「マイクロモノづくりと出会い、ホントに作りたい本だけを企画から販売まで手がける編集者」CCCメディアハウス編集 田中里枝さん
●ご挨拶と出演者紹介
三木:第168回マイクロモノづくりストリーミング本日も始まりました。本日はCCCメディアハウスの田中さんにご出演をいただいております。
田中:よろしくお願いします。
三木:田中さんには、今回6月1日発売の『True Innovation(トゥルー・イノベーション)』、こちらの色々とご迷惑をお掛けしたお話をしていきたいと思います。
●enmonoとの出会いと著書『マイクロモノづくりはじめよう』について
三木:田中さんとの出会いのきっかけは、ある編集の方にご紹介いただいて、その時に我々は本を出したいな、ぐらいのちょっと軽い気持ちで思ってたんですけど、具体的にどうやったらいいか分からなかったので、その方に田中さんをご紹介いただいて、その時は今の会社と違う出版社で働いてらっしゃいまして、色々ご指導いただいて。
田中:懐かしいですよね。何年前ぐらいでしたっけ?
三木:6年前?5年前?
田中:そうですね。作ったのは2012年ですね。
三木:その時に出したのが『マイクロモノづくりはじめよう』という本です。
テン・ブックスさんという会社に出版いただきました。これ見ていただけると分かると思うんですけどすごい紙質がいいんですよね。ものすごく紙質にこだわったりとか…
宇都宮:穴開けたり凝ってる。
田中:ここにポコッと穴が。コストかかる系の造本で。
三木:中もカラーの写真が使われていたり。本づくりは本だけどモノづくりなんだなっていうのが、一緒にお仕事をさせていただいてすごい感じたものでして、今Amazonでチラッと見たんですけどもまだちょこちょこ売れ続けてる。
田中:そうなんですよ。ずっと売れてます。息長い。
三木:6年売れる本ってなかなかないかもね。
田中:でもおもしろいのが、結構時代が追いついてきてるっていうか、この時に言ってたことが、今割と普通に実現しているなという感覚を持ってて、ちょっと私編集者として早すぎたかな、みたいな感じがあるんですけど。三木さんの言ってることは早すぎたかもなみたいな。
三木:この本の中で言っていることは、本当はモノづくりすごい楽しいお仕事ですということと、その時メーカーズという本がアメリカから出ていて、その日本版だと言えばいいと思うんですけど、ただ日本はアメリカと違って、モノづくりの中小企業がいっぱいあるので、そういう人達を基軸に、新しいモノづくりが展開するんじゃないかっていうことで、ちょうど今墨田区のガレージ墨田とか、
大阪のほうでもガレージ系っていうのが出ていて、モノづくりスタートアップと町工場が、いよいよ本格的に連携するのがちょうど今出来てきているので、6年ぐらい時代を先取りしたっていう。
田中:そうそう。言ってましたもんね。この中で盛んに。
三木:たぶん国の経産省はこの本を参考にしたんじゃないかと(笑)
田中:本当それぐらいの先鋭的な話。
三木:「でしょ?経産省の方」っていう感じです。実は日本の町工場っていうのがたくさんあるので、日本のほうがそういったモノづくりのスタートアップが起きやすいですよという論を展開しております。この本を作る中で僕らも非常に参考になったのは、本の作り方で田中さんから色々なご指導をいただきました。どうでした?一緒にこういった本を作って。
田中:『マイクロモノづくり』って今三木さんが言ったような内容の本なんですけど、ここに書いてあることって、モワーっと編集者をやりながら思ってきてたことに近くて、本づくりってまさにマイクロモノづくりなんです。というのも今出版不況とか色々言われてますが、すごい有名な先生とかでない限り、ましてや初めて著者としてデビューされる本を作る時っていうのは、だいたい初版部数3,000部ぐらいからスタートして、それで増刷かけていって売り伸ばしていくというやり方をするんです。3,000部って超小ロットでしょ?製造業で考えたら。そんな中で1日200タイトル以上の新刊が出てるんです。だから200タイトルとか出てる中で、売り抜いていくっていう、それだけ趣味が多様化しているっていうのももちろんあるし、そういう意味でいうと本当にまさにマイクロモノづくりで、3,000部しかないものを日本国中探せば絶対いるはずの、この本がほしい3,000人の人にどうやってリーチしていくかっていうのが、ものすごい大きな課題としてあってすごい勉強になった。最近もずっとそうなんですけど本を作る時に立ち返るのはここで。
三木:うれしい。
田中:本当です。3,000部をどうやって届けようという。もうすでに持ってる書店に流すための流通経路は、昔から確立されたものはあるんですが、それだけだと今言ったみたいに200タイトルの中で埋もれてしまうから、そうでない活動をどんどんしていかなきゃいけない時に、enmonoさんがこのマイクロモノづくりで推奨されてたのは、例えばクラウドファンディングを使ってみるとか、色んなやり方があったと思いますけど、そうやって本当にほしい人を味方にどんどんつけて巻き込んでいく手法とかすごい参考になってます。
三木:その時に僕らが取った手法は、まずこの本を献本してとりあえずFacebookにあげてくださいみたいな。あとは会った人にこれを持たせて写真を撮ってFacebookでタグ付けをする。あとは出版イベントを僕らとして初めてやって、ここに出てくる著名な人を4、5人集めて、その時はサイバーエージェントベンチャーズさんの場所を借りて、100名ぐらい集めたかな?
