仮面ライダーS/L28話
Tale28:終焉のChronicle
・明朝。朝7時。
「……」
黎斗が土下座していた。それを取り囲む将碁達。
「……どうするんだよ、これ」
ため息の将碁。後ろの方では椎名が頭を抱えている。
それは今から15分ほど前。朝起きたばかりの黎斗が相手の名前を見ないままスマホの通話に出てしまったのだがその相手が父・正宗だったのだ。
あれだけ存在を秘匿するように言った張本人が真っ先にばらしてしまったためこうして土下座させている。
「どうやらあの男は私が生きている可能性をどこかで考えていたらしい。今までは電波の届かない地下施設にいたから問題なかったが、実は毎朝私のスマホに通話していて反応を探っていたらしい」
「……親ばかだなぁ……」
「みんな、大変だ。ゲムデウスがまっすぐこちらに向かってきてるそうだ。このスピードで行くとあと5分ほどで到着してしまう」
「……俺のインターバルは?」
「……あと4時間ほど」
「……あと5分じゃ移動も無理そうだな」
「……ここで迎撃するしかなさそうだね。しかもレベルXなしで。黎斗社長、何か手があるんじゃなかったっけ?」
「……それはぎりぎりまで温存しておきたい。おい、ライトニング。本当にトリニティにはなれないのか!?」
「物理的にも精神的にも無理。お前こそ何か発明してないのか?」
「私は今までお前に胸をぶち抜かれたせいで治療に専念してたんだぞ!?」
「……グラファイト。せめてほかの上級バグスターだけでもどうにかならないのか?」
「無理だな。ゲムデウスウィルスはバグスターウィルスの上位互換。あれに耐えられるバグスターなど存在しない。況してや逆らうことなど以ての外だ」
「じゃあ何でお前はこうしてるんだ?」
「それは俺にもよくわからない」
「……お喋りはここまでだよ。もうゲムデウスが目視できる距離にいる!」
椎名の視線が窓の外に。他の皆も見れば朝の空に小さな点が見える。やがて少しずつ大きくなっていき、ゲムデウスの姿がはっきりと見えた。同時に将碁と武がガシャットを、雷王院がフルボトルを構える。慌てて椎名はアパートの外に止めた車へと走る。
「ネオスターライトドラグーン!!」
「ガンガンリボルバー!!」
「トリニティセレクト!!」
「「「変身!!!」」」」
「レッツゲーム!ムッチャゲーム!メッチャゲーム!ホワッチャネーム!!アイムア仮面ライダー!!」
「ガンガンバキュンバキュン!!ガンガンズギャンズギャン!!ガンバズギャットリボルバー!!」
「孤高のサンダーボルト!!ライトニング!!イイイィェェェェェェイ!!!」
変身した3人が窓の外へと飛び込み、向かってくるゲムデウスを正面から受け止める。
「……人造バグスターの神。面白い」
グラファイトがバグスターの姿に変身して刃を構えてゲムデウスに走る。さらに、
「インフェルノスペクター!!」
「着火!」
「チャッカーン」
「メーデー!メーデー!!メーデー!!!インフェルノスタート!!!」
「モード・ファイティングインフェルノ!ブラスターオフ!!」
「アイムアレベル100インフェルノゲーマー!」
「変身完了!!」
ローズが地上からゲムデウスを攻撃する。しかし、5人の攻撃を受けてもゲムデウスは怯みもせず掌から放たれた緑色の光によって5人は一瞬で弾き飛ばされ、それぞれビルに突っ込んでいく。
「オープンウィング!!」
「胸に秘めた熱い思い!!感じるフリーダム!!アイムアレベル50サブリメノンゲーマー!!!」
「てやーりゃあああああああああああああ!!!!!!」
やがてセーブが姿を変えながら飛来し、
「デスティニーガンダムでパルマフィオキーナ!!」
空中でデスティニーガンダムに姿を変えて掌をゲムデウスの胸に叩き込み、その状態から掌からビームを発射、ゲムデウスを後ずらせ、近くの道路に落下させる。
「どうだ!?」
着地して、他の4人と合流してからセーブが様子を見る。と、今与えた攻撃で確かにゲムデウスは胸に傷跡を負った。が、その傷跡はすでに消えていた。
