第71回MMS(2013/12/20対談)「NPO法人が生み出したナノ発電所のマイクロモノづくり」エコロジーオンライン 上岡 裕さん
本記事は2013年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。
MMS本編
enmono 今日のゲストは、エコロジーオンラインの上岡さんです。上岡さんとの出会いは2年くらい前でしたっけ?エコロジー製品を世の中にどんどん出していきたいという思いが一致して、一緒に動いているところなんですけれども。まず、エコロジーオンラインさんの活動について、簡単にご紹介いただければと思います。
上岡 「環境に関する情報をインターネットで発信しよう」と、NPO法人を立ち上げて13年目になるんですけれど。
enmono NPOで10年以上続くって、大変なことですよね。寄付を集めて運用されているのですか?
上岡 寄付だけで運営しようとすると持続可能になりにくいので、自分達が培った能力だとかノウハウを使って営利事業をやり、営利事業で非営利事業を支えるような二本柱になっているんです。
enmono どのような事業がありますか?
上岡 環境保全の情報や支援している団体の情報を、ウェブやメルマガに掲載して応援する情報発信事業、環境保全型団体の育成事業などです。他の団体さん、企業さんの活動のお手伝い、コンサルティングもしています。また、環境情報を広めていく上でのセミナーとか講演会もやっています。
enmono 今回お持ちいただいた、この「ナノ発電所」は?
上岡 これはエコロジーオンラインがプロデュースをしているんですけれど、販売の方は別の会社がやっています。NPOが商品のコンセプトづくりから普及啓発まで手がけるのは珍しいのですが、頑張りすぎて資金的にバランスが悪くなったりすると、やっぱり会員さんに申し訳ない。ベンチャーっぽいものは、エコロジーオンラインからちょっと外に出すという感じでやっているんです。
enmono こちらにパンフレットがありますが、太陽光発電のパネルと蓄電池がセットなったものなんですね。このパネルでこの電池が満タンになるのはどれくらいですか?
上岡 新しいバーションは約9時間で充電できます。それで、30ワットの電球が9時間、LED電球だと24時間くらい使えます。携帯電話は70台、スマートフォンは20台充電できます。
enmono 震災の時、スマホは情報の一番のルートになっていましたから、そのスマホを充電できるというのは心強いですね。
上岡 減災グッズとして紹介されたり、アウトドアでの研究用に大学で使っていただいたり、思わぬところからの問い合わせも多いのですが、もともとは再生可能エネルギーの普及を目指して、「ナノ発電所」をつくったんです。これまで、地域の住民がお金を出し合ってソーラーパネルを設置したり、水力発電をつくったりする市民発電所ムーブメントがあって、僕もお手伝いしてきたんですね。そういうようなことをやってきて、もっと多くの方に再生可能エネルギーに関わってもらえるような、小規模で可愛くて、いつも近くにあって愛してもらえるような発電機をつくりたかったんですよ。
enmono なるほど。
上岡 バッテリーをつくっているメーカーさんとの出会いがあって。素敵なバッテリーだったので、ボディを黒から白にして、「そらべあ」というキャラクターをつけることを提案しました。このキャラクターの雑貨はたくさん出ているんですけれど、雑貨の売上の一部が、「そらべあ基金」や海外の自然エネルギーの普及に使われています。
enmono 「そらべあ基金」は、いつ頃スタートした基金ですか?
上岡 2007年で、地球温暖化防止に取り組んでいます。初代の代表、理事長を自分がやったんですけれど、エコロジーオンラインやエコロジーオンラインが関わっていた仲間達に手渡し、独立した団体になっています。「そらべあ」もそうですけれども、自分はソニー・ミュージックエンタテインメントというソフト系の会社にいたので、情報発信したりキャラクターを使ったりといった、ソフト系の取り組みは得意なわけですよ。
enmono そういう企業にいらっしゃって、どういう心境の変化でNPO法人を始められたのですか?
上岡 レコード会社では「伝える」いう仕事をさせていただいて、自分の担当した人が成功したり、充実した時期を過ごしていました。そのようななかで、ショウケースツアーでミュ―ジシャンと東南アジアへ行くたび、大気汚染や環境破壊がひどいのを目の当たりにして。「このままでいいんだろうか?」と。ちょうど当時、湾岸戦争やバブルの崩壊があり、価値観を考えるような時期だったんですね。自分は何ができるか考えた時、「持続可能な文化文明が生まれるような広報活動を担えたら、自分の人生において大きな目標になるのではないか」と思いました。それで8年勤めた会社を辞めて、アメリカへ行って。アメリカでは、インターネットを使って社会的課題を解決しようというNPOが、既に生まれていたんですよ。その活動に参加したりして、1年半後に戻ってきました。
enmono 環境NPOを立ち上げるために、日本に戻ってこられたのですか?
上岡 いいえ。まだ、NPOで食べていけるような時代ではなかったです。それで、「鍼灸師で食べていこう」と考えて東洋医学を学んだり、ライターをやったり。仲間の編集者が「環境問題とか、いろいろ特集をやりたいから手伝えよ」と声をかけてくれて、数年間、『週刊プレイボーイ』で連載していました。NPOを立ち上げたのは、2000年です。
enmono それは、日本に戻ってから何年くらい?