田中:すごい豪華なイベントでしたね。
三木:僕らもそういうことをするのは初めてだったんですけど、相当テンパりながらやって。
田中:テンパッてたんですか?全然そういう風に見えなかったですけど。
三木:インパクトがある感じで、この時に企画から作る、そして販売、プロモーションまでかなり地道にやったので、僕らこれ自分で本屋に持ち込んで「これ置いてください」みたいなのをやったりとか、(三木の)地元の鎌倉に持ち込んだりとか企画から売るところまで全部やってみるというので、すごい勉強になりました。
田中:まさにマイクロモノづくりの実践版みたい。
宇都宮:Amazonでもまだ細々とロングセラー中ですよね。
田中:Amazonでもまだずっとロングセラー中なので。これは作る系のモノづくりの話が中心なんですけど、クリエーションに関わってる人は、絶対読んだほうがいいとマジで思ってる1冊なのでぜひ見てもらえれば。
●田中さんの自己紹介
三木:ちょっと田中さんの人生を振り返ってみましょうか?どういう経緯でこの業界に入って来られて、どういうことに興味を持ってるのか。
田中:『マイクロモノづくり』の中とか『トゥルー・イノベーション』にも出てる、ワクワクトレジャーハンティングチャートの自分バージョンを作ってみたんですけど、
こっちの横軸に自分の持ってるスキルとか、使える資源とかを取ります。私の場合だったら編集というスキルがあるので編集。こっちの縦軸に自分がワクワクすることを取ります。そこの交差するところの点にくるものが、自分が本当に作りたいものとして取り出すというそういうチャートなんです。私のワクワクすることって、10歳ぐらいの時に何をしてたんだろうって考えたんです。『トゥルー・イノベーション』の中でも、10歳の時にワクワクしてたことって本質的に人間って変わらないから、今も根底でどこかワクワクするだろうという話があって、私10歳の時にすごい動物とか生物が好きで、虫とか。虫愛づる(めずる)姫だったので好きだったなって。それと本が好きだったんです。その時に子どもだから、児童文学とかファンタジーとかみんな読むんだけど、そこに全然グッとこないで、私は猟奇殺人ものがめっちゃ好きだったと思って。これを言ったらすごい気持ち悪がられるんですけど。
三木:何歳の時に?
田中:小3ぐらいから江戸川乱歩、子ども向けだから少年探偵団シリーズとかなんですけど、めっちゃはまって。私こういうのすごい好きって思って、血が出るとか、ドロドロしたものが好きでした。それって結構今も実は引きずってて、猟奇殺人のニュースとか、ものすごいワーッて、どうなってるんだろうって、関心がかき立てられるっていう感じがあって、だから事件。そういう流れでノンフィクションも好きだし、あとおいしいものとお酒も好きっていうので書いて、こういう軸を取ったんです。そこで交わったところで意外と本を作ってきているなと思ったんです。
三木:編集と事件?