「自己再生能力か!」
「……ああ、そう言えば本来クロノスじゃないと倒せないとか言ってたっけ」
「クロノスのポーズの力で自己再生能力を時間ごと封じないと勝てないって意味か」
やがて、ゲムデウスの前にクロノス、パラド、リザード、クラーケンが姿を見せた。
「愚かしくも抵抗を続ける仮面ライダー諸君。ここが君達の墓場だ。疾くバッドエンドになりたまえ」
「……奇しくも5対5か。タイマン×5じゃ話にならないぞ?」
「それでもやるしかないだろうな」
ゲムデウスにはセーブが、クロノスにはリボルバーが、ローズがクラーケンと、ライトニングがリザードと、グラファイトがパラドとそれぞれ激突を果たす。
「パラド!!目を覚ませ!!」
「……」
グラファイトの斬撃をパラドはすべて回避して炎と氷を込めたパンチラッシュを叩き込む。
「上級バグスターは数を減らした方がいい」
リザードの突進を受け止めたライトニングが巴投げで投げ飛ばしてからその背骨を拳の一撃でへし折る。
「バグスターの参謀か。潰したほうがいいよね」
クラーケンの触手を蔦で払いのけてから接近。その下腹部に膝蹴りを叩き込むローズ。
「檀正宗!!」
「君はもう絶版だ」
リボルバーがハンドガンを発射し、しかしそれを片手で受け止めながらクロノスは接近、リボルバーの腕を払ってから胸に飛び膝蹴り。
「一か八かだ!!」
セーブがクウガ・アルティメットフォームに変身してゲムデウスの胸に拳をマシンガンのように叩き込む。しかしゲムデウスは恐ろしい速さで傷をいやし、拳の一撃でセーブをぶっ飛ばす。
「くっ!!」
「3対2で我々の勝利のようだな。だが、」
「ポーズ」
クロノスがポーズを使い、時間を止める。実際セーブ、リボルバー、ローズは辛うじて意識だけは保てた。だがクロノスはその間に負傷したクラーケンとリザードを一瞬で修復し、
「クリティカルクルセイド」
エネルギーを込めた右の廻し蹴りでグラファイトとライトニングをまとめて薙ぎ払う。
「リスタート」
「「がああああああああああ!!!!」」
吹っ飛び、地面を転がるライトニングとグラファイト。どちらも致命傷は避けられたがあまりのダメージに立ち上がることが出来ずにいる。
「これで5対3だ。あと何ターン持ちこたえられるかな」
「げ、ゲームのつもりか……!」
「当然だ。これは仮面ライダークロニクルと言うゲームなのだから」
クロノスが顎を向けるとゲムデウスがゆっくりと3人に向かっていく。
「アルティメットキックで行く!!」
「キメワザ・ガンバズクリティカルフィニッシュ!!」
「キメワザ・インフェルノクリティカルフィニッシュ!!」
3人が同時に跳躍し、ゆっくりと歩み寄ったままのゲムデウスの胸に3人が同時にキックを叩き込んだ。
「どうだ!?」
300トンをも超える威力を受けてゲムデウスが吹っ飛び、クロノスの背後100メートルにあるビルに突っ込んでいき、反対側の壁を貫いてアスファルトに倒れる。
「……っ!」
クロノスが慌てて振り返る。視界の先。舞い上がった土煙の中でゲムデウスは膝を折っていた。その胸には大きな穴が開いていたが既に修復が始まっていた。
「今だ!!」
セーブがファイズ・アクセルフォームとなって高速移動を開始。一瞬でクロノスに接近してそのベルトに触れる。
「!」
「ポーズ」
電子音が鳴ると同時、世界の時間は止まる。変わらずリボルバーとローズは意識だけは止まっていなかった。が、クロノス本人と発動者であるセーブは完全に動ける状態だった。
「貴様……!」
「クロノスだけがゲムデウスを倒せるって事は聞いている!!」
直後、セーブの姿が消えたと思ったらクロノスとゲムデウスの周囲に無数の赤いターゲットが出現する。
「これは……!!」
「アクセルクリムゾンスマッシュ!!」
