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トラックドライバー怪談2『バックモニター』

※星野しづくさんのYou TubeCH『不思議の館』にて紹介した、トラックにまつわる怪談をまとめました。実体験やドライバー仲間から聞いた話がメインです。
又聞きしたりもするので真意不明な話もありますがご了承ください。

『バックモニター』
俺には<霊感>というものは無い・・・はず。
なので、変なものを見聞きしたりすることはほぼ無い。
だけど時々、穴に落ちたように変な体験をすることがある。
この話は、穴に落ちてしまった時の話だ。

一般車にも大型トラックにも、バックモニターが装備されていることは多い。
特に、死角の多い大型ウィングトラックに関しては、ほぼ八割がたバックモニターが装備されている。
例外なく、俺のトラックにもバックモニターは装備されており、後退する時には大活躍している。

それはまだ、肌寒さが残る季節だった。
俺は山梨県某所から飲料水を満載し、福島県某所に向かった。
俺が卸地にたどり着いたのは、深夜0時頃。
その倉庫は24時間開いていると聞いたのだが、住宅街の狭い道路を抜けて辿りつくと、倉庫の電気はすべて消えており、出入口の門も閉じている。
なんてことはない、24時間開いているは誤情報で、倉庫は完全に閉まっていたのだ。
「くっそ、だまされた・・・」
俺は運転席で苦笑してどうやって戻ろうかと思案した。
住宅街の道路は狭すぎて、全長約12mある大型トラックがUターンできるような場所はない。
となると、選択肢は一つ。
俺たちトラックドライバーの中ではよく、<鬼バック>と呼ばれる手法をとるしかない。
そうなのだ、走ってきた道をひたすらバックで戻るのである。
深夜の住宅街にバック警報が鳴り響くのは申し訳なかったが、そうやって戻っていくしか手立てがない。
俺は窓を開け、バックモニターと目視と両サイドのミラーをすべて使って入ってきた道をバックで戻り始めた。
バックモニターをちらっと見た時、後方に見える電柱の街灯の下に、ちらっと人影が見えた。
「あれ?」
俺は一瞬、近所の人が文句を言いに出てきたのかと思った。
だから、ギアを抜いて停車する。
もう一度、ミラーを見て、それから窓から顔を出して人影が見えた場所を目視確認するも、人らしき影は見当たらない。
「おかしいな・・・」
俺はもう一度ギアをバックに入れて下がり始める。
バックモニターに再度目をやると、今度は、さっきより一歩踏み出したところに、初老の男性らしき人影がある。
俺は慌ててブレーキを踏み、もう一度、窓から顔出して後方を確認する。
しかし、やはり目視では人影を確認することはできない。
「やっぱ、うるさいって苦情を言いにきたのかな?」
そんなことを思ってギアを抜き、サイドブレーキを引いてキャビンを降りると、人影が見えた電柱の所まで歩く。
「あ、すいません、うるさかったですよね?すいま・・・」
電柱のあたりを覗きこみながら、そう言いかけるが、誰もいない・・・「え??」
頭の中はクエスチョンマークだらけだが、こんな住宅街にアイドリングを響かせておくのも申し訳ないので、とりあえず、またキャビンに戻り鬼バックを再開する。
先ほど人影を見た電柱を越え、バックモニターが暗がりと赤いテールランプを映し始める。
モニターの中で、ゆっくりと暗がりに向かって下がっていく赤い光。
深い闇に飲み込まるような不思議な感覚があって、なんとなく、背筋に寒いものが走った。
その時である、モニターの中に映されたぼんやりとした赤い光の中に、また、不意に人影が浮かびあがったのだ。
「!?」
俺はブレーキを踏んだ。
ミラーでも目視でも確認できない、だが、バックモニターの端に確実に映る、初老の男性の姿。
「え?!なんで?!」
何度ミラーで確認しても、何度目視で確認しても、その男性の姿を見ることはできない。
だけど、バックモニターの中にだけ確実にいる。
俺は色んな意味でぞっとした。
万が一生身の人間なら牽いてしまっては大変だから、恐怖はあったが、もう一度キャビンを降りて後方を確認しにいく。
恐る恐るトラックの後ろを覗き込むも、やはり誰もいない。
俺、寝ぼけてるのかな・・・?
そんなことを思ってキャビンに戻り、バックモニターをみると、男性の姿は消えていた。
俺は一瞬安堵する。
なんだ・・・やっぱ俺、寝ぼけてたんだ・・・
そう思って気を取り直すと、鬼バックを再々開する。
ミラーをみて、目視で確認して・・・再びバックモニターを見ると。
「ひっ!?」
そこには、先ほどよりも確実にトラックとの距離を縮めた、あの初老の男性の姿があった。

【END】

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