田中:編集と事件。事件めっちゃ好きなのに、事件ものの本をまだ作ってないから、今後も課題としてやらないとなと思ったところなんです。結構ノンフィクションと編集っていうのは色々やってきてるし、おいしいものと編集が重なったところの本も作ってるし、動物と編集が重なってるので、今作ってる『東西ベルリン動物園大戦争』っていう本も作ってるし、
意外とやってきてるなと思いました。人生振り返ると、とにかく小学生の時暗い子だったんです。本の虫でずっと本読んでて、あまり人と喋ったりもせずに本当に引きこもりで、編集者になること以外は考えたことはなかったっていう感じかもしれないです。
三木:小学生はそういう時代で、それからどういう風に今に至るんですか?
田中:それで大学とか行くじゃないですか?
三木:大学は何を勉強してたんですか?
田中:大学は社会学です。
宇都宮:文学とかじゃなくて?
田中:文学にはいかなかったんです。そのぐらいから文学への行き詰まりを感じたというか、フィクション今もすごい好きなんですけど、リアルなほうに惹かれるようになった。
宇都宮:何か研究してたんですか?
田中:雇用問題とか、意外とそういうことをやってました。働き方とかLGBTとかやってましたね。
三木:相当早いですね。LGBTとか。
田中:大学は結構そういうことをやっていて、その後大学を卒業したら今ちょっと話題になっているロスジェネ世代なんです。就職氷河期世代で。
三木:何年ぐらいかな?2000年?
田中:卒業したのが2001年で、みんな頭良い子達も就職とかにすごく困っている時期で、私はすごくふわふわしていたので、就職活動せずにイギリスに行って、ロンドンでしばらくおりまして。
三木:何をしてたんですか?
田中:ロンドンで最初大学で勉強してて。
宇都宮:それは社会学の?
田中:そうです。ちょっと文学とかもやりつつ勉強していて、その後インターンでロンドンの企業にしばらくいて、それから日本に帰って来たっていう感じです。
三木:何年ぐらいイギリスにいたんですか?
田中:4年弱ぐらいです。帰って来て大阪でお金も全然ないし、取りあえずお金を貯めないと話にならないということで、商社に勤めてました。結構お給料も良くてやってたんですけど、私は編集者になりたいし、そういうチャンスがあったら東京に行きたいなって。関西は出版社があまりないので…
宇都宮:編集の仕事に就きたいっていうことは思ってたんですか?
田中:思ってましたね。ずっと。
宇都宮:どの辺で?編集っていう仕事があるっていうことを知ってたわけですか?
田中:そうですね。何でだろう?
宇都宮:知り合いにいたとか?
田中:全然そんなのもなかったんですけど、本を作りたいなと思った時にたぶん作家になるか、裏で…
宇都宮:出版社に入って勤めるとか?
田中:作家というか物書きになるのは自分は違うなと思っていたので、そうすると編集って本当よく分からない仕事に。いまだに色んな人に「編集って何やってるの?」とか。
三木:商社にいてどういうきっかけでこの業界に?
田中:東京の出版社で求人があってひょいと受けたら、「じゃあ引っ越しの資金を出すから東京来ます?」とか言われて、めっちゃ渡りに船で東京に来たっていう感じなんです。
三木:その時の出版社はここじゃなくて別の会社?
田中:ここじゃなくて倒産した会社なんですけど、出版不況もあって何社かを、倒産したり色んな状況があって転々として、今に至ってる感じなんです。
三木:この業界は今何年ぐらいですか?
田中:20年経ってないけど15年ぐらいかな?
●編集のお仕事について
三木:どうですか?自分がこの業界に入る前と入った後では何か印象変わりましたか?
田中:何でもやらないといけない仕事だなと。本が出るまでのことを何でもやる何でも屋みたいなのが編集者なので、何でもやるんだなみたいな感じはあります。
宇都宮:企画から販売までですよね。
田中:そうそう。今はもちろん出版社ってどこも営業さんを持ってて、営業の人が本を売るプロですが、それだけじゃなかなか売れない世界になってきてるので。
三木:こういう撮影に付き合ったりとかね。
田中:そうそう。営業の分野にも進出してガンガン売っていくっていう気持ちにもなってるし。でも意外とそれがおもしろい。
三木:全行程が分かったほうが、1冊の本のありがたみというか感謝も違いますし。
宇都宮:自分で書いてみるのはどうですか?
