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映画感想『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』
原題「The Man Who Killed Don Quixote」
◆あらすじ◆
仕事への情熱を失っていた若手CM監督のトビーはスペインの田舎での撮影中、謎めいた男からDVDを渡される。それはトビーが10年前の学生時代に監督し、賞にも輝いた「ドン・キホーテを殺した男」だった。映画の舞台となった村が近くにあることを知ったトビーは、現地を訪れるが、ドン・キホーテを演じた靴職人の老人ハビエルが自分を本物の騎士だと信じ込むなど、村の人々はトビーの映画のせいですっかり変わり果てていた。トビーをドン・キホーテの忠実な従者サンチョだと思い込んだハビエルは、トビーを無理やり連れ出し、冒険の旅へ出るが……。
構想から30年!
【Development Hell】に陥ったこの映画が監督がボケる前に完成して私の脳が(多分)ちゃんとしてるウチに観られるなんて・・・
(´༎ຶД༎ຶ`)
ギリアム監督作は『ゼロの未来』を見逃したから『パルナサス』以来もう10年振り。
そしてこの作品は或る意味ギリアム監督のライフワークになってしまった感あるな。
でもね、このお歳で完成させた意味は深かったと思えた。
大筋は小説『ドン・キホーテ』がベースだがそこは奇才ギリアム監督らしさ炸裂で非常に楽しめた。で、彼の作品にしては解り易い?と思う。
今作では【過去の現実】【現在の現実】【妄想】【模倣世界】が交錯する。
これがなんともスムーズに上手く入れ代わって『あぁ、アタシの好きなやつじゃん!』って感動しながら観られたのがめちゃ楽しかった。
こういうあっち行ったりこっち行ったりするの大好き!!(⌯¤̴̶̷̀ω¤̴̶̷́)✧
平凡で退屈な日常から無茶苦茶だが力漲る妄想世界に道を創造した男の生き様に心動かされたなぁ。
片田舎のただの靴職人だった老人に素人の学生映画監督が或る意味【命】を吹き込んじゃってその余生への責任を果たすべく【ドン・キホーテ】の旅にサンチョとして付き合い自分がその【命】を継承するって言うまさに【伝統文化の後継者不足】を憂うような作品だった。
個人的にはこれがこの作品の本質の様に感じられてギリアム監督が紆余曲折を乗り越えて創り上げたものはまさしく【使命】って言う事だったんじゃないかな?って思ったわけ。
平凡な一市民でも何かしら使命を持って生きてるんじゃないでしょうか?って言う問いかけにも思えた。
人生を楽しむも楽しまないも自分次第だけど楽しんだもん勝ちだよね。
妄想だろうが虚構だろうがそこで自分が活かせるんなら勝手に創り上げちゃえばイイ!
「変な人」と言われようが全うしたらそれはそれで立派だし大満足だよね。
そんな元靴職人の【自称ドン・キホーテ】を演じたジョナサン・プライスがとにかく素晴らしい!
過去この役にはジャン・ロシュフォールを筆頭にロバート・デュヴァル、マイケル・ペイリン、ジョン・ハートの名前が挙がって一度はモンティパイソン仲間のマイケル・ペイリンで再スタートと言う筈だったがこれも頓挫し結局今回の配役で撮影された。
その間の2017年にロシュフォールとジョン・ハートが亡くなり今回のクレジットで二人の追悼コメントが記されてる。
で、この大役がジョナサン・プライスに回ってきたわけだが・・・
ホントにこの一見気が振れた老人の何だろうか哀愁とでも言うのか?狂気と切なさの同居がまぁお見事で『2人のローマ教皇』の短期劇場上映を見逃しただけに今作で名演を見られて良かった。
そしてこの作品に於いての最も大きな存在のトビーを演じたアダム・ドライヴァー!
寧ろジョニデじゃなくて良かったとさえ思わせる演技が見事過ぎた!
彼の表情が物語が進むにつれてどんどん変化して行く様が楽しくて彼の全ての言動、一挙手一投足から目が離せなかった。
最初アダム・ドライヴァーが俳優として出て来た頃はちょっと風変わりな役者だな・・・って思ってたけど色んな作品を観れば観る程彼の良さが映し出されて役柄も多岐に渡ってるし、かと言って馴染めない感じが全く無いってのも凄い。個人的には『パターソン』と『ローガン・ラッキー』が好きだったけど『SW』のカイロ・レンはめちゃくちゃ嵌ってたと思う。
そんなアダム・ドライヴァーのトビーも結局自分が小さな田舎の村に与えてしまった影響から、靴職人だったハビエルの【ドン・キホーテとしての人生】を見届ける大役を果たす責任感みたいなものが養われる過程が何とも複雑怪奇で楽しさしか無かった。
ギリアム監督作品は『脳の中がぐちゃぐちゃでなんだかわからない』って評価に繋がりがちだけどその中の極一点の要素が読み取れればいいんじゃない?っていつも思う。
相変わらずの美術力も健在。
その美術の奇想天外ぶりに翻弄されるんだけどね、でもそれが醍醐味なのよ!
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で、他役者陣も良かった。
もちろん、ステラン・スカルスガルド、オルガ・キュリレンコのメジャー俳優さんも良かったけれどもジプシー役のオスカル・ハエナダがいい味だったし、ジョルディ・モリャのロシア人アレクセイもロシア人ぽく無くて良かった(笑)この人ちょっと前にもロシア人役やってた様な気がしたんだけど記憶違いかな?
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あと、本場のフラメンコが端々に観られてその点も楽しかったよん。
詰まりに詰まった133分!
楽しませて頂きましたっす。
2020/02/06