『リチャード・ジュエル』
原題「Richard Jewell」
◆あらすじ◆
1996年、アトランタ。高齢の母と2人暮らしをしている不器用で実直な男リチャードは、警備員の仕事をしている最中に、多くの人でにぎわうイベント会場で不審なリュックを発見する。中身の爆発物に気づき、大惨事を未然に防いだ彼をマスコミはこぞって英雄として報道。
恐らく彼の計算と寸分違わず緻密に作られたCE御大の新作はまさに物事の本質をついた秀作だった。
懐かしいアトランタ五輪の映像も併走させ、より当時の熱を感じさせる。
いやぁ、マイケル・ジョンソン懐かしかったなぁ・・・。あの背筋をピンッと伸ばした特徴ある走り方結構当時気に入っていたなぁ・・・とか余談はさて置いて。
アメリカ南部ジョージア州と言う土地柄や五輪開催中と言う状況がリチャードの不利を増幅させる描き方も秀逸。
劇中の中盤でリチャードの友人デイブがFBIに呼ばれてリチャードと同性愛の関係じゃないか?と疑われたってシーンの後リチャードが「同性愛者じゃない事はきちんと証明したい」って言う台詞がチラッと挿し込まれる。でその後FBIと接見するんだがその際もその事は忘れずに触れている。
これ、同性愛者って噂になったりましてや(嘘でも)決定づけられたらもう確実に有罪にされて冤罪道まっしぐらになっちゃうからね。
そんな土地柄っすよ。
で、「スリー・ビルボード」ではゲイをひた隠しにし、むしろ虐げる側の警官役だったサム・ロックウェルがこのリチャードを助ける弁護士だってんだからオモシロイ因果だよねww
御大そこも狙ってたか?ww
それとリチャードの人物像が何処か観ている側も不安にさせる描写や、FBIの誘導操作に観客もリチャードが犯人じゃないだろうと思っているが故に段々と冤罪と言う理不尽さのみに囚われていってしまう。その持って行き方も監督の技かな?
あと、人と人の信頼関係の出来上がり方にかけてもドラマチックさよりオーディナリーさから抽出する感覚が良い。
サム演じる弁護士が結構感情的になる中、リチャードは心の中ではずっと色んなものが煮えたぎっているのにあまり感情を出さない。
これ!これなんだよね。
これがさ、監督の心理で真理をつくヤツ・・・
権力に呑み込まれないリチャードの隠された聡明さに感服。
あのFBIとの接見のクライマックスは完全にヤラレタ!って思ったよ。
そこはドラマチックに演出してる・・・クソッ、カッコいいぜ!
そうなのよ!それが冤罪の本質なのよ!
第一発見者が容疑者にされて、ましてや碌な捜査もせずに冤罪になったら・・・
怖ろしかった。
イーストウッド御大が実話を映画の題材として作り続けるのは実際に人間てやつはこういう事を引き起こしてしまうんだと言い続けてるんだと思う。
生身の人間の本当の姿を忘れない様に、自分の目で耳で五感で確かめる事を怠ってはイケナイと言ってる様に思える。嘘の情報や垂れ流されるネットの情報過多に踊らされちゃだめだってね。
それにしてもポール・ウォルター・ハウザーが素晴らしいなぁ。彼が印象深かったのは『アイ,トーニャ史上最大のスキャンダル』でのトーニャの旦那(セバスチャン・スタン)のアホ友人だけど『ブラック・クランズマン』ではKKKのメンバーを演じてた。ちょっと頭の悪い人物像を演じさせたら最高にクールなヤツなんだよな。
そんな雰囲気を今作では善良な市民に反映させてるのが凄い。ずっと自分は【法を執行する側】だと言い続ける姿が逆にちょっと不安を呼ぶその微妙な線が絶妙だったな。
でね、そのジュエルを犯人に仕立て上げようとするFBIのショウがジョン・ハムなんだけどこれがまたそそくさと事を運ぶ、全く顔色も変えずにジュエルの主張など聞きもせず。
そこにイッチョ噛みの女性ジャーナリストがオリビア・ワイルドでまぁこの2人の非道ぶりったら無かったわぁ。
でもなんかあのお色気作戦表現がアメリカで問題視されてた様で映画に対するボイコットも出てたとか・・・アタシは寧ろそんな作戦に乗って来る男が馬鹿だろ!って思ったりもする。実際ネタだけ頂いてドロンかもしれない、女の方が一枚上手ってな事もあるからね。
でもね、オリビア演じるキャシー・スクラッグスはジャーナリストとしてもちろん特ダネをスッパ抜きたいんだが虚偽や捏造には乗れない。彼女がショウの捏造を知った時の様子がなかなか印象深かったんだよな。こういう女は敵になったらその途端かなり恐ろしい存在になり兼ねないってね。
アタシだったら「良くもアタシを騙してくれたわね!」って徹底的にFBIを叩きたくなるわ。
キャシー・ベイツもおふくろさんのイイ味出しててなんだろう息子を犯人にされた弱い老人ってだけじゃない人物像がやっぱりあの存在感で演じ切ってたよね。
でも、1番印象的だったのは弁護士事務所のナディア(ニナ・アリアンダ)だな。彼女の背景はもっと知りたかった。凄くクレバーそう。
で、サム・ロックウェルは言う事無し!
ホント好き❤
30年前からずっと好き💖
これからももっと好き💗
役者陣最高!!
御大はいつだって【自分の身に降りかかるかもしれないんだ】って事を言ってるんだよね。
これは実際に在る事なんだってね。
2020/01/24