田中:自分で書くって、自分自身がコンテンツじゃないと厳しいじゃないですか。だからめっちゃおもしろい人に出会って、その人のものを代筆するとかはできるけど、自分自身が何かおもしろい独特のものを持っていて、それを形にするっていうのはちょっと自分では違うかなと。
宇都宮:十分おもしろいと思うんですけど(笑)。
田中:全然ですよ。
三木:第三者から見て相当おもしろいです。
宇都宮:グラスブレーカーですから。
田中:グラスブレーカーではあります。お酒飲みに行った先で必ずグラスを割るっていうようなことですが。
宇都宮:十分おもしろい気がします。
田中:誰かenmonoさんみたいなオリジナルな考えを持っている人に会って、それを分かりやすく皆さんに知っていただく、間を取り持つのがおもしろいなと思います。
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●著書『トゥルー・イノベーション』の紹介
三木:今回出版した『トゥルー・イノベーション』のお話を伺っていきたいと思います。この本の経緯は、一昨年の秋ぐらいから企画を持って色々動いていたんですが…
宇都宮:2016年ぐらいから、『マイクロモノづくり』の次の本を書くっていう企画書を作って色々やってて、(田中さんと)鎌倉で打ち合わせをしたことがあったんですよ。
田中:そうそう。鎌倉で1回お会いしてるかもしれないけど。
三木:それでその企画を、とある出版社の方が一応作業していただいてたんですけど、どうもその方はあまり腑に落ちないというか、半年ぐらいお付き合いしたんですけど。
宇都宮:社内企画を通せないみたいな表現をされて…
三木:自分が腑に落ちないと無理なのでみたいな、じゃあ…みたいな感じで。
宇都宮:その頃に田中さんが新しい出版社になられるっていう話を小耳に挟んで…
三木:転職されたのっていつですか?
田中:ちょうど1年前ぐらいですね。
三木:1年前ぐらいにお会いして話をして、「その前の出版社がダメになってもう1回お願いできませんか?」ということでそれで話が昨年の…
宇都宮:夏前ですよね?
田中:夏前ぐらいだったんじゃないですかね。
三木:その後、筆があまり進まず(笑)。
田中:結構寝かせましたよね。長いこと。
三木:寝かせましたね。半年ぐらい?2月か3月ぐらいまで寝かせてたんです。それでそろそろ営業から「どうなんだろう?」みたいなのがきて、「やばい」みたいな。
田中:そうそう。せっつかれて「やばい」みたいな。
田中:1回ここのオフィスに引っ越す前のオフィスで、昨年末ぐらいに「じゃあちょっとちゃんとやりましょうね」って言いながらうだうだして、4月ぐらいにここに一度ご来社いただいた時に「出すので」ってなって、そこから怒涛だったんじゃないですか?
三木:それで2ヵ月ぐらいで作った。
田中:正味実働したのは2ヵ月ぐらいですよね?フルで全員頑張ったのは。
三木:内容は、僕がリストラされて禅に救われたところから、瞑想や座禅を通じて新しいアイデアがたくさん出てくるというのを実際に体験して、有名なところではスティーブ・ジョブズさんが禅をかなり傾倒していて、彼のクリエイティビティの1つは、そういった自分の内側の声を聞く習慣を、おそらく持ってたんじゃないかというところで、彼の考え方と僕の生み出した手法が、シンクロするんじゃないかというところで、人の内側にある情熱から、どうやってプロダクトとかサービスを生み出すのかというのを本にしています。この『トゥルー・イノベーション』のトゥルーの意味なんですけど、これは自分の心に正直であるということのトゥルーで、その(田中さんとブレストした)時まだあまりアイデアがなかったんです。その時のタイトルは『禅とイノベーション』とかそんな感じで、田中さんと話をしているうちに、「本当のイノベーションとは?」みたいな話になって、「じゃあトゥルー・イノベーションどうでしょうか?」みたいな。
田中:そうですね。真実のイノベーションであり、自分の心に誠実=トゥルーなイノベーションであるっていう意味のトゥルー・イノベーション。
三木:社内会議にかけていただいて「いいんじゃないか?」みたいな。最初の社内会議はどういう反応だったんですか?