赤いターゲットを目印に超高速で何体にも見える程のスピードでセーブが飛び蹴りを叩き込んでいく。さらにクロノスとゲムデウスの前のターゲットが最後の1つずつになったと思ったら
「てやーりゃあああああああああああああ!!!!!!」
それぞれアギト・シャイニングフォームになったセーブが光り輝くライダーキックを叩き込む。
「ぐうううっ!!」
「リスタート」
クロノスが吹っ飛び、地面を転がればその衝撃でポーズが解除されて世界の時間が再開される。
「どうだ!?」
着地と同時に元の姿に戻ったセーブがクロノスを無視してゲムデウスを見る。ポーズされる前よりも肉体の崩壊が見える。しかしそれが瞬きする瞬間にも修復されて行ってしまう。
「これで!!」
「キメワザ・ガンバズクリティカルバースト!!」
「FIRE!!」
リボルバーがゲムデウスに向かって必殺の一撃を発射する。火力は足りないかもしれない。しかし何もしないよりはましだ。そう思って放った一撃はゲムデウスに届かなかった。
「……」
ゲムデウスの手前。そこにパラドがやってきてリボルバーの砲撃をその身で受け止めていた。
「……パラドを盾にしたのか……!?」
「パペットやカイトでは貫通しかねなかったのでね」
クロノスが立ち上がると反対にパラドは全身から煙をあげながら倒れた。そのパラドを踏み越えてゲムデウスが前に出た。既にほとんど傷が修復されている。
「……」
ゲムデウスが右手を前に出す。と、突然その手の先にいたセーブ達3人を中心に竜巻が発生して3人が飲み込まれ空中を超高速で回転する。
「くっ!!」
眩暈を堪えながら脱出の機会を窺う。だが、ゲムデウスが左手を前に出すと竜巻の中心から火柱が発生して3人は一瞬で炎の中に飲み込まれ、10秒。竜巻と炎が消えるとそこにはボロボロの姿の3人が倒れていた。
「……これが人造バグスターの神……」
「こ、攻撃力高いくせにあのペースでの再生とかアリかよ……」
「も、もう完全に回復してるしね……」
いつ変身が解除されてもおかしくない満身創痍の状態。再びゲムデウスが右手を前に出そうとした瞬間。
「……ん?」
クロノスがふと空を見上げた。曇天の分厚い雲の隙間から日光が差し込んだのだ。だが
「……太陽の位置が違う……?」
太陽とは全く別のところから光が来ているようだった。やがて、異変は姿を見せた。曇天を打ち滅ぼして黄金の人型がまるで天使のようにゆっくりと地上に降りてきた。それはどこかゲムデウスに似た姿だった。
「……あれは……!!」
その姿を見てライトニングとグラファイトが驚きの声をあげた。
「……キング……!!」
「キングだと……!?」
ところどころ天馬を象った黄金のボディの怪人……キングバグスターが地上に舞い降りた。
「……6年前、新世界になったばかりの俺の前に姿を見せた原初のバグスター……!!」
「俺も数度しか見たことがない……マグテラーの真の姿……!!」
「キングバグスターだと!?」
各々が驚きの表情でキングを見やった。
「檀正宗。ゲムデウスの封印を解いてしまうとは、やはり目を離すべきではなかった」
「……ふん、まさかマグテラーバグスターと言う仮の姿を用意してゲムデウスを隠していたとは思わなかったぞ。だが貴様でも貴様をもとに開発された人造最強のバグスター・ゲムデウスを倒せるとは思わない事だ。況してやこの私も含めて抵抗できるとでも?」
「そんな紛い物など、ノーコンティニューでクリアしてやるぜ」
キングが走り、ゲムデウスが走り、両者が激突を果たせば発生した衝撃波が周囲の建物やコンクリートを破砕する。砂嵐のような土煙の中で両者が手四つで組み合い、互角の力勝負をしていた。
「……どうしてキングバグスターを洗脳できない……?」
「当然だ。俺は正しくはバグスターではない。バグスターとは俺から生まれた眷属に過ぎないのだからな!!」
その状態からキングがゲムデウスを投げ飛ばし、空中で連続キックを叩き込む。
「疾風!!津々浦々ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラァァァァッ!!!!」
