額縁の五万円
<おじさんDX Vol 81>
私は「中山浩二」株式会社岩崎商事に勤務する24歳。社会人1年生。
社長は「岩崎幸四郎」50歳。株式会社岩崎商事代表取締役社長。
そんな岩崎が若かりし頃、共に夢を見た友人がいる。その友人の名前は、佐々木義男。岩崎と同じ年である。
※登場人物・年齢・団体・会社名は、フィクションです。
社長室には、不思議な光景がある。
それは「額縁に入れられた1万円札が5枚」
私は、社長に
どうして「額縁に1万円札を入れているのか」聞いたのです。
岩崎:『ああ…これには理由があるんだ』
岩崎:『自分が若い頃に友人に貸した5万円なんだ』
当時25歳だった「佐々木義男」は、飲食店を経営していた。経営は苦しかったが、お客もそれなりについていた。しかし、不況のあおりを受ける。
月末の支払が不足。弱音を吐いた事の無い佐々木が「このままだと、店をたたまないといけない」と困り果てている。
岩崎は、どうにか力になりたいと思った。
岩崎:『当時は貧乏でね、失業したばかり』
岩崎:家賃の支払も滞る位...。
岩崎は、ありったけの金を集めた。
岩崎:恥ずかしい事に5万円しかなくてさ…
岩崎:『空腹とか家賃が払えないとか、大変だったが、佐々木のピンチ』
岩崎:『後先考えなかった…』
岩崎は、なけなしの5万円を佐々木に渡すのです。
岩崎:『たった5万円じゃ とても返済に足りないと...』
その日から岩崎は、アルバイトを掛け持ちし前借分も含めて給与全額を持って佐々木の家に行く。自宅兼店舗には、売り物件の看板が付いていた。店は潰れ佐々木も町から姿を消していた。
私は「それで貸した5万円は?戻って来たのですか?」と社長に聞く、
岩崎:いや、最初から金が戻ってくるなんて考えていなかった。
返せとも言わなかった。
15年後
佐々木が、突然会社に
その頃の岩崎は、立ち上げた会社が大当たり。
昔の事は、すっかり忘れてしまい、有頂天になっていた頃だ。
岩崎:「5万円の事は、すっかり忘れていた」
岩崎:佐々木の事は「失敗して逃げた奴」と軽蔑していた位だ。
あの時『自分は、随分横柄な態度をとったと思う』と岩崎は言う
私は黙って聞いていた。
受付からの連絡
『社長お客様が来ております。佐々木と言えばわかる』と…
『お知り合いですか?』
岩崎:倒産するという事は、どんなに惨めだと言う事を
岩崎:その話の例えになっている、人物だ…
受付は、金の無心でもしに来たのでしょう と
『処置しておきます』
受付が「生憎社長は不在です」と佐々木に伝える。
「何時戻りますか?」と佐々木
受付は『社長は、お忙しい方なので、分りません』と返答。
佐々木は「ここで待たせて貰うと」言ったようだが、警備に摘み出されます。
受付は、迷惑そうに小声で吐き捨てるように言う。
『困るんですよ』『儲かっていると噂が出ると』
その日、取引先との会合の予定があった。「社長、そろそろ準備を」と言われても岩崎は、佐々木の事が気になっていた。
今日は、台風の影響で大雨。
岩崎は、昔の記憶を思い出していた。
岩崎:『この大雨の中、何をしに来たのだろう...』
受付の言うように、金の無心か
信じたくなかったが、15年という歳月は「人が変わるには充分」「自分だって変わった」と心の中で岩崎は考えていた。
再度準備を促された。
岩崎は社長室の窓から外をのぞいた。
岩崎:『居たんだ』
私は、何がですか?と聞き返した。
岩崎:ずぶ濡れになりながら、立っている佐々木が…
太めだった奴がガリガリに痩せていてさ
おしゃれだったあいつが、ぼろぼろの服装でさ…
白髪だらけでさ…
岩崎は、その姿を見て気付いた。
岩崎は、傘もささずに社屋を出て駆け寄る。無意識だった。
佐々木は、岩崎に
『返しに来た』
と、ずぶ濡れになった、茶封筒を渡した。
この15年佐々木は、昼も夜も働いて借金を返していた。
岩崎:その姿で分かった。おちゃらけた様子なんてもうどこにも無い、
修羅場を潜り抜けてきたであろう男の姿。
「あいつは、逃げたんじゃない、一人でずっと戦っていたんだ」
岩崎は、自分が恥ずかしくて目を合わせられない。
『あの時、お前がどんな思いをしてこの金を都合してくれたか…』
『それに応えるため、必死で頑張った…』
『お前が都合してくれなかったら、俺はとうに諦めていたかもしれない』
そう佐々木が言う。
岩崎は「そんな苦労するくらいなら俺を頼れよ!」と言った。
すると佐々木は「お前は後先考えずに渡すだろ!」
社長はこう振り返ります。
別に金なんて返さなくたって良い。
世の中には破産する人だって居る。
もっと楽な方法はあるのに…あいつったら…
生半可な苦労じゃないはずなのに...
自分が貸した5万円は、当時の精一杯。
あいつが返した5万円は、今の精一杯。
岩崎:そう思うとこの1万円札5枚は、使えない。
岩崎:大切な何かを 思い出させてくれたようで、忘れ無い為に
私はこの話を聞いて、なんて友情って素晴らしいんだと思いました。