田中:最初の社内会議は、enmonoさんが考えていることを説明するのってものすごい難しいんです。「本当に好きなことを仕事にしようって色んなところで言われてはいるけど、その本当に好きなことを仕事にする術を、テクニカルにやる方法が書いた内容だ」みたいなことを言っても、あまりにも言われ過ぎてることだから、そんな話ってめっちゃ色んなところで出てるし…
三木:「そんなのいっぱいあるじゃん」みたいな?
田中:そう。「何が違うの?」みたいなことになりがちなのですごく難しいですよね。
三木:僕らはそこを具体的な方法論として、ワクワクトレジャーハンティングチャートとか、具体的にどういう瞑想をすればいいのかとか、その後出てきたアイデアをどういう風に事業化するかっていう様々な手法を、この1冊に織り込んでこざいます。
田中:本当具体的なんです。だから企画通す時はこの(ワクワクトレジャーハンティングチャートの)図を「こういうことです」って書いて、うちの長に「好きなこと何ですか?」とか言って書いてもらって、「ここです。ここにあるものを本にするっていう話です」みたいな。
三木:実際書いていく中で、僕もすごい色んなアイデアがさらに出てきて出過ぎちゃって。
田中:今度字数が多いっていうね。
三木:基本的な考え方は、Me tooイノベーションは外から情報を集めてきてイノベーションを起こします。そうじゃなくて、人の心の中にある記憶や感情からイノベーションを起こすトゥルー・イノベーションの考えがベースになっています。
要は外にある情報ってもう今はインターネットの時代なので、簡単に検索されちゃうんです。でも人の心の中にある情報って検索されないので、かつもし検索されたとしても、その人に付属している情報なので、別に外の人が見ても全然情報の重みが違うんです。その人の中にある情報は、その人にしか基本的には重みがないから、その人の心の中にある記憶とか感情から、どういう世界を創り出したいんですかということで、そこで“課題”と“問い”について、田中さんからも色々提案とかいただいた。
田中:分からないみたいな。
三木:要は課題っていうのは、一般の方のパブリックプロブレム=公共的な課題です。例えば、日本での自殺率が上がって、もっと下げるためにはどういう政策が必要とか、どういうシステムとかサービスがあればいいかとか、結局自分事にはなかなかなりにくい話なんです。一方、問いのほうは「じゃああなたはどういう世界を生み出したいんですか?」「こういう世界を生み出したい」「そのためにはこういうシステムとかサービスとかプロダクトが必要です」っていう順番なので、結局あなた自身の課題になると。そういうことでよりモチベーションが、問いのほうが大きい。
田中:パブリックプロブレムが自分事だったら、うまいこと合致してそれはそれでいいんでしょうけど、例えば待機児童の問題とか、本当にその状況にいるお母さんからしてみたらすごい問題だから、そういう人が何かするとうまくいくかもしれないけど、関係ないお役所の誰かさんとかがやってもうまくいかないかもしれない。
三木:仕事は与えられるものだから、自分で生み出すものではないからそれはしょうがないんだけども、自分自身の課題として捉えた時に、ものすごいモチベーションは出てくるわけで。そう考えると今の企業というあり方自体が、ある種これ(本)は否定をしてるんですけど、自分で会社を起こさない限りは、自分の本来やりたい仕事にならないわけで、そうすると大企業の中で「あなたはこの仕事です」っていうのは、たぶんこれから段々と弱くなっていくというか、本当に情熱がある個人とかベンチャーとかに負けてしまうっていうことが、今アメリカなどでは結構起きてるし、日本でも起きつつあることなのかなと。その大元がこの本に入ってます。
田中:そうです。
三木:この本の中には2,500年前に仏教、あるいは1,000年前から仏教が変化して禅というものになり、その禅の考え方とモノづくり、あるいはイノベーションの起こし方をリンクした考え方を入れさせていただいてます。十牛図っていう禅の伝統的な絵があるんですけど、これは牛を飼っている少年の家から、牛が逃げ出すという話なんですけども、本来その人が持っているやりたいことが、どうしても牛だと逃げ出した場合、外に探しに行っちゃうんだけど、実は外にはなくてもう自分自身が知らないけど持ってることに気づきましょうよっていう話をしています。イノベーションって海外のスタンフォード大学のd.schoolとか、シリコンバレーとか、あるいはリーンスタートアップとかそういう手法がありますけど、本来日本が禅というものを800年かけて育て上げてきた叡智の中に、イノベーションと関連する可能性がありますよということを書いた本になります。
宇都宮:色んなイノベーション手法があるよっていう。
三木:我々常に時代を5年ぐらい先取りする傾向があるので。
田中:5年先は本だったら早すぎるのね。2年先ぐらいの感じが売れやすい。
三木:ただこの間スタンフォード大学のマインドフルネスの先生と対談をした時に、
彼がスタンフォードでやってるアプローチと、我々がこの中で用いている、人との対話を通じてその人に気づきをもたらすっていうのが、近いところがあると興味を持っていただいたので、可能ならばこれをスタンフォードに持ち込み、この考えをスタンフォード大学に注入すると。日本の企業はスタンフォード大学は大好きだから、そこから上から降りてくるってなると…
田中:逆輸入的な感じにして入れていく。
三木:ちょっと淡い期待を持っております。
●編集の際のツールの活用とIT度アップについて
三木:この中にはたくさんの図表が入ってまして、僕がノートにぐちゃぐちゃって手書きをしたものを、写真でSlackっていうツールを使ってどんどん田中さんのほうに…
田中:何か分からない絵が届くんですよ。
三木:通常出版社っていうのは今まではどういうやり方で?