一発一発がソニックブームをも発生させる威力はゲムデウスの体細胞を容赦なく破壊し続けていく。しかし再生力の質と速度もまたそれに匹敵するほどだった。
「……馬鹿な……ゲムデウスと匹敵する強さを持っているだと……!?そんなのはあり得ない!!」
クロノスが叫ぶと、リザードとクラーケンがキングへと向かっていく。いや、その2体だけじゃない。全国からバグスターが集まってきて一斉にキングへの攻撃を開始する。
「ちっ、」
1つ1つは微々たるものだがしかし少しずつだが確実にキングは劣勢へと近づいていた。
「……」
「将碁、どうする?倒せなかったとしても最低でも時間稼ぎ以上の事はしてくれそうなキングに任せてここは一度撤退するか?」
「……黎斗社長」
「何かな?」
背後。瑠璃を背負いながら黎斗が歩いてきた。
「あのバグスター達って人間に戻せないのか?」
「今の段階では技術的に不可能だな」
「じゃあ人間の姿に戻すことは?」
「姿だけなら本人達が意識を回復させれば問題ないだろう」
「……じゃああのバグスター達を倒した後でもそれは可能か?」
「基本的にバグスターは不死身だ。保存データさえあればいくらでも蘇る」
「……あまり納得はいかないけども……」
「……やるんだな、セーブ!」
「ああ。俺達仮面ライダーの目的は人々の生活を守ること。仮面ライダークロニクルの被害を最低限に抑える事!」
セーブとリボルバー、ローズが立ち上がりキングを襲うバグスターへの攻撃を開始する。
「苦しまずに一撃で消し飛ばす!!」
ゼオライマーの姿になったセーブが両手を胸の前で合わせて天の文字を作る。
「メイオウ!!」
放たれたメイオウ攻撃により、一気に100体以上のバグスターが消し飛ぶ。漏れた数体もリボルバーがヘッドショットで一撃死させていく。
「……」
その中でクロノスが黎斗の前にやってくる。
「黎斗!バグスターコアをどこに隠した!?」
「ほう、何かなそれは?」
「しらばっくれるな。あれがあればバグスターであっても生身の人間と変わらない反応を示す。あれがあればバグスターになってもクロノスに変身できる。……クロニクルガシャットと共にお前が開発したはずだ!お前もまだ生身の人間だ。使用していないのは分かる。どこに隠した?言えばお前は生かしてやろう。親子故にな」
「既に人間を捨てたあんたから息子扱いされても嬉しくはない!!」
黎斗が懐からガシャットを取り出す。
「デンジャラスゾンビか。今更レベル10が何の役に立つ?」
「これを見ても同じことが言えるかな?」
黎斗はさらにポケットからフルボトルを取り出した。
「!?」
「さあ、裁きの時間だ!!」
「ネクロム!」
振ったフルボトルをドライバーに突き刺し、
「サイファージャッジメント!!」
ガシャットをその隣に突き刺す。
「サイファーマッチ!!Are you Ready!?」
「変身・グレード0!!」
「虚無に燃え立つ静寂(しじま)!!ジャッジメントネクロス!!!イイイイェェェェェィイイイ!!!」
新たな姿に変身した黎斗。
「仮面ライダーゲンム・ジャッジメントネクロスだ!!」
「……ならばその姿、幻の彼方の夢に消してやろう。お前はもう絶版だ!」
「ポーズ」
クロノスがポーズを押す。それにより、世界が時間を忘れて静止する。しかし、
「ペナルティ」
「!?」
突如謎の電子音が響き、クロノスの動きが止まる。
「あぁぁぁひゃっはっはっはっはっはっは!!!掛かったな!!!」
そして笑いながらゲンムがクロノスにドロップキックを叩き込む。
「馬鹿な……なぜ動ける……どうして私は動けない……!?」
「決まっている!この私が貴様のポーズ奪ったからだ!!貴様がポーズを使おうがリセットしようが全てこの私のためだけに発動するボーナスに変わるのだ!!!」
動けないクロノスに攻撃を連続で加えていくゲンム。
「……不死身の次は相手の能力奪うチートかよ」
