Requirements are All You Need:LLMによる要件からコード生成
本記事について
本記事は以下の論文の意訳記事になります。
Requirements are All You Need: From Requirements to Code with LLMs
https://arxiv.org/pdf/2406.10101
概要
大規模言語モデル(LLM)を利用したソフトウェア開発の自動化は、大きな注目を集めています。本論文では、ソフトウェア開発における要件定義からコード生成までのプロセスに焦点を当て、LLMを活用して要件定義書から直接コードを生成するシステムを提案しています。要件工学(Requirements Engineering)がソフトウェア開発においていかに重要であるかを再確認し、特に高品質な要件定義書がLLMの性能向上に寄与することを強調しています。
本論文では、要件定義書を精緻化し、それを基に機能要件を抽出、オブジェクト指向設計、ユニットテスト、最終的にコードを生成するための”Progressive Prompting”手法を提案しました。これにより、LLMは要件定義書に基づく設計およびコード生成のプロセスを段階的に行うことができると主張しています。本論文では、テキサスクリスチャン大学(TCU)のマスコットである”SuperFrog”のスケジュール管理システム開発を取り上げ、この手法の有効性を示しています。
提案手法
提案手法では、ソフトウェア開発において要件定義書からコードの実装までのプロセスをLLMを用いて自動化することに焦点を当てています。この手法の中心は”Progressive Prompting”と呼ばれるステップバイステップを使用したアプローチです。以下に、論文の具体的な説明を基に詳しく解説します。
Progressive Prompting
Progressive Promptingでは、ソフトウェア開発のプロセスを段階的に進めていきます。LLMに対して要件定義を入力し、その仕様を徐々に詳細なものに変換していくことで、最終的にコードまで生成します。これはソフトウェア開発におけるウォーターフォール開発に類似しており、要求定義から設計、テストケース、実装という一連の流れをLLMが逐次的に実行します。このプロセスを通して、開発者は各ステップでLLMの生成物を確認し、修正や改善を行うことができます。
progressive promptingの流れ
ステップ1:機能要件の抽出
まず、LLMに要件定義を入力し、その仕様に基づいて具体的な機能一覧を抽出します。要求定義は、プロジェクトのゴールやユースケースなどを含む文書として提供され、LLMはこれを解析して、システムがどのような機能を実現するべきかを具体的に要件化します。たとえば、本論文で行なった「SuperFrog Scheduler」プロジェクトでは、「イベントの完了に基づいて支払いフォームを自動生成する」などの要件が抽出されます。
ステップ2:オブジェクト指向設計の生成
次に、LLMは抽出された機能一覧を基に、オブジェクト指向設計を生成します。この設計では、システムを構成するクラスやオブジェクトを定義し、それぞれに適切な責任を割り当てます。さらに、各オブジェクトの間でどのようにデータがやり取りされるかを設計します。
設計が完了すると、LLMはその設計に基づいてテストケースを生成します。テストケースは、実装したコードが期待通りの動作をするかどうかを確認するために必要です。
ステップ4:コード生成
最後に、設計とテストケースに基づいて、LLMが実際のソフトウェアのコードを生成します。このコードは、要件定義で定義された機能を実現するものであり、テストケースを通じてその正確性が検証されます。
また、このプロセスで使用されるLLMは、ただChatGPTを使用するのではなく、ソフトウェア開発向けにチューニングされたLLMです。このLLMは、要求仕様解析、オブジェクト指向設計、テスト駆動開発(TDD)といったソフトウェア開発の特定の知識やヒューリスティック(経験則)に基づいて調整されています。カスタマイズされたLLMは、経験豊富なソフトウェアエンジニアのように振る舞い、各ステップで必要な決定を行います。
さらに、提案手法では、LLMがすべてを自動化するのではなく、開発者との協力を重視しています。LLMが自動生成した機能要件や設計、テストケース、コードは、開発者によって確認され、必要に応じて修正が行われます。LLMが提案したソリューションが不完全だったり、誤っていた場合でも、開発者がフィードバックを提供することで、モデルの出力が改善されます。これにより、LLMは単なる自動化ツールではなく、開発者のコンサルタントのような役割を果たすことが可能です。
このようにして、LLMがソフトウェア開発のプロセスを効率的かつ効果的に支援することができ、最終的には高品質なコードが生成されます。この手法のポイントは、LLMが詳細な要件定義をもとに段階的に進化し、開発者と協力しながらソフトウェアを開発するという点にあります。
実験結果
本研究では、ケーススタディとして、テキサスクリスチャン大学(TCU)のマスコットである「SuperFrog」のスケジュール管理システム開発を取り上げ、LLMを用いて要件からコード生成を行う過程が詳細に示されています。特に、学生パフォーマーに対する支払い申請書の自動生成機能を実現するユースケースを選択し、その設計、テストケース、実装コードが生成されました。
実験の結果、要件に基づいた設計およびコード生成が成功し、LLMは複雑なシステムでも精度の高い成果物を提供できることが示されました。
まとめ
この研究は、LLMがソフトウェア開発における要件工学の重要性を強調し、LLMを活用して段階的に要件からコードを生成する新しいアプローチを示しています。従来の「一行の要件」ではなく、高品質な詳細要件を用いることで、LLMはより精度の高いソフトウェア生成を実現できることが証明されました。
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