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復職診断書が出て大慌て
さて今回はタイトルの通り復職後にあるトラブルを紹介します。
管理職の方の中に、同じような経験があるかもしれませんが、主治医から「〇月〇日から復職可」という診断書をもらって慌てたことはありませんか?
そんな復職のときに起きたトラブルです。
ミニストーリー
渡邊舞子(32歳)は、休職してから2ヶ月が経過していた。最初の1ヶ月間は体がだるく、一日中寝て過ごす日々が続いていたが、徐々に体調が回復してきた。今では1日3食きちんと食べられるようになり、薬を飲めばなんとか夜も眠れるようになっていた。
しかし、渡邊の胸には焦りが渦巻いていた。スマホの画面に映る銀行の残高が日に日に減っていく。その数字を見るたびに、胸がざわついた。傷病手当金が支給されるとはいえ、実際に入金されるまで2〜3ヶ月のタイムラグがある。「こんなペースでお金が減っていったらどうしよう」という不安が渡邊を突き動かした。
「もう復職できるはず…」そう自分に言い聞かせて、主治医の元へ足を運んだ。
診察室で渡邊は主治医に思いをぶつけた。「先生、もう大丈夫です。早く仕事に戻りたいんです。」主治医は慎重な表情で渡邊を見つめた。「まだ体調が万全とは言えません。少しずつ整えていく必要があります。」しかし、渡邊の「どうしても復職したい」という訴えに根負けし、主治医は「復職可」と書かれた診断書を発行した。ただし、診断書には「軽減勤務から始める必要がある」とも記されていた。
渡邊は早速その診断書を課長の田村に送付した。
田村課長は、渡邊から送られてきた診断書をデスクの上に置き、深いため息をついた。「◯月◯日から復職可」と書かれたその一文が、頭から離れない。復職希望日が診断書に記された日まで、あとわずか2日しかない。田村は慌てて渡邊に電話をかけた。
「渡邊さん、診断書を拝見しました。体調が回復されているとのこと、少し安心しました。ただ、軽減勤務と書かれていますが、どのような形を想定していますか?」
電話越しの渡邊は少し戸惑った様子だった。「えっと…前やっていた業務なら慣れているのでありがたいです。」
「なるほど、わかりました。それなら体調を見ながら以前担当していた業務から少しずつやっていくようにしましょう。ただ、全ての業務を一気に戻すのは難しいと思いますので、一部は他のスタッフに引き続き対応してもらいます。」
田村は電話を切ると同時に、周囲のスタッフとの調整に動き出した。以前の業務を引き継いでいたスタッフに事情を説明し、渡邊が戻った後も一部を継続して担当してほしいとお願いした。
「えっ…まだ渡邊さん、完全復帰じゃないんですか?」引き継ぎを受けたスタッフからは驚きと困惑の声が上がった。「そうなんです。でも、一部の業務から少しずつ彼女に渡してあげてください。」田村は頭を下げながら説明した。
さらに、チーム全体にメールで復職予定を知らせた。「渡邊さんが復職されます。ただし、軽減勤務からのスタートになりますので、みなさんのサポートをお願いします。」メールを送信した後も、どこか落ち着かない気持ちが田村を支配していた。
復職初日、渡邊は久々に職場へ足を運んだ。前日は緊張しすぎて3時間しか眠れなかった。緊張した面持ちで出勤した渡辺に田村課長は優しく声をかけた。
「おかえりなさい。無理をしないで、できるところから始めましょう。」
渡邊は笑顔を作って「ありがとうございます。頑張ります」と答えた。
しかし、復職後数日が経つと、異変がおきた。渡邊は周囲に気を遣いすぎてしまい、軽減勤務のはずが業務量が増えてしまう状況を自ら作り出していた。
「休んでいた分を取り戻さないと」という焦りからか、同僚からの「無理しないでいいよ」という言葉を受け入れず、結局負担が大きくなっていた。
帰宅後はぐったりして食事も取れず、お風呂にも入れない状態で寝落ちしていた。そんな状況で1週間が経った頃、渡邊は、再び遅刻するようになり始め、2週間後、渡邊は再び主治医からの再休職の診断書を提出した。
解説
いかがでしたでしょうか?
管理職の方の中でも、復職させたはいいけれどすぐに再休職になったという経験はありませんか?
このような混乱を避けるために、今回は復職時の対応について少しお話させていただきます。
復職を決めるのは誰?
そもそも、復職を決めるのは誰でしょうか?
本人
主治医
会社
答えは、
3.の「会社」です。
まず最初に押さえておきたいのは、復職の最終判断をするのは「会社」であるということです。診断書に「◯月◯日から復職可」と書かれていても、それは主治医の判断であり、会社が受け入れる準備が整っているかどうかは別の話です。復職の準備が整っていない場合は、復職日を調整したり、場合によっては復職不可と判断することも会社の権限として可能なのです。
では、復職の準備とは何なのでしょうか?
復職には、労働者側と会社側、それぞれの準備が必要です。
・労働者側の準備
主治医の先生が復職可と判断していたとしても、労働ができる状態になっているとは限りません。ミニストーリーのように本人の気持ちを尊重して「復職可」と診断書を書かれたり、本人の話から聞いた情報のみで判断されたりするからです。
会社で定められた業務ができるかどうかの判断も大切です。具体的には、厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」の記載を参考にしてください。
下記抜粋です。
<判断基準の例>
・労働者が十分な意欲を示している
・通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
・決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
・業務に必要な作業ができる
・作業による疲労が翌日までに十分回復する
・適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
・業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している など
上記に項目がクリアできていれば会社として復職可の判断を出す目安になります。
・会社側の準備
一方で会社側にも準備が必要になります。上記条件を満たしているように見えても、完全には元の状態に戻っていなかったり、休んでいた間のブランクがあるため、復職後しばらくは通常業務よりも軽減した業務から開始した方が、スムーズに復職できることが多いからです。
復職後しばらく配慮をする場合は、職場環境を整えるための準備が必要になります。軽減する業務に応じて、その業務内容やチーム全体の調整をしなければいけません。そういう意味でも、慌てて復職させるのではなく、こうした準備が整うまで復職日を調整することも大切なのです。
産業保健スタッフを活用する
とはいえ、本人に対してどこまで配慮すべきか、悩むことも少なくないと思います。
本音を話してくれなかったり、どこまで配慮すべきか迷ったりすることもあるかもしれません。本人が職場復帰しやすいように支援もしないといけないし、人員マイナス1で支えてくれているスタッフのことも尊重しなければいけません。
管理職は本当に悩むことの多い立場です。そういうときは、会社に産業医や保健師がいたら一度相談してみてください。中立的な立場で復職者も管理職も両方を支援してくれると思います。
まとめ
復職を決めるのは「会社」です。診断書が提出されても慌てずに、本人にとっても職場にとってもより良い形で復職できる日を決めるようにしましょう。
最適な職場環境を調整するには時間が必要なので、無理に復職日を急がないことがポイントです。
今回のミニストーリーは、準備不足が引き起こした復職トラブルでした。次回以降、復職支援の詳細についてさらに深掘りしていきます。復職に関する悩みがある方は、上記でも紹介した厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」もぜひ参考にしてみてください。
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