意識だけでセーブとリボルバーが突っ込む。
やがて衝撃でポーズが解除されてクロノスが地面を転がりまわる。
「くっ、基本スペックはレベル100……いや99程か……?」
「そんなもの、戦いには何の関係もなぁいぃ!!……さて、お楽しみはこれからだ。スタンド!!」
「!?」
ゲンムの両眼が光ると、その右手にクロニクルガシャットが出現した。しかも、
「馬鹿な……クロノスに変身可能なオリジナルクロニクルガシャットだと!?」
「私のスタンドは如何なガシャットでも自由自在に作り出すスタンドだ!!……くくく、」
笑いながらゲンムはクロノスを見下しつつ、リボルバーの傍に歩み寄る。
「え、何……?」
「私はこの時を待っていたのだよ!!」
ゲンムは突然リボルバーのガシャットをドライバーから引き抜き、代わりにクロニクルガシャットを突き刺してスイッチを押した。
「仮面ライダークロニクル」
「え、え、え!?」
「今こそ刻は極まれり!!!ブウウウウウゥゥゥゥン!!!!」
高笑いのゲンムの隣でリボルバーはクロノスに変身した。
「馬鹿な!?クロノスが2体だと……!?」
「2体?自分の姿をよく見てみるんだな!!」
「何!?」
見れば正宗はクロノスではなくエグゼスターの姿になっていた。
「まさか私の方のクロニクルガシャットが量産型になっているのか!?」
「本物のクロノスはいつだって1体だけだ!!さあ、喜屋武ぃ!!!私にその真の力を見せてみるがいい!!!」
「……!?」
武は突然体の自由が利かなくなった。同時にゲムデウスもまた動きが止まる。いや、ゲムデウスだけでなく他のバグスターも動きが止められていた。
「な、何だ……何が起きている……まさか!?」
「そうだ親父ぃぃぃ!!!何故喜屋武が仮面ライダークロノスに変身できたのか、どうしてバグスターを使役出来るのか!?どれだけ傷つこうとどんな傷だろうが瞬時に再生したのか!!その答えはただ1つ!!!喜屋武まるたぁ!!!君の体は既にバグスターコアによって人間型のゲムデウスバグスターとなっているからだぁぁぁぁあっ!!!!!あーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!!!!」
直後、ゲムデウスによってゲンムは数百メートルも殴り飛ばされた。
「……お、俺がバグスター……!?」
クロノスが自分の体を見る。確かに黎斗の言うことに思い当たるところがないわけでもない。むしろすべてが納得できる。今までどんな傷だってすぐに回復したのもゲムデウスと同じ存在ならばその再生能力で納得できるし、それなのにゲムデウスに操られなかったのもさっき黎斗が言ったようにゲムデウスを使役できる人間型のバグスターだから抵抗できたのだろう。しかし、
「い、いつだよ……!?いつ俺をバグスターにしたんだよあんたは!!」
「き、君が初めてレベル3になった頃だ」
ボロボロのゲンムが片足引きずりながら戻ってきた。
「バイクで空から落ちて君は致命傷を負った。あのままでは1分と持たずに死んでいただろう。だから私は完成したばかりのバグスターコアそれもゲムデウスの細胞を宿したものを君に融合させたんだ」
「あ、あの時かよ!!やたらと傷の治りが早いと思ったら……!!」
しかし膝を折ったのは正宗の方だった。
「ば、馬鹿な……喜屋武ごときに私の全てが奪われただと……!?」
「ざまぁみろクソ親父!!さあ喜屋武!!あいつにとどめを刺すのだ!!」
「ぐっ!!体が勝手に……!!」
クロノスがぎこちなく動き、生身で膝を折った正宗の前にゲムデウスと共に歩み寄る。
「やめろ武!!」
が、クロノスとゲムデウスの前にセーブが飛来する。
「将碁……!!」
「いくら敵だからって操られたまま生身の人間を殺そうとしたらお前はもう身も心も完全にバグスターになってしまうぞ!!」
「ぐっ……!!」
「馬鹿な……!?喜屋武に埋め込んだバグスターコアは私の命令には絶対服従のはずだ……何故私の思い通りにならない!?」