田中:基本マイクロソフトのワードで原稿が届いて…
三木:ファイルを作者さんが書いてそれをメールで?
田中:メールで来て、メールで受け取ったやつを見て何通かお互いメールでやり取りしてっていうような…
宇都宮:赤入れをして?
田中:赤入れもしてからメールでまた戻したりとかして、場合によっては郵送で戻したりとかしながら何回かやり取りして、それでゲラの形に最終的にしていくっていう感じですね。
三木:今回我々が使ったのは、時間がないというところもあり、Googleドキュメントっていうのを使い、あとはSlackっていう補助的なコミュニケーションツールを使い、そして打ち合わせはZoomっていうオンラインカンファレンスシステムを使って。
宇都宮:かなりIT度が上がりました?
田中:IT度めっちゃ上がりましたよ。すごい便利で、メールでいちいち「いつもお世話になっております」を書かなくていいのは超楽みたいな、「すいません、これ意味分かりません」って、一言ポンって投げておいたら基本Slackは、LINEとかのグループチャットみたいな感じですもんね。だからものすごい気軽にやって、しかもSlack微妙にいいのが既読ってつかないので、見てるけど面倒くさい時とか、ちょっとスルーしたい時にこっそり黙るみたいな。
三木:これがSlackです。こっちにメインストリームがあって、コメントがあるとこっちにつけられるということで、これはスマホのアプリとも連携しているので、メッセージが来るとピコッと、ゴールデンウイークの間でもどんどんとメッセージが…
田中:情報がアップデートされていき…でもかなりカジュアルに離れたところにいても、一緒に作業してるみたいな感じは常にありましたね。
宇都宮:ライブ感がありますよね。
田中:Googleドキュメントで編集作業を一斉にやって。
三木:ただGoogleドキュメントの問題点は、あまりにも分量が多くなると…(笑)。
田中:固まるっていう。まさかの。
三木:さすがに本1冊分の分量はちょっと難しかったかなって。
田中:写真とかも多かったりするしね。でもこんなに便利なんだと思って。
宇都宮:時代は進んでおります。
田中:全ての本のプロジェクトを全部Googleドキュメントで今やってます。
三木:すごい(笑)。
田中:プラスSlackもみんなに勧めてて、「やらせてもらっていいですか?これ1回使ったらもう抜けれないんで」って言って全部…
三木:打ち合わせもZoomでやればいいじゃない。
田中:ものすごいIT化されました。この本1冊作ったことで。
三木:時間を短縮できることでより企画に集中できたとか?
田中:そうそう。それがすごいあって、確実に作業効率が上がったんですよ。メールとか気を遣わないでいいし、あとファイル探すのとかもすごい簡単で、メール遡ったりしやすい。その分ちょっと違うことに時間を割けるようになりました。それこそ企画をやったりとか。
三木:今手掛けてるのは何冊ぐらいですか?
田中:今同時が5冊。
三木:すげぇ。そんなにやってるの?普通それぐらいなんですか?
