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映画感想『すばらしき世界』
英題「UNDER THE OPEN SKY」
◆あらすじ◆
13年の刑期を終え、旭川刑務所から出所した元殺人犯の三上正夫。今度こそカタギとしてまっとうに生きるとの決意を胸に上京した彼は、身元引受人となった弁護士の庄司とその妻・敦子に温かく迎えられる。一方、小説家への転身を目指していたTVディレクター津乃田のもとに、やり手のTVプロデューサー吉澤からある依頼が持ち込まれる。それは社会復帰を目指す前科者・三上の密着ドキュメンタリー番組を制作するというもの。受刑者の経歴を詳細に記した刑務所の個人台帳である"身分帳"の写しに目を通した津乃田は、その壮絶な過去に怖気づきながらも、下町のおんぼろアパートで新生活をスタートさせた三上への取材を開始するのだったが…。
社会の不寛容と個の善意。
少し前に公開された『ヤクザと家族』と奇しくも同じ様なテーマだがアプローチは全然違う。
あちらがヤクザの世界ならコチラは刑期を終え、足を洗い市井に生きようとする元組員・・・簡単に言えば一般市民の話だ。
暴力でしか自分の感情を解決する術を学べなかった男が自分を押し殺し社会に順応しようと努力する。
しかし、そう思えば思う程そこに生じる矛盾やマイノリティに対する嘲りや抑圧が浮き彫りにされ社会に馴染む難しさに苦しむ。
暴力では無い解決策を得る知識や教育・教養が如何に大事かをこのストーリーは見せているんだと思う。
生きる世界の狭さから社会に見捨てられてしまった人達を救う受け皿は何なのか?
三上がようやく仕事に就いた介護職のシーンは非常に考えさせられる場面だ。
彼が経験する社会の天国と地獄。
思いも寄らぬところに存在する偏見や差別。
それにより他人を傷つけている事など知る由もない・・・いや知る必要も無いのだろう。
障害を持ちながらも草花を愛し真面目に働く外国人労働者。
介護職で表面では優しさを見せるが裏では【作り出した下層者】に鬱憤をぶつける。
社会のヒエラルキーは巨大三角の中に小さなまた更に小さな三角形を作ってしまう。
少しでも自分が優位に立ちたい願望を本来存在しない筈の層を作り、下層に向けてしまう。
何故そうしなければならないのか?お互いに認め合って進む事は出来ないのだろうか?
弱者を打ちのめすチカラがあるのならもっと大きな不当や理不尽に向ければいいのでは?
卑怯な偽善はいつかその見返りが来る。
小さくても確かな善意は必ず自分の中の喜びと糧に変わる。
そして世間の冷たさにあって個の温かさと寛容が人の心を溶かし前進させる最大の要素なのだろう。
仲野太賀演じる津乃田が社会の背景を知ろうと図書館で本を読むシーンが好きだ。
自分の無知を知り、認める事も大事。学べるチャンスはいくらでもある。
この作品で大事なのは三上が決して悪い人間では無いと言う事。
彼の中の核は善人だと言う部分なんだと思う。
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善と悪は表裏一体、背中合わせで細く際どい線の元に成り立っているのだ。
チンピラに絡まれた男を助け、外国人労働者の優しさに気付き、必死にやり直そうとするムショ帰りの三上を悪とするなら社会に蔓延る目を疑う様な隠れたヒエラルキー気質は何なのか?
他人を興味本位で見、自分の常識から外れた人間は排除する様な世界は悪ではないのか?
この作品が作られたものでは無く実話ベースだと言う事を踏まえて観れば自分の中に存在する【三上に共感出来る部分】は誰しもの中に在るんではないだろうか?
はたして自分を殺して生きる事が幸せなのだろうか?
しかし、役所広司の凄さが光る!
西川監督が「いつか役所さんに依頼したい」と話していたが本当にそこに三上と言う男が生きて存在する様だった。
北村有起哉の『ヤクザと家族』との真逆さも見事。
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六角精児、仲野大賀の好演も然り。
この2人の存在が三上の物語を至上に導いた事は確か。
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で、彼らを使いこなす西川監督はさすがです!
ラストのエピソードは胸を締め付けられるばかりだが秋桜の香りが雨に遮られずスクリーンを通り抜けてこちらにも届くかの様だった。
きっと三上の心の中には後悔もあったと思うが花の香りがきっと優しい気持ちを蘇らせてくれたと思う・・・
絶妙なタイトルバックに目頭が熱くなった。
日常に起こる偏見を他人事と思うなかれだな。
最後にこの映画の英題の意味の深さにも心が揺さぶられた。
もちろん【シャバ】なんだが…
そう、誰もが同じ広い空の下に生きられるはず。
2021/02/18