそれを見届ける日は来ないようだ」
巌の非常に悲しそうな声に雷王院と椎名はただ顔を見合わせることしか出来なかった。


・雨が降ってきた。本来なら豪雨の夜に外など出ようとは思わないし今までもほとんど出たことはない。ただ今はその水と風の暴力にさらされることが快感に思えている。つまり今の自分はまともな状態ではないという事だ。
「……」
公園。ジャングルジムの最下段に将碁は座る。昔から低い場所が好きだった。逆に高い場所はあまり好きじゃなかった。仮面ライダーとして戦っている間はそんなことは忘れて空中戦までしているのだからこの4か月で自分は変わったのだろう。そう思えた。けど、実際にはろくな変化はなかったのだと思い知らされた。それに何より父を庇って雷王院とは決別したのにその父が雷王院の味方を取り、しかもあの男が家にいてさらにさらにあの野郎が仮面ライダーライトニングであり今まで敵か味方か分からない状態にいる。信じたい人が信じたくない奴を信じてしまっているこのジレンマ。この豪雨で綺麗に流してほしいなんてセンチメンタルを言うつもりはないがしかしせめて少しはいい気分にさせてほしいものだ。
「……将碁」
傘もささずに武が傍までやってきた。
「大変な一日だったな」
「……全くだ。せっかく今日は父さんも椎名もいて最高の……最後の一日になるはずだったのに何もかもがめちゃくちゃだよ。全部あのクソ野郎のせいだ」
「……けど本当はお前もおじさんの言葉に正しさがあるって分かってるんじゃないのか?」
「……武……」
「確かに俺だってあいつのことはもう嫌いだよ。顔も見たくない。心の中で何回もぶっ殺してる。ぶっちゃけ最初の方はバグスターをあいつだと思って攻撃してた。けど確かにさっきあいつに襲い掛かって嵐山親子を逃がしたのはまずいと思うんだよな」
「……そうかもな」
適当に返事を流す。何物にも心乱されたくなかった。静寂が欲しい。何も起きない虚無だけが今は何よりも欲しい。
「だから俺はあいつを許さない。けど俺達の指名以上の存在ではないと思う。いやそう思うようにしたい。だからさっきの状態でも嵐山親子を停める方を優先すべきだったし、今度からそう言う方針で行こうと思う」
「……今度?」
「え、」
「……今度なんてもういい」
「……仮面ライダーやめるのか?」
「あいつがいるだろ。あいつは俺達がクソの役にも立たないほど雑魚未満の活躍しか出来なかったさっきのレベル50を一撃で倒せるんだぞ。嵐山親子とも敵対してる。仮面ライダークロニクルも止めようとしてる。なら同じ世界にいる必要なんてあるのかよ。あいつと同じ世界にいたいって思える理由がどこにあるんだよ」
「……けどあいつに任せてしまっていいのかよ。俺達は仮面ライダークロニクルの被害を少しでも食い止めようとして……」
「だからそんなのもうどうだっていいんだよ!」
反射的に感情的に2つのガシャットを地面に叩きつけた。水たまりの中にジャンクセーバーとスターライトドラグーンのガシャットが浸かる。
「……仮面ライダーは正義の戦士だ。バグスターや仮面ライダークロニクルから人類を守るヒーローだよ。けど、駄目だろこんなんじゃ……。俺は今あいつが憎くて仕方がないんだ。そんな奴が仮面ライダーとして戦っていいわけないだろ!」
「……俺はいいと思う」
「……は?」
「お前は自分を悪く言ってる。その気持ちさえあればまだヒーローとして戦っていいと思う。自分にヒーローとしての素質があるのかとかそれでも誰かを守りたいって思えるならそれだけで俺は仮面ライダーとして戦っていいと思う。だから俺は戦うよ。これからも仮面ライダーとして。お前が戦いに疲れてあいつへの当然の憎しみに疑問を持っているならそれが少しでも晴れるって言うのなら俺は仮面ライダーでいい」
「……武……」
「資格だ素質だなんて難しく考える必要なんてどこにあるんだよ。戦いたければ戦って逃げたければ逃げればいい。誰がそれを責めるんだよ、図々しい」
武が水たまりの中から2つのガシャットを拾う。その時だ。
「アガジャァァァァァ!!!」
雷鳴と共に奇声が吠えた。振り向けば公園の入り口にサンダーウルフバグスターが立っていた。
「またこいつか。将碁、お前は逃げていい。俺が戦う」
「スターライトドラグーン!!」
「変身!!」
「スタァァァァライトォォォォスタァァァァゲイザァァァァァッ!!」
武がレベル10の姿に変身し、サンダーウルフと真っ向からぶつかり合う。珍しい肉弾戦は気分を変えたいがための独善だ。しかしこちらが殴れば殴るほど向こうはより強い体術でこちらを痛めつけてくる。爪や拳、蹴りに牙。いずれもレベル10の装甲を激しく傷つけて武の肉体にもダメージを与えていく。それでもよかった。
「灰になりゃいいだけだろうが……!」
ホルダから抜くと同時にハンドガンを発射。意表を突かれ、後ずさるサンダーウルフに連射。
「……」
将碁は戦いを見てすらいなかった。ジャングルジムの最下段に座り込んだままだ。その足元に火花を散らしながらリボルバーが転がり込んでくる。
「……逃げろよ、」
