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金融垢週末小噺:小笠原主任と監視システム

その日、課長は少し浮かれていた。
支店長が休暇を取っており一日不在なのだ。

支店長はとにかく鬼軍曹みたいな人で、
朝の朝礼から怒鳴り散らす人だった。

気が緩むのも当然だ。

朝の朝礼を終えて、いつもは足早に外出する面々も、
今日はゆっくり中に残っていた。

そんな中、いつも一番乗りで外に出る小笠原主任が、
いつものように8時50分ぐらいに「行ってきます!」と出ていった。

8時50分。
誰に会いに行くというのか。

そもそも会社がやっている時間じゃない。
個人宅にそんな時間から行くのか。正気じゃない。

でも、彼は必ずその時間に出ていくのだ。

出ていく小笠原主任を後目に、私はパソコンで、
芸能ニュースをチェックしていた。

するとしばらくして課長が話しかけてきた。

「なぁ、これ見ろよ。これ!」
自分のパソコン画面を指す課長。

「なんすか?」
覗き込むと、地図画面が立ち上がっており、そこに青い丸が1つ見えた。

「業務用携帯の位置情報のやつ!今日から見れるんだよ。この青い丸、小笠原だよ。」

悪魔みたいな顔で課長が笑う。

「見ろよこれ。こいつがいる場所!公民館だよ公民館!」

小笠原主任がいつも朝一で出かける謎が判明した。
9時から開く公民館でサボっていたのだ。

課長も朝一で出かける割に、いつも何の成果もない小笠原主任の行動を不審に思っていたのだろう。

導入された業務用携帯の位置情報管理システムを早速使って小笠原主任の動向をチェックしたのだ。

「ちょっと電話してみようぜ!」
課長のおふざけが止まらなくなってきた。

「おう小笠原、今大丈夫?」

「お前今どこにいるんだよ?え、〇〇商店の集金?」
課長は悪魔のような笑顔で嬉しそうな声をあげた。

いつしか渉外メンバーは全員外出しており、部屋には私と課長だけになっていた。

課長はヒートアップする。

「お前さ、噓つくんじゃねーよ!今公民館にいるだろ。俺、お前のこと見てるんだぜ。」

「え、どこにいるかって?近くだよ。お前の近く。」
課長はしばらく悪乗りを続け電話を切った。

「お腹が痛くてトレイ借りてたんだって笑」
「面白い言い訳ですね笑」

私も楽しくなっていた。

またしばらく画面上で監視していると、今度は小笠原主任は公園に入っていた。

悪魔がまた電話をかける。

「おい、お前今度は公園かよ!なめてんのかよ小笠原!」

課長と私は笑いを堪えるのに必死で、腹の筋肉が攣りかけるほどだった。
そんなやり取りがしばらく続き、私と課長は小笠原主任をおもちゃにして丸一日を楽しんだ。

あっという間の時間だった。

翌日、朝礼が終わった後、支店長が私と課長に声をかけてきた。

「おい、課長と〇〇。あとで支店長室来てくれ」

私と課長は顔を見合わせた。

「なんでしょうね?課長」
「あれじゃねー?小笠原の話じゃないの?昨日の。支店長も今日チェックしたんじゃないの?笑」
「あ、あれっすかwww」

私と課長はニヤニヤしながら、支店長室に行った。
支店長はやはり怒った顔をして座っていた。

「支店長、ご用件は?」 課長が聞く。

「これを見ろ!」
支店長がやはり、業務用携帯の位置情報システムの移動記録の印刷された紙を机の上に投げてよこした。

何故か二枚あった。

覗き込む課長と私。

1枚目には課長、2枚目には私の名前が書いてある。

「おめーら、昨日一日何やってたんだ!!!」

シートには支店から一切移動しない私と課長の青い丸が表示されていた。

「「あっ・・・・」」

私と課長の声が重なり、そしてむなしく響いた。

(終)

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