第81回MMS(2014/5/25対談) 「あッ 3Dプリンター屋だッ!!」 東京メイカー 毛利宣裕さん
本記事は2014年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。
MMS本編
enmono 本日は中野ブロードウェイにある、東京メイカーさんのアンテナショップからお送りしています。東京メイカーさんは3Dプリンターを開放して、持ち込んだ3Dデータをプリントアウトできるサービスをされています。毛利さんは、ボランティアで活動されているそうですね。
毛利 本業は栄光デザイン&クリエーションという会社で光造形機、3Dプリンターの元祖を使って、モノづくりをしています。メインは自動車や二輪の、樹脂関係の試作部品をつくっています。
enmono 3次元業界に入られて、何年になるのでしょう?
毛利 トータルで17年くらいです。初めに株式会社インクスに就職し、2001年に退社して栄光に移るんですけれど、ずっと光造形一筋です。
enmono どういうきっかけで、東京メイカーを立ち上げられたのですか?
毛利 2012年の3月に、インクスを辞められた山田さんとFacebookで再会しまして。9月にインクスのOBで集まった時、「CNCの10万もしない機械と、同じような値段の3Dプリンターと、どっちを買おうか迷っている」という話をしたんですね。そうしたら山田さんが、「それは毛利くん、光造形をずっとやっているんだから、3Dプリンターだろう。これから3Dプリンターが流行りそうだから、渦中に入ってみないか」と。「ここにいるメンバーで5万ずつ出資するから」と言ってくれたのですが、他の人は誰も手を挙げてくれなくて(笑)。山田さんと私の二人で、機械も材料も交通費も全部折半して、「やってみよう」というノリで始めました。
enmono 中野という場所を選んだ理由を、教えてください。
毛利 山田さんの会社に勤めていて、中野で店長もやっている方から、「中野はサブカルチャーの聖地で、尖った人達が集まる場所。そういう人達のモノづくりのアイデアを、逆に、アンテナショップとして受け取ったら面白いんじゃないか」と提案を受けました。去年の10月にTOKYO DESIGNERS WEEKで、パーソナル3Dプリンターのインスタレーションをさせていただいたんです。その時の反応が良かったこともあり、「ここだったら、うまくいくんじゃないか」という思いで、店舗をかまえました。ここは四畳半ほどのスペースですけれど、私達は予算がなくて。店舗自体は、3Dデータモデリング事業などをやっているStoneSoupさんと共同でやっています。
enmono モノづくり系の人ではなく一般の人からの評価で、可能性を感じたのですね。
毛利 モノづくり系の方の反応は冷ややかで、「まだまだこんなものなの」とか、「こんなに時間がかかるのか」とか、否定的なことばかり言われてきました。でも、TOKYO DESIGNERS WEEKにいらっしゃる方々の反応が、180度逆で。「私達の考えと近い人が、いっぱいいるんだな」と感じました。
enmono 最近はSNSでも、東京メイカーさんの噂が広まってきていますね。どのようなオーダーがあります?
毛利 キーホルダーとか、そのような2.5次元的な使い方をされる方が、ほとんどです。パーソナル3Dプリンターは業務用と違って、出来ないものもあったり、失敗して焦げてしまうこともあります。
enmono お値段は?
毛利 1時間あたり980円です(da Vinchiは500円)。
enmono 安い!
毛利 利益よりも、「3Dプリンターに親しんでもらいたい」という気持ちでやっています。また、「一般の方が、どんなものをつくりたいのか知りたい」という好奇心がありまして。今後、3Dプリンターが一気に普及すると、もう情報は得られなくなりますから。
enmono 3Dデータの直しも、お願いできるのですか?
毛利 はい。1時間あたり2500円で、ポンチ絵などからデータを起こすこともできます。StoneSoupの浦元社長は2年連続、CATIA V5の世界チャンピオンになった、すごい人なんです。モデリングスピードが早いので、1時間2500円は破格です。
enmono 予想もしていなかった案件はありましたか?
毛利 ウォシュレットのノズルの歯車が壊れたという方が、いらっしゃいました。
enmono トイレなどは保守メンテで利益が出ているでしょうから、メーカーさん的には儲からなくなっちゃいますね。
毛利 ビジネスモデルが壊れてしまうことになりますね。
enmono 全ての人が3Dプリンターで解決しようとするとは思いませんが、そういうものに移行する可能性も出てくると。作るものの特性もありますが、同じデータでも、3Dプリンターの機種によって違いが出てくるようですね。
毛利 2台、3台と買っていくうちに、それぞれ特徴(※)が違うことに気付きました。毎週日曜日の午後2時からUstreamで放送している「P1グランプリ」では、好き勝手言わせてもらっています。
enmono 出すモデルは毎回違うのですか?