「……いいよもう」
「逃げないと損だぞ?」
「得だってないだろ」
「そういう問題じゃ……ぐっ!!」
リボルバーの胸にサンダーウルフの飛び蹴りが撃ち込まれ、リボルバーは宙を舞い変身が解除された武が水たまりの中に倒れる。一日3回目の敗北のダメージか武が腰に巻いたスターライトドライバーが火花を上げて武から抜け落ちる。
「あ……くっ、」
「ガンガンリボルバー!!」
「変身!!」
「ガンガンバキュンバキュン!!ガンガンズギャンズギャン!!ガンバズギャットリボルバー!!」
「レベルアップ!!」
「騎士甲冑串刺し甲冑ガンバズ甲冑グササーン!!アイムアレベル3ナイトゲーマー!!」
「はああっ!!」
レベル3の姿でサンダーウルフに向かっていく。久々の重装甲ゆえ動きは重いがしかしサンダーウルフの攻撃もまだ耐えられる。がっちりと組み合った状態で何とか押し出そうとするがまるで相撲のように投げ飛ばされてしまう。
「ぐふっ!!」
背中からポールに叩きつけられ、吐血。しかし立ち上がる。
「将碁!!お前は誰かの役に立ちたいんじゃなかったのか!?あの時グラファイトに向かっていったお前はどこに行ったんだよ!!」
ハンドガンを発射。火花がサンダーウルフを襲うがしかしその猛攻は止まらない。やがてレベル3の甲冑にも亀裂が走り、受けるダメージが加速度的に重くなっていく。
「……俺は……」
将碁はまだ雨の中座り込んだままだ。しかしその脳裏には武や巌の姿があった。自分は立ち上がっていいのか。立ち上がって戦うべきなのか。仮面ライダーとして戦っていいのだろうか。いや、本当はそんな大層な悩みなんて抱えていない。全てが嫌になっただけの話だ。けどこうして悩む振りに徹してればそこそこぐつぐつとした感情が煮込みあがってくるものだ。どうやら何だかんだで自分はまだ死にたくないらしい。
「……」
だから立ち上がった。腰にスターライトドライバーを巻き、水たまりの中に晒されているふたつのスターライトドラグーンのガシャットを拾う。
「「スターライトドラグーン!」」
2つ同時にスイッチを入れて起動する。
「……本当は本気でやりたくなんてない。自分を出したくない。それでも死にたくはない。だから、たまには本気で戦う。少し、弾ける」
2つのスターライトドラグーンのガシャットを同時にドライバーにセットする。
「スーパーブースト!!ブラスタァァァァライトドラグウウウゥゥゥゥン!!!」
「変身!!!」
「レベルアップ!!胸に秘めた熱い思いはブラスターライトフリーダム!!アイムアレベル20!ブラスターライトゲーマー!!!」
豪雨の夜を激しく照らす白い輝き。クリスタルの輝きを持った4枚の翼。両腕を覆うようなトンファーとマシンガンと槍を組み合わせたかのような武器・タルパナ。それらを併せ持ったセーブの新しい姿が雨の中、降臨した。
「将碁……」
「やる」
セーブが走り、右手のタルパナでサンダーウルフをぶっ飛ばす。タルパナは打撃の瞬間に一気に膨張し、さらにマシンガンの銃口部分から激しく炎が燃え上がってブースターとなってサンダーウルフの巨体を空高くまでぶっ飛ばす。
「マシンガンパレード!!」
セーブは飛翔した。雨の夜空を舞うサンダーウルフを中心に円運動しながら両手のマシンガンを斉射。
「アヴァランチパレード!!」
斉射を終えると両手をロケットパンチのように発射。先端の刃がサンダーウルフの胸に突き刺さり、まっすぐ地面にその巨体をたたきつける。まるで銛で魚を射るように。
「アガジャァァァァァ!!!」
地面に突き刺さったサンダーウルフから両手を抜き出して再び装着したセーブはガシャットのスイッチを入れる。
「キメワザ!!ブラスターライトクリティカルフィニッシュ!!!」
「てやーりゃああああああああああああああああ!!!!!!!!」
4枚の翼を一気に羽ばたかせることでまるでジェット機のようにセーブが加速し、起き上がったばかりのサンダーウルフに両足での飛び蹴りを叩き込む。さらにサンダーウルフの背後に無数の棘付きブロックが出現し、それごと貫通してセーブが着地した直後にサンダーウルフと無数の棘付きブロックは消滅した。
「……やったな」
「……ああ」
夜。月光の下でセーブとリボルバーが雨の夜空を見上げた。


病院。巌と椎名をそれぞれの病室に送った後、雷王院は自宅に戻っていた。
「……そうか。あいつらは吹っ切ったか」
カップ麺を食べながら何者かからの報告を聞く。
「難しいものだな。あいつらの事が何一つ理解できなくなった。いろんな意味でお前達には皮肉か悲劇の類だろうがな」
雷王院の後ろ。そこにサンダーウルフバグスターがいた。
「……もう完全にこれは使い物にならないだろう」
雷王院はサンダーウルフの胸に手を伸ばす。と、その胸の中から2つのフルボトルを取り出す。同時にサンダーウルフはその姿を消す。
「……スターライトとガンナーのフルボトル。もう、仮面ライダースターライトと仮面ライダーガンナーの姿は見られなくなって事か」
その2つを机の上に置いてから雷王院は残りを一気に口の中に放り込んだ。