「……本当お前達親子は他人を操るのが好きで好きでたまらないようだな……!!」
セーブが拳を震わせる。そして、
「お前の中のバグスター細胞を除去してやる」
セーブはウルトラマンコスモス・エクリプスモードに変身する。
「ま、待て!!そいつの中のバグスター細胞を除去と言ったな!?だが既にそいつの細胞は100%バグスターのものとなっている!!いくらコズミューム光線でもバグスター細胞だけを除去してそいつを元に戻すことは不可能だ!!」
「……くっ!!本当に厄介な野郎だ!!」
「……し、将碁……!」
「武……」
「げ、ゲムデウスを倒せ……!!俺が抑えている間に……!!そうすれば俺もあいつもバグスターを思いのままに操ることは出来なくなる……早く……!!!」
「……武……!!」
セーブは元の姿に戻り、クロノスのベルトに触れる。
「な、何を……」
「リセット」
そしてベルトのリセットボタンを押した。それによりクロノス以外の全ての時間が24時間前のものに戻る。
「こ、ここは……私は何をしていた……?」
クラーケンがカイトの姿に戻る。リザードもまたパペットの姿に戻り、ずっと動かなかったパラドも傷が一瞬で回復して起き上がる。そして、
「Acceleration!!」
セーブが腕時計のスイッチを押した。
「Believe in Nexus!!」
電子音が次ぐとセーブの姿が一瞬ガラスのように粉々に砕け、しかし次の瞬間にはレベルXサブリメノンアクセラレーターとして再生する。
「……やっちまえ……!!」
「ああ!!」
セーブのアッパーを受けたゲムデウスが空高く吹っ飛び、大気圏を突破する。そしてセーブがそれに追いつき、
「や、やめろぉぉぉぉ!!!」
檀親子が同時に叫ぶ中、セーブのキックがゲムデウスに叩き込まれ、足裏からゲムデウスの全身に果てしないエネルギーが送り込まれ、ゲムデウスの全身は再生される間もなく一瞬で消し飛んだ。
「……ん、」
ゲムデウスを塵にしたセーブ。正面には月が見える。そこで一瞬悪魔が笑っているのが見えた。
それから24時間までの間に檀親子が揃って衛生省に護送され逮捕。さらに生き返った嵐山もまた衛生省に護送されていった。それでもエボルドライバーとエボルボトルは失われたままだった。そして瑠璃もまた傷は癒えているのだが目を覚まさないまま、Transfarへと移送されて入院することになった。
アイギスも復活していたのだが見つけ次第速攻で武によって倒された。グラファイト達もそれは止めずに電子の世界に帰っていった。キングは管理対象がいなくなったのだがしかしマグテラーの姿が気に入っていたのかまたそちらの姿に戻った。
武がクロノスに変身してゲムデウス細胞の力を使う事で地上に存在するオリジナル以外の全てのクロニクルガシャットはその機能を停止した。また、ゲムデウスに操られて倒されたバグスターの市民達もバグスターとして再び復活し、それぞれの生活に戻っていった。クロニクルガシャットによる特典による影響も消滅していた。
「……で、こうなるわけか」
利徳はしばらくぶりの帰宅を果たす。正宗に倒されはしたが何故かバグスターとしてそれまで復活しなかった。だが今回の件が片付いた後で何故か復活を果たした。しかもバグスターとしてではなく人間として。雷王院を通して衛生省に時折通う事にはなったものの元通りに戻った春奈と共に無事日常へと帰還することが出来た。利徳は雷王院に感謝するのだが雷王院は何も言わないまま去っていった。
「で、春奈。ガシャットの願いで何かスマホに入力してたよな。何書いてたんだ?」
「あ、うん。何故か天地創造から今に至るまでずっと入力してたんだけど」
「……面倒くさそうだから少しだけ読むか。……って何だ?途中で止まってる」
「うん。途中で元に戻ったから……」
「……最後の文字はえっと……キルバス……?何じゃそりゃ」
二人は顔を見合わせてから小さく笑った。