少年トムの怪奇事件簿1『ウェールズの古城にて(3)』
【3、禁足の庭】
老紳士のその言葉にトムは、なにやら背中に薄ら寒いものを感じた。
ホストマザーであるモリーも、この老紳士と同じようなことを言っていた。
英国人がいくら迷信深いとはいえ、立て続けに二人に言われたら、さすがのトムも、一瞬だけ「引き返そうかな?」と思わなくもない。
だが、そこは厨ニ病患者。
そんなことで冒険を諦めては重症の厨二病患者とは言えないのだ。
怖気付くわけでもなく、トムが古城に行くことを諦めないことを、彼の表情で悟ったのか、老紳士はおかしそうに含み笑いをした。
「まあ、気をつけて行きなさい。
門を抜けたら、そこには石の柱が倒れているから、トム、そこから先に行ったらいけないよ」
「え…??」
不思議そうな顔をして、ますます首をかしげるトムに向かって、老紳士は言葉を続ける。
「その石の先にはな、いたずら好きな妖精がたくさん住んでいるんだ。
悪い妖精に出会ったら、連れて行かれてしまうかもしれないからね。
バンシーの声を聞いたら、それこそ死んでしまうから、ちゃんと耳を塞ぐんだよ」
「えぇ…??あぁ…は、はぁ…」
戸惑い気味にきょとんとするトムに向かって、老紳士はやけににっこりと微笑むと、そのまま彼の目の前を通り過ぎていった。
トムは、訳が分からないといった表情をしながらも、好奇心には勝てず、そのまま城に向かって歩いて行くのだった。
城門が近づいてくるにつれ、思った以上にその城が荒廃していることにトムは気がつく。
海風と海鳴りに包まれながら、悠然と佇む朽ち果てた城。
無骨な城の城壁はあちこちが崩れ、くすんだ藍色をした海がその隙間から見えている。
天辺が崩れた塔。
かつてはきちんと手入れされ、その城の主やそこに仕える使用人たちや、騎士が行き来しただろう庭は荒れ果てて、背の高い草が生い茂っている。
兵どもが夢の跡とは、まさにこのことを言うのかもしれない。
トムはしみじみそんな事を思いつつ、少しの恐怖と大きな好奇心に胸を躍らせ、城門をくぐり庭の方へと歩いていく。
少し先に進むと、先ほど、かの老紳士が言っていたように、本当に石の柱が倒れていたのだ。
先に進むことを拒むかのように横たわり、進路を塞ぐこげ茶色の大きな石柱。
ここから先にはいたずら好きな妖精がいる…
老紳士の言葉を思い出しながら、一瞬、足を止めるトム。
妖精なんて本当にいるのかな?
そんな疑問が頭をよぎる。
妖精がいるのかいないのか、それを考えれば考えるほど、トムは先に進みたくなって仕方なかった。
あの老紳士は行くなと言った。
だがそのせいでますます好奇心をくすぐられたトムは、石の柱の向こうに行こうと、一歩足を踏み出した。
その時だった。
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