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第35回MMS(2012/5/18対談)「わずか1ヶ月の商品開発『iPhone Trick Cover』」ニットー 藤澤秀行さん
本記事は2012年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。
藤澤さんとの出会い
藤澤さんとぼくらの出会いは強烈だった。それは、2012年4月1日に「MONOist」に掲載する、「おばかモノづくり」という企画記事の原稿を募るため、Facebook 上に非公開のグループを開設してすぐのことだ。
日本の製造業の優れた技術を駆使した、思わず笑ってしまうような作品を製作してくれる会社を募集していたのである。そこに自身のYouTube動画を投稿してくれたのが藤澤さんだった。
投稿されたYouTube
日本の製造業界には、ずっと停滞感が漂っている。でも、モノづくりって、本来はクリエイティブで、刺激的なものじゃないか。モノづくりの「ワクワク」する感覚を取り戻したいよね。「おばかモノづくり」は、そんな気持ちを持っていた、アイティメディアの小林さんとenmonoや参加してくれた町工場の気持ちが一致して結実したエイプリル・フールの企画だった。日本の素晴らしいモノづくりの技術で、「おばかな」モノづくりを実践している企業を記事にする。中小製造業の存在感をアピールするのが目的だ。
それが、である。お祭りごとだった「おばかモノづくり」から、まさか実際に製品化して、販売にこぎ付けちゃう人が出てくるなんて! その時、ぼくたちは誰もそこまで想像していなかった。
藤澤さんがつくりあげた「おばかモノ」である「iPhone Trick Cover」について、開発のきっかけをうかがった。
「もともと会社の戦略として、今までの受注加工の仕事以外にも、製品開発力を高めたいという気持ちがあったんです。その一環で、スマートフォンまわりの自社製品開発をおこないたいとは思っていました」
「でもそれは、後付けの理由みたいなものかもしれません。本当のことを言うと、開発のきっかけはもっと単純なんです」
ペンをくるくる回したり、ジッポー式のライターをカチャカチャするといった、意味はなくても、なんとなくやってしまう動作がある。あの感覚、今やるとしたら何だろう?
藤澤さんの分身ともいえる、ワクワクのヌンチャク系iPhoneケースiPhone Trick Cover
iPhoneはいつも手もとにあるけど、クールにすかしていて、そういう動きがないし……。でもそういえば、ガラケー時代は受話器をパタパタ開閉したりしていたよなあ。そうして思い付いたのが、ヌンチャクや、バタフライナイフみたいに振り回すことができるiPhoneカバーである。企画を思い付いた藤澤さんは、さっそく何人かの社員にアイデアを話してみた。
「面白そう……ですね。ですが社長、はたして製品になりますかね……?」
企画だけでは、わかってもらえない。藤澤さんは試作品づくりをはじめることにした。
藤澤さん自ら、設計に着手する。正式なプロジェクトではないので、会社に負荷をかけるわけにはいかない。業務時間が終わってからの夜の時間帯や、土日などを利用してやるしかない。こつこつ、ひっそりと。
なんとか満足のいく試作品ができた。これで、わかってもらえるだろう。藤澤さんは、さっそく、「iPhone Trick Cover」の面白さをみんなに伝えたくなった。よし、iPhoneで動画を撮ってしまおう。これなら超お手軽だ。
動画では「iPhone Trick Cover」の動きが伝わればいい。今はまだ、難しく考えたり、凝った演出を加える必要はない。藤澤さんは使い慣れたiPhoneで動画を撮り、自分で簡単にできる範囲で、それを編集した。プロモーションビデオの完成だ。製作期間、三時間。
プロモーションビデオには、「iPhone Trick Cover」はiPhoneカバーであり、スタンドにもなるという機能説明、そして、藤澤さん自身による、トリッキーで笑いを誘う「iPhoneTrick Cover」の妙技実演が盛り込まれた。製造業の社長らしからぬ藤澤さんの「おちゃめな」雰囲気に、一般のユーザーが反応し、FacebookのシェアやTwitterのリツイートを通じて、急激に一般のアクセスが増加したのである。YouTubeにアップした同じ動画には国外からも反応があった。
藤澤さんは、思わぬ反響の大きさに、「iPhone Trick Cover」の本格的な製品化を意識するようになる。製品化に向けて、試作品の完成度をあげていくことにしたのだ。
実際、この時期、藤澤さんに会うたび、見せてくれる「iPhone Trick Cover」の試作品は、バージョンアップを繰り返していた。どんどん改良されていくそのスピードは、町工場ならではだった。
※デザインフェスタvol.35出展(2012/5/12-13開催)
その後藤澤さんは、ぼくらenmonoが出展したデザインフェスタに、開発中の「iPhone Trick Cover」を出展し、来場者との「対話」を意識的に行った。コミュニケーションを図りながら、体感してもらった一般の来場者に、大きさ、重さ、色、機能など、細やかに感想を聞く。デザインはどう? 実際に購入してみたいと思う? いくらなら買う?
藤澤さんは、たくさんの来場者とのコミュニケーションの中で、五〇〇〇円くらいが適正価格なんだろうという感触を得た。
次に、藤澤さんからクラウドファンディングに、「iPhone TrickCover」を掲載して、開発資金の一部を捻出したいという相談を受けた時には、正直驚いた。だが同時に、これは絶対成功するプロジェクトになるなという直感もあった。なぜなら、「iPhone Trick Cover」には動きがある。一目で、誰にでもわかりやすくて、直感に働きかけやすい製品だったからだ。
実際にデザフェスでデモンストレーションをおこなえば、言葉が通じない海外からの来場者も、子どもも、誰もがみんな笑顔になった。「笑う」という行為を導き出せたということは、言葉が通じなくたって、難しいことが理解できなくたって、瞬時にその製品が受け入れられたということだ。
よし、「iPhone Trick Cover」の資金集めにチャレンジしてみよう! ということになった。
このようにしてスタートした、藤澤さんによる、町工場初のクラウドファンディングプロジェクトはどうなったか? 予想をはるかに越える好評を得て、なんとプロジェクト掲載からわずか二週間で寄付金が目標金額の50万円を突破したのである!
プロジェクトが成立してからも順調に寄付金額は増えていった。そして最終的には200人のパトロンから、131万円も集めたのである。
藤澤さんの「iPhone Trick Cover」は、プロジェクト成立後、三カ月ほどで、累計1,000台を越える販売を達成し、その可能性は現在も広がりを見せている。YouTubeの動画を見た台湾からの購入者だって現れた。これは、町工場が初めて商品開発をおこなった結果としては上出来の成果である。藤澤さんは、今、「iPhone Trick Cover」でパトロンになってくれた人たちの意見なども取り入れながら、次の新たな製品開発を進めiPhone5用を開発。
2012年12月より販売を開始し、現在も快進撃は続いている。
対談続編(2016年)
対談動画
藤澤さんFACEBOOK
株式会社ニットーWEBサイト
このストーリーは、enmonoの著書
マイクロモノづくりはじめよう
~「やりたい! 」をビジネスにする産業論~
に詳しく書かれています。