『レ・ミゼラブル』
原題「Les miserables」
◆あらすじ◆
パリ郊外に位置するモンフェルメイユの警察署。地方出身のステファンが犯罪防止班に新しく加わることとなった。知的で自制心のあるステファンは、未成年に対して粗暴な言動をとる気性の荒いクリス、警官である自分の力を信じて疑わないグワダとともにパトロールを開始する。そんな中、ステファンたちは複数のグループが緊張関係にあることを察知するが、イッサという名の少年が引き起こした些細な出来事から、事態は取り返しのつかない大きな騒動へと発展してしまう。
全編を通して一触即発のテンション。
後半の凄まじい緊迫感。
なんだか、とても言葉では言い表せない複雑な感情が込み上げてラストは涙してしまった。
恐らく悔しさや憤りに似た物。
チカラで捻じ伏せるのが簡単だと思ってる人間はその均整がいつか崩壊するだろう事を想像出来ない愚か者だ。
マーティン・L・キング牧師が掲げた【理不尽な暴力に対しては非暴力で立ち向かう】と言う志は暴力の中で育った子供達に果たして通用するのか?
それを見せる大人が居なければそんなものの存在さえ彼等の中には皆無だ。
人間には【言葉】と言う素晴らしいコミュニケーションツールがあるのに何故話そうとしないのか?常に暴力と隣りあわせの町。法など端から守られていない。
話し合い、相手を尊重する姿などこの町には存在しない。
どうやらスパイク・リーもこのラジ・リ監督推しのようなんだが鑑賞して思ったのは『DO THE RIGHT THING』を初めて観た時の感覚に似ているって事。そしてラジ監督はこのモンフェルメイユと言う町で育ったと言う事で自分の経験から作り出した傑作と言う点も同じだ。
本来なら【法】の下に町の治安を守らなくてはならない警官がその権威の使い方を誤っている。新しく赴任してきた警官ステファンはその抑圧と暴力性に疑問を持つ。
この作品も余計な説明等せずただただこの町で起こっている様々な日常を描いていくのだがその中でも感心したのがチームを組むステファンとクリスが家族とのコミュニケイションを持つシーンをそれぞれワンカットだけ挿し込む演出だ。二人の家族との関係性がここで如実に解る。仕事場での二人の姿がそのまま家族との関係に滲む。そしてその家族との関係が後のシーンに繋がる辺りはこの監督の手腕に繊細さが伺える。
今作同様、フランスの移民、貧困問題を描いた作品にマチュー・カソヴィッツ監督の『憎しみ』と言う作品がある。これもパリ郊外(バンリュー)の話だがこれが1995年の作品。同じ様に移民の青年3人の一日を描いた作品だがあれからもう25年が経とうとしているのになんら進歩の無い状況。むしろ悪化しているのか?とさえ思ってしまう。
人間同士の間に幾つもの境界線を作り自分と違う物を排除、或いは支配しようとする。
いつの間にかそうして出来上がった不毛な世界を未来に遺して良いのか?と言う思いに駆られる。
その上、今作では法の下に働く警官と街を牛耳る裏組織(ムスリム系)のトップ、悪徳市長とこの三つ巴の関係がまぁオモシロイ。完全に【賢さ】に差があるのが堪らなく面白い。
これ観てると警察は馬鹿でもなれるけど裏組織のトップはアホじゃ成れないんだなって思わざるを得ない!!市長は何してはんの?だ。
いやぁ、ホント、アルマミ・カヌーテ演じるサラーがステキ過ぎて参ったわ。
あの冷静さには感服。悪を征するものは悪なのか?いや賢明さだ。
反対に警官クリスの完全に間違っちゃったシーン。
この一言で全てを敵に回しちまうんだよ!マジ阿保だわ。
大人の支配と理不尽からの脱却。
正当な権利を得る為の状況打破は止むを得ない手段だ。
ただ、大人達が示して来た方法を継承するだけならそれは未来へのアップデイトにはならない。
子供達よ、大人達が誤った道筋を立ててしまった事だけは記憶にとどめておかなくてはならない。継承せずに進歩しろ!
考える事、闘う事を諦めちゃイケナイ。
【知】と言う武器を身に付けるんだ!!
この映画のタイトルの様に格差社会に飲み込まれた【悲惨な人々】にならない為に!
エンディングに掲示されるヴィクトル・ユゴーの言葉に思わず頷いてしまった。
「友よよく覚えておけ、悪い草も悪い人間もない、育てる者が悪いだけだ」
2020/03/16