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『カセットテープ・ダイアリーズ』

原題「BLINDED BY THE LIGHT」

◆あらすじ◆
イギリスの田舎町でパキスタン移民の家庭に暮らす16歳の少年ジャベド。音楽と詩を書くのが好きな彼だったが、外では移民へのいわれなき差別や偏見に晒され、家では厳格な父親からの理不尽とも思える抑圧に苦しめられる日々を送っていた。鬱屈を抱え、いら立ちを募らせていたある日、ジャベドはアメリカのロック・スター、ブルース・スプリングスティーンの音楽と出会い、衝撃を受ける。彼の詩に激しく共鳴し、それまで抑え込んでいた自分を解き放っていくジャベドだったが…。



面白かったなぁ。

何が面白かったってこの映画不平不満のティーンエイジャーのお悩み映画なのにひとっつも悲観的じゃないってのがスンバらしいのよね。

主人公ジャベド君は先ずもう家庭内が完全に親父封建主義が確立してるし、外に出れば若いネオナチから唾吐かれて、学校でも弱気でなかなか馴染めず・・・でも必ずそんな彼を救う【手】や【眼差し】があるんだよね。
そう、映画として全体的にあったかいのよ。

だから、助けてくれる人へのアンテナも必要って事。


時代は80年代後半だからイギリスはサッチャー政権で労働者階級は置いてけぼり状態。働き盛りの男達は職を失いにっちもさっちも行かない。

移民、差別、封建的な家庭、労働者階級の困窮、上級国民にしか目を向けない政権・・・脱したいけど脱せない現状・・・もうジャベドの不満も爆発寸前なの。


当時のイギリスではニューウェーヴが音楽業界を席巻しててブルース・スプリングスティーンなんて親世代が聞く音楽として若者には受け入れられてない。
この事実をちゃんと描いてるの良いよねww。
台詞にもあった「えっ?ブルース・スプリングスティーン?あぁ親父世代が聴くヤツでしょ?今は1987年だぞ。キュリオシティ(キルド・ザ・キャット)やブロス、デビー・ギブソンの時代だ」みたいなねww。でもみんな一発屋的にもういない・・・嫌味みたいな台詞じゃない?

でも主人公のジャベドは友人から押し付けられたBOSSのカセットテープをある日渋々かけてみる。
そこに流れて来たのはアメリカで行き場の無くなったベトナム帰還兵や汗水垂らして働いても暮らしが楽にならない労働者階級の気持ちを歌った歌詞。
BOSSの歌は彼が感じてるジレンマを代弁してくれる!

『皆が勝たなければ、誰もそれを【勝利】とは言えない』そう言い続けたスプリングスティーンの楽曲が胸に沁みちゃうんだよなぁ・・・。
普遍的なものが本物なんだって言ってんのよこのシーンはね。
ジャベドが好きになる女の子イライザが好きなのが一発屋じゃない『ザ・スミス』ってのがまたイイじゃない!ついつい「アタシも〜❣️」って言ったよね。

ワタシはこの⬆️シーク教の彼が凄く好き❣️


大人達は(特にこの映画ではかなり封建的なパキスタン人のしきたりにウルサイ親父だけど)自分達も若い頃には同じ様に大人に反発して来たのにそれを棚に上げて最もらしい言葉で抑えつける。子供達は抑えつけられれば抑えつけられる程嘘を付く様になりやがて離れていく。
先人(親)は子供には安全に危なくない人生を歩んで欲しいんだろうね。でも怪我もせず傷も負わない人生なんて人形と一緒だよ。いっぱい傷を負ったから自分なりの答えが出せるんだって事。

原題「Blinded by the Light(光に目もくらみ)」の意味も鍵!
この曲はスプリングスティーンが韻を踏むのを楽しんで(?)書いた風なんだけどこの歌詞の意味が映画と重なるのは【不満を抱えた若者が夜を突っ走り、女の子と出会って自分達を抑圧する大人達の中でそれぞれの価値観を見つけていく】って所なのかな?

曲中「太陽を正面から見てはダメってママに言われるけどそれが面白いんだ」って言ってる。
そう『ダメ』と言われるとより興味を引きその興味は止められないんだって事。

不満で身動きが取れない状況が【暗闇】なら【闇】=【夜】は子供達を成長させる時間。

夜が明け、見える光と向かい合う。

だから光は自分が描く未来とか夢って意味合いがあるんだろうと思う。

ティーンエイジャーには夢は光でその為なら他のものは見えなくなる・・・目がくらむんだって事。恋愛しかりだよね。うんうん。

この時代にやっぱり音楽とファッションに夢中だった自分的にはその両方ともが楽しめるし「あっ、あれあのアーティストをパロってる」ってのが結構見つけられるの凄く楽しかった。
デュラン・デュランは確かこの辺りで「ノトーリアス」が大ヒット中だし、マイケル・ジャクソンは「スリラー」「BAD」辺りが滅茶苦茶流行って、そうそう、あの学校新聞的な部の部長みたいなヤツ、リック・アストレーみたいだし・・・丁度デヴューしたころだよね♪ネバゴナギブユーアップ♪でさ。他にもバナナラマとかジョージ・マイケル風なヤツがいたりね。めちゃ楽しかったよ。

で、ラストねぇ・・・。
ホロッとするわな。

ジャベドが色んな事に気付いてまだまだ発展途上だけど少しずつ自分の生き方を見つけていくってスタンス凄く良かった。
イギリス人の某巨匠の映画よりずっとずっと面白くて見応えあったな。
今現在、米国のBLM運動でイギリスもかなり影響あって世界で何かが変ろうとしている瞬間、この映画の公開の意味も深い。
政治が民に寄り添わないでどうするって・・・日本も御他聞に漏れずだけどご興味の無い国民が多くて難儀だわね。


でもこれが実話っての凄い!
間違いなく秀作!!



〔余談〕
そういえば、BOSSの『Born in the USA』を「アメリカ万歳」って内容だと思ってるアメリカ人が多いそうだけど歌詞聞かないのかなぁ?
そう言うワタシも何十年前かにこの曲の内容を知った時「あぁ、そーなんだ」って思ったのを思い出した。
それにしてもネイティヴの人達が内容知らずにこのフレーズだけを拳掲げて叫んでるのマヌケねぇ。
そりゃBOSSもレーガンに自分の曲を選挙で使うなって言うわな(๑•̆૩•̆)


2020/07/13


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