映画感想『キーパー ある兵士の奇跡』
原題「THE KEEPER / TRAUTMANN」
◆あらすじ◆
1945年、ナチスの兵士として最前線で戦っていたトラウトマンは、連合国軍に捕まりイギリスの収容所に送られる。ある日、捕虜同士でサッカーをしていたところ、キーパーをしていたトラウトマンが地元チームの監督の目にとまり、そのままスカウトされる。チームのメンバーは敵国の兵士だったトラウトマンの加入を快く思わなかったが、目覚ましい活躍でチームの勝利に大きく貢献する彼を次第に仲間として受け入れていく。そんな中、監督の娘マーガレットと恋に落ちるトラウトマンだったが…。
WWⅡが終戦しイギリスの捕虜となったドイツ兵が辿った実話ベース。
戦争絡みの話を観ると本当に何時も思うが『戦争は一利も齎さない』と言う事だ。
この映画もナチスドイツと言う【選択の余地無し】の状況下で背負ってしまった贖罪の念に苦しむ主人公の心情と冷酷無比なナチスに敵意を剥き出しにするイギリス国民の想いが交錯するストーリー。
だがサッカーと言う英独共通の国民競技がお互いの心を通わせる。
【武器を捨てお互いを受け入れボールで戦うだけでイイじゃないか!】と言う良作。
人物説明の構成が良かったな。
序盤から登場しずっと背景が語られずにいたスマイス軍曹の人物像が後半に判明する辺りは憎い。
しかし、一部創作もあるだろうがこれが実話ってのが凄いわ!
荒み、疲弊した人の心を癒し、再生させるのはやはりスポーツや芸術なのだと確信させられる。
戦争は国の戦いであって決して個人の争いでは無いと言う事だ。
銃を向け合った相手はその軍服姿を通り越せばただのいちドイツ人であり、いちイギリス人なのである。
マンCのゴールを必死で守るバートの姿を見てそこに1人のサッカー好きな青年の姿を見出したラビの気付きのシーンは深いね。
ホロコーストによるユダヤ人狩りからの大量虐殺と言う背景を抱えつつ(自分の意思からではないかもしれないが)その一端を担っていただろうドイツ兵を赦す気持ちがラビ(ユダヤ教に於いての宗教的指導者)から発せられた事でこの偏見に歯止めを齎す展開はグッとくる。
ただ、戦争の傷の深さはその後のトラウトマンと妻になったマーガレットとの間に起こる非常にツライ出来事で再び浮上する。
愛情で蓋をされ一見消えたかと思っていたその根底に残存していた痛みはいとも簡単に蘇る。
人の心情の複雑さや想いの交錯がこの物語の後半で明示的に描かれるのがそれが作品の【核】なのかもしれない。
だがこのバートとマーガレットの【ロマンス】が、今作が非常に重い題材を描いているにも関わらずどこか心の拠り所を見出しながら展開する大きな要素になっているのは確かで【敵】では無く【一人の人間】としてみたらお互いに非常に魅力的な人物に映るものだと言っているんだと思う。
戦争で受けた心の傷は癒える事は無いのかもしれないが一瞬でも忘れられる時間が積み重なればいいなと思わずには居られなかった。
マーガレット役のフレイア・メイヴァーは割と好きな顔なんで覚えてたんだけど『やっぱり契約破棄していいですか!?』以来、二度目かな?ぜ~んぜん雰囲気違ってたな。
トラウトマン役のデヴィッド・クロス君は好演だったね。実は彼は初見っす。
あのブーイングの嵐の中、役とは言えどんな気分だったかしら?などと要らぬ心配してしまったよ(笑)
あの【木彫りの鳥】のエピソードは胸が痛過ぎた。
ああ言うトラウマを背負ってしまった人が計り知れない位居るんだろうなと思うとホント戦争なんてこの世から抹消されればいいと切に願う。
戦争を煽る武器商人を喜ばせるんじゃない!と思うわけです。
人類はどれだけの哀しみを世に作り出せば気が済むのか?
戦争を知らない私達がそこを想像して未来を作らなければいけないんだなと思う。
2020/11/02