映画感想『ノマドランド』
原題「NOMADLAND」
◆あらすじ◆
ネバダ州の企業城下町に暮らしていた60代女性ファーン。リーマンショックの影響で長年住み慣れた我が家を失った彼女は、亡き夫との思い出を詰め込んだキャンピングカーでの車上生活を始める。アマゾンの集配センターで短期バイトの職を得たファーンは、そこでリンダという女性と知り合う。彼女も車上生活を送る現代のノマドの一人で、ファーンはアリゾナの砂漠で行われるノマドの集会に誘われるのだったが…。
先ず脳裏を過ったのは2008年に公開された『INTO THE WILD』だ。
文明から逃れ野の中で過ごした若者の生。
そこで流れるのがパールジャムのボーカル、エディ・ヴェダーの楽曲『Guaranteed』だ。
「ひざまづいては自由になれない・・・どこへ行こうと自分らしく居よう、自由でいるために」と歌われ始め「僕に構わないで、道はみつける・・・・新しいルールで生きていこう、ゆるぎなく」と締められる。まさしくあの作品の為に書かれた曲である。そしてこの曲を噛みしめると彼の2年間の"凝縮された人生"が頭の中に蘇る。
次に感じたのは2012年に公開されたディケンズ原作の『オン・ザ・ロード』だ。
書かれたのは50年代。
【路上】はお仕着せから自分の思考を解き放とうとする若者達のものだった。
今作にもヒッピー風の若者も登場するがそれはこの物語の根幹では無い。
今作はその時代の若者達が大人になり『結婚』『仕事』『子育て』など・・・何かに属し、働き、老い、色んなものを失い、人生を振り返った時また再び何にも属さない自分の『道』を歩もうとする現代の【路上】の物語に思えた。
『Greensleeves』の引用も失う事への重要な一節。
これは開拓時代の昔からアメリカに根付く"道に生きる"歴史なのかもしれない。
広大な国土の殆どが荒地に造られた道だと言う事を思えば当然なのだろう。
ひたすらペイルトーンで描かれる映像は淡々と、しかし時に熱を持ち主人公ファーンの内なる激しさや信念、覚悟を描き出す。
バッドランドの起伏
地層の積み重ね
陽光に作られる陰影
ミニマムな家財
言葉少ない会話・・・
地との融合、自分の生き方を貫く事の浪漫・・・
F.マグドーマンが本物のノマド達と交流し、ただそこに存在するリアリティがこの作品の圧倒的説得力を引き出す。
日本では宗教が根付かず信仰が薄い分【死】についての言及を避ける慣習がある。
しかし生まれた瞬間から人は死に向かって歩む、だからどう生きたかが死の間際自分に問われるのだ。
死に向かい合う事から目を逸らさず「さよなら」を言わない=看取られない人生への覚悟は凄まじい。
とにかく彼女の【覚悟】が圧巻なのだ。
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しかし、劇中にAmazon物流倉庫が登場するのだが、まるで昔の炭鉱みたいに見えてノマドや季節労働者の雇用を一手に引き受けてる感凄い。
嘗てのデトロイトの様に衰退した時が恐ろしい。
("必要不可欠な物流だから安泰"ならイイのだが…)
そもそもこの物語がリーマンショックによる未曾有の経済危機で全てを奪われた女性の話だからその見せ方には何かの意図を感じる。
安全神話などもう何処にも存在しない、だからこそ自分にとって必要な物を見極め、減らせる物は何か?を考える。
劇中の言葉「ホームレスじゃなくてハウスレスよ」
こんな時代だからこそ"何かに依存しない"生き方を見つめる必要があるのかもしれない。
『人生は積み減らすべきだ』 岡本太郎。
大好きな言葉でまさにこの作品を表してる。
2021/04/01