毛利 毎回、変えています。早さと綺麗さを競ったり、精度を求めたり、課題を決めてやっています。
enmono 去年くらいから3Dプリンターがブームになって、急に一般の人が騒ぎ始めた感じがします。17年も3次元業界にいらっしゃった毛利さんは、どのように受け止められました?
毛利 私は23年前、高校1年生の時に初めて光造形が発売されるというニュースを見て、この業界に興味を持ちました。その時の感動が今、皆さんにやってきているのかな、という感じがしますね。でも、3Dプリンターを実際に見たことがある人は、まだ少数。ここを通り過ぎる人達も、「あっ、3Dプリンターだ」と言って初めて見ていかれる人が、ほとんどです。
enmono 銃をつくった人も出てきて、ニュースになりましたね。3Dプリンターを規制するような意見もありますが。
毛利 良いことに使えば、無限の可能性がある機械です。怖がる必要はないと思います。データを処理するソフト側に対策をしたり、これは林信行さんというITジャーナリストの方が仰っていたんですけれど、材料に誰が製造したか分かりやすくするためのバインダーを入れるとか。材料メーカーが、警察とかが識別しやすいような物質を少量混ぜ込むことで、ロットで絞り込めたり発売日で絞り込めたりできるのは、いいアイデアです。
enmono なるほど。2次元の、紙のプリンターが世の中に出てきた時、「印刷屋さんが無くなるかも」と言われました。衰退はしているかも知れませんが、今も印刷屋さんはあります。ですから、一部メディアで3Dプリンターに過剰な期待を抱いているような雰囲気もありましたが、製造業も無くならないわけで。2次元の時と同じで、データの方が重要だったり。
毛利 3Dデータの方が圧倒的に大事です。3Dプリンターが普及しても、データをつくる人が増えないと、機械は使いきれません。
enmono ケイズデザインラボの原さんは、それを危惧されて、3次元モデリングの教室「3D道場」をやられています。実は、私と毛利さんは、そこでお会いしたのです。どういうモデリングをするかが、非常に重要なのですね。
毛利 プリンターに合ったモデリングをしないと、形状をきちんと作成できないことがあります。光造形やパウダー造形はある程度、設計者の意図した通りにモノができますが、FDM(熱溶解積層法)方式は制約があります。
enmono 安い3Dスキャナーなども、出てきましたね。
毛利 私も、一番安いSenseを持っています。パソコンを片手に持ちながら、もう片方で物体をスキャンしていくんですけれども、ちょっとした拍子に機械が自分の位置を見失うんですよね。そうすると、一からやり直しです。失敗したデータを集めて合成することができれば、いいんですけれど。
enmono 誰かが、「パソコンの画面をiPadに映し出して見ながらやるといい」と言っていました。Air Displayという、iPadをセカンドディスプレイにするアプリケーションがあるんです。
毛利 それはいいですね。Senseは、一度決まれば、少し不具合があっても造形できるように修正してくれます。おもちゃとしては、すごく面白いと思います。
enmono 3Dプリンターは今後、どうなっていくと思われますか。
毛利 パーソナルタイプは、業務用とは全く違う進化をしていくと思います。もっと気軽に、DIYが楽しめるようになるでしょう。木工細工は音が出たりするので、土日の昼間にしかできなかったりします。3Dプリンターは音も出ませんので、部屋やダイニングに置いて、平日の夜にパソコンを使ってモデリングすることもできます。そのように楽しまれたらいいんじゃないかなと思います。
enmono 一家に1台。
毛利 そうなったら、いいですね。機械がちゃんと動くようになったり、キラーコンテンツが出てくると、一気に普及するのではないでしょうか。
enmono ありがとうございました。
※各プリンターの特徴
3D Touch
3D Systemsに買収されたイギリスの工作機械メーカーが製造していて、しっかりとした造り。ヘッドがシングル、ダブル、トリプルの3種類ある。ABSは台の上で樹脂が冷えて縮んで、変形してしまう。アート系、フィギュア系に向いている。
Replicator 2X
2Xはヘッドが2個あり、2色同時造形が可能。機械の中が高温になるABSに最適化された造りで、綺麗にできる。後加工する場合は使いやすい。寸法精度が非常に良く、スマホのケースなどをつくることができる。売れ筋の機械。
Scoovo
データ通りに綺麗にできるが、スピードが遅い。でき上がったモノは艶があり、フィギュア系などに向いている。材料は基本的にPLAしか使えない。日本製で、最近、新型が出た。
da Vinch
6万9800円と、非常に安い。材料はカートリッジ式で、専用の材料のみ使える。精度は良いが、造形品のクオリティーが綺麗ではない。台とヘッドの距離をチェックしてくれる機能があり、失敗し難く、初心者にはお買い得がある。
片桐号
2005年に3Dプリンターの特許が切れ、オープンになった製造方法やデータで、片桐さんが製作。片桐さんは、3Dプリンターに精通しているマニアの方。東京メイカーが持っている3Dプリンターのなかで、完走率が一番良い。
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