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少年トムの怪奇事件簿1『ウェールズの古城にて(1)』

星野しづくさんのYou Tubeチャンネル『不思議の館』にて話をさせていただいたものを小説風にまとめてみました
ウェールズの古城にて、というタイトルはしづくさんが付けてくれたものです。


【1、ウェールズ紀行】
日本国外の人にとって、日本人の名前というものは発音するのが難しいそうだ。
故に、彼の名前も呼びずらいらしく、英国留学中だった彼は、友人からもホストファミリーからもTOM(トム)と呼ばれていた。
それは5月か6月か、夏が始まる季節の頃の話だ。

トムはホストファミリーと一緒に、ウェールズ旅行にきていた。
首都カーディフを散策し、宿泊地にたどり着いたのは15時頃。
だだっ広い海岸沿いの砂浜に面したトレーラーハウス。
そこが、今夜の宿泊地だった。
夏近い英国はまだまだ日が高く、暗い夜が来るにはまだまだ時間がかかりそうだった。

その日、荷物を自分のベッドルームに運び込んでいたトムは、窓辺からある物を発見し、それに視線が釘付けになった。
当時トムは17歳。
だが、こじらせ気味の厨ニ病は良くなるどころか悪化の一途を辿っていた。
そんな彼がそれを見逃すはずもない。
彼が見つけたそれは、長い砂浜の向こう、岬の先端に立つ古い城の姿。 
悪化する厨ニ病を抱えたトムがそれを見逃すはずもなく、ベッドに着替を詰めたリュックを投げ出すと、キッチンの冷蔵庫に夕飯の食材を入れていたホストマザー、モリーに声をかけた。

「モリー、岬の上の城を見に行ってくるよ、日本にはあんな城ないからさ」

トムのその言葉に、モリーきょとんとした表情で振り返る。

「行ってもいいけど、夕飯までに戻ってきてね」

「わかった!」

「ああ!ちょっとトム!」

子供みたいにはしゃいだ様子で、トレーラーハウスの玄関を出ようとしたトムを、慌てた様にモリーが呼び止める。
トムは、玄関ドアの取っ手に手をかけながら肩越しにモリーを振り返った。 
モリーは少しだけ複雑そうな表情をして、声を潜め言葉を続ける。

「古いお城には悪い妖精がいるから、連れて行かれないように気をつけて」

「え???」

モリーのその言葉に、今度はトムがきょとんとなった。
英国人は、日本人にも通じるほど迷信深いところがある。
それは半年以上英国に住んでトムが感じたことだった。
英国人が言う【妖精】と言うのは、おそらく、日本でいうところの妖怪のことなのだろう。

「妖精??」

トムが聞き返すと、モリーは何やら真剣な顔になって言葉を続ける。

「そうよ、妖精よ。バンシーを見たら死んでしまうし、バンシーじゃなくても、人間を妖精の世界に連れていってしまう悪い妖精がいるの、だから、気をつけて行きなさいね」

モリーがあまりにも真剣な顔をするので、さすがのトムも一瞬怖じけづいたが、そこは重症の厨ニ病患者だ、すぐに気を取り直すとこう言った。

「わかったよ、妖精には気をつけるよ!じゃあ、行ってくる!」

トムは、モリーの心配をよそに、砂浜を岬の古城に向かって走りだした。


→To be Continue


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