田中:うちの会社のペースだとたぶん3冊ぐらいは進行しないときついっていう感じはあるんですけど、でもおかげさまでだいぶ先のやつまでできてます。
宇都宮:そこは働き方改革ですよね。
田中:そうそう。1人働き方改革はしました。
三木:他の同じ部署の人も使い始めてるんですか?
田中:勧めました。「便利ですよ」って言ってやってます。
●『トゥルー・イノベーション』についての感想
三木:田中さんはこの本をやってみて何か感想とか?
田中『トゥルー・イノベーション』は、まさにさっき三木さんが説明した部分が私も一番好きな部分で、本づくりも一緒なんですけど、企画立てる時って外部に情報を求めてしまうんです。今これがブームになってこれがキテるとか…
宇都宮:似たような本が出ますよね?
田中:似たような本めっちゃ出るでしょ?何かしらの本がものすごいヒットしたら、「よし、あれっぽい本を作ったら今だったらネタ的にイケる!」みたいなので、ついつい外部に情報を求めがちになる世界で、それは本当にダメだなと、この本をやらせてもらってすごい思って、自分の作りたいものだけを作ろうと思いました。もう人生も短くて、そもそも何年生きてるか分からないから、もうやりたいことしかやらないみたいな。
宇都宮:対話の技術もぜひ身につけていただきたいですね。
田中:そう。それを身につけたら無敵になりますよね。
三木:この本ですごい感動だったのが、慶応大学の前野先生が泣くような文章を書いていただいたんです。すごい権威の先生が超くだけた感じで。
(解説文掲載)
田中:おもしろい文章ですよね。
三木:この解説文では、前野先生がなぜこの帯でにっこりしているのかということを語っていただいています。にっこりすると創造性が上がり生産性が上がりますよということを言っていただいて。
宇都宮:それは研究成果で実証されてるらしいよね。
田中:精神論じゃないですもんね。
三木:幸福な人はそうじゃない人と比べて3倍生産性が違うということは、アメリカの研究などでは実証されてるし、働き方改革っていう仕組みは重要なんだけど、どれぐらい幸福に社員が仕事をしているかっていうのが、たぶんこれからの企業の一番の差が出てくるところになりますから、単に時間的な問題だけではなくて、どれくらい職場の人間関係とか、あるいはお互いに気遣ってるのかとか、そういう幸福度、あるいはどれぐらい社員がやりたいことがやれてるか、というところでパフォーマンスが全然変わってくるかなと思いますので、そういった参考にもこれ(本)はなるんじゃないかと。
宇都宮:田中さんパフォーマンス高まってますよね。
田中:私パフォーマンス高まりましたよ。
三木:本当に?幸福度が上がってきた?
田中:幸福度が上がった。
三木:それでもう自分がやりたくない仕事はしないと?
田中:もうしない。もう絶対しない。今の会社に限らずですけど、上から降りてくる仕事って必ずあるじゃないですか。仕方なしに作る本よりは、自分で「これおもしろいな」と思ってやる本は、身の入り方も違うし頑張って売ろうとするし、それは当然そうだと思うんです。
三木:なので幸せはこの中に入ってます。あなたがどういう気持ちで働くか、そのヒントが全てここに。ぜひ。
●田中さんの考える「日本の○○の未来」に対する想いについて
三木:田中さんの考える○○の未来、○○は自分で入れていただいても結構なんですけども、どういう未来が田中さんの中に…
田中:田中の考える編集者の未来にしようかな。編集者の未来は、おもしろいことをどれだけ周りの人に「これめっちゃおもしろいよ」って言えるかっていう力だと思ってるので、みんなおもしろいものを頑張って見つけて、おもしろいをどんどん人に伝播させていきましょう。
宇都宮:感度も高めていく必要がありますよね。
田中:そうですね。一番大事なのは、おもしろがる能力かなと思っています。普通の人があまり「うん?」って思ってるようなことでも、「えっ?何それ?ちょっとめっちゃおもしろいんだけど」っていう風に思えるかどうかが全てだと思います。
三木:皆さんおもしろいことをいかに見つけるか、そこが編集者でございますから、常にアンテナを張って感じる力を高めていきましょう。今日は貴重なお時間どうもありがとうございました。
田中:ありがとうございました。
対談動画
田中里枝さん
:⇒https://www.facebook.com/rie.tanaka.xx
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