上岡 8年くらいです。原稿を書いたりすることも得意になったので、まず自分で原稿を書くところからスタートしました。ボランティアさんやプロのカメラマン、漫画家の方など、「一緒にやりたい」と言ってくれる人達が集まって、今の団体ができたんですね。
enmono 上岡さんとお話していると、地に足をつけている感じがすごいするんですよね。他のNPO的な人達と違うのは、年期の差なのかな、と。福島の人とも、盛んにコミュニケーションをとられていますよね。
上岡 東日本大震災後に福島へ行った時、伊達市の人達から「これから復興しなくてはならない。その時に再生可能エネルギーをやっていきたい」と言われて。2011年の5月頃でしたね。それからゼロから一緒に、壁にぶつかり谷底に転がり、盛り上がり、笑い泣き、というのを2年経験しました。
enmono 僕らも福島へ行って、上岡さんと地域の人達との繋がりが非常に強いと感じました。福島以外にも栃木や千葉と広域で動くなか、どうやって20~30個のプロジェクトを管理しているのですか?
上岡 初期は自分がプロジェクトに入ってやって、途中で抜けられなくて苦労しました。自立型にするには、やっぱり、人が重要です。地域の人をやる気にさせて、応援してあげて、その先は自分達でやってもらっています。
enmono 基本はその地域の人がリーダーになって、エコロジーオンラインさんはあくまでもお助け役で。必要なリソースとか人脈は、紹介してあげて。
上岡 そうです。一つひとつ行ってお話するのは大変なので、FacebookやSNSを使って。
enmono かなり使ってますよね。Facebookがなければ、難しいですよね。
上岡 難しいですね。enmonoの三木さん、宇都宮さんとも離れている所に住んでいますから、皆さんがどんなところにいるのか、どんなことを考えているのか、Facebookで常に確認しています。
enmono タイミングが合えば、Googleハングアウトでオンラインでお話をしたりとか。
上岡 もう十分ですよね、それで。時々会って、温泉に入ったり、飲んだりとか。
enmono ITをフル活用する、意識高いオヤジ達(笑)。
上岡 そう、それはenmonoさんに学ばせていただいていることも多いですね。
enmono オヤジはやっぱり、持っているじゃないですか。いろんなリソースを。で、こういう道具を使うから、すごく発展するという。
上岡 enmonoのお二人の話で、オープンソースエコロジーでしたっけ。ブルドーザーの設計図を公開して、それを作っちゃったり。ああいうのって、これまでなかったし。でも、そういう技術とか、そういうことができるオヤジ達が全国津々浦々に眠っていて。
enmono 世界中にいるんですよ。
上岡 「その人達がオープンに、シェアし始めたら、すごいことになるな」という感じですね。オープンにしていく、シェアしていくことで食べていける。エコロジーオンラインもそうなんですけれども、自分達が中心にならなくても、いろんなものをオープンにすることによって、逆にいろんなものが返ってくる。
enmono 人の繋がりにしても、営業的ではないんですよね。
上岡 それに対面式ではなくて360度から、全方位からくるような感じですよね。バッテリーをつくったことから、モノづくりに関わる町工場の方との出会いもたくさんありました。モノづくりは未知の領域で、僕らと違うが故にすごい新鮮で。
enmono モノづくり系の人と話をして、どういう刺激を受けますか?
上岡 一つの分野に関して、すごく深いじゃないですか。「すごいな」と思いながら、深すぎると僕らは理解できないので、「もうちょっと戻ってきてもらえませんか」と(笑)。僕らはおちゃらけに近いものを考えていて、「こうして話題性、ストーリー性をつくったらどうですか?」と言うと、「そういう考え方がありますか」と、驚かれたり。よい相乗効果によって、「組んでよかった」となることが多いですね。
enmono 上岡さんはモノづくりについて学べますし、向こうもエコロジーや発電のことを知ることができますね。
上岡 そうなんです。互い持っていないものを持っているので、うまく接点がつながると、すごく楽しい話になります。
enmono 日本のエネルギーの未来に対して「こうなればいい」とか、何か思いがあればお聞かせいただきたいんですけれども。
上岡 これまでエネルギー産業は巨体で、私達には遠い存在でした。各地に地域独占の電力会社があり、大規模な施設がいっぱいあって。まるで恐竜のようで、歩いてくると踏み倒されちゃうような。実際、福島であんなことが起きてしまって。携帯電話の進化なんかを見ても感じるのですが、恐竜が哺乳類に進化したように、エネルギーがもっとマイクロに、ナノになっていって、恐竜型のエネルギーシステムから哺乳類型のエネルギーシステムになっていくんじゃないかと思っていて。「エネルギーを小さく収穫して、小さい地域や家庭、個人で使う。動きも身軽で、必要とされている時に供給する」というように。そういう優しい進化を、エネルギーの仕組みのなかでできればいいですね。
enmono なるほど。
上岡 これまではエネルギーを大規模につくるから、大規模に使うというインセンティブが働いていたのでは。僕らは小さなエネルギーを収穫したいし、使いたいんですよ。そのような哺乳類型のシステムをつくる時に、「こんなのあり得ないよ」と言っていたようなアイデアも生きてくるかも知れないし、小さな会社とか町工場がつくった新しい技術が、ひょっとしたら世界の標準になるかも知れない。そういうような時代に入ってほしいな、と思っています。自分は文系ですから、モノづくり系の皆さんに応援していただかなければ。
enmono 「ナノ発電所」が、環境系以外の人とのコミュニケーションツール的な存在になって、集まってくる人も変わりそうですね。
上岡 バッテリーを介してインプットとアウトプットがあるわけで、いろんなところとのコラボレーションが考えられます。アウトプットの方では、小さな家電製品を製造しているメーカーさんとの出会いもありました。今、皆さんが使っているのは交流の電源です。太陽光発電は直流電力をパワコン(パワーコンディショナー)で交流に変換した上で、電源としているんですよね。それだと二度手間だし、直流を直流のままで使えたらロスも少ないので、直流の機器も増やしたいです。
enmono エコロジーオンラインとエンモノでエネルギー関連の商品をどんどん企画して、資金を調達し町工場でつくって、ECサイトで販売していきましょう。