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突発休みの多い部下との面談を保健師に依頼したのに…

少し前に、体調不良者への対応について下記記事を書きましたが、今回はそれに関連したお話しです。

今回は体調不良の部下がいたときに、保健師など会社の中の第三者に面談を依頼するときの事例を紹介したいと思います。


ミニストーリー

営業課の課長である高橋健一は、デスクに向かいながら眉間にしわを寄せていた。部下の小野明日香(28歳)がここ数ヶ月、体調不良で突発的な休みを繰り返していたからだ。最初は「風邪が続いているのかな」と思っていたが、あまりにも頻度が多いため、ただの風邪ではなさそうだと感じていた。

ある朝、またも小野が欠勤を連絡してきた。「申し訳ありません、今日も体調が悪くてお休みします」。チャットに届くその言葉を見ながら、高橋は深いため息をついた。

「どう対応したらいいのだろう?」

部下の体調を気遣いながらも、仕事が滞る影響が大きい。このまま放っておいていいものか。でも、もう少ししたら体調が戻るかもしれない。

そう祈って1週間経ったが、相変わらず遅刻が続いていた。

もう放っておけないと覚悟を決めた。

とはいえ、女性部下の体調について直接聞くのはセクハラと思われるのでは?と気が引けた。そこで思いついたのが、職場にいる保健師に相談することだった。

高橋は、昼休みに小野を呼び出して話を切り出した。「最近体調が悪いみたいだけど、大丈夫?無理しないで、保健師さんに話を聞いてもらったらどうかな?」小野は少し驚いた表情を浮かべたが、「わかりました。お話してみます」と快諾した。

保健師との面談

保健師の宮下真紀子は、依頼を受けて小野との面談を設定した。「小野さん、最近体調が悪いと聞いていますが、どんな状況ですか?」

小野は首をかしげながら答えた。「正直、よくわからないんですけど、上司に勧められたので来ました」

「そうですか…」

宮下は少し困った表情を浮かべた。聞いていた話と違っていた。最近体調が悪くて仕事を休みがちだから話を聞いてほしいとの依頼だったが、本人はそういう認識ではなかったようだ。

宮下は相手を傷つけないように表情を確認しながら質問した。

「実は、高橋課長から最近休みがちだと聞きました。体調が悪そうだから大丈夫かなと心配されていましたよ」

小野は忘れていことを思い出したかのように答えた。

「あぁ、そのことですね。それならもう大丈夫です。最近ちょっと体調崩していたのですが、今は落ち着いています」

「そうなのですね。落ち着いていると聞いて安心しました」
と言ったものの、体調が戻ればOKというわけにはいかないので、少し話を深掘りすることにした。

「ただ、今回は突発休みが多かったみたいですし、心配なのでもう少しお話しを聞かせていただけませんか?」

「はい。ただ課長には内緒にしておいてくれますか?」

守秘義務があるのでここで聞いたことは誰にも話さないと事前に伝えてはいたが、よっぽど知られたくないことなのかと宮下は内心思った。

「もちろんです」

その言葉に安心したように小野は話し始めた。

「実は最近彼氏と結婚が決まったんです…」

宮下は相槌を打つだけの時間がほとんどだった。小野は仕事でしんどく思っていることや、過去に精神科にかかっていたことなどいろいろと聞かせてくれた。

「そういうことがあったんですね。」

この調子ではいつかまた同じことを繰り返しそうだったので、もう一歩進んだ質問をした。

「でも、この状況が続いたら、また休んでしまったりしないですか?」
「そうですね…」

小野は一瞬戸惑ったような顔をしたがすぐに返事が返ってきた。

「課長は優しいので大丈夫です。しんどいときは休んでもいいから自分のペースでやってくださいと言ってくれるんです。そのときも課長と相談しながらなんとかがんばります。」

上司が許容してくれているのであれば、私からはこれ以上言うことはできない、と宮下はそれ以上踏み込まなかった。最後に、上司に一時的に体調が悪かったが、今は戻ったということは伝えてもいいと同意を得て面談を終えた。


宮下は面談後、高橋に報告した。「少し前までは調子が悪かったみたいですが、今は戻ったみたいです。ただ、その理由に関しては本人の同意がないためお伝えできないんです。申し訳ありません」

高橋は頷いたものの、心の中では腑に落ちなかった。せっかく面談を依頼したのに、原因を教えてもらえないなんて…」

その後、一時的に小野の休みは減ったが、しばらくするとまた同じように突発の休みをするようになってしまった。


解説

いかがでしたでしょうか?

体調不良の原因を聞いてもらうため、産業医や保健師に面談を依頼したものの、結局理由がわからなかったということはありませんか?今回のケースのように話を聞く際に守秘義務があるためお伝えできないことが少なくありません。

では、どうすれば効果的な面談になるかについて説明していきます。

1. なぜ面談が必要なのかを本人に伝えること

冒頭のリンクの記事にも書きましたが、事例性を伝えることがポイントです。

産業医や保健師が本人と面談する際、事前に具体的な「事例性」が上司から伝えられていないと、問題解決が難しくなることがあります。このケースでは、突発的な休みが続いていることが職場での課題でしたが、面談の中でその焦点が明確にならなかったため、適切なアドバイスができませんでした。

なので事例性をまず伝えるようにしてください。そして、それくらい体調が悪そうに見えるからだということを伝えることが大切です。

2. 受診する必要があるかわからない時や本人が抵抗を示す時

以前の記事では受診を勧める流れでしたが、中にはなかなか受診してくれない人もいます。
受診したら休まなければいけないとか、受診すること自体に抵抗感のある方は少なくありません。

そんなとき、受診のハードルは高くても、保健師には話しやすいこともあるかもしれないので、一度保健師に相談することを勧めてみてください。

3. 産業保健スタッフを効果的に活用するには

保健師や産業医は、職場での健康管理をサポートするプロフェッショナルですが、本人だけの解釈では適切なアドバイスができないことが多々あります。

今回のケースのように、本人が『上司は休んでもいい』と言ってくれていると解釈してしまっている場合、体調を整えるためのアドバイスや深掘りができなくなってしまいます。

そのため、保健師等に面談を依頼する際は、その理由(事例性)を保健師にも共有しておくと本人に伝えておいてください。
そうしていただけると、スムーズに話ができ、話も深掘りしやすいため大変助かります。

4. 面談内容をフィードバック

面談の結果について依頼元の上司にフィードバックを行います。

産業医や保健師には守秘義務等があり、詳細には伝えられないのですが、そもそもの面談目的が事例性が起こっている背景に体調的な理由がないか?という安全配慮義務の観点からの面談でもあるので、ある程度は共有してもらえるはずです。もちろん共有内容に関しては事前に本人と相談しながら決めることになるので、全てお話しきれないことがあるということも認識いただければと思います。


まとめ

体調不良の部下への対応は、上司にとっても非常に気を遣う難しい仕事です。職場全体の業務を考えながら、一人ひとりの部下に配慮し、適切な対応を模索するのは大変な負担がかかります。

その中で、保健師や産業医に面談を依頼する際には、突発的な休みなどの「事例性」を明確に伝えることが重要です。

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産業医|平井
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